All Chapters of 幼なじみに裏切られた私、離婚したら大物に猛アタックされた!: Chapter 171 - Chapter 180

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第171話

「寧々を刑務所に入れようだなんて!」篠原夫人は甲高い声で言い放ち、眉は吊り上がって表情は怒りに燃えていた。その時、仙石弁護士が咳払いをして言った。「目撃者と監視カメラの記録によると、篠原ことはさんが車から転落したのは篠原寧々さんの仕業です。その後、篠原寧々さんは、篠原ことはさんに危害を加えようとし、その時に使った凶器は帝都へ現在輸送されております。後ほど指紋鑑定を行います」「二度の殺人未遂になります。証拠は十分に揃っており、拘留・収監には十分すぎる内容です」寧々はこの言葉に青ざめ、慌てて篠原夫人の腰にしがみついた。「ママ、怖いよ」篠原夫人はいつも通り寧々の背中を軽く叩き、平然と言った。「寧々は無事にここに立っているじゃないか!」仙石弁護士は言葉を噛みしめるように言った。「篠原夫人、殺人未遂であると申し上げております」その時、典明は冷たい目をして息を深く吸い込み、「ことは、俺たちは家族だ」と言った。ことはは相変わらずの微笑みを保ちながら、「お父さん、25年間家族だったからこそ、すぐに法廷で解決せずに、ここで話し合っているの」典明が口を開く前に、ことはが先に続けた。「お父さんが家族みんなと仲良くしたいのはわかる。でも、私はやっぱり命は大事にしたいのよ。寧々には精神的な問題があるし、次にいつ凶器を持ち出して私を殺そうとするかわからないじゃない」「私は自分の命を守る必要があるの。もし私を娘と思ってくれるなら、死にたくない私の気持ちを理解してよ」「……」典明はあまりにの腹立たしさで、首筋の血管が浮き出た。精神的な問題があると言われた寧々は激昂した。「ことは、精神的に問題があるだなんて言わないで!私は至って正常よ!」ことははさらに笑みを深め、逆に仙石弁護士に尋ねた。「仙石弁護士、寧々は自分が正常だと言ってる。だとすると、このことはしっかり記録した方がいいわ。精神疾患を理由に情状酌量なんて絶対に許されないからね、ちゃんと罪を償わせないと」「かしこまりました」仙石弁護士の肯定的な返答に、寧々は焦ってベッドの上で足をばたつかせた。「パパ、ママ」「典明!」篠原夫人は怒りに任せて叫んだ。典明は目を細め、陰鬱な視線でことはを睨みつけ、できるだけ落ち着きを保って言った。「ことは、本当に俺たちと縁を切りたいのか?」その言葉を聞
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第172話

ことはは執拗に典明を追い詰めた。「お父さん、決めた?寧々を刑務所に入れるか、それとも私を篠原家の戸籍から抹消するか?」典明は口を開いたが、仙石弁護士が手にしているボイスレコーダーに気づいた。たちまち、典明は声を失った。その怒りは胸のあたりで渦を巻いていて、吐き出すことも飲み込むこともできなかった。もう少しで窒息しそうだった。その時、典明の携帯が鳴った。着信表示を見ると、典明は目を輝かせ、急いで電話に出た。「どうだ?」それの様子を見て、ことはは目を細めた。「本当か?わかった、直接連れてきてくれ。場所は第一中央(だいいちちゅうおう)病院入院棟の10階・42番ベッドだ」電話を切ると、典明の顔からは青ざめた表情は消え、ことはを見る目にはむしろ勝利の笑みが浮かんでいた。「ことは、君はずっと本当の肉親を見つけたがっていただろう?君の実の母方の叔父さんが見つかった。今ここに向かっている。きっと会いたいだろう?」ことははその場で凍りつき、何の反応もできなかった。実の母方の叔父さん……?浩司は外で会話の内容が聞こえると、表情が一変した。ことはの勝利は確実かと思われたが、まさか典明に切り札があったとは。ことはは急いで隼人の元へ戻らざるを得なかった。-東海林俊光(とうかいりん としみつ)が篠原家の人に連れられて病院に来た時、俊光はまだ病室の全員を見渡してもいないうちに、真っ先にことはに視線を落とした。俊光は口を開き、ことはのことを指さした。まずは抑えきれないほどの興奮が俊光の体中を駆け巡った。俊光は足早でことはの前に進み出ると、上下左右をくまなく観察した。「似てる、本当に似てる!俺の姉貴にそっくりだ!」「お前がことは?俺はお前の実の叔父さん、東海林俊光だ。本当の叔父さんだよ!」俊光は何度も洗われて色あせ、ところどころ擦り切れたグレーのスーツジャケットを着ていた。日に焼けた黒い肌に、右目のあたりには斜めに走る傷跡が一本。短く刈られた髪と相まって、まるでヤクザのような雰囲気を漂わせていた。俊光は興奮を抑えきれず、両手でことはの腕を掴んで激しく揺さぶり、「叔父さんって呼べ、ほら早く呼べよ」と言った。仙石弁護士はことはがちょっと怖がっていると思い、親切心から「すみませんが、篠原さんを怖がらせていますよ」と口を挟ん
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第173話

