恋は復讐の後で〜奴らを破滅させたら貴方の胸に飛び込みます〜

恋は復讐の後で〜奴らを破滅させたら貴方の胸に飛び込みます〜

last updateDernière mise à jour : 2025-07-29
Par:  専業プウタComplété
Langue: Japanese
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槇原美香子は、研究室での虐めにより逃げ出した先でホストクラブにハマってしまう。破産し、絶望していたところ、川に落ちると異世界に転生していた。そこは乙女ゲーム『トゥルーエンディング』の世界。自分はマテリオ皇子を暗殺する脇役。暗殺に失敗した後、現れた男主人公ダニエルにより自分は暗殺者ではなく元貴族令嬢のナタリアだと聞かされる。一向に現れないヒロインのラリカ。マテリオ皇子が皇宮に戻ってきたところで、一気に記憶を取り戻すナタリア。まさか、自分がラリカでマテリオ皇子を裏切りダニエルと結婚した時間があったなんて。 ネガティブで陰湿な彼女だが、今度こそ自分を虐げた奴らに復讐し愛する人と幸せになる決意をする。

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Chapitre 1

1.ナタリア、君を心から愛している⋯⋯僕と⋯⋯。

 レアード皇帝が体調を崩してから、皇位継承権争いは激化していた。 

 今世で、私は紆余曲折あり、男主人公ダニエルの専属メイドとして過ごしていた。

 毎晩のルーティンワークとして寝室でダニエルの皇子の寝支度を整えようとするが、手がどうしても震えてしまう。

 彼の夜着のボタンを掛けようとすると、その手を握られた。

 突然の出来事に思わず、彼の澄んだルビーのような瞳を見る。

「僕の先程の言葉に一点の嘘偽りもない。ナタリア、君を心から愛している⋯⋯僕と⋯⋯」

 薄暗い寝室で、燃えるような赤い髪に憂いを帯びた赤い瞳をしたダニエルが私を見つめている。

 あるはずのない聞き間違いだと思い込もうとしたが、私はこの部屋に入る前彼から愛の告白されていた。

 彼はエステル・ロピアン侯爵令嬢との婚約を破棄したばかりだ。

(私を愛している? 本当に?)

 胸の鼓動が死んでしまうのかないかと言う暗い早くなり、私は美しい彼の瞳の赤に見入っていた。

 その時、突然、寝室の扉が開け放たれた。

 目の前には息を切らした失踪中だったはずのマテリオ皇子がいる。

 外は雪が降っていたからか、彼の銀髪は湿気でべっとりと顔に張り付いていた。私とダニエル皇子が手を握りしめあっているのを睨みつけると、勢いよく近づいてきた。 

 マテリオ皇子の手には血が滴る剣が握られていて、私は釘付けになった。

「ナタリアを返して欲しければ、皇位継承権を放棄しろ!」

 突然、ダニエル皇子が私の体を反転させ私の髪に刺さった簪を抜いて、私の首筋に立てた。

 私の命などマテリオ皇子にはどうでも良いはずなのに、なぜこのような事を彼がするのか理解できない。  

(ダニエル皇子殿下⋯⋯私を愛していると言ったのは嘘だったのね)

