ここ数年、彼はほとんど煙草を吸わなくなっていた。今日のような悪夢を見たあとに一本吸うくらいだ。瑛司はベッドのヘッドボードにもたれ、俯いたまま煙を吐く。鋭い眉眼には、気づかれないほどの苛立ちが滲んでいた。――この悪夢を、いったい何度見たのだろう。もう数えきれない。夢の中で、彼はいつも浜辺に立っている。目の前には果てしなく広がる海。少し離れた場所には、必ず一人の女が立っている。骨壺を抱えた蒼空だ。蒼空は彼に背を向け気味に立ち、俯いている。痩せ細った体は、風が吹けばそのまま攫われてしまいそうで、やつれきった姿は、すっかり枯れてしまった花のようだった。彼女は波打ち際に立っている。水位は足首にも届いていないはずなのに、瑛司には、彼女が今にも溺れてしまいそうに思えてならなかった。だから彼は蒼空に向かって歩き出し、歩きながら叫ぶ。「蒼空。海は危ない、戻るんだ」だが、どれだけ歩いても、蒼空のそばには辿り着けない。まるでその場で足踏みしているかのように、二人の距離は、近いようでいて決して縮まらなかった。近い。だが、触れられない。どれほど声を張り上げても、蒼空はまるで彼の声が聞こえていないかのようだった。焦りで胸が張り裂けそうになり、彼は蒼空の方へ走り出す。手を伸ばし、必死に掴もうとしながら、何度も名前を叫ぶ。そして、これまでの悪夢と同じように――蒼空は骨壺を抱いたまま、一瞬の迷いもなく、静かに、しかし確固たる足取りで海へ踏み出していく。一歩、また一歩と、塩辛い海水の中に自らを沈めていく。五臓六腑が引き裂かれるような痛みが走り、骨の隙間まで震えが伝わる。「蒼空!行くな!」そう叫んでも結果は同じだ。どれほど叫び、どれほど走っても、彼女が海に呑み込まれるのを止めることはできず、彼女のもとへ辿り着くこともできない。蒼空が完全に海に沈んだその瞬間、心臓が強く締め付けられ、彼ははっと夢から覚める。そんな夢を、彼は何度も見てきた。瑛司は煙草を灰皿に押し付け、深く息を吐いた。この夢を見るようになったのは、蒼空が摩那ヶ原を離れてからだ。再会する前は、年に三、四回ほどだった。だが再会してからは回数が増え、再会してわずか四か月で、すでに6回も見ている。それでも、今
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