All Chapters of 『ふたつの鼓動が気づくまで』 双子の妊娠がわかった日に離婚届を突きつけられました: Chapter 101 - Chapter 110

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第百一話 最悪の事態の始まり①

宗司さんは帰ってくるなり、私の様子を見て手にしたカバンを落とすほど驚いたようだ。「どうした、充希!?」 宗司さんが駆け寄ってくれる姿を見て、私はついにその場に崩れ落ちてしまった。 私が完全に倒れこむ寸前で、宗司さんは私を受け止めるように抱きしめてくれた。 私は緊張がほぐれると共に、全身の力が抜け、ただただ宗司さんに身を預けるしかできなかった。「彩寧が……子どもたちが……私たちの二人の赤ちゃんが帰ってこないの……」 なんとか言葉を絞り出すと同時に私は声をあげて泣いた。「ど、どういうことだ……」 宗司さんは狼狽しつつも、ひとまずパニック状態の私を落ち着かせようと、しっかりと私を抱きしめ、優しく身体を撫でてくれた。 ※ ※ ※ 私は宗司さんに彩寧とやり取りしたメッセージアプリの内容を見せる。 それを見た宗司さんは「とにかく彩寧に電話をしよう」とのことだったが、すでに私が何回も彩寧に電話をかけた後だった。 宗司さんはそれでも彩寧に電話をしようと私を促したが、その時───。 私のスマートフォンに着信があった。 それは彩寧からの電話だった。 私は目を見開くと同時に、すぐに電話を受けた。「あ、彩寧!? どうしたの!? どこにいるの!? 何かあったの!? 子どもたちは無事!?」 私はパニック気味に一息で彩寧に尋ねる。 そんな私の狼狽とは対照的に、彩寧の返事は静かで、冷たく、感情がなかった。『子どもたちは無事。二人ともとても元気で、すごくご機嫌よ』 私はスマートフォンの通話をスピーカー設定で行っていたので、彩寧の返事は宗司さんにも伝わった。 彩寧の返事を聞いた宗司さんも彩寧に尋ねる。「彩寧、今どこだ? すぐに迎えに行く。場所を教えてくれ」 宗司さんの問いかけに、電話の向こうにいる彩寧が身体を強張らせた気配を私は感じた。 その彩寧の様子に、私は彩寧に只事ではない何かが起こったのだと瞬時に理解した。 ───いったい彩寧に何があったというの……。 私は複雑な気持ちだったが、最終的に悲しい気持ちになった。 最初は、子どもたちに会えない寂しい気持ち、そして次に、なかなか帰ってこない彩寧に対して腹立たしく思う気持ち。 正直に言うと、こんなにも私に心配をかけて、なんてことをするの
last updateLast Updated : 2025-12-06
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第百二話 最悪の事態の始まり②

私の言葉に対して彩寧は何かを言いたそうにしているようだった。 しかし、その言葉は喉元まで出掛かっているが、そこから先には出せないようだった。 恐らくそれは助けを求める悲痛な叫びだったに違いない。 彩寧も、本当はこんなことをしたくない。自分を止めて欲しい。助けて欲しいと思っているに違いない。 でも彩寧はその叫び声をあげられない。 たった一言、「誰か助けて!」と、そう口にするだけでいいのにそれが言えない。 それが今の彩寧の状況。 そんな彩寧の状況を私は哀れに思い、怒りや子どもたちの心配を忘れ、ただただ彩寧を助けたいと思った。「彩寧。今、実家にいると言っていたわね。私と宗司さんが今から行くわ。すぐに行くから、子どもたちと一緒にそこにいてちょうだい」『…………』「彩寧、大丈夫よ。私と宗司さんが迎えに行く。それは赤ちゃんを迎えに行くだけじゃない。彩寧も迎えに行く。私が彩寧を助けるから……私と宗司さんが彩寧も助けるから。だからそこで待っていてね。そして私たちが行くまでの間、子どもたちを……私と宗司さんの赤ちゃんをお願い」『…………』 私の呼びかけに彩寧からの返事はなかった。 しかし、私は自分の言葉がしっかり彩寧に伝わり、彩寧が身をこわばらせている様子が手に取るようにわかった。 ───彩寧はとても辛そうだった。 そして彩寧はついに言葉を発することができず、電話を切ることしかできなかったようだ。 その場から逃げたのではない。 どうしようもない葛藤に押しつぶされた結果の行為だろう。 * * * 宗司さんは熱が完全に治まっていない私を気遣い、「充希は家にいるんだ」と私を制したが、今の私を押し留めることはできないと理解していたようだ。 私が、「いいえ。宗司さん、私も行く。私が彩寧と子どもたちを迎えに行かないと……助けに行かないといけないの」と伝えると、それ以上は何も言わず、黙って出発の準備を進めてくれた。 彩寧の実家───それは彩寧の母親である篠原 真紗代の生家───に私たちは向かった。 宗司さんが運転する車で移動する間、私と宗司さんは一言も言葉を交わさなかった。 それでも私たちが考えていることは一緒だった。 ───子どもたちを取り戻す。 ───子どもたちを助け出す。
last updateLast Updated : 2025-12-07
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第百三話 最悪の事態の始まり③(side:彩寧)

