All Chapters of 恋は復讐の後で〜奴らを破滅させたら貴方の胸に飛び込みます〜: Chapter 21 - Chapter 30

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21.私と離縁してください⋯⋯。

 彼のメイドとして生活する中で知ったが彼はキノコアレルギーだ。 皇族の方の食事のメニューは同じものが用意されているのに、ダニエル皇子の食事だけキノコが除外されていた。 ちなみに、皇族は無敵でなければならないので、彼がキノコアレルギーだという事はトップシークレットだ。 しかし、彼は食事のサーブまで専業メイドである私に頼んでいたので気がついてしまった。 彼はキノコなど育ててはいない。 彼が「僕のキノコ」などと言ったのは、やはり私の気を引く営業トークだった。 ダニエル皇子の顔は赤くなり、とても痒そうだ。 瞼も赤く腫れ上がってきている。 通常、アレルギー反応が出るのは10分から30分後だが、この世界のキノコは効能、香りも強い分、アレルギー反応も早いようだ。「何をするんだ!」 その時、思いっきり彼が手を振り上げ私を引っ叩いた。 衝撃で私は彼に対する記憶を思い出した。 私はダニエル・ガレリーナと結婚していた。 槇原美香子として過ごすよりずっと前だ。 それは『トゥルーエンディング』のダニエルルートのような人生だった。 マテリオが私が別人で過ごせるように、他国の戸籍を買ってくれた。 魔法の薬で髪色の目の色を変えて、私はラリカとして皇宮のメイドとして働いた。 私はマテリオと身を潜めて暮らす人生を選ばなかった。  私は10歳の時に自分の聖女の力に気がついていた。 しかし、それはエステルに痛ぶられた傷を治すことのみに使い、周りには秘密にしていた。 聖女の力があっても、私に背負わされた十字架は消えない事を知っていた。 私の父親の犯した罪は、国庫の横領だった。 美しいが金遣いの荒い母に夢中だった父は行政部にいるのを良い事に莫大な金を盗むような真似をしていた。 父は爵位を剥奪され、国外追放になった。 全てを失った父から母は離れて、私は捨てられた。  カイラード・ロピアン侯爵が遠戚のよしみで私を拾った。 しかし、そこでの
last updateLast Updated : 2025-07-17
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22.悪いのは俺の方だ⋯⋯。(マテリオ視点)

 レアード皇帝が気まぐれに手を出したメイドとの間に生まれた俺の人生は最初から針の寧ろだった。 俺は平民出身のメイドの子だった。 美しい銀髪にエメラルドの瞳を持った母は人目をひく美貌のせいで、レアード皇帝の目に止まってしまった。 極秘に出産した俺の目は赤く、皇族の特徴を継いでしまっていた。 皇后よりも早く皇帝の子を出産したとして、俺の母は陰口に晒された。 うっすらと残る記憶は嫌がらせをされ、いつも泣いている母だった。 皇子の母親ということで堂々と出来るほど俺の母は強くなった。 俺が6歳の時に精神的に追い詰められた母は自ら命を絶った。 とても心の弱い人で、元々魑魅魍魎が行き交う皇宮で生活出来るような方ではなかった。 ナタリアと会ったのは雪の日の事だった。いつものようにダニエルを尋ねて来たエステル嬢に傘をさしている彼女を見た。 ロピアン侯爵がルミエーラ子爵の娘を引き取って、その娘が妙に色気のある黒髪の美しい娘だとは聞いていた。 一目で心を奪われそうな美貌と憂いを帯びた紫色の瞳に俺はすぐに彼女がナタリアだとわかった。「あんた、馬車までダニエルが私を送ってくれないと笑ってるんでしょ」 突然、エステル嬢は彼女の手から傘を取り上げ思いっきり傘で彼女を叩いた。「エステル様、私がご不快にさせたのなら謝ります」「あんたの謝罪に価値なんかないのよ!」 ひたすらに彼女を傘で叩き続けるエステル嬢を止めようと近づくと、近衛騎士団長のユンケルがエステル嬢の手首を掴んだ。「それ以上は⋯⋯人目がありますエステル様」 エステル嬢は手を止めると、無言で彼女を置いて馬車に乗って去ってしまった。「大丈夫ですか? ナタリア」「私は平気です。いつも助けてくれてありがとうございます。お優しいのですねユンケル様」「ロピアン侯爵邸まで送ります」「結構です。私はお散歩してから帰るのでお仕事に戻ってください」 そういうとナタリアは何故か小走りで皇宮の中に入って行った。 思わず俺
last updateLast Updated : 2025-07-18
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23.黒幕って、ダニエル皇子殿下?

