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第百十一話 彩寧と宗司さんの関係

「あ、彩寧が宗司さんの妹? ……え? なに? それはどういうこと……?」 私は俄かに真紗代の言葉が理解できず、聞き返した。「ほーっほほほほほっ! その言葉の通りよ! 彩寧は、そこにいるお坊ちゃん社長の妹なのよ!」 真紗代は可笑しくて仕方がないといった様子で高笑いを続けたが、私はその姿に狂気を感じ、真紗代は気が触れてしまったのかと危ぶんだ。 何より、それほどまでに真紗代の言っている言葉の内容が突拍子もなかったからだ。 私は宗司さんと、そして彩寧を見やる。 二人も真紗代の言葉に衝撃を受け、お互いにお互いを見合っていた。「俺と、彩寧が兄妹?」「宗司先輩が私のお兄さん? ど、どういうこと……?」 二人も困惑の色を隠せなかった。「ごめんね、彩寧。あなたはね、私と巧三会長の子どもなの。だから彩寧とお坊ちゃん社長は異母兄妹なのよ」 真紗代は絵に描いたような「ドヤ顔」で彩寧に告げた。「そ、そういうことなんだ、彩寧さん。彩寧さんはワシの娘なのだ。今まで黙っていてすまなかった。しかし、ワシもそのことを知らされたのは最近になってからなんだ。そんな折、彩寧さんがワシの会社に転職をしてくれたので、今まで娘に愛情を注いでやれなかった分を取り戻そうと───」「それで巧三会長はなにかと私を贔屓にしてくださっていたんですね」 そのことに彩寧は合点がいったようだった。「ほら。これを見なさい」 真紗代は封筒に入った一通の用紙を彩寧に突き出す。「これは……。数ヶ月前、私がお母さんのお使いで病院に受け取りにいった検査結果の書類ね」「そうよ、その検査結果に、はっきりとあなたと巧三会長が親子関係であると書かれているわ。先日、彩寧を連れて病院で検査をしたのは、検査結果の確証を得るためよ。まあ、調べるまでもなく私はわかっていたけどね。だって私は充希のお父さん───大和田 毅とは、そういった営みはなかったんだから」 それは衝撃の事実だった。「毅さんもそのことで気付いたのよ。私が浮気をしているって。でもまさか相手がライバル企業の当時は社長だった、巧三会長だったとは思いもよらなかったでしょうけどね! 因みに私と巧三会長は、業界の経営者が集まるパーティーで出会ったの。まさか毅さんも私をそんなパーティーに連れて行ったことでこんなことになるとは思ってもみなかったで
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第百十二話 彩寧の新たな一歩

「はぁ? 良かったと思っているですって? 負け惜しみを言うんじゃないわよ! 自分の本当の父親がこれまで思っていた人じゃなく、充希と姉妹でもなかったとわかって、良いわけなんてないじゃない!」 彩寧の言葉を生意気な負け惜しみと真紗代は受け取ったようだ。 感情をあらわにしたが、彩寧は涼しい顔だった。 私はそんな彩寧の姿を見て、彩寧の言葉は負け惜しみではなく、本心であると理解した。 「彩寧、良かったと思えるって、どういうこと……?」 私は彩寧に尋ねる。 「そうね。まず私が宗司先輩の妹なら、宗司先輩を好きだという想いを諦める必要がないってことね。これがそうではない相手に対する恋愛感情なら、自分以外の女の夫を好きだと想い続けるなんて不毛なことですから。 でも、妹なら兄を好きだと想い続けても許されるんじゃない? だって兄妹なんですもの」 「そ、そうね。それは確かにそうだわ。妹である彩寧が、兄である私の夫・宗司さんを敬慕したって非難されることじゃない。むしろ仲の良い兄妹として賞賛されることだわ」 「私が何より辛いと思っていたのは、宗司先輩を好きだという本心を諦め、捨て去らないといけないということ。そうしたことをしなくてすんで、本当に良かったと今は安堵しているの。これは私の本心よ。強がりや負け惜しみじゃないわよ」 私は彩寧の説明を聞いて納得した。 「さらに私が宗司先輩の妹なら、充希にも勝てるじゃない」 「───え? か、勝てる? 