 ───誘拐。 子どもたちを母親の同意なしに連れだすなんて、誘拐以外のなにものでもない。 ───犯罪。 確かに杵島 巧三会長は宗司先輩のお父様。  充希の子どもは巧三会長の孫にあたる。  でも、祖父だからといって母親の同意なしに子どもを奪うことは絶対に許されない。  それは犯罪。  明らかに法を犯す罪で、母親にとっては子どもを奪われるという最も残酷な悪行。 そんな禁忌は絶対に犯したくない───犯すべきではない。 ───でも、私には。  ───でも、私には……。「ど、どうしたの、彩寧? 会社で何かあったの……?」 充希の家に戻った私に充希が尋ねる。「大丈夫よ。なんでもないわ」 私はそう言うしかなかった。  真実なんて───今あったことなんて───杵島 巧三会長と母・篠原 真紗代に、充希の赤ちゃんを連れだしてくるよう言われたなんて、絶対に言えない。「で、でも本当に顔が真っ青よ? 会社で何かあったのじゃなくても体調が悪いんじゃない?」 充希は尚も私のことを心配する。  そんな場合じゃないのに。  自分の身に───自分の赤ちゃんにどれ程の危険が迫っているかも知らないで。 ───無邪気。  ───能天気。 ああ、そうか。  充希は自分が愛されていることが当たり前だと思っているんだ。  周りの皆は自分の味方をしてくれる。  皆は自分に対して親切にしてくれる。  自分に酷い仕打ちなんてしてこない。  ましてや罪を犯すような行為なんて絶対にしてこないし、私がされるはずがない。 そう思っているのね。 ───本当に無邪気。  ───本当に能天気。  ───本当に世間知らず。 充希がそんなのだから……。充希がそんなのだから、妹の私が比較対象として充希の裏の部分を全て受け負わされるのよ。 人は誰かを愛したら、誰か憎む相手が必要になる。  人は誰かを褒めたら、誰かけなす相手が必要になる。 人は他者全員を愛せない。  人は他者全員を褒められない。  光があれば影があるように、必ず正反対の存在が必要になる。 充希にとっての、その対局の存在が私。  私がこんな目に遭うのは充希のせい。 私を充希が気にかける?  笑わせないで。
last updateLast Updated : 2025-12-08
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第百四話 最悪の事態の始まり④(side:彩寧)