もし俊光叔父さんの心の中の計算が見えたら、たぶん今頃自分の顔に崩れ落ちていただろう。俊光叔父さんが本当に自分の叔父なのかどうかに関わらず。今の俊光の反応だけで、ことはは俊光はろくでもない人間だと確信した。ことはは落ち着いていた。「まだあなたが私の本当の叔父さんかどうかわからない以上、私のことに口出しする権利はないわ。俊光叔父さん、どうか首を突っ込まないで」俊光はまぶたをピクつかせ、袖をまくり上げた。「随分と気性が荒いんだな」その時、典明が仲裁に入った。「まあまあ俊光さん、どうか落ち着いて」俊光は典明には笑顔を見せた。何しろお金のなる木なんだ。俊光は典明を見ながら、反対の手でことはを指さした。「典明さん、まさかことははここ数年ずっとこんな調子でわがままを言っていたんじゃないでしょうな。実の子じゃないにしても、昔から言われている通り、育ての恩は産みの恩より重い」「ここまで育ててやれたんだから、それはもう親も同然だ。言うことを聞かないなら、思いっきりぶん殴ってやれ。殴って大人しくさせりゃ、あんな態度もとれんだろう」「誤解だ、ことはは普段はとてもおとなしい子なんだ。ただ今日は少しショックを受けて、情緒が不安定なだけなんだ」「ショックを受けたからって、そんな態度で目上の者にものを言えるか。こいつはとことん教育がなってねえな!」俊光はますます興奮し、まるで篠原家に見せつけるかのように。「典明さん、よく見ていてな。この弟分が子供のしつけ方を教えてあげるわ」そう言うと、俊光はまるで猿のように素早く動き、さっとことはの前に立ちはだかった。パンッ――!その平手打ちはまさに電光石火だった。寧々は手を叩いて喜びたいほどだった。篠原夫人は呆然とした。その一撃は、典明も予想外だった。遅れて気づいた仙石弁護士は急いでことはをかばった。「どうして人を平気で殴れるんですか」「どけっつんだよ、おれが姪をしつけてるのに口出すんじゃねえ」俊光は乱暴に仙石弁護士を突き飛ばし、あごを突き上げてことはの目の前に立ち、ことはの鼻先を指差して命令した。「さっさと行け!典明さんにちゃんと頭下げて謝れ、この俺様の言うとおりにな!」この一発の平手打ちは、かなり効いていた。ことはは頬が一気に熱くなってズキズキ痛むのを感じながらも、俊光の脅しには一切反応せず
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第174話

