「先生、人体冷凍保存の実験に参加したいです。申し込みをお願いします」小林みゆき(こばやし みゆき)は淡々とそう言った。電話越しに、長谷川(はせがわ)教授の声が返ってくる。「小林さん、本当にいいのか?がんのことは確かに辛かっただろう。でも、まだ完治の可能性も……」「でもあれはリンパがんです。しかも末期。もう治りません」みゆきはそう返すと、長谷川教授は深いため息をついた。「だが、あの冷凍保存技術はまだ未完成だ。生きている人間が凍結された前例はまだないんだぞ。下手をすれば、冷凍の瞬間に命を落とす可能性もある。やはり考え直したほうが……」「先生、もう決めたんです」微笑みながらそう言うと、みゆきは通話を切った。彼女のスマホには、数分前に届いたネットニュースの速報が表示されたままだった。写真には、葉月かれん(はづき かれん)と朝倉研人(あさくら けんと)が手を繋いで写っていた。かれんの薬指には、ブルーダイヤの婚約指輪が光っている。画面越しにでもまぶしいその輝きが、みゆきの目を突き刺した。彼女は唇を強く噛みしめても、気持ちをこらえきれず、涙が溢れてくる。今日は、みゆきの最愛の人、研人の誕生日だった。しかし彼は、みゆきがデザインした指輪を別の女に贈っていた。研人さん、どうしてこんなことをするの?ここまで私を憎んでいるの?食卓にはまだ湯気の立つ料理が並んでいたが、みゆきの心と同じように、少しずつ冷えていった。深夜二時半。ようやく玄関の扉が開いた。外の冷えた空気とともに研人が入ってくる。「まだ起きてたのか?」彼はみゆきを見るなり、さらに険しい表情になった。「今夜はかれんと過ごすって言っただろ。遅くなるって、ちゃんと伝えたよな?」みゆきはうつむき、長い沈黙の後でぽつりと呟く。「……お誕生日、おめでとう」日付は変わり、彼の誕生日ももう終わっていたけれど。「みゆき……お前、何がしたいんだ?」研人の声には苛立ちが滲んでいた。「かれんは俺の恋人だ。彼女が俺の誕生日を祝うのは当然だろう?お前は何様のつもりだ?俺はお前のおじさんなんだぞ!いい加減自分の立場をわきまえろ!俺らは付き合えないって言ってただろ?そんな気色悪い妄想、本当吐き気がする!」彼はそう言い捨てると、ドアを勢いよく閉めて出て
Baca selengkapnya