すべてがまるで夢のようだった。役所から戻った研人は、どこか上の空で玄関をくぐった。どうやって帰ってきたのか、自分でもよく覚えていない。一体、何がどうして、こんなことになってしまったのか。つい一週間前までは、確かに彼女はそこにいた。笑って、甘えて、「誕生日は一緒に過ごして欲しい」と言っていたのに。どうしてたった一週間で、こんなにもすべてが変わってしまったのか。もし、あれがみゆきの最後の誕生日になるとわかっていたら、どんなことがあっても、絶対に彼女を一人にしなかったのに!「研人さん?どうしたの?」寝室のドアが開き、かれんが現れた。黒のレースのランジェリーを身に纏う彼女は、しなやかな足取りで彼へ近づく。「顔色が悪いよ?もしかして、まだみゆきちゃんのことを心配してるの?でもあなたが言ったでしょ?みゆきちゃんはもう二十歳。大人なんだから、子供扱いしないほうがいいって。ちょっと怒って、友達と旅行でも行ったんじゃない?しばらくしたら戻ってくるわよ」彼女はそう囁きながら、そっと体を密着させた。みゆきという邪魔者はもういない、あと一歩で彼女は研人の妻になり、この家の女主人になれる。その最後の一歩は、研人に抱いてもらうことだ。みゆきのいないこの隙に研人を自分の虜にし、完全に自分の足元に跪かせてしまえばいい。そんな思惑を胸に、かれんは甘ったるい吐息を織り交ぜながら、研人をなだめるように言葉を重ね、そして脱力した身体をそっと寄せていく。「研人さん、そんなに張り詰めてたら体に毒だよ。私がほぐしてあげるわね……」そう囁くと、彼女は手を伸ばし、研人の太ももあたりに触れようとした。だがその瞬間――「っ……!」彼女の指先が目的の場所に届くよりも早く、研人の手が鋭く伸びた。無慈悲な力で、彼女の喉元をがっちりと締め上げる!「ぐっ……!」研人の力が強く、かれんは一瞬で窒息しそうになって、何とか声を絞り出す。「け、研人さん……やめ……痛い……っ!放して……!」だが研人は手の力を緩めることなく、むしろじわりと圧を強めていく。「みゆきは……がんだと言われた」冬風よりも冷たい眼差しが、彼女を射抜く。「なのに、どうしてあの夜、俺がみゆきを病院に連れて行ったとき、医者は異常なしだなんて言ったんだ?」かれんの表情が一
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