All Chapters of 君が抉った心の傷に、まだ宿る名はない〜性奴隷は泣かない〜: Chapter 31 - Chapter 40

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第31話 共に街を出よう

 (竜一 視点) 速水がふっと笑みを見せる。その笑顔を目にして、俺はようやく安堵の息をついた。けれど、次の瞬間には真剣な面持ちで口を開いていた。 「速水……おまえの不安定な精神状態は、この街にいる限り良くはならないと思う。この街は、おまえにとって嫌な思い出しかないだろ?……おやじの囲いから解放された時、この街を出ていくつもりだったんだよな?」 「まーね」 「どんな計画だったんだ?」 速水は前傾姿勢のまま、わずかに体を動かしながら言葉を紡いだ。 「僕が“奴隷”だって誰も知らない場所で、小さな店を開くんだ。どんな店でもいい。そうしたら、かわいい女の子がお客としてやって来る。僕たちは恋に落ちて、過去を知らないその子とはすぐに仲良くなれる。……セックスして、普通の家庭を築くんだ。子供は大切に育てるよ。きっと可愛いはずだから……」 「もし今でも、その人生を望んでいるなら――俺もこの街を捨てて、おまえを全力で支える。おまえが愛する人と出会うその日まで、俺を“幼馴染”として傍にいさせてくれ。そして……おまえが幸せになれたら、俺はこの街に戻る」 その言葉を聞いていた速水は、ふいにソファへと身を横たえた。 「速水?」 「無理だよ~。竜一さんは僕なんかより、ずっとこの街を出たがっているって自覚ある?その“幼馴染”がこの街に囲われて出られないのに、僕だけ出ていけると思ってるの?僕はそんな薄情者じゃない。……空気を求めて水槽の中で浮き沈みする更紗らんちゅうは、竜一さんそのものだよ。息苦しくてこの街から出たいのに
last updateLast Updated : 2025-09-09
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 第32話 クスリ盛りました

 (伍代 視点)  「たばこ吸いてぇ……」 竜一のマンションの玄関扉に凭れながら、思わず愚痴をこぼす。組長がたばこを吸わないため、俺も持ち歩かないようにしていた。だが今は、ニコチンを一気に肺へ流し込みたい気分だった。 その組長はというと、今日は神戸で組の会合に出席している。会合の後は、愛人と有馬温泉でしっぽり一泊してくる予定だと豪語していた。だからこそ、組長不在の今日を狙い、「速水を弟分にする計画」を実行した――はずだった。だが、竜一の突然の出現で計画はあっけなく頓挫してしまった。 バンクシーに憧れる馬鹿な中坊を金で雇い、花屋『かさぶらんか』の看板に落書きをさせた。速水の写真を見せてやった甲斐もあり、中坊はノリノリで描き上げたらしい。なかなかの出来栄えだった。そのみだらな落書きを目にした速水は、俺の前でさえ涙を浮かべるほどに動揺していた。 そんな速水を、俺が優しく元気づける――それが「速水を弟分にする計画」の始まりだった。だが事態は予想外の方向へ転がってしまった。いま速水は竜一の仕事部屋で一緒に過ごしている。盗聴器は仕掛けてあるが、このマンション自体が盗聴しにくい構造で、しかも竜一の部屋に至っては盗聴器をすべてダウンさせる仕様になっているらしい。 ……だから、速水がどんな状態にあるのか全く分からない。とんでもなく不安だ。 そろそろ速水に飲ませた薬が効き始める時間のはずだ。もしあの薬が引き金になって、速水と竜一が関係を持ってしまったら――俺は確実に組長に殺される。 うーん……部屋に突入して速水を回収するか?だが竜一が竜二と同じように拳銃を持っていたら厄介だ。とにかく突入するにしても、組長の許可は必要だよな。……ああ、でも電話なんかしたくない。 
last updateLast Updated : 2025-09-10
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第33話 伍代と竜一