 皇子様から「愛している」だなんて言われて浮ついてしまった自分を恥じた。

 前世ではホストクラブで破産して、今世でも男に騙されているのだから笑えてくる。

「ふっ」

 自嘲気味に鼻で笑ったマテリオ皇子は、剣を床に落とした。

 前世の私は高校2年生の時、私はキノコと運命的な出会いをした。

 愛しくて、奔放なキノコという存在に私の心は虜になった。

 そして、大学院卒業後の私は念願のキノコ研究者として生活をしていた。

 キノコの研究は没頭できたが、研究室というところの人間関係で躓いてしまった。

 私の論文を嘲笑った如月教授が、殆ど私の研究を登用して認められキノコ研究の第一人者になった。

 私は名声がなくても、キノコさえ研究出来れば良いと思った。

 でも、私が邪魔になった如月教授を中心に私への嫌がらせがはじまり心が折れた。

 私は大好きなキノコの研究が出来る研究室を離れなければならないくらい追い詰められた。

 旅行や美容のようなお金の掛かる趣味は持っていなかったから、貯金は十分にあった。

 このまま1人でひっそりと家でキノコを育てながら、老後を迎えるのだと思っていた。

 それなのに30歳の時、初めて行った新宿で呼び込まれたホストクラブにハマってしまった。

 昔からハマりやすい人間だった。

 アニメやゲームにハマっていた時は、まだ平和だった。

 お金が掛かるといってもたかがしれている。

 キノコにハマり始めてからは、私は給与まで生み出していた。

 キノコは趣味が実益に変わる魔法のような素晴らしい趣味なのだ。

 しかし、ホストクラブは私の金を食い尽くす恐ろしい趣味だった。

 その時の私は研究室でハブられ、陰口を言われ、虐げられて自己肯定感がどん底の状態だった。

 研究室では誰も褒めてくれなかった私を褒めてくれたホストのスバルに、まんまとハマってしまった。

 全財産を注ぎ込み、借金までした私は親から見捨てられた事で我に返った。

 今日でホストクラブに通うのも最後にしようと思った。

 私は初めてスバルに弱音を吐いた。

「もう、どうしたら良いのか⋯⋯死にたい⋯⋯」

「いや、売掛払ってから死ねよ。バカ子⋯⋯」

 私に聞こえないように呟いたであろうスバルの呟きは私の耳にしっかり届いていた。

 目を落とすと暗い照明で誤魔化されているが、床は埃だらけのホストクラブ。このような偶像崇拝の無価値な場所で、なぜ無意味な時間を過ごしていたのかと心が沈んだ。

 よく見るとスバルは地黒でサーファー風なイケメンに見せてるだけで、大してイケメンでもない。

 彼は意地悪そうに口をひん曲がらせる癖があり、その表情を見ると心が落ち込んだ。

 私は彼と話した後にイライラする事も多いのに、彼に会うのをやめられなかった。

 普通の女なら彼ごときに貢がないだろう。

 店での売り上げも私くらいしか指名客がいないのではないかというくらい低空飛行だ。

 しかし、私は普通の女ではなかった。

 仕事を辞めた後は精神的に不安定で、褒められることに飢えている病的な女になっていたという自覚がある。

 私にとって男の容姿など、そこまで重要ではなかった。

 私は自分を褒めてくれる人なら誰でも良かった。

 そして、褒めるどころか私を馬鹿にし、金蔓にしていた隣に座る男はもういらない。

 自然にありのまま生きるキノコは食品になり、薬になり人の役に立つ存在だ。

 その素晴らしさに触れてる時だけ、私の心は澄み渡る海のように穏やかだった。

 心の拠り所はキノコだけだったのに、キノコを見ると研究室での辛い日々を思い出し辛くなってしまうこともあった。

 キノコから離れ、ホストクラブなどで時間と金を費やしてしまった私は愚か者だ。

 私が一生分の稼ぎを貢いだホストのスバルは私が死んでも良いらしい。

 しかし、私は死にたいとは思っておらず人生をやり直したいと思っている。