「ここ、レオノラの森の近くじゃない」「とりあえずの住まいだ。他国にもっとマシな家を買うつもりだ」 皇子として育ったマテリオが生活しているとは思えない小屋だ。 でも、部屋が1つしかなくてマテリオとずっと一緒にいられる。 彼は私の境遇に同情し、一緒に逃げると言ってくれた。 しかし、私たちは惹かれあっていても恋人同志がするような事はしていない。この狭い部屋で愛する彼と夫婦のように過ごせると思うと嬉しくなった。 「マテリオ、知ってるかもしれないけれど、エステルが処刑されたわ」「黒幕が存命だ⋯⋯」「黒幕って、ダニエル皇子殿下?」 マテリオがゆっくり頷く。 私がダニエルを疑い始めたのは、彼が皇帝になったあたりからだった。(マテリオはこの時点で気がついてなのね) それにしても、私は明らかにナタリアとして2度目の人生を過ごしている。私の無念が回帰させたのかもしれない。 槙原美香子として生きた人生でもスバルに食い物にされた情けない私。 ナタリアの人生をやり直せるなら、今度こそ愛するマテリオと共に生きたい。 しかしながら、私の中でどうしても不可解な事がある。 乙女ゲーム『トゥルーエンディング』の存在だ。私が中学生の時に夢中になったゲームだが、今思えば私に人生の選択肢が他にも会った事を見せるような仕様になっている。「誰が作ったんだろう、もしかして神様?」「ナタリア?」私のおかしな呟きにマテリオが反応して、私は思わず笑いながら首を振った。(いやいや、神様じゃなくてゲーム会社の人でしょ) もしかしたら、私のように前世の記憶を持って転生した人が作ったのかもしれない。 だとしたら、かなり私に近い人間だ。(どんな意図で? 意図なんかなく私の人生が滑稽だったから揶揄って?)「ナタリア、モトアニア王国の女の子の戸籍を買ってあるんだ。平民の女の子で犯罪歴もない。ただ、家が困窮して自分の戸籍を売ったらしい」 マテリオがラリカの戸籍を買ったことについて話してく
last updateLast Updated : 2025-07-19
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24.マテリオ、皇宮に一緒に戻ろう。

「ヨーカー公爵領に向かう途中の馬車がセイスン橋が崩落した事で落下しまして⋯⋯」 ユンケルの声も震えている。「ヨーカー領って⋯⋯リオナ様は?」「意識不明の重体です」 私は公爵令嬢にも関わらず、身分や私のバックグランドを蔑む事なく優しくしてくれた彼女を思い出して涙が溢れた。 彼女は心からオスカー皇子を愛していた。 目覚めた時、彼が死んだと知ったら苦しむだろう。「セイスン橋は補強工事をしたばかりだ。崩落? そのような事があるはずがない」 私はセイスン橋が皇家直轄領にあたり、マテリオが管理を任されていた事を思い出した。 「まさか、またマテリオに責任を?」 私の言葉を肯定するようにユンケルが押し黙る。「ダニエルか⋯⋯」 マテリオの呟きにもユンケルは気まずそうに俯くだけだった。「ユンケル様! あなたって何を考えているのですか? ダニエル皇子殿下の手下で、またマテリオを陥れる為にここに来たのでしょう?」 彼は近衛騎士団長に関わらず私の荷物を取りに行ったり、ダニエルの指示で動く使い魔のようにしか私は見えない。「違います! 俺はダニエル皇子が恐ろしくて⋯⋯脅されています」「脅されている? 何か罪を犯したのか?」「⋯⋯皇族を殺しました⋯⋯」 マテリオの問いかけに意を結したように、ユンケルは震える声で自分の罪を白状した。「⋯⋯ダニエル皇子殿下は、元々お気に入りの女性を自分の専属メイドにして手を出していました。ちょうどナタリア様の前にメイドだったクレアという女が妊娠したのです」 ポツリポツリと語り出したユンケルの言葉に私は怒りで震え出した。 もしかしたら、私に用意された部屋はクレアが使っていたものかもしれない。 まるで私の為に用意したかのようにサイズの合う洋服が揃えられていたが、なぜだか他の服に隠れるように皇宮のメイド服が掛けてあった。 (気持ち悪い⋯⋯メイドが好きって性癖?)「父上と同じだな。ガレリーナ帝国の女は全て自分のものだと勘違いしている⋯⋯」
last updateLast Updated : 2025-07-20
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25.もう1度、時を戻す事はできないのですか?