 (竜一 視点) おそらく伍代の電話の相手は叔父だろう。廊下でスマホに向かって何やら言い訳をしていたその脇腹に蹴りを叩き込むと、あっさり一撃が決まった。俺は伍代の両足を掴み、そのまま玄関先へ引きずり込み、急いで扉を閉める。 さらに脇腹にもう一撃を加えようとした瞬間、背後からか細い声が聞こえた。――『幼馴染』の速水に、俺が暴力を振るう姿など見せたくない。反射的に動きを止めて振り返ると、速水が廊下に凭れかかるようにして立っていた。 「竜一さん、それ以上蹴っちゃ駄目だよ。伍代さん、気絶しちゃう……」 「ああ……そうだったな。こいつからは薬を体内から抜く方法を聞き出さないといけない。それより速水、俺の寝室から出ないように言ったはずだぞ?」 「そうだけど……心配で」 速水が心配しているのは俺か、それとも伍代か――ふと気になったが、問いただしてどうなる。意味のないことに時間を割く余裕はなかった。 玄関に転がる伍代の手に、スマホが握られているのが目に入る。まだ通話がつながっているかは分からない。だが俺は叔父に確認したかった。速水に薬を飲ませるよう指示したのはあなただったのかと。もしそうなら、あまりにひどいと、そう伝えたかった。俺は伍代からスマホを奪おうと身を屈めた。 その瞬間、伍代が狙ってきた。伏せていたはずの伍代が突然身を起こし、前傾姿勢の俺の鳩尾に肘を叩き込む。息が詰まり、吐き気に襲われ、その場に崩れ落ちる。――完全に俺の負けだった。伍代の一撃で、俺はもう動けなかった。 伍代が嫌な笑みを浮かべて口を開く。 「ひどいですよ、竜一さん。いきなり脇腹蹴って室内に連れ込むとか……俺をレイプでもする気ですか?それは困ります。俺は男に
last updateLast Updated : 2025-09-11
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第34話 竜一さん、触って

 (竜一 視点) 早朝、『かさぶらんか』の看板にみだらな落書きがあると連絡を受けた伍代は、現場の確認に向かうことにした。報告すべきか迷ったが、速水が『かさぶらんか』のオーナーであることを重視し、状況を伝える。速水は伍代の制止を振り切り、自ら店へと足を運んだ。 二人が目にしたのは、"性奴隷"としての速水を思わせるみだらな悪戯書きだった。速水は強い動揺に襲われ、伍代の前でさえ涙をこぼしてしまう。護衛の役目を超えていると感じつつも、伍代はかつて"性奴隷"だった立場から、泣く速水に助言を与えた。それは――童貞を捨てて女を抱け、というものだった。伍代の経験則では、男に奉仕する“性奴隷”も女を抱けば、独特の匂いが確実に薄まるという。 速水は一度はその提案を拒んだ。だが、伍代に童貞であることをしつこく指摘され、男としてのプライドを深く傷つけられる。いっそ童貞を捨て去ろうか――そう思考が揺らいだ刹那、伍代は即座にマムシドリンクを差し出した。怪しいと感じながらも、勢いに押された速水はそれを飲んでしまう。 ――そして、その場に俺が現れたのだった。  伍代の話を聞き終えた速水が、口を開いた。 「ねえ、ひとつ聞いていい、伍代さん?」 「はい。何なりと、速水さん」 「どうして、あんなにもタイミングよく薬入りのマムシドリンクを持ってたわけ?」 「ああ、なるほど。確かに、あのタイミングで偶然持っていたのは不自然ですよね」 「不自然すぎるだろ……伍代」 軽口を叩く伍代に、俺はいい加減イライラし、思わず低い声を漏らした。伍代はちらりとこちらに視線を向けたが、すぐに速水へと目を戻し、言い訳を始める。 
last updateLast Updated : 2025-09-12
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第35話 絶頂の更紗らんちゅう

