このレストランは四つのエリアに分かれている。ことはは瑞央たちについてここにやって来て、ドアを押して中に入ると、瑞央の声が弾けた。「楚田先輩、道で誰に会ったか見てよ!」ことはがみんなの前に姿を現すと、小さな騒ぎが起きた。ここに座っている人たちは、ことはが皆知っている顔ぶればかりだ。ことはは軽く会釈した。「お久しぶりですね、皆さん」そしてすぐに、上座の男性に向かって挨拶した。「楚田先輩、ご帰国おめでとうございます」楚田航也(そだ こうや)は眼鏡を押し上げ、きらりと光を反射させ、口元を緩めた。「篠原さん、本当に何年ぶりだろう」「ええ」卒業後、ことはは最初のうちは唐沢先生について数回大合唱に参加しただけだった。各地を飛び回る必要があり、典明も翔真も許さず、彼らの説得に従い、ことはは合唱の機会を完全に諦めざるを得なかった。その後、声楽の先生になる道を選んだ。同じ合唱団や同学科の同期と比べると、ことははおそらく最も成果を上げていない人物だった。ことはが今彼らについてきたのは、唐沢先生の息子のためだった。そのとき、航也の隣に座る女性が笑顔を見せた。「まさか篠原さんに会えるなんて。私たちはてっきり、もう結婚していると思っていたわ」菜那は狡猾な表情で口を挟む。「珠里、情報が遅れてるよ。篠原さんはもう幼なじみと関係解消済み。この前、東雲家の次男と篠原家の本当のお嬢様が年明けに結婚するってニュース出てたじゃん」この話になると、座っている誰もが知っている情報だった。そのニュースを見たとき、彼らはグループで議論していたものだ。当時、ことはと翔真の関係は学内で唯一無二で、まさに誰もが羨むものだったからだ。「森さん」航也は眉をひそめ、警告するように呼びかけた。菜那は無邪気に舌を出した。「別にわざと彼女の傷に触るつもりじゃないわ。これもネットで見ただけの情報よ」ことはの表情には動揺はない。しかし彼女が何を企んでいるかは見抜いていた。ことはは静かに微笑み、彼女を見つめた。「あなた、まだ一つ情報を漏らしているわ。彼らの結婚式場は高級ホテルで、2月14日、ちょうどバレンタインデーなの。ロマンチックでしょ」空気が張り詰める。一同は息を呑み、信じられない様子だった。ことはのあけすけで無頓着な態度が、逆に菜那の先ほどの行為の見
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