 皇宮に到着するなり、マテリオはレアード皇帝に呼ばれた。 そして、私は案の定ダニエルと対峙することになった。 ダニエルの執務室に入ると、そこにはカイラード・ロピアン侯爵もいた。 私を見るなりダニエルは柔らかく微笑み近づいてきた。 私は彼がどのような気持ちでそんな表情をしているのか理解できず、思わず後退りたくなるのを必死に堪えた。「ナタリア、あの時は驚いてしまって君を叩いてしまって悪かった。君を傷つけたこの腕を今すぐ切り落としてしまいたいよ」 「じゃあ、今ここで切り落とせよ」と言いたくなったが我慢した。彼が私の頬を愛おしそうに撫でてきて鳥肌が立ってしまう。 身分制度とは本当にクソだ。 このように嫌悪感を感じる男に触れられても、引っ叩くこともできない。 ダニエルを前にして、ときめいた事もあった自分を恥じた。 今、私が考えるのは彼の紅茶にキノコの粉をごっそり混ぜて抽出し、アナキラフィシーショックを起こすことだ。(流石に足がつきそうね⋯⋯)「会話をしたくないくらい怒っているの? でも、今日は君に良い知らせがあるんだよ。ロピアン侯爵が君を養女にしたいらしい」「良い知らせ?」 私は思わず小馬鹿にしたような笑いが漏れてしまった。「なんだ、その態度は! お前のような卑しい生まれの娘を名門侯爵家が受け入れてやろうと言うのだぞ」 ロピアン侯爵に怒鳴りつけられた途端、私の中で彼にされた嫌がらせの数々が蘇った。 「娘に私を妃教育のストレスの発散に使えと言いましたよね。私のような卑しい人間は道具のように扱っても良いと⋯⋯私も侯爵の娘になったら、ストレス発散の的を用意して頂けるのでしょうか。それでも、発散できなかったら乱行するしかなくなりそうですね」 私の言葉にロピアン侯爵は手を振り上げた。 ここで殴られて仕舞えば、養女の話はなくなりそうだと思ったが邪魔が入った。「ロピアン侯爵⋯⋯僕の前で乱暴なことはやめてくれ」「しかし、このような大罪人の娘に言われたままでは!」「横領
last updateLast Updated : 2025-07-21
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26.宜しくお願いします。お姉様 。

「ラリカ皇后陛下なのですか? 私、陛下の遺体を盗んで魔術を完成させのです。魔術に使った遺体の主も回帰前の記憶を引き継いでいると言う事でしょうか?」「そのようですね⋯⋯」「納得がいきました。ラリカ皇后はいつもダニエル・ガレリーナといる時、上の空でしたから。ナタリア様、後悔していたのでしょう? マテリオ皇子殿下と離れていたことを」 きっと今、一番辛いのは禁忌を犯してまで求めた愛する人を失ったリオナ様だ。それなのに彼女は私の手をそっと握り慰めてくれる。 彼女の魔術で回帰しているのが事実だとしても、私はナタリアと回帰する前に槇原美香子として人生を送った。(リオナ様が『トゥルーエンディング』の脚本家だったりする? 内容的に彼女が書いたとは思えないけれど⋯⋯) 「私は公爵位を継げるようにします。そして、マテリオ皇子殿下の支援に回るつもりです。ナタリア様は先程、養子の話をされていたようですがいかがされるおつもりですか?」「私はロピアン侯爵家の養子にはなりません。あれは私を侯爵家の養子にして、ダニエルと縁を結ぼうという企みです」「成程、おそらくナタリア様がお話を断れば、ダニエル皇子は他国の王女か私に声を掛けてくるでしょうね」 確かに妃教育を終えているリオナ様は適格者だろう。 「そこまで予想されているのですね」「予想して危険を察知し守りを固めていたとしても⋯⋯それでも1度の読み間違いで全てを失います。結果が全てです。私はオスカーを守れませんでした。それでも、彼の意志は絶対に守り抜きます」 これ程、強く真っ直ぐな女性を私は見たことがなかった。そして、私も彼女のように強くなりたいと思った。「私、やっぱり養子の話を受けます」 ロピアン侯爵も私にとって死ぬ程、憎い相手だ。 でも、聖女の力があっても平民のままでは、この貴族社会では相手にされない。 リオナ様のように一途に愛する人の為に戦いたい。 それだけでは足りなくて、私は私を虐げ利用した人間全てに復讐したかった。 私は彼女のように清らかで一途な令嬢ではなく、ネガ
last updateLast Updated : 2025-07-22
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27.彼は私に恋と愛を教えてくれた人だった。(リオナ視点)

