女性は一瞬言葉を詰まらせ、何も言わなかった。男性は頭をかきながら、嬉しそうに笑う。「ありがとうございます。お二人も」女性は視線を落とし、黙り込む。男性は顔を横に向け、彼女の耳元に顔を寄せて小声で言った。「行こう」女性は静かにうなずき、去り際に蒼空と遥樹へ微笑みを向けた。蒼空も丁寧に軽くうなずき返す。二人が去ったあと、遥樹は彼女の肩を抱く手に少し力を込め、低く言った。「俺も、見たよ」蒼空は彼をちらりと見る。遥樹は彼女を見つめたまま、それ以上は何も言わず、ただ腕に力を込めたまま言った。「神木の方に行こう」桃玉神社の神木は、幹を触れながら祈ると健康が守られるという伝承がある。各地から都の病院へ治療に訪れる人々やその家族がよく来る場所だ。今回の遥樹は、縁結びの殿にいたとき以上に真剣だった。蒼空を連れ、神木にそっと手を添えて、心を込めて祈る。こここそが、遥樹が蒼空を連れてきた本当の目的だった。蒼空はこれまで何度も何度も病院に通ってきた。だから、一度きちんと祈っておかなければ、遥樹の心は落ち着かないのだ。神社の中庭には一本の木が立っていた。木の下では一枚600円で絵馬が売られており、机の周りには参拝客が頭を下げ、真剣に願い事を書いている。木の隣に絵馬掛け所にあった。絵馬は風に翻り、ぱたぱたと音を立てる。人々は、その風が願いを神へと届け、健康と平安をもたらしてくれることを祈っているのだ。遥樹は蒼空の耳元に顔を寄せ、小声で言った。「書こう」蒼空はうなずく。「うん」机の前は人でいっぱいで、二人はしばらく辛抱強く待ってようやく順番が回ってきた。蒼空はペンを受け取り、絵馬に整った文字で書き記す。「愛する人と愛してくれる人が、皆無事で健康でいられますように」それを見つめて少し考えたあと、もう一枚絵馬をもらう。二枚目にはこう書いた。「遥樹が健康で、すべてがうまくいきますように」書き終えて顔を上げると、すぐ目の前に遥樹の顔があった。「何書いた?」蒼空は二枚の絵馬を彼の前に差し出す。予想どおり、遥樹はくすっと笑った。蒼空は手を差し出す。「遥樹のは?」遥樹はためらいもなく自分の絵馬を渡す。やはり蒼空の予想どおりだった。「蒼空とじ
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