「法外な値段じゃない⋯⋯1000円ちょっとのスパークリングワインを10万円近くで売っていて⋯⋯」

 それでも、そういった店で飲み食いしたのだから払わなければいけないのは分かっている。

 ただ、私は精神的に普通じゃなくなっていて、それを利用した男に従いたくないだけだ。

「お前みたいなブスと会話してやった手間賃だろうが」

 ブス⋯⋯何度も言われてきた言葉は私の心を殺す力を持っていたようだ。

 スバルは、私に営業することをやめたのだろう。

 面倒な客だと切られたのかもしれない。

 今まで私の事を表向きは綺麗だとか、美人だとか煽ててきたのに急に私を貶してきた。

 私はその言葉と、スバルの見下すような表情に耐えきれず店を飛び出した。

 店を出て気が付くと酒が入った虚な頭で、土手を彷徨っていた。

 どれだけ歩いたのか、ここがどこなのかも分からない。

 ただ川からは生ゴミのような汚い匂いがうっすらとして、気分が悪くなった。

 その時、誰かに押された気もするが、私は川に落ちて死んだようだ。

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1.ナタリア、君を心から愛している⋯⋯僕と⋯⋯。
 レアード皇帝が体調を崩してから、皇位継承権争いは激化していた。  今世で、私は紆余曲折あり、男主人公ダニエルの専属メイドとして過ごしていた。 毎晩のルーティンワークとして寝室でダニエルの皇子の寝支度を整えようとするが、手がどうしても震えてしまう。 彼の夜着のボタンを掛けようとすると、その手を握られた。 突然の出来事に思わず、彼の澄んだルビーのような瞳を見る。「僕の先程の言葉に一点の嘘偽りもない。ナタリア、君を心から愛している⋯⋯僕と⋯⋯」 薄暗い寝室で、燃えるような赤い髪に憂いを帯びた赤い瞳をしたダニエルが私を見つめている。 あるはずのない聞き間違いだと思い込もうとしたが、私はこの部屋に入る前彼から愛の告白されていた。 彼はエステル・ロピアン侯爵令嬢との婚約を破棄したばかりだ。(私を愛している? 本当に?) 胸の鼓動が死んでしまうのかないかと言う暗い早くなり、私は美しい彼の瞳の赤に見入っていた。 その時、突然、寝室の扉が開け放たれた。 目の前には息を切らした失踪中だったはずのマテリオ皇子がいる。 外は雪が降っていたからか、彼の銀髪は湿気でべっとりと顔に張り付いていた。私とダニエル皇子が手を握りしめあっているのを睨みつけると、勢いよく近づいてきた。  マテリオ皇子の手には血が滴る剣が握られていて、私は釘付けになった。 「ナタリアを返して欲しければ、皇位継承権を放棄しろ!」 突然、ダニエル皇子が私の体を反転させ私の髪に刺さった簪を抜いて、私の首筋に立てた。 私の命などマテリオ皇子にはどうでも良いはずなのに、なぜこのような事を彼がするのか理解できない。  (ダニエル皇子殿下⋯⋯私を愛していると言ったのは嘘だったのね) 皇子様から「愛している」だなんて言われて浮ついてしまった自分を恥じた。 前世ではホストクラブで破産して、今世でも男に騙されているのだから笑えてくる。 「ふっ」 自嘲気味に鼻で笑ったマテリオ皇子は、剣を床に落とした。 前世の私は高校2年生の時、私はキノコと運命的な出会いをした。 愛しくて、奔放なキノコという存在に私の心は虜になった。  そして、大学院卒業後の私は念願のキノコ研究者として生活をしていた。 キノコの研究は没頭できたが、研究室というところの人間関係で躓いてしまった。 私の論文を嘲笑った如
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2.出会わなければ良かった! あんな奴!