 オスカーと私があったのは9歳の時だった。 ヨーカー公爵家と皇家を結ぶ為の政略的な婚約だ。 私に望まれるのは、次期皇帝になるだろう彼を支える事。「オスカー・ガレリーナ皇子殿下にリオナ・ヨーカーがお目にかかります」 皇宮のバラ園で顔合わせをした時、オスカーは私をじっと見つめていた。「殿下、如何いたしましたでしょうか?」「いや、あまりに優雅な振る舞いに見惚れていたんだ⋯⋯すまない、心配かけたね」 殿下は柔らかく微笑み私をそっとエスコートし、庭園を案内してくれた。(優雅なのは殿下の方だわ⋯⋯美しい人⋯⋯) 殿下は私に毎週のように会いにきた。 5年経つ頃には私たちは名前で呼び合うくらいに打ち解けた。 「オスカー、ハンカチを作りました。宜しければお使いください」 私が妃教育で習った刺繍を見せると殿下は感嘆の声をあげた。「一針一針、本当に丁寧に刺すんだね。リオナらしい。君は何をやるにも完璧にこなしてしまうね」「い、いえ⋯⋯そのような⋯⋯恐縮です」「それに、君は実はその辺の貴族よりずっと賢いよね。話していたらすぐ分かるよ。私の前では隠さないで、どんどん話して! 君の意見を聞きたいんだ」 私は心臓が止まりそうになった。 控えめに、お淑やかに、意見を求められるまでは押し黙るようにしていた。(殿下は気がついていたの?) 「控えめで、お淑やかなリオナも素敵だけれど、それが君の全てじゃないだろう? 私はどんなリオナも見てみたいんだ。私たちは夫婦になるのだから」「はい⋯⋯うるさかったら、直ぐに言ってくださいね」 私は、その日から彼の前では政治議論を活発にするようになった。 元々、父が宰相をしている影響で政治には興味があり、勉強していた。 彼は私の意見をよく聞いて、国政に取り入れてくれた。 私は妃教育の合間にオスカーの執務室に入り浸るようになり、空き時間にはよくチェスをした。 オスカーはチェスが得意で、彼に勝ったことがあるのはマテリオ皇子だけ
last updateLast Updated : 2025-07-23
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28.今から、あなたを拷問します。(リオナ視点)

 階段を降りて、地下牢に潜る。 私は、これから私のオスカーを1度殺したエステルを尋問しに行く。 松明を持った従者を連れて地下への階段を降りると、鉄格子の奥に不貞腐れもたれかかったエステル嬢がいた。 彼女のトレードマークであるたて巻きロールはなく、処刑に備えて髪を短く切られている。肌艶も悪く目の下にはクマがあり、帝国一裕福な侯爵家の令嬢だった面影はない。「エステル様、ご機嫌如何ですか?」 優雅に挨拶をすると、エステル嬢は助けが来たとばかり鉄格子まで近寄ってきた。「リオナ様、聞いてください。私はナタリアに嵌められたんです。怪しいキノコの香水、きっとあれのせいだわ?」 ナタリアとは凄い子だ。 キノコで麻薬のような効果のある香水を作れるらしい。 エステルの体内からはサイロシン、サイロシビンといった麻薬成分が検出されたと聞いている。 そして、エステル嬢は当たり前のように被害者面をしているが彼女がナタリアを痛ぶっているのは有名な話だ。 ナタリアは、やられっぱなしじゃなくて、しっかりお返しする女だったようだ。 彼女の気持ちは理解できる。 私も自分が前に進む為にも報復することには賛成だ。 「それは、乱行騒ぎの事ですか? あなた様が今投獄されているのは皇族暗殺未遂の罪ですよ。まあ、あれだけ醜態を晒したら令嬢としては死んだも同然ですが」「オスカー皇子殿下のことですが、違うのです。何か誤解があるかと⋯⋯それに、今、殿下は生きてますよね。疑いがかかっただけで死罪だなんて⋯⋯」 ここに来てまで自分の状況を理解できず、言い逃れをするエステル嬢に呆れた。「どなたも、エステル様の減刑を申し出てくださらなかったのですね。ご両親も、ダニエル皇子殿下もここに会いにきてもいない。それが、エステル様のこれまでの人生の結果です。ところで、毒を盛ったのはエステル様の判断ですか?」 私はダニエル皇子の指示で彼女が動いたのではないかと疑っていた。皇族である彼を糾弾するには証言が欲しかった。しかし、エステル嬢は頑なに口を閉した。
last updateLast Updated : 2025-07-24
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29.う、嘘だ。ナタリア⋯⋯。(ダニエル視点)

