翌朝、湊は出勤の準備を終え、ネクタイを整えたスーツ姿で座敷に正座した。静かな朝の光が畳に差し込み、穏やかな空気が流れる。茶の間では、郷士が新聞紙を広げ、いつものように朝の時間を過ごしていた。湊は落ち着いた声で郷士に話しかけ、隣には頬をほのかに染めて恥じらう菜月の姿があった。二人の間に流れる信頼と愛は、義理の姉弟だった過去を超え、深い絆に変わっていた。朝食の茶碗を下げていた多摩さんは、不思議そうにその様子をちらりと眺め、何かを感じ取ったようだった。ゆきは静かに立ち尽くし、「とうとうこの日が来たのだ」と息を呑んだ。 「父さん、母さん、話したい事があるんだ」「なんだ、思い詰めた顔をして」「良いから座って」「なんだ」「すぐ、済むから」 郷士は、何がなんだか分からないと言った表情をして座敷で胡座をかいた。カコーン 鹿おどしが鳴り響き、郷士は首を傾げた。「もう一度、言ってくれ」朝の静かな座敷で、菜月とゆきはふと天井を仰ぎ、床の間に掛けられた掛け軸を眺めた。花器に生けられた竜胆の蕾が、ほのかに萎れていることに気づき、菜月は心の中で「萎れているなぁ」と思った。それでも、湊と郷士の穏やかなやり取りを、二人とも温かく見守った。湊はスーツ姿で正座し、落ち着いた声で郷士と語らう。「僕たち、結婚します」「僕、たちとは誰のことかな?」 湊は自分の鼻先と菜月を指差して無言で頷いた。菜月は照れくさそうに頬を赤らめ、正座したその膝に目線を落とした。「僕、たち」「うん、僕と菜月」 郷士は眉間に皺を寄せた。「お前たちはきょうだいなんだぞ、結婚出来る訳がないだろうが」「民法」「テレビがどうした」「民間放送じゃないよ、法律の民法だよ」「それがどうした」※民法734条1項ただし書き「ただし、養子と養方の傍系血族との間ではこの限りではない」「例外的に、連れ子同士の婚姻は認められるって書いてあった」「嘘ーーーん」
Last Updated : 2025-07-25 Read more