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62 Chapters

そうきたか

翌朝、湊は出勤の準備を終え、ネクタイを整えたスーツ姿で座敷に正座した。静かな朝の光が畳に差し込み、穏やかな空気が流れる。茶の間では、郷士が新聞紙を広げ、いつものように朝の時間を過ごしていた。湊は落ち着いた声で郷士に話しかけ、隣には頬をほのかに染めて恥じらう菜月の姿があった。二人の間に流れる信頼と愛は、義理の姉弟だった過去を超え、深い絆に変わっていた。朝食の茶碗を下げていた多摩さんは、不思議そうにその様子をちらりと眺め、何かを感じ取ったようだった。ゆきは静かに立ち尽くし、「とうとうこの日が来たのだ」と息を呑んだ。 「父さん、母さん、話したい事があるんだ」「なんだ、思い詰めた顔をして」「良いから座って」「なんだ」「すぐ、済むから」 郷士は、何がなんだか分からないと言った表情をして座敷で胡座をかいた。カコーン 鹿おどしが鳴り響き、郷士は首を傾げた。「もう一度、言ってくれ」朝の静かな座敷で、菜月とゆきはふと天井を仰ぎ、床の間に掛けられた掛け軸を眺めた。花器に生けられた竜胆の蕾が、ほのかに萎れていることに気づき、菜月は心の中で「萎れているなぁ」と思った。それでも、湊と郷士の穏やかなやり取りを、二人とも温かく見守った。湊はスーツ姿で正座し、落ち着いた声で郷士と語らう。「僕たち、結婚します」「僕、たちとは誰のことかな?」 湊は自分の鼻先と菜月を指差して無言で頷いた。菜月は照れくさそうに頬を赤らめ、正座したその膝に目線を落とした。「僕、たち」「うん、僕と菜月」 郷士は眉間に皺を寄せた。「お前たちはきょうだいなんだぞ、結婚出来る訳がないだろうが」「民法」「テレビがどうした」「民間放送じゃないよ、法律の民法だよ」「それがどうした」※民法734条1項ただし書き「ただし、養子と養方の傍系血族との間ではこの限りではない」「例外的に、連れ子同士の婚姻は認められるって書いてあった」「嘘ーーーん」
last updateLast Updated : 2025-07-25
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待ち人来ず

カコーン 湊は枕元のスマートフォンを手に取ると時刻を確認し、布団の中でまんじりともせず夜を過ごした。(菜月が来る、菜月が来る、菜月が来る!) スマートフォンのアラームのバイブレーター音に飛び上がった湊は掛け布団の上に正座をし、菜月が襖を開ける瞬間を今か今かと待った。(・・・・・来ない) ところが廊下を歩いてくる人の気配が無い。(・・・・・来ない) 居ても立ってもいられなくなった湊は畳の上をずりずりと移動し襖を開けた。キョロキョロと廊下を見回して見たが父親の地鳴りの様ないびきが奥の寝室から聞こえて来るだけだ。(父さんうるさいな、母さん、あれでよく一緒に寝られるよ) ゆき の聴覚を疑いながら、湊は月の明かりが漏れる廊下を忍足で歩いた。ギシ、ギシ、ギシ「・・・菜月、菜月、ねぇ」 仏間に隣接した菜月の部屋の襖を少しずつ開けると、片脚を掛け布団から放り出し、仰向けで万歳の格好をした菜月が、軽いいびきをかいていた。(な、菜月)クォーーーークォーーーー(寝てるじゃないか!) 賢治の一連の騒動が解決し、無事、離婚届が市役所に受理された菜月は気が緩み、爆睡してしまった。(約束と違うじゃないか!) 湊は、その寝顔を見ながら襖を閉めた。大きな溜め息を吐いた湊の胃は、シクシクと痛み始めた。(き、緊張したのかな。僕、ストレス耐性なさすぎだろ)カコーン 鹿おどしが明け方の空に響き、その音で菜月は目を覚ました。腕で口元に垂れた涎を拭き取ると冷たかった。なにかを忘れている様な気がする。「アッ!」 スマートフォンを見ると時刻は6:30と表示されていた。慌てて飛び起きた菜月を待っていたのは、洗面所で歯磨きをする不機嫌そうな湊の後ろ姿だった。「み、みな、湊」 洗面所の鏡の中に、気不味い顔の菜月が、作り笑いをしていた。「お、おはよう」「んがんが」
last updateLast Updated : 2025-07-26
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