湊は、ブドウ糖の点滴の管で命を繋いでいた。壊死したと思われる腸の粘膜が回復するまで断食が続き、頬はわずかに痩せ、手首のネームバンドはゆるくくるりと回った。病室の窓から差し込む光は淡く、静かな時が流れる中、湊の瞳は遠くを見つめ、かすかな希望を宿していた。点滴の滴が落ちる音だけが、部屋に小さく響き、命の儚さをそっと刻んでいた。「湊、大丈夫?」「大丈夫じゃない」「えっ、お医者さん呼んでこようか!?」「違うよ」 湊は菜月の手首を握ると引き寄せ、唇を重ねた。「菜月がいない」「もうっ!誰か来たらどうするの!」「誰も来ないよ」 そこで、廊下から男性の咳払いが聞こえた。うおっほん 入り口に立っていたのは竹村誠一だった。その手には、どう見ても似つかわしくない、オレンジのガーベラの花束があり、面差しは赤らんでいた。どうやら、2人の口付けの一部始終を見てしまったようだ。「竹村、来てくれたのか」「湊、元気そうじゃないか、あ?」「おかげさまで」 竹村は、菜月に花束を手渡した。「これ、どうぞ」「ありがとうございます」「なに、それ見舞いの花じゃないの!?」「いいんだよ!」 竹村の頬は赤らんでいた。「じゃあ、お花、生けて来るね」「うん」 菜月は、竹村から受け取った花束と花瓶を手に、洗面所へと向かった。竹村はその後ろ姿を見送ると、ベッドの下から椅子を取り出して座った。その面持ちは険しかった。「どうしたんだ」「四島賢治が自白した」「なにを?」「おまえの車に、ペットボトルを仕込むように唆したのは、如月倫子だ」「そうなのか!?」 竹村は周囲を窺いながら、湊に小声で囁いた。「その如月倫子なんだが、任意同行を求めたが姿を眩ました」「どこへ行ったんだ」
Last Updated : 2025-08-04 Read more