黒い影がまるで山のように一瞬で俊光にのしかかってきて、その直後、俊光は胸を思いきり蹴られた。ドーン――!!俊光の体は折り畳まれるように飛ばされ、最後には白い壁に激突した。寧々と篠原夫人は恐怖で叫んでしまい、典明は足元から寒気が昇るのを感じた。隼人の端整なその顔は殺気に満ちていた。「下に連れていけ。目立たない隅っこを見つけて、殴り続けろ」俊光は痛みで叫ぶ暇もなく、病室から引きずり出されていった。病室のドアが閉まり、外の音は遮断された。今この病室で、もはやことはと典明はもう対等には向き合えていない。隼人が完全に圧倒的な力で場を支配していた。「いい年してぐずぐずして、楽しいか?」隼人の声は鋭く攻撃的だった。「出所して数日で調子に乗ってるのか?」二つの質問が飛ぶと、典明は血圧が上昇し、目眩がするのを感じた。隼人は寧々を一瞥した。「たったの一ヶ月で娘を二度も刑務所に入れるのは、さすがに見苦しいでしょ、篠原社長」寧々は顔面蒼白で恐怖に震えていた。「パパ、私は刑務所に入りたくない、絶対に入りたくない」ことははその場に立ったまま、典明が隼人を前にビビりまくってる様子を見て、心の中でまた思った――やっぱり権力ってスゴい。まさにブーメランだ。たくさんの言葉を投げかけるよりも、神谷社長がここに立つことの方が効き目があった。典明の額には汗がにじみ、まさに追い詰められていた。しかし、典明は素早く頭の中で分析し始めた。今ことはを失えば、神谷社長という大きな後ろ盾も失うことにもなる。天秤にかければ、どちらが重要かは自分もわかっていた。典明はすぐに決断を下した。典明はまるで心の底から悔やんでいるような顔をして、申し訳なさそうに言った。「神谷社長、お恥ずかしい限りです。俺が寧々をきちんと教育しなかったばかりに、大きな過ちを犯させてしまいました」そう言うと、典明はまるで優しいお父さんのようにことはを見つめて言った。「寧々もことはもどちらも大事だ。だがことは、この何年か、俺はお前をずっと疎かにしてしまっていたな。寧々は確かに俺たちが甘やかしすぎた。これ以上放っておけば、また大きな過ちを犯すだろう」この言葉を聞き、ことはは典明の次の言葉を予測した。内心驚かないわけにはいかなかった。お父さんは親の情を捨て、利益を握ろ
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第175話

ことはは強く噛みしめながら言った。典明はまだ優しいお父さんを装っていた。「俺がレストランの個室を手配して、叔父さんと姪の団欒をさせてあげようか?」「結構だわ。団欒するってなっても自分で連絡するから」お父さんがまだ芝居をするなら、自分はとことん付き合うわ。お父さんがこの親孝行芝居をいつまで続けるか、自分は最後まで見届けるつもりだった。「早速更生施設に連絡してね。私はこれで先に失礼するわ」ことははそう言うと、隼人の袖を掴んで二人で病室を出た。病室の中からは、寧々の「行きたくない」という泣き叫ぶ声がまだ聞こえてきた。だがことはと隼人は既にエレベーターで降りていった。ことはの頭の中はぐちゃぐちゃだったが、表情からはそんな様子はまったく読み取れなかった。エレベーターがしばらく降りていってから、ことははようやく口を開いた。「神谷社長、俊光さんに会わせてくれませんか?」隼人がことはに尋ねた。「鑑定をするのか?」ことはは頷いた。「ならここでやれ」隼人が言い終わると同時に、後ろにいた浩司が隼人の部下に電話をかけ始めた。数分後、採血コーナーに優先レーンが作られた。ことはと俊光は同時に採血された。俊光は既に誰だか見分けがつかないほど殴られていた。隼人を見ると、俊光の両足が震え上がった。俊光その場にへたり込み、「死ぬ、俺はもうすぐ死ぬんだ。お医者さん、助けてくれ」と叫んだ。再び連れていかれて殴られるのはもうごめんだった。ことはの直感がこうことはに告げた――俊光さんとは本当に血が繋がっているのかもしれない。そしてそれは非常に危険な時限爆弾だ。「俊光さんの入院手続きは私がする」ことはがそう言うと、俊光の叫び声はぴたりと止まったが、それでも腫れ上がった顔を押さえていた。「少しは良心があるんだな」と俊光がぶつぶつと言った。隼人が浩司に再度俊光を連れていかせようとした瞬間、ことはは素早く隼人の手を掴んで外へ出た。「わかった、わかった。俺を橘ヶ丘に連れて帰る気か?」隼人は不機嫌そうに聞いた。「それは点滴が終わって食事を済ませてからです」ことはは穏やかに答えた。隼人は話題を変えた。「俊光さんは俺がやっつけておくから、怖がらなくてもいいよ」ことはは首を振った。「怖がってないわ」隼人はことはに言った。「篠原さ
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第176話

