すると”たかなしことり”はずるずるとホラー映画の主人公の様に床に爪を立て、膝をうねらせてカーペットの上を這い、肘をベッドに掛けると器用にその上に身体を横たえた。こうなると裸体がどうとか、彼女の腰付きに欲情するといった感覚も半減した。「こえぇよ」 近江隆之介は後頭部をポリポリと掻きながら部屋の電気を消すと、羽毛の掛け布団を引き摺って頭から被り、”たかなしことり”の隣に横になった。自分から手を出す気はなかった。”たかなしことり”が手を出してきたらそれはまた全く別の話だ。グレーのカーテンの隙間から駐車場の街灯の光が白々と差し込む。同じベッドの中で目を瞑る”たかなしことり”の面差しはやはり綺麗だった。(これが泥酔状態でなけりゃ最高なんだがな) キュポンと耳の中を掻き、”たかなしことり”に背中を向けて目を閉じると肩甲骨辺りに吐息にも似た息遣いを感じ、背中の窪み辺りにその胸の柔らかい感触、乳首の硬さ、心臓の鼓動を感じた。(ま、これでも十分。が、明日の朝、どうすっかなぁ) 時計の針の音が、ちっちっちっといつもより耳に大きく、しばらくすると近江隆之介の期待通りに”たかなしことり”の腕が彼のみぞおちに回され、その細い指先がぬいぐるみを触るかのように上下し出した。(こいつ、俺のこと毛布かなんかと勘違いしてんじゃねぇか?) 「おい、たかなし」 「ん」 「それ以上触んな」 「んん」 その制止も”たかなしことり”の耳には届かず、背中から羽交締めにした。「なぁ、たかなし」 「んん」 「お前、実は起きてる、とか、そんな感じじゃねぇの?」 「ん〜そうかなぁ」 「喋ってんだろ」 「ん」 近江隆之介は”たかなしことり”に向き直ると左肘を突いてその横顔を見た。 右手の指先は彼女の短い髪の毛をサラサラと弄っては放してを繰り返す。こうして顔だけ見ていると、綺麗だがやはり男だ。ボーイズラブ系の濡れ場の様で微妙な気分になる。「なぁ、俺さ」 「うん」 「返事してんじゃねぇかよ」 「ん」 寺町の大通りを救急車のサイレンが遠くから近く、そして通り過ぎた。「俺さ、お前の事が・・・好きなんだよ」 「ん?」 「好きなんだ」 「うん?」 「こんなん、酔ってねぇと、言えねぇし」 すると”たかなしことり”はふぅスゥと軽く寝息を立て始めた。慌てた近江隆之介は彼女の頬
Last Updated : 2025-07-03 Read more