私に勝てるって、どういうこと?」 私は急に彩寧が勝利宣言をするので驚いた。 「私は愛した男性を充希に奪われたわ。争奪戦に敗れたの。充希は宗司先輩の妻で、私は宗司先輩のなんでもない女に成り下がったわ。でも私が宗司先輩の妹なら、私と宗司先輩の関係は途切れない。私はなんでもない女じゃない。宗司先輩の妹という確かな地位があるの。この地位は、充希にだって成り得ない。だって充希はどんなに頑張ったって宗司先輩の妹にはなれないんだから。宗司先輩の妹という特権は私だけのものよ。もしかしたら充希は宗司先輩と離婚するかもしれない。宗司先輩にとってなんでもない女に成り下がってしまうかもしれない。でも私はそうはならない。宗司先輩の妹という事実は永遠に残り続けるんだから」 私は宗司さんと離婚す
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第百十三話 彩寧と充希の新たな関係

「充希、それに私が宗司先輩の妹だとすると、充希にも好都合なんじゃないかしら?」 ───え?  ───好都合? 私は彩寧の言葉に驚く。「こ、好都合ってどういうこと?」 彩寧の真意がわからず、私は彩寧に尋ねた。「だって、充希は私を妹だと思って───私たちは姉妹だと思ってくれていたんでしょ?」「え、ええ。そうよ。私は彩寧のことをずっと大切な妹だと思っていたわ。それは事実よ。誰に何と言われようとも私は彩寧を自分の妹だと思っている」 私はその言葉を彩寧はもとより、彩寧が私の妹ではないと告げた真紗代に対しても聞かせるつもりで強く言った。「だったら良かったじゃない。私は宗司先輩の妹。充希は宗司先輩の妻。だとしたら私と充希は義妹と義姉の関係よ。これって正真正銘の義姉妹って言えるんじゃない?」 私はようやく彩寧の言わんとしていることがわかった。  私と彩寧が姉妹じゃないと言う相手に対して、私たちは本当の義姉妹だと胸を張って言える根拠があると彩寧は私に教えてくれたのだ。「ほ、本当だわ……。彩寧、ありがとう。私たちは赤の他人じゃない。義姉と義妹の関係だわ。私たちは義姉妹だわ。誰が何と言おうと、私たちは正真正銘───本物の義姉妹だわ」 その言葉を言い終わる頃には、私は敢然と真紗代に向き直っていた。  今の私の言葉は、彩寧の真意を理解し、そのことを彩寧に伝える言葉ではない。  もちろんその意味もあるが、それよりなにより、私と彩寧のことを姉妹じゃないと否定する真紗代に対するアンチテーゼとなる言葉だった。「な、何よ。屁理屈みたいなことを言って。それで私があなたたちのことを姉妹じゃないって言ったことに対する反抗のつもり? あなたたちが姉妹じゃないのは事実じゃない。あなたたちは姉妹じゃなくて義姉妹じゃない。私が言っていることに誤りはないわよ」「それでも充希は私の義姉です」 やや狼狽え気味の真紗代に、彩寧がとどめを刺すかの如く、きっぱりと言葉を突き刺した。  私は、自分が彩寧にはっきりと「義姉」と言われたことが嬉しかった。  しかも今の彩寧の言葉には決意が籠っている。  本心から私のことを義姉だと理解してくれている。義姉だと想ってくれている。  私は今この瞬間、彩寧に対する姉としての地位を与えてもらえたと感じ
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第百十四話 失脚

「子どもたちを取り戻すだと? ワシの好きにはさせんだと? まだ生意気をいうか、宗司。お前は子育ても会社の経営もワシの言うことを聞いていればいいんだ」 巧三会長の言葉には、並々ならぬ怒気が含まれていた。 私はその熱量に少なからず気圧されたが、宗司さんは全く怯んでいなかった。「いえ、親父。子育ても、それに会社の経営も、もう親父の言うことは聞けない」「なんじゃとっ!? お前のような小僧が誰に向かってそんな生意気を言っている! お前を育て、ワシの会社の社長にしてやったのは誰のおかげかわかっておるのかっ!?」 ついに巧三会長の怒りが爆発した。 しかし、宗司さんはそんな巧三会長に一通の書面を突きつけた。「な、なんだそれは……?」