「そ、そんなことはない……! 彩寧、どうかお願い。そんなことを言わないで。彩寧が私をどう思っているのか……私が彩寧にどれだけ恨まれているか……彩寧が私に対してどれだけ怒っているかは計り知れない。どうしてそうなったのかもわからない。でも私は彩寧を大切な妹だと思っているの。彩寧との関係を失いたくないの。だからどうか私に話して。そしてどうか私に許される機会を───私に誤りを正す機会をちょうだい。その為に、彩寧がどう思っているのかを教えて欲しい。私を信じて伝えて欲しい」 尚も充希は私に食い下がる。 全く私を理解せず、見当違いの空回りをしているとも気付かずに。 ───本当に無邪気。 ───本当に能天気。 ───本当に世間知らず。 私が充希の大切な妹ですって? それはそうでしょうね。 だって自分が愛される為には、自分の近くに愛されない役割の人が必要なんだから。 充希は知らず知らずのうちにそういう対象を自分の周囲に用意し、巧妙に自分に好ましい感情や行為が向くよう仕向けるの。 狙ってやっているなら大したもんだわ。 でも残念ながら充希は無自覚にそうしているだけね。 でも無自覚だからこそタチが悪いわ。 罪の意識がなく、自分に非があるなんて毛先ほども信じて疑わないんですから。 充希は自分が愛されていることは自覚している。 皆が自分に親切で、味方をしてくれると思っている。 話せばわかってもらえる。 謝れば許してもらえる。 これまでがそうだったから、これからもそうだと信じて疑わないのね。 でもそこが充希の弱点よ。 世の中にはね。私も知らなかったけど、自分達の及びもつかないバケモノがいるのよ。 理屈や言葉の通じない、純然とした悪意が存在するのよ。 そんな脅威が自分に迫った際、充希はどうするの? ───本当に無邪気。 ───本当に能天気。 ───本当に世間知らず。 そのことが本当に腹立たしく思う。「……どうして充希はいつもそうやって謝るの? 謝れば相手が許してくれる。謝れば事態が丸く収まる。そう思っているの? 自分が謝ったり、自分が我慢したり、自分が道を譲ったりしても、それが伝わらない相手もいるの。充希はそんな相手がこの世にいることを知らないのよ。だからそうやって生きていけるのよ。私が充希にイラつくの
last updateLast Updated : 2025-12-09
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第百五話 最悪の事態の始まり⑤(side:彩寧)

───充希の子どもを連れてこい。 私は宗司先輩の父・杵島 巧三会長と、私の母・篠原 真紗代に、そう命令されている。 巧三会長は充希の子どもたちの祖父にあたる。 でも、祖父だからといって、母親の同意なしに赤ちゃんを奪い取ることは許されない。 ───それは誘拐。 ───それは犯罪。 私は今、その悪行の片棒を担がされようとしている。「したくない……。そんな悪事を犯したくない……」 私は憂鬱な気持ちだった。 私が充希の家に向かう足取りは重かったが、玄関のインターホンを鳴らす直前に、私はあることに気が付く。「宗司先輩の車が、まだガレージにある。宗司先輩はまだ出社していないの? どうして? もうこんな時間なのに」 私はスマートウォッチに目を落として時刻を確認する。 私の誤りではなく、明らかに宗司先輩が会社に到着していなければならない時刻がそこには表示されていた。「充希に何かあったんだ……」 瞬時に私はそう気付き、そしてそれはその通りだった。 * * * 家に入ると、やはりそこに宗司先輩がいた。 ───久しぶりに会う宗司先輩。 宗司先輩が車の事故で記憶を失い、入院をした際には毎日のようにお見舞いに伺い、お世話をした。 宗司先輩も私に対して自然に接してくれて、幸せな一時を味わえた。 宗司先輩に会うと心が安らぐ。 宗司先輩に会うと胸が暖かくなる。 宗司先輩に会うとどうしようもないくらい甘えたくなる。 ───好き。 ───本当に好き。 ───私は本当に宗司先輩が大好き。 でも、今、宗司先輩は充希の夫。 そして充希の子どもたちの父親。 もう、私の手の届かないところにいる存在。 もう、絶対に私に振り向いてはもらえない存在。 そして私も宗司先輩を望み、手を伸ばしてはいけない。 そのことをしっかりとわきまえなくては……。「おはようございます、宗司社長」 私はあくまで会社の社長と、会社の社員の役割を演じる。 そうしたことで自己を律し、本心を隠すことで自分を守ろうとしたのだ。「あの……何かあったんですか? いつもなら宗司社長はもう会社に出社されている時間なのに。それに充希は……充希はどうしてしまったんですか?」 充希は宗司先輩
last updateLast Updated : 2025-12-10
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第百六話 最悪の事態の始まり⑥

