一か月後、丹羽と母親は町を完全に離れ、それきり何年経っても戻って来ていない。蒼空がこれまで目にしてきたニュースの感覚からすると、子どもが失踪した場合、親は何年も、十数年、あるいは数十年かけて探し続け、簡単には諦めないものだ。今回集めた資料によれば、丹羽一家は関係がとても良好で、喧嘩もほとんどなかった。母親は長年、あちこちの工場で働き、丹羽も大学在学中はアルバイトをし、余ったお金は家に仕送りしていた。弟と妹も長期休暇のたびに働き、兄の大学の学費に充てていたという。要するに、仲が良く、絆の深い家族だった。それなのに、弟と妹が失踪したあと、丹羽と母親は、なぜたった一か月しか探さなかったのか。しかも成人した二人が、同時に姿を消す。失踪の時期も、あまりに出来すぎている。蒼空は、直感的に「何かある」と感じていた。遥樹が身を寄せてくる。「やっぱり、怪しいと思う?」蒼空は頷き、短く「うん」と答えた。彼女は資料に目を落とす。弟と妹の名前は、丹羽湊(にわ みなと)と丹羽葵(にわ あおい)。蒼空は言った。「問題は、この二人にある気がする」「俺は何をすればいい?」蒼空はスマホを取り出し、「今はまだ。もう少し様子を見よう」そう言って、佐原に電話をかけた。すぐに応答がある。「関水社長」「丹羽憲治の銀行口座の入出金は調べた?」佐原は慎重な口調で答えた。「すでに確認しましたが、怪しい点はありませんでした。高額な入金も出金もなく、母親の口座も同様です」「分かった」蒼空は簡潔に言う。「ほかに調べることはありますか」「もう大丈夫よ。お疲れ様」「わかりました」電話を切ったあと、蒼空は遥樹に尋ねた。「世界規模の顔認証システムって、聞いたことある?」「ああ」遥樹が眉を上げる。「それで湊と葵を探すつもり?」蒼空は頷いた。「大学を出てすぐに失踪して、捜索は一か月で打ち切り。疑わない方が無理でしょ。生きている人間が、そう簡単に消えるとは思えない。それに、卒業した年は就職も難しくない時期だった。大卒はまだ引く手あまたなのに、優秀な二人が職に就いていない。何か別の計画があったはずよ」彼女は指先で資料の一部を叩いた。――丹羽の公費留学、そして海外の母校。
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