「これは明日の取締役会で提出される動議の通告です。杵島 巧三会長、あなたを明日の取締役会で会長職から解任します」「なんだとっ!?」 巧三会長は宗司さんから通告書をひったくるように奪い取ると、目を見開いて書面の内容を確認した。「ば、ばかな……。杵島グループはワシが築いた会社だぞ。ワシの会社だぞ。それなのに会社がワシを解任するなんてできるはずが……」「会社は親父のものじゃない。株式会社となった以上、法人としての会社は株主のものだ。確かに親父は我が社の株の大株主だ。普通なら解任はできない。だが会社に対して背徳行為があれば話は別だ」 そう言って次に宗司さんは書類の束を取り出す。「な、なんだこれは……?」 巧三会長は掻きむしるように書類の束を漁り、内容を確認した。「親父が会社の金を、私的に流用した証拠だ。自分の交際費や娯楽費に会社の金を充てている証拠を突き止めた。 そしてその莫大な私的流用が会社の経営を圧迫し、倒産の危機に瀕している。その事実を明るみに出し、親父には責任を取ってもらい、そして会長職からも退いてもらうつもりだ」「ばかなっ! 杵島グループは、あの会社はワシが作った会社だぞ! 自分の会社の金を自分が好きに使って何が悪いっ!? お前も、この書面に署名した取締役会の奴らも何を考えているんだ! どいつもこいつもワシが社長や取締役にしてやった奴ばかりなのに、ワシを裏切るのか!?」「裏切るとかそういうことではありません。法に則り、会社の危機を救うため、手立てを講じてい
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第百十五話 兄の呼び方

「お兄ちゃん、次の信号を右に曲がって」「あ、ああ。わかった。次の信号を右だな」「お兄ちゃん、信号を曲がったら道なりに真っ直ぐ走って」「あ、ああ。わかった。信号を曲がったら道なりに真っ直ぐ走る」 宗司さんの運転する車の助手席で、彩寧が宗司さんに道案内をする。「お兄ちゃん、そのT字路を右折して」「あ、ああ。わかった。T字路を右折するんだな」「あっ。お兄ちゃんっ。対向車が来ているっ。気をつけてっ」「わ、わかっている。ちゃんと対向車を認識している。それより、彩寧。その「お兄ちゃん」という呼び方はなんとかならないか?」 何度も何度も彩寧に「お兄ちゃん」と呼ばれ、さすがの宗司さんもまいってしまったようだ。「……そうね。確かにこの年齢で「お兄ちゃん」は子どもっぽいかもね。それじゃあ「お兄さん」でどう? ……いえ、まって。「お兄さん」だと、なんだか他人行儀に聞こえるわ。「お兄様」は……堅苦しい感じがするし、「兄上」は古風だし、「兄貴」はガラじゃないし。うーん。困ったわ。宗司先輩のことをなんて呼べばいいのかしら」「いや、お兄ちゃんの呼び方ではなく、俺を兄と呼ぶことをなんとかならないのかと言っているんだ。今まで通り、宗司先輩、もしくは宗司社長でいいじゃないか」 宗司さんはほとほと困り果てていた。「……だめです。宗司先輩。無理をしてでも宗司先輩を「兄」として呼ばないと」「なんでなんだ?」「……私も、まだ実感がなくて、それにやっぱりショックなんです。いきなり宗司先輩が自分の兄だなんて言われても、話が大きすぎて受け止めきれないんです。だから繰り返し宗司先輩を「兄」と呼んで、慣れないと───自分に言い聞かせないとダメなんです」 彩寧の苦悩はその通りだった。 いきなりこれまで想いを寄せていた相手が「兄」だと告げられたのだ。 その衝撃はどれほどのものか、私は自分に置き換えるまでもなく、彩寧の驚愕の程を共感した。「私は「お兄ちゃん」でいいと思うわよ。少し子どもっぽいけど、宗司さんが「お兄ちゃん」と呼ばれている姿はなんだかちょっと可愛いし。それに私は彩寧に「お義姉ちゃん」と呼ばれたいの。だから宗司さんは「お兄ちゃん」、私は「お義姉ちゃん」でどうかしら?」 私は宗司さんを助けるためにも提案を出した。「宗司先輩を「お兄ちゃん」と呼ぶの
last updateآخر تحديث : 2025-12-20
