私は「えっ?」と声をあげる。 それは、宗司さんに「杵島グループの経営が、今はとても厳しい状況にある」と言われたからだ。 まさかそんなことがあるなんて……。 宗司さんが社長を務める杵島グループは、私の実家で私の父親が社長を務める大和田グループと、シェアを二分する大企業だった。 そんな大企業の宗司さんの会社が経営難に陥っているなんて、毛先ほどにも思っていなかったのだ。「言わずもがなだが、充希、このことは多言無用だ」 宗司さんにそう注意されたが、私は心得ていて、もちろんそのつもりでいた。「でも、宗司さん、どうしてなの? 宗司さんの会社の杵島は、私のお父さんが社長を務める大和田グループと連携し、国内基盤を固め、海外の企業と共に戦っているんじゃなかったの? そんな杵島グループが経営難だなんて信じられないわ」「その点は、充希のお父さん───大和田の大和田 毅社長に申し訳ない。杵島グループが今、経営難にあるのは「不透明な資金の流れ」があるからだ」「不透明な資金の流れ……?」 私はオウム返しに繰り返す。 宗司さんは慎重にゆっくりと頷いた。「そうだ。俺が社長になって会社の経営を見るようになって、徐々にそうした「不透明な資金の流れ」が見つかり始めたんだ。そしてそうした金の流れは、どうやら俺の親父が会社の資金を個人的な金として流用しているからという可能性がある」 宗司さんにそう説明されて、私は失礼ながらもお義父さんならそれはありそうだと思った。 裸一貫から今の杵島グループを一代で築いた杵島 巧三氏は、豪放磊落な性格と言えば聞こえはいいが、その実は辣腕を振るうワンマン経営者で、自分で築いた会社は自分の物だという意識があり、おそらく会社のお金を私的に流用しても、それが私物化にあたるという認識を持ち合わせたりしないであろうことは容易に想像できた。「俺はそのことを親父に糺すよう進言しているが、なかなか聞き入れない。そこで会社の構造を改革しているが、社内の要所要所には、まだ親父の息のかかった抵抗勢力がいて
Last Updated : 2025-11-17 Read more