 目を開けると、私は森の中の湖のほとりにいた。 木々が色とりどりに染まっていて、落ち葉が湖にはらりと落ちては浮いていた。 キラキラと輝く湖面に映った人間には見覚えがある。 私は槇原美香子としての人生を終え、異世界に転生したのであればこのキャラにだけはなりたくなかった。 頭の中がこんがらがっているが、朧げながら私は湖面に映る女として生まれ人生を送ってきた気がする。 私は異世界に転生したが、前世を思い出すと同時に今世で今まで過ごした記憶を失ってしまったようだ。(ワーキングメモリーの問題かしら⋯⋯)  黒髪に紫色の瞳をした私は、乙女ゲーム『トゥルーエンディング』の隠しキャラであるマテリオ・ガレリーナ第1皇子を暗殺する脇キャラの顔をしている。 今いる場所にはゲームの中で見覚えがあった。 ここには皇室の隠し通路の出口がある。 虫の鳴き声、鳥の囁きに隠れて足音がする。 もしかしたら、今から、ここにマテリオ皇子が来るのかもしれない。 私はそこで待ち伏せしてマテリオ皇子を暗殺する。 今回の暗殺は第3皇子のダニエル・ガレリーナの依頼だ。 ちなみにダニエル皇子はこの乙女ゲームのメインヒーロだ。 彼は婚約者のロピアン侯爵家と組んで、第1皇子であるマテリオ皇子を罠に嵌めて暗殺する。 マテリオ皇子はメイドの子ということもあり、第1皇子にも関わらず後ろ盾がなかった。 生まれのせいで、幼い頃から冷遇され無愛想で貴族たちとの交流も薄い。 周りが敵ばかりだと認識しているマテリオ皇子は、身分を盾に傍若無人な振る舞いをするようになっていた。  ダニエル皇子のマテリオ皇子暗殺は暴君を倒したと言うことで物語上は肯定されていた。 なぜなら、ダニエル皇子の双子の兄オスカー第2皇子をマテリオ皇子が毒を盛って殺害しようとしたからだ。 ヒロインのラリカが平民でありながら、ダニエル皇子に見初められ結婚するのがこの物語のトゥルーエンディング。 しかし、マテリオ皇子がオスカー皇子に毒を盛ったという目撃証言も作られたものである可能性も否定できない。 それでも、オスカー皇子は皇后の息子でマテリオ皇子がその血筋に嫉妬し毒殺を試みたという噂は消えなかった。 普段のマテリオ皇子の周囲との交流のなさと、横暴な振る舞いが彼自身を陥れていた。(人は変われるはず⋯⋯まだ20歳になった
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3.取り戻したのです。本来の私を! 
「まだ、遠くには行っていない! マテリオ・ガレリーナを追え!」 うっすらと聞こえる低い男の声と共に重い瞼を持ち上げる。そこにはいかにも主人公といったオーラを放つ、赤い髪のダニエル皇子がいた。 周囲にいるのはダニエル皇子についている皇室の騎士たちだろう。 「ナタリア、目が覚めたのか。聖水で傷は閉じたが目が覚めないから心配したよ」 ふと目が合ったダニエル皇子が私に近づいてくる。 私はどうやら木陰に寝転がされていたようだ。 重い体で起きあがろうとすると、直ぐにダニエル皇子が私を支えてきた。 ゲームでは彼の婚約者のエステル・ロピアンからマテリオ皇子殺しを依頼されるシーンと、マテリオ暗殺シーンしかない暗殺者。 名前もない脇役だと思っていたが、名前はあったようだ。「ダニエル皇子殿下? ナタリア⋯⋯私の名前?」「そうだよ。エステルは本当に酷い女だな。暗殺者を雇ったと聞いていたのに、それが君だったなんて⋯⋯」 ダニエルが私の髪を愛おしそうに撫でながら、髪についた葉っぱを丁寧にとってくれる。 とても暗殺者に対する仕草とは思えない。 それにエステルはダニエル皇子からの依頼だと言って、マテリオ皇子を暗殺するようナタリアに伝えていたはずだ。 マテリオ皇子の暗殺は、このゲームの冒頭シーンに当たる。 ゲームのプロローグで、ナタリアが暗殺依頼を受ける場面があった。 マテリオ皇子が暗殺され、ダニエルは次期皇帝の座を確固たるものにしていく。(私は暗殺に失敗したけれど、これは隠しルート?) 