離婚届に印が捺され、菜月の手にそっと渡された。そこには確かに賢治の名前と印鑑が刻まれていた。自由を噛み締める菜月の頬を、未来への期待を込めた涙が静かに伝った。多摩さんが差し出したハンカチで、菜月はそっと涙を拭い、穏やかな笑みを浮かべた。佐々木がアタッシュケースに書類を丁寧に仕舞うと、郷士は重い視線を四島忠信と賢治に向けた。「四島さん、これでもシラをきるおつもりですか?」 賢治は、菜月との結婚以来、綾野住宅の副社長という地位を悪用し、密かに横領に手を染めていた。会社の帳簿を巧みに操作し、被害額は1,300万円を超えていた。湊の部下の鋭い機転により、ついにその不正が明るみに。だが、四島忠信と賢治は、証拠を突きつけられても頑なに認めず、うつむいたまま震えていた。郷士の鋭い視線が賢治を射抜き、菜月の解放された姿がその背後に浮かぶ。座敷の重い空気の中、賢治たちの罪はさらに重くのしかかった。 「そ、それは」「親父!なんでそれがここにあるんだよ!」 机の上には、金額欄が空白の請求書が無造作に置かれていた。その横には、賢治の筆跡が一目で分かる改竄された書類が、ずっしりと重いバインダーに綴られ、綾野住宅への裏切りを物語っていた。1,300万円を超える横領の証拠が、冷たく並ぶ。湊の部下が暴いた真実を前に、賢治は言葉を失い、ただ青ざめた。郷士の鋭い視線が賢治を貫いた。 「賢治様、これは賢治様の筆跡で間違いありませんね?」 顧問弁護士の佐々木が、賢治の横領を暴く数字をトレースした書類を、座敷のテーブルに静かに並べていった。一枚一枚が綾野住宅の裏切りを物語り、1,300万円を超える不正の証拠が冷たく積み上がる。賢治の顔色は青ざめ、膝の上で握った拳がガタガタと震えた。四島忠信は、肩を落とし、視線を逃がすようにうつむいた。「間違い・・・ありません」「親父!」「証拠はそろっとる、認めるし
Last Updated : 2025-07-13 Read more