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第百十六話 彩寧が信頼する人

「ずいぶんと立派なマンションだな。彩寧の言う「信頼できる人」はここに住んでいるのか?」「そうです。さあ、急ぎましょう」 先を急ぐ彩寧は言葉短く返事をすると小走りにマンションのエントランスに入った。 私と宗司さんも彩寧の後に続く。 ───ここに子どもたちが───私と宗司さんの赤ちゃんがいる。 会いたい。早く子どもたちに会いたい。 きっと子どもたちは母親がいなくて寂しくて大泣きをしているだろう。 私は子どもたちのそんな姿を想像して不憫でならず、自分も涙が出そうになった。「琴と勇、待っていてね。すぐに行くからね。すぐにお母さんが二人を助けるからね。そしてごめんなさい。お母さんがしっかりしていなかったために、あなたたち二人を不安にさせてしまって……」 私は自責の念に捉われつつ、祈るような気持ちで、彩寧がマンションのエントランスで、目的の部屋番号を入力してインターホンを鳴らすのを見守った。 程なくしてマンションの自動ドアが開いた。 おそらく、その「信頼できる人」が応答してくれたのだろう。 自動ドアを開けるボタン操作をしてくれたようで、私と彩寧、そして宗司さんは入室を許された。 私たちはすぐにエレベーターに乗り込み、最上階を目指す。 エレベーターのドアが開き、廊下に出た私はあることに気付いた。 ───赤ちゃんの泣き声が聞こえる。 私はその泣き声に聞き覚えがあった。 それは宗司さんも同じだった。「「琴と勇の声だ!」」 私と宗司さんの顔にパッと歓喜の表情が広がる。 居ても立ってもいられず、私と宗司さんは走り出し、赤ちゃんの泣き声が聞こえてくる部屋の前に走った。 彩寧も私たちと一緒に走り、到着するなりインターホンを鳴らした。 待つまでもなく、すぐに部屋のドアが開き、彩寧が言う「信頼できる人」が現れた。 その人物を見て私は驚く。「あ、あなたは……!」 その人物は種村 崚佑だった。「遅い。すぐ戻るっていうから赤ちゃんを預かった。なのにぜんぜん帰ってこない。約束が違う」 崚佑はご立腹の様子だった。「赤ちゃんが泣いているじゃない。あなたは産婦人科医でしょ? 赤ちゃんの扱いはお手のものじゃないの?」「妊婦さんのケアと出産が僕の仕
last updateآخر تحديث : 2025-12-21
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第百十七話 幸恵の出産

「私が臨月の間に、そんなことがあったなんてね」 幸恵は病室のベッドの上でぐったりしていたが、最後まで私の話を聞いてくれた。「そうなの。本当に大変だったの。もう自分の赤ちゃんに二度と会えないんじゃないかと本当に怖かったんだから」 私は幸恵の傍らでリンゴの皮を向き、食べやすい大きさにリンゴをカットすると、餌付けするように幸恵の口にリンゴを運んだ。 幸恵は餌をねだる雛鳥のように口を開ける。 そして口の中にリンゴが入れられるとショリショリと音を立ててリンゴを食べた。「宗司も宗司よ。なにをしているのよ。父親としてはもちろんだけど、大企業の社長としての自覚があるの? 自分の子どもを奪われるなんて。これが身代金目的の誘拐だったらどうする気?」 幸恵にそう責められた宗司さんは居心地が悪そうだったが、真摯に反省しているようだった。「確かにその通りだった。迂闊だった。それ以降は二度とこのようなことがないよう、充希一人に任せっきりにせず、俺も子どもたちを今まで以上に気にかけ、守るようにしている」 宗司さんは反省の弁を述べたが、尚も幸恵に「最初からそうしてなさいよ」などとさらに責められ続けた。 私はそんな二人のやりとりに、少しだけ、中高一貫校時代の部活動のときのようだと懐かしんだ。「幸恵、それに充希さん、そして宗司社長! うちの子たちの健康チェックが終わって、新生児室に戻ってきましたよ!」 病室に駆け込んできたのは幸恵の夫にして宗司さんの会社で宗司さんの社長秘書をしてくださっている鬼灯 猿田彦さんだった。 