宗司さんは周囲に目を配らせると、眉間に皺を寄せる。 恐らく、ここがどこかわからず、驚いたのだろう。「宗司先輩、大丈夫ですか?」 彩寧は宗司さんにくっつくかと思えるほど、顔を近づけ、宗司さんの目を覗き込む。 宗司さんは急に彩寧に迫られ、圧された様子だったが「……あ、ああ。大丈夫そうだ。ここは……病院か? そうか、俺は病院に運ばれたのか」と状況を徐々に理解し始めたようだ。「宗司先輩、何があったか覚えていますか? 大変な事故だったんです。車が爆発したんです。そして宗司先輩はその爆風で吹き飛ばされたんです。 なんですぐに逃げなかったんですか……。もしものことがあったらどうするつもりだったんですか……。宗司先輩がいなくなったら私……」 彩寧は喉を詰まらせ、それ以上、言葉を続けられなかった。 私は彩寧のその姿は計算でも演技でもなく、本心だと気付いた。 彩寧は本当に宗司さんのことを想っている───。 そのことを私は改めて認識した。「事故のことは……薄っすらだが覚えている。そうだ。俺が助けた運転手の男性は無事か? 意識がなく、ぐったりしていたのでまさかとは思うが……。あと、秘書だ。秘書も無事なのか? あいつは優秀な男だ。あいつを失いたくはない」 宗司さんは起き上がろうと上体を持ち上げたが、身体のどこかに痛みがあったようで「う……」と顔をしかめると、またベッドに身を戻した。「大丈夫ですか!?」 私も咄嗟に宗司さんに駆け寄る。 そして宗司さんの近くにいる事に悦びを感じる。 今、宗司さんは目を覚まし、私を見ることもできる。 寝ている宗司さんと違って、私は本当の意味で宗司さんと久しぶりに再会できたことを実感した。 言わなければならないこと、聞かなければならないこと、謝らなければならないこと、相談しなければならないこと───。 本当にたくさんのことが、その瞬間に押し寄せたが、私はぐっと涙を堪え、宗司さんを見つめ、そして言葉を待った。 宗司さんも私を見つめ返す。 その綺麗な瞳は少し大きく見開かれ、じっと私を見てくれた。 こんなにも宗司さんが私を見つめてくれたのはいつぶりだろう……。 私は嬉しさに包まれる。 それは宗司さんが無事で、目覚めてくれたことに対する安堵と相まって至福のように感じられた。
Last Updated : 2025-09-09 Read more