Semua Bab 流年に空しく涙尽きし時: Bab 11 - Bab 20

彼の呼吸が一瞬乱れ、顔を傾けて彼女の耳たぶにキスを落とした。「玲乃、俺が言いたいのは――」その瞬間、何百発もの花火が同時に打ち上がり、爆音が夜空に炸裂した。「大変だ、爆発だ！」誰かの叫び声とともに、会場は一気にパニックに陥った。玲乃は呆然とし、慌てて涼介の胸元にしがみついた。「涼介、守って……」だが次の瞬間、彼女の手は空をつかんだ。玲乃はつまずき、ヒールのかかとが甲板の隙間に引っかかった。爆発の熱風が、もう彼女の顔に届きかけていた。彼女は反射的に目をぎゅっと閉じた。「涼介！」だが、涼介はいつものように彼女のそばには現れなかった。男の大きな影は、まるで矢のように飛び出し――向かった先は、莉音によく似た女の元だった。「君、目が見えないのか？あんな近くで花火が上がってるのに、どうして……」涼介はその女性をしっかりと抱きしめて、自分の背中で熱波を遮った。一歩踏み外し、腕の筋肉が手すりに激突し、十数センチの裂傷が瞬時にできた。血を拭う暇もなく、彼は必死でその女性に怒鳴った。「俺があと一歩遅れてたら、君はもう死んでたんだぞ！」「君……」女性は目を真っ赤にして、彼の腕から飛び出すと慌てて謝った。「青山さん、ごめんなさい、私……」彼女は、莉音ではなかった。涼介は機械のように手を離し、その場に呆然と立ち尽くした。何かを思い出したように、慌てて振り返って玲乃を探した。そして、数メートル先に、目を真っ赤にして立ち尽くす彼女の姿を見つけた。爆発現場とは少し距離があったため、玲乃は混乱の中で脚に擦り傷を負っただけだった。血が脚をつたって流れ、彼女は涙を浮かべながら大股で彼に近づいてきた。「涼介、ずっと私を守るって、言ってくれたじゃない！」涼介の心が震え、胸が詰まって息苦しくなった。彼には、言い訳ができなかった。なぜ爆発の第一瞬間に、頭の中が莉音でいっぱいになってしまったのか。ただ背中が少し似ていただけで、心が乱れ、玲乃を置き去りにしてまで、反射的にその人のもとへ駆け出してしまった。理性よりも早く、口が先に動いた。彼は自分の声を聞いた。乾いてかすれた、他人のような声で「玲乃、ごめん」と言った。玲乃は泣きながら走り去った。涼介は追いかけようとしたが、どうしても足が動かなかった。

「お掛けになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため掛かりません。しばらく経ってからおかけ直しください……」何十回も電話をかけたが、涼介は一度も出なかった。言いようのない不安が全身を包み込み、玲乃はその場で硬直した。顔は血の気を失い、紙のように真っ白だった。……一方その頃、涼介は青山家の本家屋敷の正殿にひざまずいていた。青山家の老当主は怒りに満ちて鞭を振り上げた。「君、海外の支社を視察に行っただと？涼介、君が海外にいた五年間、一体何をしていたんだ！」祖父は、唯一の孫である涼介を溺愛してきたが、こんなふうに怒りを露わにするのは初めてだった。初めて見る祖父の激怒に、涼介は呆然としたまま目を見開いた。「おじいちゃん……何があったの？今日は、玲乃にプロポーズする日なんだよ。終わってからじゃダメなのか？」――10分前、彼はプロポーズ会場から祖父の部下によって無理やり連れ去られた。そして本家に到着すると、ろくな説明もないまま膝をつかされ、家訓を振りかざされた。「まだそんな口が利けるのか！」老当主は怒りで胸を押さえながら、鞭を彼の背中に思い切り打ち下ろした。「パチンッ」と、鋭い一撃が皮膚を裂き、血が滲んだ。いつもは反骨精神の強い涼介も、この一発で怒りを抑えきれなくなった。呻き声を漏らしながら鞭の柄を掴み、低くうなるように言った。「おじいちゃん、玲乃が僕を待っているんだ。今行かないと――」「その名前を出すな！」一つのUSBメモリが容赦なく彼の頭に投げつけられた。老当主は震える指で彼を指しながら怒鳴った。「どこにも行くな。よく見ろ、君が大切に思ってるあの女が、一体どんな人間なのか！」涼介は呆然としたまま、地面に転がったUSBを拾い上げた。莉音が去って以来、彼の心にはずっと拭えない不安があった。そして今、その不安が頂点に達した。直感が告げていた。――このUSBの中身は、莉音に関するものだ。立ち上がろうとしたが、手が震えて力が入らず、やっとのことでパソコンに差し込んだ。画面が一瞬暗転し、そして映ったのは、玲乃の顔だった。そこは、海外の某民間傭兵会社の事務所だった。玲乃は交渉テーブルの向こうに端然と座り、バッグから分厚い札束を取り出した。その顔には、残忍な笑みが浮かんでいた。