ことはの心は締め付けられた。隼人がまた立ち上がって人を殴りに行くのではないかと思った。ことはは急いで氷袋を隼人から取り返し、頬を冷やし続けた。「明日には治ると思います。ただ今は見た目がちょっと怖いだけです」「『三度目の正直』って言うだろ。君はあと何回ひとりで突っ込んで失敗するつもりだ?」隼人は話し始めるなり、苛立ち始めた。自分は篠原さんの言いなりにするべきじゃなかった。ことはは困ったように言った。「私も被害者ですよ。お父さんが急に私の実の母方の叔父さんを引っ張り出してくるなんて思ってもみませんでしたので」「これがサプライズでなければなんと言うんですか?」ことはは言葉に詰まり、反論できなかった。何しろ神谷社長は、自分にとってどれだけ恩を返そうとしても返しきれないほどの恩人だし、少しくらい文句を言われても仕方ない。ことはが黙っているのを見て、隼人は目を細めた。「どうしてまた黙り込むんだ?」ことはは愛想笑いで返した。「だって神谷社長の言うことが正しいから」隼人は、どこか皮肉を込められたような気がした。「そうか?でもこれでは理屈が通らないでしょ。でもまあ、君は俺の前だと、理がなくても無理やり筋を通してくる人だしな」「……」ことはは再び言葉に詰まった。ちょうどその時、浩司が病室に入ってきた。ことはは浩司を鋭く見やると、素早くベッドから立ち上がってソファに戻った。隼人が目線を向けると、浩司は隼人の不機嫌さを感じ取って苦笑いしながら説明した。「俊光さんが騒いでいて、『ことはに会わせろ』って言うんです。会ってもらえなければ治療を拒否するとか言い出して、病院のベッドで死んでやるって脅してるんですよ」浩司の言葉が終わらないうちに、隼人は布団を払いのけてベッドから出ようとした。ことはが先に立ち上がった。「私が話しに行きます。神谷社長、デリバリーのことは忘れないでください」ことは風のように病室から走り去った。隼人の端正な顔は曇りだした。相変わらずだな。「外でしっかり見張ってろ」「承知しました」俊光の病室に着くと、ことははドアの外から俊光が自分に会いたいと叫んでいるのが聞こえた。中に入ると、俊光はことはを見るなりすぐに起き上がり、本当は叫びたかったが、自分が誰に殴られたのかを思い出すと、首を伸ばして警戒し
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第177話

俊光は得意げにあごを上げた。「これで俺がお前の実の母方の叔父さんだと信じるか?」ことはは何も言わず、写真を撮影した。俊光はそれを気にせず、片手でお腹を押さえ、もう片方の手を高く上げて掌を上に向けた。「お前の男にこんなに殴られたが、俺はお前の母方の叔父さんだ。お前は俺に慰謝料を払うべきじゃないのか?多くは要らん、1000万円か2000万円ぐらいくれれば十分だ」それを聞いて、ことはは携帯を布団に投げ捨て、苦笑した。「一枚の写真が何を証明できるっていうの?鑑定結果を待ちましょ」「は?これが証拠にならないって?」「写真に写ってるのが私のお母さんかもしれないけど、隣に写っている男の子があなただってことをどうやって証明するの?」「これが俺じゃなかったら誰だってんだ!」「知らないわ」「このクソ野郎!」ことはは俊光を睨みつけ、「私の頬にある痕はまだ消えてないわ。その時私と一緒にいたのは弁護士よ。刑務所にでも行きたい?」この一言で、俊光は黙り込んだ。だが俊光は諦めきれず、ことはを指さし、歯ぎしりしながら言った。「鑑定結果が出たら、お前は俺に土下座で謝罪して、俺のことを叔父さんと呼べ!」「じゃあゆっくり待ってて」ことはは背をクルッと向けて病室から出てきた。俊光はまだ病室の中でブツブツ文句を言っていた。ことははエレベーターの中で、駿に電話をかけた。駿はすぐに電話に出た。「俺に連絡もできないぐらい忙しいかと思ってたよ」関わってくる人が多すぎて、駿も下手に動けなかった。涼介に目をつけられたくなかったから、駿はずっと様子を見ていたのだ。だが、ことはからこんなに早く連絡が来るとは思っていなかった。「典明が私の実の母方の叔父さんを連れてきたの」「おっと?それで感動して喜んでるとか?」駿の反応を聞いて、ことははこの電話をかけて正解だったと確信した。「駿さん、何か知っているんでしょ?」「それが俺に電話した目的だな」駿は無邪気に笑った。「うん」ことはは素直に認めた。「あの人は確かに君の実の母方の叔父さんだ。涼ちゃんが自ら貴の橋まで行って連れてきたんだ。でも、涼ちゃんはまだ貴の橋に残ってて、どうやら典明の裏の仕事を手伝ってるっぽい」駿はそう言って続けた。「典明は君の肉親のことを知ってたのに、わざと黙ってたんだ。君を
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第178話

