ことはは篠原家に何かあったに違いないと感じる。しかし、戻るわけにはいかない。隼人と出発する前、ことははゆきに、必ず数時間おきに連絡するよう念を押す。涼介が現在二十四時間体制でゆきを監視していることからして、ゆきを連れ去り、ことはを篠原家に戻るよう脅すことだってやりかねないからだ。車が錦ノ台レジデンスを出る。ことはが冷たい視線で外を見やると、案の定、数台の車が路肩に停まり、数人が縁石に腰掛け、男が電話をしているのが見える。これほど物々しい様子では、篠原家で何か問題が起きている可能性は極めて高い。「心配するな」隼人は右手でことはの髪を撫でる。「連れて行かせはしない」ことはの心臓が、まるで何かに強く打たれたかのように、ずしりとした衝撃と共に甘く痺れる。隼人は続ける。「森田さんの方には、芳川に警護を手配させた。君が心配しているようなことは起こらない」彼の保証は、確かにある程度ことはを安心させたが、それでも彼女の心は混乱し、焦燥感に駆られていた。涼介が父に、自分への特別な想いを打ち明けてしまったのではないかと、ことはは不安だった。もしそうなら、また新たな厄介ごとに直面することになる。ことはが黙り込んでいるのを見て、隼人はそれ以上何も言わず、彼女が一人で気持ちを整理するのを待った。月曜日だったため、午前中は隼人も芳川もほとんど姿を見せない。雪音の話では、毎週月曜は彼らが最も忙しい日なのだという。ことはたちも暇ではなく、チームで会議をしたり、新しいプロジェクトの打ち合わせをしたり、午後には現地調査に出向いたりと、やることは山積みだ。その目まぐるしさが、朝の出来事を一時的に忘れさせてくれた。途中でトイレに立った際、時間を見つけてゆきと二言三言、言葉を交わす。自分のデスクエリアに戻ると、ことはは自分の席に雅が座っているのを目にした。きっと隼人に会いに来たのだろうが、座る場所はいくらでもあるのに、わざわざ自分の席に座っている。ということは……狙いは自分か。ことははまた頭が痛くなる。厄介ごとは、本当にどこからともなく湧いてきて、きりがない。同僚たちが、早く逃げろと必死に目配せしてくる。だが、もう手遅れだ。雅はことはを見つけると、手をひらひらと振った。「篠原さん、お帰りなさい」このフロアは、基本
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