玲乃は、ほとんど奥歯を噛み砕く勢いで怒りを抑えていた。つい先日、涼介は何の前触れもなく姿を消し、彼女をプロポーズの場に一人置き去りにした。彼女は安見市の上流階級の面々の前で、面目丸つぶれだった。もともと怒っていた彼女は、わざと数日間涼介を無視し、いつものように彼が慌てて機嫌を取りに来るのを待っていた。だが今回は、涼介が異常なほど静かだった。彼は電話にも出ず、メッセージも贈り物も一切寄こさなかった。今やっと、自ら身を引く形で見舞いに来てやったというのに、涼介は手下に命じて彼女を病室の前で足止めしているなんて！玲乃は深く息を吸い込み、目に涙を溜めた。「涼介、私……どこがいけなかったの？どうして怒ってるの？私をあんな場で一人にして……あのとき、どれだけ心細かったか、あなたは分かってる？」「もしかして……妹を追い出したこと、まだ怒ってるの？」すすり泣きながら、病室に向かって訴えた。「もう私のことがいらないなら、私が生きてる意味なんてない……今すぐここで死んだほうがマシだわ……」そう言って、彼女は本当に壁に向かって全速力で突っ込んでいった。額が壁にぶつかる寸前――病室の扉が急に開き、涼介が飛び出してきて、彼女をぎゅっと抱きとめた。玲乃は喜び、泣きながら彼の胸にすがりつこうとした。だが涼介はそっと腕をほどき、眉をひそめて嫌悪を隠しきれない顔で身を引いた。そして、柔らかく笑いながら、乱れた彼女の髪を耳にかけてやり、優しい声で言った。「何をバカなことを言ってるんだ。あの日は急に会社の用事ができて、連絡する暇もなかった。君を捨てるわけがないだろ？」「玲乃、君は俺の命の恩人だ。俺は君を一生愛すると約束したじゃないか」その話を出されて、玲乃は少し視線を逸らした。「涼介……それで、プロポーズの式はどうするの？」彼女は焦りながら、彼のスーツの裾を掴み、哀願するような声で聞いた。村上家の資金繰りはもう限界だった。彼女に時間はない。涼介は微笑み、唇の端を少し持ち上げて言った。「今夜十時、君に盛大なプロポーズを捧げるよ」その約束を聞いた玲乃は、意気揚々と家に戻って準備を始めた。彼女は気づかなかった。振り返るその一瞬に、涼介の瞳から優しさが完全に消え失せていたことに。残っていたのは、底なしの冷たい闇だけだ