 (速水 視点) どうしよう…… 寝室で、僕と竜一さんは二人きりだった。扉は閉めてあるが、鍵は掛かっていない。 当初、竜一さんは当然のように鍵を掛けようとした。けれど、その瞬間に焦ったのは僕と伍代だった。僕と竜一さんの間に万一のことがあれば、伍代自身が組長に殺される――そう必死に主張したからだ。結局、鍵は掛けないことになった。 その決定に、僕も胸を撫で下ろした。だって、僕だって伍代と立場は変わらない。清二からはっきりと「竜一や竜二を穢せば殺す」と脅されている身なのだから。 「……こんなことを竜一さんに頼んでる時点でやばいかも。……沈められるかも……どこかに」 「速水?」 「あ、竜一さん。独り言だから気にしないで。それより、こんなこと頼まれて気分悪いよね?」 「いや、大丈夫だ。それより……なあ、速水。俺はそんなに、おやじの清一に似ているのか?」 妙に表情が暗いと思ったら、竜一はその事を気にしていたのか。僕は思わず竜一に笑いかけていた。 「全然違うよ?竜一と清一さんは全然似てない。たしかに手の形は似ているけど……親子なのだから似ていても不思議はないよね?」 「俺が怖くないのか、速水?」 「全然、怖くないよ。それより……僕、今から竜一さんの前で“性奴隷”になっちゃうと思う。きっと竜一さんは、嫌悪感でいっぱいになるはずだ。その時は、我慢なんてしないで、すぐに部屋を出ていっていいからね」 「&
last updateLast Updated : 2025-09-13
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第36話 空イキの更紗らんちゅう

 (速水 視点) 「……速水」 「ごめんね。こんな関係になったら、もう僕の"幼馴染"ではいられないでしょ?だからお別れして……ッ」 竜一が突然僕のペニスを強く握り込む。 その強烈な刺激で何度も射精してしまった。ペニスを握る竜一の手も精液でベタベタだ。僕はベッドの中で竜一の手を包み込む。その手は精液でぬるぬるとしていた。彼の手を包み込んだまま上下にゆっくりと動かす。 ーーそこに竜一の意志はなかった。 「はァ、はぁ……。ァああ……ァあーー、ァあ!」 何度も何度も射精する。精を吐き出すたびに、鼓動は乱れ大量の汗が流れる。体力を奪われ力が抜けていく。疲れた。……なのに、まだ射精感が続く。いつ終わるのか。僕は涙が溢れて止まらなくなった。どぷりとペニスから精液が流れ出て止まらない。 ーーその様はまさしく男に仕える"性奴隷"だ。 「きっと、女を抱いても消えないね……。男の玩具だった"性奴隷"の匂いなんて……」 どうして僕はこんなことを口にするのか。竜一の罪悪感を煽ってどうする。だけど、たまらなく自分が惨めになって、その痛みの一部を竜一に向けてしまった。僕は竜一の手をきつく握って、ペニスから引き剥がすと無理やり睾丸を握らせる。そして、揉ませた。 「……はァあ……ァあ、また出た。ん~。やっぱり、竜一さんの手は清一さんの手とそっくり……ひッ……はァはァ。でも、性格は全然違う。…&hel
last updateLast Updated : 2025-09-14
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第37話 セックスしました?

 (伍代 視点) 終わった……俺の人生は終わった。 夜が明け、柔らかな朝日がリビングを照らす。だが寝室からは、いまだに速水も竜一も出てくる気配がない。一晩中、艶めきと苦しさの入り混じった速水の声が漏れ聞こえていた。今はその声すら途絶え、寝室は不気味なほど静まり返っている。 昨日の朝から深夜にかけて、俺は一睡もせず扉に耳を押し当て続けた。そこから聞こえてきたのは、速水の切なげな喘ぎ声と、それに重なる竜一の声だった。『大丈夫か、速水?』『俺にもっと抱きつけ……楽になるから』優しく気遣う声に応えるよう、速水の吐息はより甘く、熱を帯びていった。 ――確信した。速水と竜一はセックスしている。 俺だって突入を考えた。だが、いつの間にか扉には鍵が掛けられていた。あれほど二人が関係を持つと俺の命が危ういと訴えたのに……竜一のやつ、俺を見捨てやがった。 言っておくけどなあ、おまえと関係を持つと速水の命だって危ういんだぞ。ああ、先にそのことを竜一に釘を刺しておけばよかった!!全てが後手後手だ。……くそーッ!! 「はぁ~、最後のオナニーが男の空イキ声をオカズにするとか……なんて悲しい人生なんだ」 俺が心底絶望しながらそう呟いた瞬間、寝室の扉が突如開いた。ちょうど扉の前に座り込んでいた俺は、避ける間もなく頭を直撃される。しかも角が脳天に突き刺さるように当たった。――なんて情け容赦ない攻撃だ!! 「竜一さん、死にゆく俺に対して、あまりに理不尽な攻撃じゃないですか。謝ってくださいよ!」 
last updateLast Updated : 2025-09-15
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第38話 さらさらんちゅう