隠しルートでは、暗殺されたはずのマテリオ皇子はひっそりと生きている。 そして、ヒロインのラリカと偶然出会い彼女とささやかな幸せを築くというルートだ。「私、マテリオ皇子殿下の暗殺に失敗したのですね⋯⋯申し訳ございません。暗殺者失格です⋯⋯」「ふっ、何を言ってるの? 貴族令嬢だった君に武力に長けた兄上が殺せるはずがない。最も兄上なら君に攻撃できないと思って、最高の嫌がらせとして君にナイフを握らせたんだろうけど⋯⋯本当に、反吐がでるほど、嫌な女だ⋯⋯エステル⋯⋯」 どうやら、ナタリアは貴族令嬢だったらしい。 過去形で話すということは、家が没落でもしたのだろう。 私はマテリオ皇子を刺した確信は合ったが、彼に刺されたという確信がなかった。 私の刺したナイフをマテリオ皇子
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4.どこに連れて行く気ですか?
「傷は治ったよ。君の心の傷は治せないかもしれないけれど⋯⋯マテリオのこと本当に好きになってしまったのか? 彼は女の扱いが上手いから、君のような子を誑かすなんて造作もないだろうな⋯⋯」 ダニエル皇子はそういうと、私の額に口づけをしてきた。  私には目の前の彼の方が、私を誑かそうとする悪い男に見える。 マテリオが女の扱いがうまいなんてゲームの中でも思った事がない。  むしろ、見た目は良いのに性格が残念なせいで女からは疎まれそうな感じだった。 ダニエル皇子は愛おしそうに私を見つめ、優しく私に触れてくる。 (まさか、ダニエル皇子に新宿ナンバーワンホストが憑依してるんじゃ⋯⋯絶対、引っかかるものか)「聖水は、いらないと申し上げたはずです。私を助けるのも、私が愛するのもキノコだけです。では、ここで失礼します」 私が立ち去ろうとすると、ふと、体が浮く感覚を覚えた。  ダニエル皇子が私をお姫様抱っこしている。「おろしてください。私には足があります。殿下の助けはいりません」 「キノコを愛でられれば良いって? そうやって、マテリオの事も誘惑したの? 僕もまんまと君に誘惑されたよ」  ダニエル皇子が何を言っているのか、全く理解できなかった。 そして、先程彼は私がマテリオ皇子に誑かされた可能性を話していたのに、今は逆のことを言っている。 (ナタリアが、マテリオ皇子を誘惑? 暗殺ではなくて?) ダニエル皇子は笑いながら、私を馬に跨らせ自分はその後ろに乗る。  私を抱きしめるように馬の手綱を握っていて、その距離の近さに緊張した。「どこに連れて行く気ですか? 家に帰してください」 「本当にあの家に帰る気? また、虐められるよ。僕の側にいれば守ってあげるよ」  後ろから、耳元で低い声で囁かれ空気のわずかな振動に体がびくついた。  大事なアマドタケを落としてしまわないように、そっと首元から服の中に入れる。「私を守れるのはキノコだけです。殿下は必要ありません」 「僕のキノコも君を守りたいみたいなんだ。君にも愛でられたいみたいだよ。ふっふっ」 ダニエル皇子は自分で言った言葉に自分でうけて楽しそうに笑っている。  彼のキノコとは何だろうか。  私は前世で自分の部屋に残して来たキノコたちに思いを馳せた。
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5.家に帰して欲しいと言ったはずですが