とても興奮した様子で、早く来てくださいと盛んに私たちを手招きした。「幸恵は起き上がれるの? 新生児室まで行くことができるの?」 私は何とか起き上がろうとする幸恵を気遣った。「これまで何人もの妊婦さんに、産後だからといって寝てばかりじゃなく、立って歩いた方がおりものが早く排出されて良いと指導してきたの。そう言った本人が自分の言った通りにしないなんて絶対に許されないわ」 そう言うと幸恵は無理をしてベッドから降り、私と夫の秘書さんの肩を借りながらだが、一緒に新生児室まで歩いた。「少子化が叫ばれる昨今だけど、それでも赤ちゃんがいっぱいね」 私は新生児室に並んでいる赤ちゃんを廊下のガラス越し
last updateآخر تحديث : 2025-12-22
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第百十八話 幸恵のお見舞い

「ずいぶんと賑やかね」「病院ではお静かに。他にも患者さんや妊婦さんがいる」 そう言って現れたのは彩寧と種村 崚佑だった。「彩寧!? それに崚佑も!?」 幸恵が二人の登場に声をあげる。 幸恵にとって二人は得意な間柄というわけではなかった。 彩寧は幸恵にとって、中高一貫校時代の剣道部の部活動で、真面目に練習に取り組まず、宗司さんの姿ばかり追いかける不真面目な部員で、剣道部の部長として幸恵は彩寧にほとほと手を焼いていた。 崚佑さんは大学時代の同級生だったようだが、ことあるごとに「あいつは見た目はイケメンだけど、中身はヤバイ奴なの」と警戒心をあらわにしていて、苦手にしている相手だということは周知の事実だった。「な、何をしに来たのよ、ふたりとも」 幸恵は警戒心をあらわにする。「何をしに来たって言うのはひどいですね。お見舞いと出産のお祝いに来たんです」 彩寧はお見舞いとお祝いの品を幸恵の夫である秘書さんに手渡す。「僕は産婦人科医として赤ちゃんを診に来た。うん。無事に産まれたみたい。問題はなさそう。でも不満がある。出産の担当医は僕にさせてもらいたかった」「ば……っ! ばかじゃないのっ!? そんなことさせるわけないでしょ! 顔見知りの、それも大学時代の同級生の男子に、自分の出産の担当医なんて、そんなことさせるわけないじゃない!」 幸恵はヒステリー気味に崚佑さんを非難する。 それに対して崚佑さんは、「なんで?」といった様子で小首をかしげていた。「そんなこともわからないの!? ノーデリカシー! やっぱりあんたはヤバイ奴だわ! 彩寧! やめなさい! 今すぐこんな男と付き合うのはやめなさい!」 そう言われた彩寧は目に見えて驚く。 そして実は私も驚いていた。「え? うそ。な、なんで? なんで幸恵部長は私と崚佑が付き合っていることを知っているの?」 「え? 彩寧って崚佑さんとお付き合いしているの?」 私と彩寧が驚く姿を見て幸恵は「当り前じゃない! それで隠しているつもりなの? 見え見えよ!」と息巻いた。「そ、そうなんだ。彩寧、それに崚佑さん。おめでとうございます」 私は二人を祝福した。「この前、赤ちゃんを預かったとき、彩寧さんはお礼に「なんでも言うことを聞いてあげる」といった。だから僕
last updateآخر تحديث : 2025-12-23
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第百十九話 大和田 毅

「お、お父さん。どうしてここに?」 私は予告なしに父・大和田 毅が現れたことに驚く。「充希の親友の幸恵さんがご出産されたと聞いたからお祝いとお見舞いにきたんだ。 幸恵さん、お久しぶりです。出産おめでとう。幸恵さんも充希と同じく双子をご出産されたと聞いて驚いているんですよ」 幸恵と私の父・毅は面識があった。 それは中高一貫校時代、私と幸恵はお互いの家を盛んに行き来していたので、その時に何度も会っていたのだ。「毅おじ様。お久しぶりです。そしてありがとうございます。今は無事に子どもが出産できて、とても喜んでいます」 幸恵はとてもかしこまった様子で返事をした。