宗司さんは腰に手をあて、半眼となり、ゆっくり大きく息を吸うと、数秒してから今度は静かに息を吐き出した。 宗司さんが心を落ち着かせたり、神経を集中させるときに行う所作だった。 それは中高一貫校時代、剣道部に所属していた宗司さんが武道の鍛錬の中で体得した、自己を律する呼吸法の一つだった。 今、宗司さんは怒りや焦り、逸る気持ちなど、冷静さを欠く感情に苛まれている。 そのことを宗司さん自身も自覚していたため、こうした所作で懸命に自分を落ち着かせようとしていたのだ。 その効果もあって、宗司さんが落ち着き、澄んだ精神状態に戻ったことを私は感じ取った。 いつもの凛とした宗司さんに佇まいや気配が戻ったからだった。 ───しかし、そうした宗司さんの苦労は一瞬で打ち砕かれた。 それはインターホンの向こうに戻ってきた、篠原家の使用人の返答の内容によるものだった。『あの……申し訳ありませんが、当家に赤ちゃんはおりません。もしおられましたら、さすがに私どもも気付かないはずがありませんし……』 その返答に、ガソリンに火が付いたように宗司さんの怒りが燃え上がるのを私は感じた。 その熱量は凄まじく、紅蓮の炎が夜空を貫き、月にまで届いてしまうかと思えるほどだった。 ───ついに宗司さんの堪忍袋の緒が切れた。 私はそのことを感じ取った。 ───そしてついに宗司さんが激情に衝き動かされて行動を起こしてしまう。 私はそのことを覚悟し、身を強張らせた。 ───宗司さんの口が大きく開かれた。 恐らく「ふざけるなッ!」と怒声が発せられるだろう。 宗司さんのそんな乱暴な姿を見たくはなかったが、今は仕方がない。 今の宗司さんを留めることはできない。 事態はそれほどまでに凶悪だった。 自分の子どもを他人に奪われる。 そんな悪行に対して、激高しない親などこの世に存在するはずなどないのだ。 そしてついに宗司さんの口から怒声が弾け飛ぶ───。 ───かと思われたが。 ───そうはならなかった。 ───それは、そうなる寸前である出来事が起こったからだった。 それは篠原家の外扉が大きな音をたてて開かれ始めたのだ。 スイッチ操作で自動で開閉が行われる門扉なのであろう。 重々しい外扉は耳障りな機械
last updateLast Updated : 2025-12-11
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第百七話 伏魔殿

邸宅に入った私たちが、まず出くわしたのは彩寧の母親である篠原 真紗代だった。「あらあら、なによ。充希とそれにお坊ちゃん社長がうちに来たの? それも家の中に入れるなんて。ちょっと彩寧、あなたは勝手に何をしているのよ」 真紗代は急に家にやって来た私と宗司さんを見てご不満な様子だった。 真紗代は私の父・大和田 毅と結婚し、私の義理の母である時期もあったが、私と真紗代の関係は親しいというものではなかった。 むしろ真紗代は、大和田 毅が他の女との間に儲けた私のことを疎ましく思い、自分が大和田 毅との間に儲けた我が子───彩寧を贔屓にしていた。 子ども心に、私は真紗代は私が甘えてよい相手───愛情を注いでもらえる対象であるという認識は諦めていたので心は傷つかなかったが、それでも負の感情がないわけではなく、私は真紗代に少なからず苦手意識を抱えていた。 それは否めない事実で、できれば会いたくない相手の一人となっていた。「夜分に押しかけた非を詫びるつもりはありません。我々は子どもたちを迎えにきたんです。長居はしません。子どもを連れてすぐに帰ります」 宗司さんは自分のことを面と向かって「お坊ちゃん社長」などと蔑まされたにも拘らず、感情を抑え、毅然とした態度で真紗代に臨んでいた。 さすがは国内を代表する大手企業グループの社長を務めるだけのことはあった。 私は宗司さんのことをとても頼もしく思い、しかし、それと同時に、ただただ自分が宗司さんに守ってもらうだけではダメだと思い、自らを鼓舞して真紗代に対峙した。「真紗代さん、私の子どもたちを連れだすなんて、どうしてこんなことをするんですか? 宗司さんの言う通り、私たちは長居はしません。子どもたちを返してくださればすぐに帰ります」 私に面と向かって苦情を伝えられると、真紗代は心底気だるそうに、「はぁー、やれやれ」と溜息をついた。「まず、充希。私のことを真紗代さんと呼ぶなんて、そんな他人行儀はやめてくれない? 何回も言っているけど、あなたと私は法律上は母娘だった仲なのよ。ちょっとくらい私に母親として敬意を払って欲しいものね」 ───なんて盗人猛々しい……。 醜悪な真紗代の態度に、私は辟易とした。 しかし、こうした常識の通じない対応にも慣
last updateLast Updated : 2025-12-12
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第百八話 真紗代と巧三会長の関係①

