母・篠原 真紗代が言った通り、検査はすぐに終わった。 綿棒で頬の内側を擦り、サンプルを採取するだけの検査だった。「私は先生とお話があるから、彩寧は外で待っていなさい」 母にそう言われ、検査室を出された私は、周囲をキョロキョロとする。 つい種助───種村 崚佑がいないか気になったのだ。 所在なさげに彷徨った私は、先日まで充希が働いていた事務カウンターまでやって来る。「そう言えば、ここで充希と種助が談笑していたことがあったわね……。その姿を写真に撮って、宗司先輩にまるで浮気現場を押さえたように報告して見せたっけ……」 宗司先輩は、充希の浮気は信じなかったけど、充希が自分の知らないところで別の男と談笑している姿には少し思う所があったように思えた。 そういう意味で、あの時の私の行為は一定の効果があったが、今にして思えば幼稚な嫌がらせだった。 私はエントランスの吹き抜けから、宗司先輩が入院していた病室の方を見上げる。 もうそこに宗司先輩はいないけど、毎日のように宗司先輩のお見舞いに来ていた頃は、充実した日々であったと懐かしく思えた。 ───そう、感傷にふけっていた、その時。 私は廊下の先から種村 崚佑がやってくる姿を見つけた。 思わず心臓がドキリと跳ね上がる。 種村 崚佑は三人の看護師に囲まれ、引き連れるように歩いてきた。「種村先生、今日も出産手術お疲れ様でした」 「今日は帝王切開が続いて大変でしたね」 「でも、種村先生はどんな難産も難なくこなすのですごいです」 周囲の看護師は盛んに崚佑を持て囃したが、当の崚佑は涼しい顔だった。 私は取り巻きの看護師たちに腹を立てた。 見え透いたおべっかで崚佑に取り入ろうとする浅慮さが不快だったのだ。「そんなつまらないことを言う為に、崚佑の周りに集まるんじゃないわよ」 私は腹を立てていた。「種村先生、術後報告なら私たちが事務に出します」 「そうですよ。わざわざ種村先生が事務までくる必要なんてありませんよ」 「電子カルテでの報告も送信されていますし、私たちにやらせてください」 取り巻きの看護師たちは尚も崚佑に纏わりついていたが、崚佑は「この報告は
Last Updated : 2025-11-27 Read more