(竜一 視点) 速水がふっと笑みを見せる。その笑顔を目にして、俺はようやく安堵の息をついた。けれど、次の瞬間には真剣な面持ちで口を開いていた。 「速水……おまえの不安定な精神状態は、この街にいる限り良くはならないと思う。この街は、おまえにとって嫌な思い出しかないだろ?……おやじの囲いから解放された時、この街を出ていくつもりだったんだよな?」 「まーね」 「どんな計画だったんだ?」 速水は前傾姿勢のまま、わずかに体を動かしながら言葉を紡いだ。 「僕が“奴隷”だって誰も知らない場所で、小さな店を開くんだ。どんな店でもいい。そうしたら、かわいい女の子がお客としてやって来る。僕たちは恋に落ちて、過去を知らないその子とはすぐに仲良くなれる。……セックスして、普通の家庭を築くんだ。子供は大切に育てるよ。きっと可愛いはずだから……」 「もし今でも、その人生を望んでいるなら――俺もこの街を捨てて、おまえを全力で支える。おまえが愛する人と出会うその日まで、俺を“幼馴染”として傍にいさせてくれ。そして……おまえが幸せになれたら、俺はこの街に戻る」 その言葉を聞いていた速水は、ふいにソファへと身を横たえた。 「速水?」 「無理だよ~。竜一さんは僕なんかより、ずっとこの街を出たがっているって自覚ある?その“幼馴染”がこの街に囲われて出られないのに、僕だけ出ていけると思ってるの?僕はそんな薄情者じゃない。……空気を求めて水槽の中で浮き沈みする更紗らんちゅうは、竜一さんそのものだよ。息苦しくてこの街から出たいのに
Last Updated : 2025-09-09 Read more