「ここは、皇宮ですよね⋯⋯家に帰して欲しいと言ったはずですが」 暗闇に白く浮かび上がる宮殿にはゲームで見覚えがある。 乙女ゲーム『トゥルーエンディング』の舞台であるガレリーナ帝国の皇宮だ。 ダニエル皇子のメインルートでは、ラリカが皇宮でメイドとして働き始めた日に出会いのイベントが発生していた。 ラリカが他の使用人たちに言いがかりをつけられ、水を掛けられて意地悪されていた所をダニエル皇子が助けるのだ。 「ロピアン侯爵邸に戻るつもり? あそこにいたら、君はまたエステルに虐められるよ」 馬から降りたダニエル皇子の手をとり、馬を降りながら私は違和感を感じた。(ロピアン侯爵邸? エステル・ロピアン?)「あの、私の家はロピアン侯爵邸なのですか?」「本当に記憶が曖昧なの? 君の家、ルミエーラ子爵はあのようなな事があって爵位を失って、君は遠戚であるロピアン侯爵家でメイドとして奉公させられてたじゃないか」 私が暗殺者だと思ってたナタリアは暗殺者ではなく、元貴族のエステルの遠戚だったようだ。(あのような事? 爵位を失う程の罪を犯したということかしら⋯⋯)「もっと、私の事を教えてください。記憶が曖昧どころか、本当に何もかも忘れてしまったような感じなんです」 私は自分のことについて知りたかった。 『トゥルーエンディング』の悪役令嬢とも言えるエステルの遠戚なのに、 ゲームのプロローグでしか登場しないナタリアの不自然さが気になったからだ。「君は僕の恋人だったよ。深く愛し合ってたんだ。君は世界中のキノコより、僕のことが好きだと言ってたよ」
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6.誘惑? 一体何を言ってるのか⋯⋯。
私の唇を親指で撫でながら、私を誘惑するように囁くダニエルは嘘をついている。 キノコを愛しているのは私であって、元のナタリアではない。 そして、キノコを愛する者ならば、キノコは人と比べる事のできない唯一無二の存在だと思っているはずだ。「ダウト! 今、嘘をついてますね。記憶がないと言う人に嘘を吹き込むなんて最低です」「最低? 初めて言われたよ」  ダニエル皇子は笑いながら、私をエスコートするように手を差し出した。 戸惑いながらも、私はその手に手を重ねる。 外はもう真っ暗だから、今日は皇宮に泊まらせて貰った方が良さそうだ。   「今晩も、この部屋を使って。ナタリア、今日は色々あって気持ちが落ち着かないみたいだね。明日は朝食を一緒にしよう。これからの事を話し合いたい」 案内された部屋には見覚えがあった。 ラリカが皇宮で滞在していた部屋だからだ。  淡い水色のカーテンに、天蓋付きのベッド。 メイドが使う部屋としては豪華過ぎるこの部屋は、ゲームの中でダニエル皇子がラリカに用意したものだった。 皇宮でダニエル皇子から興味を持たれたことで嫉妬を買って、ラリカへの虐めは酷いものになっていった。 それゆえ、他の使用人から離したところにダニエル皇子はラリカの部屋を移動した。 その上、彼は自分の専属メイドにして彼女を守った。(その特別扱いが、今度は余計にエステルの嫉妬を買うのだけれどね)「一晩泊めて頂く事には感謝します。でも、これ以上、私はダニエル皇子と関わり合うつもりはございません」 何となくダニエル皇子と関わると死亡フラグが立ちそうで怖かった。 しかも、彼の私への接し方はホストのソレと似ていて、私の頭で危険信号が鳴り響いている。「僕と関わるとエステルの嫌がらせが怖い? 君も僕に少しは興味を持ってくれていると思っていたけれど、兄上に心変わりしたかな?」 私の髪をひと束とって口づけながら囁くダニエル皇子は女を口説くプロだ。 私の髪は先程まで土
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7.私はダニエル皇子は唆してません。
