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第172話

Author: 魚住 澄音
ことはは執拗に典明を追い詰めた。「お父さん、決めた?寧々を刑務所に入れるか、それとも私を篠原家の戸籍から抹消するか?」

典明は口を開いたが、仙石弁護士が手にしているボイスレコーダーに気づいた。たちまち、典明は声を失った。

その怒りは胸のあたりで渦を巻いていて、吐き出すことも飲み込むこともできなかった。

もう少しで窒息しそうだった。

その時、典明の携帯が鳴った。着信表示を見ると、典明は目を輝かせ、急いで電話に出た。「どうだ?」

それの様子を見て、ことはは目を細めた。

「本当か?わかった、直接連れてきてくれ。場所は第一中央(だいいちちゅうおう)病院入院棟の10階・42番ベッドだ」

電話を切ると、典明の顔からは青ざめた表情は消え、ことはを見る目にはむしろ勝利の笑みが浮かんでいた。「ことは、君はずっと本当の肉親を見つけたがっていただろう?君の実の母方の叔父さんが見つかった。今ここに向かっている。きっと会いたいだろう?」

ことははその場で凍りつき、何の反応もできなかった。

実の母方の叔父さん……?

浩司は外で会話の内容が聞こえると、表情が一変した。

ことはの勝利は確実かと思われたが、まさか典明に切り札があったとは。

ことはは急いで隼人の元へ戻らざるを得なかった。

-

東海林俊光(とうかいりん としみつ)が篠原家の人に連れられて病院に来た時、俊光はまだ病室の全員を見渡してもいないうちに、真っ先にことはに視線を落とした。

俊光は口を開き、ことはのことを指さした。

まずは抑えきれないほどの興奮が俊光の体中を駆け巡った。

俊光は足早でことはの前に進み出ると、上下左右をくまなく観察した。「似てる、本当に似てる!俺の姉貴にそっくりだ!」

「お前がことは?俺はお前の実の叔父さん、東海林俊光だ。本当の叔父さんだよ!」

俊光は何度も洗われて色あせ、ところどころ擦り切れたグレーのスーツジャケットを着ていた。日に焼けた黒い肌に、右目のあたりには斜めに走る傷跡が一本。短く刈られた髪と相まって、まるでヤクザのような雰囲気を漂わせていた。

俊光は興奮を抑えきれず、両手でことはの腕を掴んで激しく揺さぶり、「叔父さんって呼べ、ほら早く呼べよ」と言った。

仙石弁護士はことはがちょっと怖がっていると思い、親切心から「すみませんが、篠原さんを怖がらせていますよ」と口を挟ん
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