相馬は腰を据えたまま動かず、代わりに瑠々の手首を引き寄せた。「何があった」瑠々は顔色が悪く、唇も白い。「ちょっとトラブルが......相馬の助けが必要なの」声はとても小さく、はっきりと分かるほどの緊張と動揺が混じっていた。怯えた小動物のように、縋るような、行き場のない視線で相馬を見つめている。その目を見た瞬間、相馬の胸に、理由の分からない歪んだ満足感が湧き上がった。まるで瑠々が、自分にしか頼れず、自分しか見えていないかのようで。相馬はわざと彼女の高慢な性分を削ぐように、少しも急がず、淡々と繰り返した。「それで、一体何が?」瑠々は両手で彼の手首を掴んだ。「歩きながら話すのはだめ?急いでるの」相馬は彼女の手を引き、隣の椅子に座らせると、静かな声で言った。「どんな大事でも、まずは食事だ。食べ終わってから話そう」瑠々は焦りを隠せない。「だめ、今すぐ行かないと。ご飯は後で――」その声に澄依がびくっとして顔を上げた。「ママ?」瑠々は澄依を一瞥しただけで答えず、相馬の手を掴んだまま言った。「澄依もいるし、外で話そう?家には使用人もいるし、澄依の面倒も見てもらえるから」相馬は彼女の手を外し、パンの載った皿を瑠々の前に押し出した。「先に食べよう」瑠々は内心焦って仕方がなかったが、目の前の男は、今の彼女にとって唯一の頼みの綱だった。下手に急かして相馬の機嫌を損ねるのが怖く、これ以上強く出られない。相馬は朝食に顎を向けて言った。「食べて。話はその後だ」瑠々は胸の焦りを必死に抑え、まるで砂を噛むような気分で朝食を口にした。心配事が重すぎて、どうしても数口しか喉を通らない。少し食べただけで、堪えきれず立ち上がった。「電話してくる」そう言い残すと、慌ただしくバルコニーへ向かった。電話の相手は湊だった。先ほどまで、蒼空の言うことには従っていない、自分のことは決して口にしていないと約束していたはずだ。それなのに、蒼空がL国へ行った途端、なぜ証拠を掴んだのか。コール音は長く鳴り続け、やがて自動で切れた。瑠々は苛立ちを抑えながら、湊と葵に立て続けに電話をかけた。5回目になって、ようやく湊が出た。寝起きらしく、声はまだ掠れている。「すみません、久米川さん
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