  ナタリアにを引っ叩いた瞬間、僕は過去を思い出した。ダニエル・ガレリーナは彼女と結婚をしていた。  ナタリアはラリカとして生まれ変わり、また僕の前に姿を現したのだ。 茶髪に薄茶色の瞳、名前を変えても僕にはすぐに分かった。 思っていた以上に、僕は彼女のことを良く見ていたみたいだ。「ダニエル皇子殿下、お優しいですね。私、殿下のこと⋯⋯申し訳ございません。殿下にはエステル様がいらっしゃいますのに⋯⋯」 ナタリアがマテリオよりも自分を選んでくれたのだと僕の心は高揚した。 彼女の為にエステルを断罪した。  エステルは便利な女だったが、ナタリアが彼女がいると苦しむ。 僕は初めて他人の為に動いた。  その後は地獄だった。 エステルを聖女ラリカに対する嫌がらせにより身分を剥奪し国外追放にするとナタリアは僕への興味を失った。 そもそも、彼女はエステルへの当てつけに僕に言い寄っていただけだったと薄々気がついてきた。  皇帝になると直ぐに彼女と結婚した。僕と同等の地位、帝国一の女性の地位を彼女に与えてやった。それでも、彼女の心は手に入らなかった。初夜に、僕に抱かれながらマテリオの名前を呼ぶ彼女を見て絶望した。 彼女は自分の失態に気がついてもいなかった。 彼女といると虚しくなった。 どうして世界一尊重されるべきが、このような惨めな気持ちになるのか理解できなかった。 彼女は最低だ。 そして、自分が残酷で、僕をどれだけ傷つけているかに気づいてさえいない。 僕は彼女を避けるようになった。 彼女の持っている地位も名誉も僕の与えたものだと気がついて欲しかった。 僕の存在がなければ、彼女は聖女の力はあっても只のメイドだった。  ふと黒髪に紫色の瞳をしたメイドを見かけた。 (ナタリアと外見は似てないが⋯⋯彼女より従順だ⋯⋯) 僕はそのメイドを自分の専属メイドにし、ナタリアだと思って抱いた。
last updateLast Updated : 2025-07-25
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30.時を戻す魔法陣⋯⋯。(ダニエル視点)

 高杉智也として生まれ変わった僕は大学を卒業すると日々退屈に過ごした。 資産家の家に生まれたので、働かなくても不労所得があり好きなことをして生きてけた。 暇な時間が増える程に、前世でのナタリアのことを考えた。 そして、僕は彼女を探す為に小説『愛の探究者』を自費出版で出した。 もしかしたら、僕がダニエルである記憶を持って日本に転生したように、ナタリアも同じ世界に転生しているかもしれないと思ったからだ。 彼女が同じ世界に生まれ変わっていたら、それはもう運命だ。 きっと、小説を読んで僕に連絡をくれると考えた。 小説の内容はナタリアという大罪人と娼婦の娘に生まれてしまった子が、ラリカという別人に生まれ変わりダニエル皇子と幸せに暮らす話だ。プライドが邪魔してナタリアへ伝えられなかった想いを小説の中に僕は託した。 前世での事実に基づいたその小説は全く売れなかったが、ある日、僕の小説を原案にして乙女ゲームを出したいと言う連絡が来た。 少しでも多くの人の目に触れた方がナタリアへ辿り着くと思い受けた話だったが、非常に後悔した。僕の小説は乙女ゲームでは、マルチエンディングにされてしまった。しかも、隠しルートにマテリオまで存在する。 ナタリアがラリカになったという設定は削除され、平民ラリカが皇宮を舞台に逆ハーレムを楽しむようなくだらないゲームにされてしまった。 タイトルは『聖女ラリカのドキドキ皇宮生活』だ。 僕は必死に抗議してタイトルを『トゥルーエンディング』にしてもらった。 他の男を選ぶ選択肢があっても彼女は僕を選んだはずだ。 その真実に気がついて欲しかった。 僕の小説は売れなかったが、乙女ゲーム『トゥルーエンディング』は売れに売れた。僕は毎日のようにナタリアからの連絡を待ったが、彼女は現れなかった。 僕は生涯独身でナタリアを想い続けながら死んだ。 そして、彼女に対する強い気持ちが通じたのか、僕は再びダニエル・ガレリーナとして回帰したようだ。 昔、ダニエルだった時の記憶が蘇り、すぐにリオナ嬢の書いていた魔法陣がなんだったかを
last updateLast Updated : 2025-07-26
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