「いや、しかし、あのお転婆だった幸恵さんが二児の母になられたとは。娘の充希が子どもを産んだ時も驚きでしたが、それ以上に驚きですよ」 父・毅は冗談めかして幸恵をからかった。 その点をくすぐられると幸恵も弱いようで「もう。毅おじ様。やめてください」と恥ずかしそうだった。「あ、あの……。お父さ……。いえ、大和田さん」 狼狽えていたのは彩寧だった。 彩寧は私の父・毅が現れたことを本当に驚き、そして「どう対応して良いのか」について困っている様子だった。 それは先日、自分が篠原 真紗代と大和田 毅の子どもではなく、篠原 真紗代と杵島 巧三の子どもであるという事実を知らされたからだった。「彩寧。こっちにきなさい」 そんな彩寧を父・毅は優しく手招きする。 そして彩寧が自分の元にやってくると包み込むように抱きしめた。「お前は私の娘だ。誰がなんと言おうとお前は私の娘だ。だからお前も、これまで通り私のことを自分の父だと思って頼りなさい。何一つ引け目を感じる必要はない。私たちは親子だ。血の繋がりなんて関係ない。親子なんだ。そのことを絶対に忘れるんじゃないぞ」 父にそう諭されると、彩寧も両手を父に回し、父の胸に顔をうずめて涙を流した。「それで宗司社長。先日のお話の件ですが───」 ひとしきり彩寧と抱擁を交わした父・毅は今度は宗司さんに向き直る。「はい。大和田社長。杵島グループと大和田グループの合併の件ですが、ぜひ前向きにご検討いただきたいと思っております」 私は宗司さんの言葉に驚く。
last updateآخر تحديث : 2025-12-24
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第百二十話 エピローグ

「どうしてこうなった……」 宗司さんはがっくりと項垂れていた。「もう。宗司さん、まだそんなことを言っているの? もう式が始まりますよ。早く準備をしてください」「充希、俺は言ったはずだ。絶対にだめだぞ、と」「はいはい。そうでしたね。でも仕方ないじゃないですか。本人たちがお互いを好きになっちゃったんですから」「そうなるように仕向けたんじゃないのか?」「それは……。まあ、幸恵と私は親友だから、よくお互いの家を行き来していたし、接触機会は多かったとは思うけど。でも結婚まで話が進んだのはお互いの気持ちがあってのことよ。親や周囲がどうこう言って結婚させられるものじゃないわよ」「それはそうかもしれないが……」 宗司さんがそうやってグズグズしていると幸恵と秘書さんがやって来た。「なによ、宗司。まだうじうじ言っているの? そう言われるとね、私は自分の娘が気に入らないと言われているみたいで本当に不愉快なの。失礼だからやめてちょうだいよね」「そうですよ、宗司会長。娘を嫁に出す僕たちの気持ちも考えてください」 宗司さんは二人に責められて溜息をついた。「娘を嫁に出す親の気持ちなら、去年、うちの琴が武くんに嫁ぐときに嫌というほど味わった」「そういえばそうだったわね」「確かにそうでした。宗司会長があんなに泣くなんて思いもしませんでした」「お前も泣くぞ。絶対に泣く。泣くもんかと思っていたって泣けてしまうんだ」「そんなに脅さないでください。僕だって自信がないんですから」「恥ずかしいからやめてよね。父親らしく胸を張ってどっしり構えていてちょうだい」 幸恵が秘書さんの背中を叩いて喝を入れた。「でもまさか本当に私の子と幸恵のお子さんたちがクロスカップルになるとは思いもよらなかったわ」「本当にそうよね。去年は充希の琴ちゃんとうちの武が結婚して、今年はうちの巫と充希の勇くんが結婚するんだもの」 幸恵は溜息交じりだったが、とても嬉しそうだった。「武くんはお母さんに似て本当にかっこいいから、琴はそんな武くんが大好きみたい」「それでいうなら勇くんだって、お父さんの芯の強さに、お母さんの優しさが加わっているから、本当に理想的な好青年よね。うちの巫が好き
last updateآخر تحديث : 2025-12-25
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