 扉を閉めた後、私は浴槽に浸かって埃を洗い流す事にした。 この部屋は便利な事にお風呂がついていることを私は知っている。 クローゼットを開けると、ゲームで見たメイド服が置いてあった。 ラリカの外出着と寝巻きにパーティードレスまで置いてある。 これは最初にこの部屋にラリカが連れてこられた時に用意してあるものだ。 ダニエル皇子が君の為に用意したと言って、「優しいですね」と返すのが正解の選択肢だった。 やはり、ここはラリカの部屋になる場所だ。 マテリオ皇子暗殺事件から、数日後にラリカは皇宮のメイドとして現れる。 ダニエル皇子がラリカの為に用意したと言っていた部屋や服は、とっくに他の女も使ってた可能性があったようだ。(やはり、ダニエル皇子は根っからのホスト気質だな⋯⋯地雷だ⋯⋯) 服を脱ぎ猫足の浴槽にお湯を浸し、体を沈めると心が休まった。 明日は置き手紙でも置いて、ここを去ったほうが良いだろう。 それにしても、脇腹の刺し傷はすっかり癒えていて跡形もなくなくなっている。 (脇腹?) 思い出してみると、マテリオ皇子が私を刺したとすると、傷は正面からの刺し傷になっていたはずだ。 それなのに、確かに血は脇から流れていた。(あの時、あの場に他の人がいた? その人が私を⋯⋯)「ナタリア! あんた、またダニエルを誑かしたわね。マテリオ皇子暗殺も失敗したらしいじゃない! この役立たず!」 突然風呂場の扉が開いたかと思うと、そこにはエステルが鬼の形相で立っていた。 彼女の薄紫色の縦巻きロールは真夜中なのに健在だ。 紫色の怒りに満ちた瞳は私を睨みつけている。(エステル・ロピアンがなぜ皇宮に?) 別段、珍しいことではない。 エステルはダニエル皇子に近づく女を決して許さなかった。 ゲームでも常に彼を監視して、彼の周りを纏わりついていた。「申し訳ございません。任務は失敗しましたが、私はダニエル皇子は唆してません」 とにかく、彼女の怒り
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8.キノコ狩りに行くだけよ。
 髪を引っ張られ、浴槽から引き摺り出される。 私は自分が裸であることに気がついき、バスタオルを咄嗟に手に取り体に巻き付けた。「あんたの飼い主が誰か分かってないようね。ダニエルはあんたみたいな、下品な女の腹から出てきた女が触れていいような男じゃないのよ」 私は今、生まれを否定されているらしい。 ナタリアは元は貴族だと聞いたが、母親は平民なのだろう。 今、否定されているのはナタリアで私ではない。 今、私を怒鳴りつけているのは初対面のエステルであり如月教授ではない。 それなのに怒声を浴びると、私はトラウマからか体が震えて喉が詰まって声が出せそうにない。 私はその場の床に跪いた。 いわゆる土下座というやつだ。 これをすれば、相手の怒りは一時でもおさまる。 何が間違っているなんてどうでも良い。 今、自分が責められているこの場から逃げたい。「も、申し訳ございません。私が悪いのです⋯⋯」 怒鳴られると思考が停止してしまい、殆ど言葉が出てこない。「な、何なの? そんな格好で土下座してプライドはない訳? そうだ、あんんたの情けない姿、みんなに見てもらいましょう」 エステルは楽しそうに笑うと、部屋の扉を開けようとした。 私は自分の姿に気がつき、慌ててベッドからシーツを抜き取りバスタオルを巻いた自分の体にかけた。 そして、彼女を怒らせないように、再び跪いて床に頭を擦り付けた。(きっと、あと1時間くらいこうしてれば、許してもらえる⋯⋯)「夜間の護衛騎士の皆さん、こちらに来てください。面白いものが見られますよー」 エステルの言葉に胸の中に冷たい空気が流れ込んでくる気がした。 体をダンゴムシのように縮こまれせて、ひたすらに床に頭をくっつける。 パシン! 頬を叩くような音がして、少しだけ顔を上げると燃えるような怒りを瞳に宿したダニエル皇子と目があった。「殿下、何をなさるのですか?」 エステル嬢は赤くなった頬を抑えながら、
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9.見た事ないキノコが沢山。