「私とあなたのお父さん・杵島 巧三会長との関係だけど、そのことを教えてあげるなら本人が来るのを待った方が良いかもしれないわね」 真紗代はますます可笑しくて仕方がないといった様子でニヤ付き笑いを深めた。「本人が来る? 父・杵島 巧三がここに来るのか?」 ───宗司さんのお父様がこの場に来る。 私はそのことに驚いたが、私と同等か、それ以上に宗司さんも驚いたようだった。 そして自分の父がここにくるなんてどうしてだと疑問が生じ、そのことでますます真紗代と巧三会長の関係の謎に捉われたようだった。 丁度その時、部屋に篠原家の使用人の一人が入室し、恭しく頭を垂れて「奥様、杵島 巧三会長がご到着されました」と報告した。 まるで計ったようなタイミングの良さに、真紗代は大喜びだった。 そして「すぐに部屋にお通しして」と物を扱うように使用人に命じる。 真紗代のその姿に、私は「この人は他者に命令をし、意のままに従わせることが当り前だと思っている人種なんだ」と強く感じ、ますます嫌悪感が強まった。 例え雇い主だとしても、使用人はロボットじゃない。歴然とした感情のある人間で、尊厳のある一個人だ。 そんな他者の尊厳を毛先ほども気にかけず、まるで物を扱うように命令できるその振る舞いに、私は自分と同じ人間ではない、何か別の生物を思わせるような隔たりを強く感じた。 それは姿かたちは自分達と同じ人間だが、中身は宇宙人であるかのような相手を見るような感覚だった。 ※ ※ ※ 使用人が一礼して部屋から下がると、程なくしてドタドタと遠慮のない、我が物顔で廊下を闊歩する尊大な足音が聞こえてきた。 宗司さんのお父様である杵島 巧三会長の足音だった。「な、なんだ、宗司。お前、ここにいたのかっ? おや? 充希さんまでも。そして、彩寧さんも到着していたか。みんなここに集まっておったのだな」 一同がその場に介していることに、巧三会長は驚きつつも、どこか嬉しそうだった。「巧三会長、あなたのお坊ちゃん社長が私が子どもを誘拐したと、まるで犯罪者のように指さすんです」「なに? 宗司、おまえは真紗代さんに対してそんなこと
last updateLast Updated : 2025-12-13
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第百九話 真紗代と巧三会長の関係②

