Semua Bab 霧が晴れてこそ、愛を語る: Bab 11 - Bab 20

兄弟二人が、これほどまでの沈黙に陥ったのは、生まれて初めてのことだった。ボイスレコーダーが繰り返し再生され、恵美の、嫌悪と軽蔑に満ちた声がリビングに響き渡っていた。洋介と友沢は、その現実を受け入れられずにいた。陰で自分たちを馬鹿だと罵っていた女。その女を生かすためだけに、好感度のバランスを取るためだけに、彼らは何度も、何度も明日奈を傷つけてきたのだ。もし、恵美に、自分たちがしてきたことほどの価値がなかったとしたら？洋介はそれ以上深く考えることを恐れ、車のキーを掴むと別荘を飛び出した。友沢も、慌ててその後を追った。二人は車で芸能事務所へ向かい、恵美のオフィスまで来たところで、中から彼女がマネージャーに自慢話をする声が聞こえてきた。「何を怖がることがあるの。明日奈はもう死んだんだし、彼らが悲しむのも当然よ。でも、すぐに私に目が向くわ。さっきだって、友沢が犬みたいに謝ってきたんだから」「それなら良いのですが。ですが、江口様たちが例のファンたちを捕らえたと聞きました。彼女たちのために、少しは情けを乞うてみては？何しろ、彼女たちは……」「助けてやる義理なんてないわ！あんな能無しの集まり、こんな簡単なことさえ上手くできなかったから。私はあいつらに、明日奈を別の場所に誘拐してから手を下せって言ったのよ。誰が別荘の敷地内でやれなんて言ったの。幸い、私に累が及ばなかったからよかったものの、あんな頭じゃ社会に出たって、どうせ無能のまま一生を送るのが関の山よ」真相を聞いて、洋介と友沢の心は地の底まで沈んだ。友沢が猛然とドアを蹴破り、歯を食いしばって言った。「このアマ……！貴様、ずっと俺と兄さんを手玉に取ってたのか！」友沢と洋介の姿を見て、恵美の瞳に一瞬、動揺が走った。彼女は慌てて歩み寄り、弁解を始めた。「ち、違います！そんなことありません！さっきのは、マネージャーと台本の読み合わせをしていただけです！」恵美がマネージャーに目配せすると、マネージャーは即座にその意を汲んで説明した。「そ、そうです！最近、恵美さんが新しい脚本を受けまして。江口様、お二方とも、何か聞き間違えをなさったのでは……」だが、洋介がその手に乗るはずもなかった。彼はマネージャーを蹴り飛ばし、マネージャーは「うわっ」という悲鳴と共に、そばの

監視カメラの映像は、そこで唐突に途切れた。友沢が、最初に崩れ落ちた。彼は洋介の腕に縋りつき、なりふり構わず号泣した。「兄さん、見たかよ。明日奈は、俺に助けを求めてたんだ。なのに俺は、あいつを無視した。俺が、明日奈を殺したんだ。俺は、人殺しだ……」普段は冷静沈着な洋介も、この時ばかりは涙を流していた。胸に大きな石が詰まったように苦しい。彼はあの日のことを思い出していた。自分は友沢に、恵美のファンの後始末をして、彼女の将来に影響が出ないようにしろ、とまで言ったのだ。なんという滑稽さだ。彼は深く息を吸い、悲痛をこらえて言った。「俺たち二人とも、罪人だ。俺にも責任がある。俺の命令がなければ、明日奈はあんな辛い思いをしなくて済んだ」「全部、あのクソ女、恵美のせいだ。俺があいつを八つ裂きにしてやる！」友沢の目に憎しみが迸った。今すぐにでも恵美をずたずたに引き裂いてやりたい、と。彼が息巻いて去ろうとした時、洋介が呼び止めた。「待て。恵美は、まだ使い道がある」夜、洋介は夕食を手に地下室へ入った。 ここは、江口家が表沙汰にできないことを処理するための場所で、四方の壁には、今も血の跡が残っている。そして恵美は、ぼろぼろの服をまとい、犬のように地面に這いつくばっていた。かつての華やかな姿は、見る影もない。彼の姿を見ると、恵美は慌ててその足元に這い寄り、卑屈に哀願した。「洋介さん、私、本当に間違っていました。どうか、どうか許してください。以前はあんなに優しくしてくださったじゃないですか。お願いです、酷いことはしないで……」洋介は軽く視線を落とした。自分の白いシャツに、二つの血の手形がべったりと付いている。彼は嫌悪感をこらえて視線を逸らし、そしてわざと親しげな素振りで、恵美の頬を覆う髪をかき分けた。その声は、驚くほど穏やかだった。「すまない、恵美。知っての通り、明日奈は俺と小さい頃から一緒に育った。友沢も俺も、彼女を本当の妹のように可愛がっていたんだ。彼女が死んで、俺たちは本当に悲しい。どうにかして、彼女を連れ戻す方法はないか。もし彼女が戻ってきてくれるなら、今までのことは全て水に流そう。また、昔みたいに一緒に暮そう」攻略やシステムといったものが存在する以上、明日奈を蘇生させることも

