ふたりはそのまま手をつないで車へと向かった。その後ろ姿に我慢できず、健之は再び駆け寄った。「未幸!お願いだ、少しだけ、話をさせてくれ!」無視したまま、未幸は静かに車へ乗り込む。浩史がシートベルトを丁寧に締め、ちらりと健之を一瞥して眉を上げた。「そんなに暇なら、精神病院にいる大切な姪っ子のところに行けば?」健之の顔は怒りで真っ青になったが、浩史は話す機会を与えず、言い終わると車の窓をパタンと閉めた。車はあっという間に遠ざかっていった。健之はその場に立ち尽くし、暗い目で車を見つめながら、爪が食い込むほど拳を握りしめていた。絶対に、諦めるわけにはいかない。「……まさか、本当に追ってくるなんて、未幸と、本気でやり直したいんだな」車内で浩史がつぶやいた。何気ない口調だったが、ハンドルを握る指は強張っていた。未幸はそれに気づいて微笑む。「……心配してるの?」浩史は唇を尖らせ、少し気まずそうに言った。「……当然だろ、だって俺は」未幸は彼が何を言おうとしているのかを知っていたので、彼の言葉を遮って、きっぱりと言った。「あの人を許さないよ。そして今、一番好きなのは……あなたなんだから」その一言に、浩史の表情が緩んだ。口元には、止められないほどの笑みが広がっていく。東雲家に着くと、未幸は改めて実感する。――本当に大切にされるとは、その家族も大切にしてあげると。東雲家もまた、名家であり格式高い家柄だが、藤崎家とは正反対だった。押しつけがましいしきたりもなく、厳格な顔も見せず、温かく迎えてくれた。浩史の両親・東雲夫婦はにこやかで、未幸の出自や過去に一切の偏見も持たず、むしろ「強い子だ」と褒めてくれた。楽しい夕食のあと、浩史の両親から由緒ある家宝のブレスレットまで贈られた。帰り道、車内では終始、浩史の笑顔が途切れなかった。時には健之のことを批判していた。「うちの家族は、藤崎家と違って『外つらだけ立派、中身はボロボロ』なんてことないからね。未幸、俺と結婚して絶対に損はないよ?」未幸も笑いながら答えた。「うん、後悔しないわ」邸宅前に到着したときは、既に夜十時を過ぎていた。車を降りると、玄関前に健之がひとりぽつんと立ち尽くしていた。まるで家を失った子供のように、とても寂しそうな顔
Read more