「宗司先輩もお辛いでしょうね。家同士が決めた政略結婚で、好きでもない女と無理やり結婚させられるなんて」 宗司を哀れむ風を装い、その実、殊更に充希を蔑むような発言に私の怒りはますます大きくなる。「でも、あと一年の辛抱です。宗司先輩はあと一年で充希と離婚できます。そうすれば宗司先輩は自由です。誰でも好きな相手と結婚することができます」「だからってあなたが選ばれるとは限らないわよ」 さも自分が宗司の好きな相手であるかのような言い方に、私は虫唾が走った。「いいえ。この一年で私は必ず宗司先輩の心を奪ってみせます。───いえ、取り戻してみせます。そう、本来あるべき状態に戻すだけです。宗司先輩は私と結婚するはずだったんです。そしてそうなるべきだったんです」「あなたが大和田家を去ることになった理由は詳しくは知らないわ。でも宗司も本当にあなたのことが好きなら、それだけのことで交際が終わったりしなかったはずよ」「そんなことはありません。あの出来事はとても大きなスキャンダルになり得る事案だったので、宗司先輩は泣く泣く身を引いただけです。宗司先輩も私のことが好きなんです。それは中高一貫校時代の先輩の態度を見ていればわかります。 それに先日だって、宗司先輩は私とランチに行ってくれたんです。宗司先輩はとてもお忙しいのに、わざわざ私の為に時間を割いてくださったんですよ」 私は一瞬、彩寧に対して空恐ろしさを感じた。 恍惚とした表情で宗司との関係を語る彩寧の顔は、妄信的にアイドルを崇拝する熱狂的なファンにも似た一途感があったのだ。「中高一貫校時代に宗司があなたのことを好きだったですって? どこがよっ! 宗司はあなたに纏わりつかれてとても迷惑していたじゃない!」 私は少し言い過ぎかもしれないと思いつつ、はっきりと彩寧に言ってやった。 少しは彩寧にダメージを与えられるかと思ったけど、狂信者の彩寧に私の言葉は何一つ響かないようだった。「中高一貫校時代、一度も彼氏ができず、お寒い青春時代を過ごした幸恵部長に何がわかるんですか? 恋愛経験底辺の人が笑わせないでください」 そう馬鹿にされたが、私はカッとはならなかった。 そのことは幸いだったが、しかしそれとは別に私は彩寧に傷つけられていた。 中高一貫校時代、周囲の同級生でカップルが成立するのを横目に、そうした恋愛に縁がなかったこ
Terakhir Diperbarui : 2025-07-23 Baca selengkapnya