洋介が呆然としているのを見て、すぐ後ろにいた友沢が慌てて謝罪した。「すまない、兄が人違いをしたんだ」洋介は気まずそうに手を引っ込め、失望に満ちた目で言った。「友沢、明日奈は俺たちのことを心底憎んでいるんだろうか。だから生き返っても、一度も会ってくれないのか」それはかつて友沢が口にした言葉だったが、今、それを問いかけるのは洋介の番だった。友沢はタバコを一本取り出して火をつけた。彼は苦笑しながら言った。「兄さん、俺たちはあれだけ明日奈を傷つけたんだ。会ってくれないのは当然だ。もう少し待とう。俺たちに、罪を償う資格があるかどうか……」洋介は黙って頷いた。その頃、新しい身体を手に入れた明日奈は、居心地のいい小さなベッドに横になっていた。システムが彼女のために、葬儀の様子を中継していた。彼らは動画の人物が恵美であることを証明して潔白を晴らし、彼女の芸能界におけるリソースをすべて断ち切った。スキャンダルも相まって、恵美はあっという間に芸能界から姿を消した。江口家の力をもってすれば、一人の人間を消すことなどいとも簡単なことだった。だが、それが何になるというのだろう。一度与えられた傷の前では、罪悪感などあまりにも些細なものに思えた。だから明日奈の心は全く揺れ動かず、彼女はまるで傍観者のように、冷ややかに中継の一部始終を見ていた。【宿主様、彼らは本当に後悔しているようですよ。戻ることを検討してみてはいかがですか？江口家は生活環境も優れています。なにもこんな小さな家で苦労することはないでしょうに】システムは理解できないといった様子で尋ねた。明日奈は静かに微笑んだ。生活は確かに恵まれていたが、それと引き換えに、彼女は階級を乗り越えるような行動は一切許されなかった。明日奈は高校時代の同級生を思い出した。彼女は田舎から出てきた女の子で、二人は性格が合い、すぐに親友になった。だが、そのことを知った洋介は、彼女たちの関係を無理やり断ち切らせた。「明日奈、あの子はただの貧しい家庭の子だ。深く付き合う必要はない。もし新しい友達が欲しいなら、江口家と釣り合う家柄のお嬢さんを紹介してやる」その後、明日奈は二度とその同級生に会うことはなかった。ずっと後になって、洋介と友沢がその子を脅して転校させていたこ