ゆきがお箸を顎に当てながら、不思議そうに言った。「駿さん、本当に篠原家に恨みでもあるみたいね」「恨みがないわけないでしょ。典明は速水家の家業にまで手を伸ばしたんだから」「確かに」ゆきはまた笑った。「とにかく寧々が相応の報いを受けるなら、私はそれだけで嬉しいわ」ことはも嬉しかった。ことはは通勤途中、駿から吉報が届いた。今回の件で東凌が一夜にして40億円を蒸発させたとのことだ。今、典明は会社でてんやわんやの状態で、寧々をどうやって救い出すかなんて考える余裕もなさそうだ。ことはが会社に到着すると、同僚たちが駆け寄って心配しにきて、ことはは胸が熱くなった。始業時間になって、ようやくみんなそれぞれの席に散っていった。直哉がことはに近寄ってきて言った。「篠原さん、一次選考のリストが出たよ。俺たち二人とも載ってる。主催者から連絡があって、リストに載ったメンバーは今夜7時にラグジュアリードリームで懇親会に参加するそうだ。いける?もし無理なら、神谷社長に一声かけておいた方がいいよ。俺は一人で行けばいいから」「私、行くわ」ことはにできないことなどなかった。離婚もしたし、篠原家ともあんな騒ぎを起こした。今は仕事にちゃんと集中すべきときだ。これから先、「篠原家の偽お嬢様」とか、「翔真の元カノ」なんて肩書きがついたまま外を歩くのは、もうごめんだ。チームの朝礼で、隼人は姿を見せず、代わりに浩司が出席した。浩司は上座に座り、説明した。「本日、神谷社長は私用があり、会社に来られる時間は未定です。用事がある方は私に直接お願いします。では、会議を始めましょう」その時、神谷家では。神谷慎之助(かみや しんのすけ)と彼の妻は飛行機から降りると、まずまだ夢の中にいる隼人に電話をかけた。一言、即刻実家に戻れと命じた。兄弟ふたりは昔から仲が良くて、あの手のドロドロした財閥ドラマみたいに、遺産の奪い合いで仲違いしたりなんてことはない。慎之助は早くに結婚し、妻と共に海外に定住して神谷家の海外事業を担当していた。兄は外で弟は内と、役割分担が明確だった。むしろ会社を前人未到の領域にまで発展させ、前の代よりも優れた成果を上げていた。だから彼らの父親は早々に引退し、毎日忙しなく自分の庭や菜園をいじる生活を送っている。慎之助が帰国したのは用事があったからで、それ
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第179話