「馬鹿なことを言うんじゃありませんよ。巧三会長が直々に子どもたちを教育してくださるというのに、そんなことをさせないなんて拒否するなんて。そんな罰当たりなことを言うなんて、これだからお坊ちゃん社長は世間知らずにも程があるわ。非難するなんてとんでもない。むしろ感謝するべきところよ」「そうだぞ、宗司。我がままを言うな。会社の経営も子どもの教育も、ワシに任せて、お前は黙って従えばいいんだ」「ふざけるなッ! 何が黙って従えだッ! 自分たちがどれだけ非常識なことをしているのかわかっていないのかッ!?」 宗司さんは感情をあらわにしている。 その姿に危うさを覚えつつも、私に代わって、私の言いたいことを大声で述べてくれる宗司さんを、私は頼もしく、有難いと思った。「大体、子育てをすると言ったって、親父がどうやって二人の赤子を育てるというのだッ!?」「その点なら心配するな。何せワシには宗司を育てた実績がある」「実績だとッ!?」 その瞬間、宗司さんは自分の幼少期を思い返していたようだった。 私には多くは語らないが、宗司さんはお義父様の教育方針に対して、本心では拒否したいことが多かったと漏らしたことがあった。 まだ幼かったのに母と離され、海外の小学校に無理やり留学させられたこと。 帰国してからは本人の意思や希望を無視して勝手に中高一貫校に入学を決められたこと。 剣道部に入るよう強要されたこと。 その他にも家庭教師や習い事、さらには会社の経営を行う帝王学まで、宗司さんはありとあらゆることをお義父様から詰め込まれていた。 その効果は、確かに少なからずあったことは否めない。 今の自分が、そうはいっても杵島グループの社長を務めていられるのは、そうした父親の教育があったからかもしれない。 そのことに一定の理解と感謝はしつつも、宗司さんは自分が受けた教育方針が完全に正しく、正義であったとは思っていなかったようだ。「さらに、子どもたちの教育にはベビーシッターとして彩寧さんが就いてくれることはもちろん、ここにおられる真紗代さんも母親代わりとして子どもの教育に尽力してくださるぞ」 巧三会長は貴賓をもてなすように彩寧と真紗代を披露した。 私は喉の奥で「ヒッ」といったような真の恐怖に慄く悲鳴をあげる。 ───ここに母親が……私という本
last updateLast Updated : 2025-12-14
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第百十話 彩寧の反旗

「まあ、そういうことだから安心して子育てはワシたちに任せなさい」「そうよ。安心して任せるといいわよ」 自信たっぷりに大笑いする二人の姿を私は心底不気味に思った。 ───この二人は正気なのだろうか? 何をもって安心しろと言っているのか全く理解ができなかった。 ひょっとして私は悪夢でも見ているのだろうか? 本当の私は熱に侵され、自宅のベッドでうなされているのかもしれない。 そう思わずにはいられないほどだったが、残念ながらこれは悪夢ではなく、現実だった。「ほら、彩寧もこっちにきなさい。一緒に充希とお坊ちゃん社長を説得するのよ」 真紗代が彩寧を手招きする。 巧三会長も手を広げて彩寧を迎え入れる。 しかし彩寧は───。 それは意外な光景だった。 彩寧は真紗代と巧三会長を無視して二人の前を通り過ぎると、私たちのもとにやってきた。 そしてくるりと振り返り、私と宗司さんの側にたって味方してくれたのだ。「お母さん、それに巧三会長。すみませんが、私はあなたたちに協力できません。この件に関して、私は充希と宗司先輩の味方をします」 彩寧の声は震えていたが、決意に満ち、きっぱりと相手に対して意思を伝えた。 真紗代と巧三会長は、一瞬、ぽかんとしたが、次の瞬間、真紗代の顔がみるみる怒りに歪み始めた。「……はっ? 彩寧、あなたは自分が何を言っているのかわかっているの?」「お母さん、もちろんよ。私はお母さんと巧三会長が充希と宗司先輩から子どもたちを奪い取ることをさせないと言っているの」「どど、どうしたというのだ、彩寧さん。彩寧さんはワシたちに協力してくれるんじゃなかったのか?」 巧三会長がオロオロとし始める。 私は、彩寧の裏切りに、巧三会長が激怒するのかと思ったが、そうではなかったことに少し驚いた。「私は自分の心に従います。やはり誘拐は───犯罪は犯せません。それに愛した男性から子どもを奪うなんて、そんなこと……そんなこと決してできません。私は……私は今でも宗司先輩を心から愛しているんです」 彩寧の言葉に尚も巧三会長はオロオロと狼狽え続け、必死に彩寧をなだめようと手を伸ばしたが、彩寧はその手を拒んだ。「笑わせるわね。何が愛しているよ。今更、自分だけ愛に身を捧げる|
last updateLast Updated : 2025-12-15
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