両親が仕事から帰宅し、兄が夕食の支度を終えた頃、突然ドアがノックされた。明日奈は、途端に嫌な予感を覚えた。兄がドアを開けると、そこには洋介と友沢が立っていた。兄は訝しげに尋ねた。「どなたをお探しですか？」洋介は完璧な笑顔を作って言った。「遠野明日奈さんをお探ししております。提携のお話があり、参りました。本日午後の予選での彼女のパフォーマンスは非常に素晴らしく、ぜひ私ども江口グループ傘下の会社と契約を結んでいただきたいと考えております」実に皮肉な話だった。洋介は、このような一般家庭と関わることなど普段は見下していたはずなのに、今や明日奈のためなら、何度も何度も自分のプライドを捨てている。明日奈は食卓の椅子から立ち上がると、洋介が差し出した契約書には一瞥もくれず、無理やり二人を家の外へ押し出した。「いらない。必要ないわ」隣にいた友沢は、明日奈が全く取り合わないのを見て、焦りを募らせた。「明日奈さん、こちらは兄が自らあなたのために作成した契約書です。どの条項も、あなたにとって有利なものばかりですよ」「だから何？」明日奈は冷たい顔で問い返した。洋介は興奮する友沢を制し、こちらへ歩いてくる明日奈の両親に視線を移した。彼は穏やかな声で言った。「お父さん、お母さん。よろしければ契約書をご覧ください。江口グループは国内最高峰の音楽事務所を擁しています。必ず明日奈をトップスターにしてみせます」かつてあれほど音楽大学に入りたいと願った時、洋介は冷たくそれを拒絶したというのに。今になって、彼の方から芸能界入りの話を持ちかけてくるなんて。自分の許しを得るためなら、彼らは本当に手段を選ばない。商人の強欲で利己的な本性が、ありありと見て取れた。契約書を隅々まで読み終えた両親は、思わず息を呑んだ。そこに書かれている条項は、どれもこれも明日奈のためだけのものだったからだ。会社側は利益を度外視しているどころか、明日奈に優先的にリソースを配分することまで保証していた。洋介は二人の驚愕の表情をしかと目に焼き付け、その目に一瞬、侮蔑の色を浮かべた。「お父さん、お母さん、これほど良い提案を断る理由はないかと思いますが」その言葉が終わるや否や、友沢が待ちきれないとばかりに付け加えた。「毎年、私どもの

あの日、明日奈は雪の中で三時間跪いた。そして洋介もまた、三時間跪き続けた。彼は自力で立ち上がることすらできず、無理に体を起こそうとしても、脚の筋肉が回復しきっていないせいで、無様に前へと倒れ込んだ。「お前が転んだのは、本当だったんだな。俺と友沢は、お前を誤解していた。すまなかった」洋介は明日奈の返事を待たずに、江口家の裏庭へと向かっていった。彼が何をしようとしているのかを察し、友沢は明日奈に向かって必死に叫んだ。「明日奈、兄さんが氷の張ったプールに飛び込もうとしてる。早く止めてくれ。兄さんは三時間も跪いてたんだぞ」明日奈が黙ったまま何も言わないのを見て、友沢もそれ以上頼むのは諦めた。彼はただ、洋介が氷のプールに飛び込み、また這い上がり、それを三十二回繰り返すまで、なすすべもなく見ているしかなかった。洋介は常日頃から体を鍛えており、その身体能力は常人よりも高かった。だが、これだけの無茶は、彼の命を半ば奪いかけるほどだった。彼はもう一度、明日奈に謝罪しようと思った。しかし、携帯電話を受け取った時、明日奈がすでに通話を切っていたことに気づいた。今夜の一連の出来事は、間違いなく明日奈の心の傷を再び抉った。これ以上、こんな辛い思いはしたくない。そもそも、自分たちはもう二度と関わるべきではなかったのだ。だが翌日、洋介は病に倒れた。そのことを彼女が知ったのは、友沢が寄越した秘書が、明日奈を江口家に迎えに来た時だった。都合の悪いことに、秘書がやって来たのは、昼時で両親も兄も家にいる時間帯だった。明日奈は断ることができなかった。友沢には、彼女を連れて行く方法などいくらでもある。事を荒立てすぎれば、彼女の大切な人たちを傷つけることにもなりかねない。明日奈は、そのような事態だけは避けたかった。両親と兄からの、疑念と心配が入り混じった視線を受け、明日奈はすべてを打ち明ける時が来たと悟った。そもそも、この身体の元の持ち主はごく普通の家庭の娘だったのだ。どうして江口家のような最高級の富豪一族と接点があるというのか。彼女は落ち着いて箸を置いた。「お父さん、お母さん、お兄ちゃん。ちょっと行ってくる。帰ってきたら、全部話すから」そう言うと、彼女は友沢の秘書と共に江口家へと向かった。道中