「もう、慎之助!」加恋が慌てて声をかけた。慎之助は瞬きもせず隼人と見つめ合い、隼人の続きを待っていた。加恋はこの兄弟が対立すると大騒ぎになることを知っているが、慎之助を説得できないと悟り、隼人に言った。「隼人、先に会社に行きなさい」「行かせるもんか。まずはっきりさせろ」慎之助が命令した。「じゃあ、いっそ家訓でも持ち出して俺をぶん殴るか?」隼人は険しい顔で言い返した。「殴れないとでも思ってるのか?」「そうだ、じゃあ殴れや」慎之助は激怒していた。このアホは殴られても言うつもりはないらしい。「確かにお前は殴られた方がいい」「何を殴るのよ!帰国したばかりで、まだ団欒の食事も一緒していないのに、隼人を病院送りにするっていうの?」加恋は焦り、隼人の前に立ちはだかった。隼人が折れる気配を見せないので、慎之助も引き下がらなかった。「誰か!鞭を持ってこい!」すぐに、慎之助が家訓に則って鞭を使うという話が神谷夫人の耳に入った。神谷夫人は目を丸くした。「まあ、どうして家訓に則って鞭をなんて使うの?」神谷夫人は慎之助に隼人を叱らせたかったが、手を出すほどではなかった。神谷夫人の夫がのんびり花を剪定しているのを見て、神谷夫人は血圧が上がりそうになった。「まだ剪定なんかしてるの?花より息子の方が大事でしょ。早く止めに行ってよ」神谷竜堂(かみや りゅうどう)は「フン」と鼻を鳴らした。「誰のせいだ?お前が慎之助に告げ口をしたからだ。慎之助が早く帰ってきたのは、隼人を叱るためなんじゃないのか」「私は……」神谷夫人は顔を赤らめた。「だって隼人の一生の一大事のためよ」「好きにすればいい。兄弟の仲を裂いて、隼人も海外に逃げて帰ってこなくなるまで騒ぎ続ければ、お前も満足するだろう」「……」神谷夫人は無言になった。-その日の夜、ラグジュアリードリームにて。一次選考を通過した48名の出場者が集まり、ことはと直哉が会場に到着すると、広い宴会場は既に人で溢れていた。席次表によると、彼らはメインテーブルの右側のテーブルに着席することになっていた。ことはが一次選考で見せた優秀な成績だけでなく、ことはたちがアシオンホールディングスを代表しているということもあり、待遇も当然良かった。着席するやいなや、多くの人々がことはをじろじろ見ながら
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第180話

「私たちのような仕事では、原稿を却下されたり、怒られたり、人に自分の手柄を横取りされたりするのは日常茶飯事です。厚かましさがなければ、到底やっていけませんそう思いませんか、篠原さん?」一挙にことはへ二つの皮肉が込められた。周りの人々はさらに爆笑していた。彼らの目には、ことはは新人であり、顔だけでのし上がったただの見た目だけの人だと思われている。そうでなければ隼人の目に留まるはずがない。男はまだ物足りない様子で、首を傾けて聞いた。「篠原さん、失礼ですが。一次審査の成績がそんなに優秀なのは、神谷社長が裏で手を回してくれていたからではないですか」「綾野権次(あやの ごんじ)、その口の利き方気をつけろよ!」公共の場であることを気にして、直哉は机を叩いて怒鳴りたいのをぐっと堪え、声を殺して脅した。権次は直哉をなだめた。「直哉、そんなに興奮しなくてもいいじゃないか。たった数日で篠原さんとそんなに仲良くなったのか?それともお前も……」権次は言葉を濁したが、周りの人々の想像をかき立てたのか、再び笑いの嵐が起こった。他のテーブルにいた人たちはこちらの会話内容を知らず、楽しそうに笑っている様子を見て、和やかな雰囲気にあると勘違いしていた。ことはは片手で直哉のことを抑えつつ、もう片方の手で携帯を取り出した。ことはが何も弁明しないのを見て、権次は自分の予想が当たってことはが動揺しているのだと思い込んだ。「篠原さん、携帯をいじってないで、楽しく会話しましょうよ」とからかった。「ええ、もちろんしますよ。でも、さっきのあなたの言葉を聞いてちょっと不安になったから、ちょっと神谷社長に電話して確認してみるね」とことはは落ち着いた様子で言った。「何の話だ?」権次は背筋を伸ばし、視線をことはの携帯に注いだ。ことはは眉を吊り上げ、真面目な顔で言った。「綾野さん、今回のコンテストで神谷社長が私のために裏で手を回していたと言っていたよね?これは決して小さな問題では済まされないよ。私と社長の名誉と潔白に関わる重大なことだからね。噂には必ず出所があるはず。綾野さん、後で神谷社長にその話をどこから聞いたのか正直に説明してね」一瞬で、笑っていた数人は顔をそらし、笑うことも目を合わせることもできなくなった。権次はそわそわし始め、怯えた表情をしており顔も歪ん
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