 皇城を出ようとする途中、何度も夜間の護衛騎士に引き留められそうになった。しかし、私から離れてついてくるユンケルがアイコンタクトをとると騎士たちは納得するように下がった。「皇城は街中でしたね。すみません。キノコが取れる森まで案内して欲しいのですが⋯⋯」 城門を出たところで、私は到底キノコなど生えない栄えた街中である事に気が付いた。後ろについてくるユンケルに助けを求めると、ユンケルは黙って馬を連れて来た。 「お乗りください。キノコが沢山生えているレオノラ森まで案内します」 真夜中なのに無理なお願いを聞いてくれるユンケルは優しい方だ。ゲームの中でも、私は彼のような包容力のある男と一緒になるのが一番幸せなんだろうと漠然と思っていた。 「失礼致します」 ユンケルは一言静かに断ると、私を自分の前に乗せて後ろに自分が乗った。 同じような体制でダニエル皇子とも馬に乗ったが、ユンケルは私に密着しないよう気をつけているのが分かる。 その紳士のような振る舞いに思わず心の中で拍手した。 馬は真夜中の街を想像以上に速いスピードで走った。 私は少し怖くて馬の首に引っ付こうとする。「もう少しスピードを落としましょうか⋯⋯このスピードでも2時間はかかる場所なのです。レオノラの森は⋯⋯」「いえ、このスピードでお願いします」 馬に乗り慣れていなくて、お尻が痛い。(2時間⋯⋯それ以上はお尻が火を吹きそうだわ⋯⋯) それにしても、私の要望通り本気でキノコの名産地に連れて行ってくれるようだ。(私を見張るように命令されていたはずなのに、良いのかしら⋯⋯)「あの⋯⋯私を連れ出して宜しいのですか? 見張っておられていたのでは?」「そうですね。でも、あなたを見ていると願いを何でも叶えてあげたくなるのです」 一瞬、ユンケルの返答に心臓が飛び跳ねた。「願いを何でも叶えてあげたい」はユンケルがラリカに言ったセリフだ。 彼はラリカに惚れていたから、そのように彼女を甘やかす事を言ったのかと思っていた。
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10.マイタケはサラダにしても美味しいですよ。
 城下町まで来ると、私のお腹がグゥとなってしまった。 街中に充満する美味しそうな食べ物の匂いが罪深いのだ。 その音を合図に、すぐ近くの店に入った。 テーブルマナーなど気にしなくて良いような割とわしゃわしゃした店だ。 お昼時を少し過ぎたせいか人がまばらだ。(この店⋯⋯カレーの匂いがする) 店の雰囲気とは裏腹に、ユンケルは椅子を引いて私を座らせた。(紳士ね⋯⋯) ユンケルが王室の近衛騎士団の白い制服を着ているせいか、周囲の人の注目が集まるのが分かった。 ここにくる客は素朴な格好から察するに平民が多そうだ。 紙に書かれたメニューを見て絶句する。 発する言葉が通じていたから気にも止めていなかったが字が読めない。(どうしよう⋯⋯早くナタリアとして過ごした記憶を取り戻さないと)「このシェフのおすすめカレーで」「私も同じもので⋯⋯」 ユンケルが注文したのと同時に、私は字が読めない事をバレないように同じものを頼んだ。 そして、どうやらこの世界でもカレーが存在するらしい。「今度は、もっと良い店に連れて行かせてください」 向かいの席に座っているユンケルが身を乗り出して、私の耳元で囁く。 そのくすぐったい誘いに私は首をふった。「ご馳走して頂いた事にはお礼を言わせてください。それでも、私とコスコ卿が会うのはこれで最後です」 私の言葉に明らかにコスコ卿が戸惑っているのが分かる。 おそらく彼は私を見張っているように言われた命令を無視してまでキノコ狩りに付き合ってくれていた。 それでも、私は攻略対象である彼と一緒にいる気はない。 もうすぐ、このゲームの主人公ラリカが現れてゲーム本編が本格的に始まる。そこにナタリアの存在はない。 きっと、ここで私が自ら姿を消すのが正解で、そうでなければ強制的に存在を消されてしまいそうだ。(攻略対象と関わるのは危険だわ) ダン! その時、私の目の前のテーブルを叩く手が見えた。
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