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第664話

浮島
「無理だな」

相馬は、瑠々の涙に流されることはなかった。

声音は冷静なまま言い切る。

「二度は言わない。瑠々、今度は君が選ぶ番だ」

瑠々は手を離し、よろめくように数歩下がった。

ひどく葛藤している様子で、顔色は蒼白だった。

相馬はしばらく待ち、ようやく瑠々の声を聞いた。

「本当に......一か月だけ?」

「ああ。一か月だけだ」

「一か月が終わったら、もう私に付きまとわない?」

「約束する。追い回したりしない」

瑠々の胸の緊張が、少しずつ解けていく。

「その一か月の間、松木家や瑛司にバレないで」

さすがの相馬でも、愛人扱いがみっともないことくらいは分かっている。

「当然だ」

「......分かった。その条件飲むよ。だから早く助けて」

相馬は軽く笑った。

「いいだろう」

――

蒼空はここ数日、会社に詰めていた。

警察からはまだ何の連絡もないが、彼女は焦っていない。

良い結果ほど時間がかかるものだし、待つ覚悟もある。

「はあ、もう......死ぬほど疲れた」

小春は大量の資料を抱え、足でドアを蹴って入ってきた。

腰を折るほどくたくただ。

蒼空はその様子を見て、思わず笑う。

「病院から戻ったばかりなのに、そのまま会社に来るなんて。優秀社員賞でもあげないとね」

小春は資料を彼女の机に放り出す。

「ほんと?くれるなら、遠慮なくもらうけど」

蒼空は積み上がった書類に目をやった。

「これは?」

「あんたがサインする書類。全部『黒白ウサギ』の案件。来週にはリリースだから、即急にお願い」

蒼空は資料を手に取った。

「分かった」

彼女は署名に慎重で、必ず内容をきちんと読んでからサインする。

署名をしながら、小春が隣で話し続けた。

「うちのおばあちゃん、もう少し経過観察が必要でまだ退院できなくてさ。最近病院に行くたびに櫻木と顔を合わせるんだけど......正直びっくりした。

あんなに偉そうな人が、仕事になるとあそこまで真剣だとはね。私が見落としてたところまで全部気づくし、しかも私が雑だってはっきり指摘してくるんだよ」

蒼空はそれを聞いて、顔を上げた。

小春は眉をひそめる。

「前に丹羽の件で、櫻木があんたを断ったって言ってたでしょ?その時は、ろくでもない人だと思ったけど......今見ると、意外と線は守る人なの
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