涼介の姿がはっきりと見えた瞬間、莉音の全身の血が一気に頭にのぼった。彼女は無意識にウェディングドレスの布地を握りしめ、爪が手のひらに深く食い込んでいた。会場の賓客たちはざわざわとささやき始めた。「青山涼介?なぜ彼がここに?青山家と江原家は南北で長年不仲だろ?江原家の若様が、結婚式の日にわざわざ招待するとは思えないよ」「周りに倒れてる警備員、見えた?多分、強引に入ってきたんだよ」「そういえば、青山家の御曹司は以前、新婦のボディーガードだったって聞いたけど……まさか今日来たのって……」意味深な視線が、すぐに涼介と莉音に集まった。莉音は恐怖に顔をしかめた。彼の登場によって、封じ込めていた忌まわしい記憶が一気に押し寄せてきた。もう忘れたと思っていた。けれど今、彼女はようやく気づいたのだ。傷ついた記憶も、裏切りの痛みも、消えてなどいなかった。確かに存在し、そして一生消えることのないものなのだと。「ごめんなさい……」莉音は必死に涙をこらえ、隣に立つ湧仁に向かって言った。「私のせいで、あなたの結婚式を台無しにしてしまって……」湧仁のような誇り高い人間なら、きっと気にするだろう。彼女の複雑な過去も、涼介との因縁も。だが湧仁は、彼女の手をぎゅっと握り返し、指をしっかり絡めた。その目には、揺るぎない所有の意志が宿っていた。「莉音、謝るな。君のせいじゃないよ」涼介は険しい表情のまま、ゆっくりと二人に近づいてきた。彼の視線が、二人の絡んだ手元に落ちたとき、まるで刺されたかのように、視線を逸らした。「莉音……俺が間違ってた。すべてわかったんだ。君のお母さんを死に追いやったのは玲乃だった。彼女が俺に言っていたことは、全部、最初から仕組まれた嘘だった。彼女はあの子じゃなかった!」震える手を差し出しながら、悔恨のこもった声で訴えた。「俺を救ってくれたのは君だった。命の危険を冒して、迷いもせず、見ず知らずの俺を助けてくれたのは君だった」「白山茶のように、純白で汚れのない人――それは最初から君だけだったんだ、莉音。俺がバカだった。彼女を君と勘違いするなんて……」莉音の体は凍りついたように動かなかった。あの夜の記憶が彼女の脳裏に蘇った。人気のない裏路地で、その辺りに住む人など誰もいなかった。彼女と母だけが、その貧
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