篠原ことは(しのはら ことは)は昼間に東雲翔真(しののめ しょうま)と婚姻届を提出し、その夜にはすでに二人の新居に入っていた。食卓には、彼女が心を込めて用意したキャンドルディナーが並んでいた。だが今、ことははソファに座りながら翔真に電話をかけ、血走った目でノートパソコンの画面を睨みつけていた。画面には、情欲に染まった翔真の整った顔が映っている。吐き気を催すような声がはっきりと聞こえてくる。着信音が鳴った時、ことはの頭は真っ白で、翔真が出たらどう切り出せばいいか考えもまとまらなかった。だが翔真は着信表示を一瞥し、わずかに躊躇ったのち、欲に突き動かされて何の迷いもなく無視を選んだ。その瞬間、ことはの最後のこだわりは完全に砕け散った。彼女はほとんど感覚を失った手で、ノートパソコンを力いっぱい閉じる。篠原寧々(しのはら ねね)の勝ちだ。彼女は、ことはとは22年間の幼なじみ、たった一日すら夫婦でいられなかったその相手を誘惑することに成功したのだ。-昼間どうやって荷物を運び込んだのか、その通りにことはは元通りに戻した。ディナーもきれいに片付け、まるで最初からそこに来ていなかったかのよう。アパートに戻ると、ことはは力を使い果たしたように布団にくるまる。スマホが鳴るまで。翔真からの折り返しかと思ったが、実際には寧々が勝ち誇って連絡してきたのだった。「ことは、あたしの方が先に翔真を手に入れたのよ」電話越しに、女の得意げな声が響く。ことはは指先が白くなるほどスマホを握りしめ、感情を押し殺して静かに言った。「おめでとう」寧々は大いに満足し、さらに煽る。「彼があたしに気がないなら、どうしてあたしに触れたのかしら?」気があるかどうかなんて関係ない。ことはにとって、それはもう立派な裏切りだった。現実を無理やり受け入れたことはは冷たく笑う。「そうね。そんなに自信があるなら、もっと頑張ってみたら?彼があなたのために私と離婚してくれるかどうか」そう言い残すと、彼女は電話を切った。本当は、ことはにはわかっていた。寧々は本気で翔真を愛しているわけではない。ただ、自分がまだ大切に思っているわずかなものを一つずつ奪っていきたいだけなのだ。だけど、なぜ自分がそんな報いを受けなければならないんだ。二人が生まれた時に取
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