涼介は眉をひそめ、身についた花びらを払い落としながら彼女を見た。その目には一片の温かさもなかった。「玲乃、嘘をつきすぎて、自分でも本当だと思い込んでるんじゃないか？」「俺が愛してるのは、十五歳のときに俺を救ってくれたあの女の子だ。お前じゃない！お前が彼女になりすましていなければ、俺と莉音がどうして……」真実を知らなかった頃、自分が莉音にしてしまったことを思い出し、涼介の胸は締めつけられるように痛んだ。彼は視線をそらし、冷たい声で言った。「何を突っ立ってるんだ。お前の嫁を連れて帰れよ。もう結婚証明書も受け取ったんだから、正式な夫婦だ」玲乃の夫は陰鬱な表情を隠し、彼女の腰を強引に抱き寄せた。容赦なくその首を掴み、無理やり外へ引きずっていった。「このクソ女、俺の女のくせに、俺に手を出すつもりか？」玲乃は全身を震わせ、恐怖に震え上がった。「いや……いやだ、涼介、こんな化け物と結婚なんてしたくない……助けて、死んじゃうよ！」だが、最後の最後まで、涼介は一度も彼女に目を向けなかった。そして彼女に教えることもなかった――彼女が今着ているウェディングドレスは、かつて化学薬品に三日三晩浸されていたことを。莉音にアレルギーを起こさせて恥をかかせた報いを――今こそ百倍にして返すのだ。すべてが終わった後、涼介は力尽きてソファに倒れ込んだ。手に握っていた数珠をぎゅっと握りしめた。それは莉音が彼のために自ら願いを込めてくれたもので、彼が引きちぎってしまった後、最も腕の立つ仏師に修復してもらったものだった。「莉音……」彼は長く息を吐き出した。「やっと君に会えるようになった」彼は頭を垂れ、優しく一粒ずつ数珠を撫でた。「安心してくれ。今すぐ君を迎えに行くよ」彼はずっと前から莉音のための部屋を用意していた。内装は最高ランクのデザイナーが手がけ、家具はすべて海外から特注で取り寄せた。そのすべてに、彼の深い想いが込められていた。あとは、彼の高嶺の花がこの庭に戻ってくるのを待つだけ――その時、思索にふける彼のもとに、慌てた様子の秘書が飛び込んできた。「青山様、大変です！」「霞ノ宮市から連絡が――村上さんの結婚式が、三日後に行われるとのことです！」

不思議なことに、婚約をすり替えたのは莉音の父の気まぐれだったはずなのに、江原家の人々は、彼女を見下すことなど一切なかった。それどころか、用意されたすべてが彼女の好みにぴったりと合っていた。湧仁の母が自らウェディングドレスを届けに来たとき、目には涙が浮かんでいた。「莉音、このドレスはね、私と湧仁のお父さんが結婚したときに着たものなのよ。私たちは何十年も仲睦まじく過ごしてきたわ。あなたたちも、末永く愛し合える夫婦になって欲しいわ」莉音は呆然としたまま部屋へと押し込まれ、その豪奢なウェディングドレスに着替えた。鏡の中には、まるで自分ではないような、完璧に美しい女性の姿が映っていた。彼女は慌てて首を振り、遠慮がちに口を開いた。「こんな大切なもの、私には受け取れないよ……」生まれてから一度も、実の父親からでさえ、これほど高価な贈り物をもらったことはなかった。「莉音は恥ずかしがり屋だから。ドレスは俺が代わりに受け取っておくよ。それよりお母さん、嫁入り道具として取っておいた宝物があるなら、そろそろ出してくれよ」湧仁は、いつの間にかドアのそばに立っていた。明るい笑顔を浮かべながら、さらりと言い放った。「どうせ俺はこの人生で、二度目の結婚なんてするつもりないし。お母さんが次にご機嫌とろうとしても、もう機会はないぜ？」その軽口に、莉音の耳たぶがじんわり赤く染まった。そして、結婚式の日は予定通りやって来た。柔らかなスポットライトが彼女を照らし、空から降るのは、彼女が好きなブルガリアローズの花びらだった。ステージへと向かうその瞬間、湧仁の父が優しく彼女の手を取って微笑んだ。「莉音、お義父さんが連れて行ってあげよう」彼は肘を曲げ、まるで彼女の実の父親のように、彼女の新郎のもとへ一歩一歩導いてくれた。その優しさに、莉音の鼻先がつんと痛くなり、目元がたちまち潤んだ。江原家に来てから、彼女はずっと、江原家の人々の真心を感じていた。村上家では、自分の部屋すら持たせてもらえなかった。でも江原家では、彼女のために一番大きな寝室を用意してくれた。さらには、特注のピアノ室まで――湧仁は、彼女の夢が「母親のようなピアニストになること」だと、ちゃんと知っていてくれた。そして今、湧仁の父は自ら花のアーチを通って彼女を送り出し、皆の前で彼女の顔を立