 (伍代 視点) ――“さらさらんちゅう”? なんだそれ……隠語か? まあ、細けぇことはいい。竜一が俺と口裏を合わせてくれるなら、俺の命は救われる。もちろん、何のお咎めもなしには済まないだろう。だが死ぬよりは遥かにましだ。 メス相手の“性奴隷”の傍らで、死体処理までやらされてきた俺だ。相棒が死姦趣味持ちだったせいで、胸糞悪い光景も散々見てきた。死んで男に犯されるなんて……まっぴらごめんだ。 「伍代、今回の問題の切っ掛けを作ったのはおまえだ。そのおまえのために口裏を合わせるのは腹立たしい。だが……速水のためにも、その提案に乗る」 「わかりました。では、できるだけ真実に近い内容にうそを混ぜていきましょう。速水さんは元囲い主によって調教され、清一さんの手によく似た竜一さんの手でしか射精できない状態になってしまった。だが“性奴隷”に嫌悪感を抱いていた竜一さんは、速水さんからの懇願を当初は拒絶していた――と」 「待て。俺は拒絶などしていない」 「ですから……そこにうそを混ぜるんです。もしご希望なら、『竜一さんがノリノリで速水さんを射精させていた』と組長に説明しましょうか?」 「いや……さすがに速水の体とはいえ、初めてあいつのペニスに触った時は多少の嫌悪感はあった。だが、それもすぐに消えて……むしろ触りたくなった。けれど今度は速水が嫌がって触らせなかった。残念だ」 ――おい竜一、めっちゃノリノリで速水を射精させてたんだな。しかも、“性奴隷”の匂いに嫌悪感を抱かなくなったとしたら……今後はま
last updateLast Updated : 2025-09-16
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第39話 清二さんがこない

 (速水 視点) 伍代に促されるまま、竜一に別れを告げて同じマンションの最上階へと向かった。部屋に入ると、僕はすぐにシャワーを浴びた。体中が自分の精液でべたついていたからだ。 冷たい水流を浴びながら、ふと竜一の触れた箇所が熱を帯びるのを感じた。――その手は、ほとんど全身に及んでいた。ただ一つ、アナルだけは触れられなかった。 あの時、カライキの射精感に気が狂いそうになった僕は、泣きながら竜一にアナルへ触れてほしいと必死にねだった。だが、苦しげな表情の竜一はその願いを拒んだ。 代わりに彼は、優しく僕の唇を奪ってくれた。抱きしめ合い、互いの口内を深く貪った。熱病に冒されたような時間が、そこで過ぎていった。 多くの思いを洗い流すように、僕は冷たいシャワーに身を委ね、体の熱を鎮めた。浴室を出ると、脱衣所には真新しい着物と下着が整えられていた。伍代が用意したに違いない。 彼は今や護衛というより、世話係のようになっている。……それでいいのだろうか? 不満はないのだろうか? 今回、伍代が薬入りのマムシドリンクを僕に飲ませたせいで、竜一をこんな穢れた行為に巻き込んでしまった。伍代は本当に僕を励ますつもりで飲ませたのだろうか? それとも嫌がらせのつもりだったのだろうか? ……彼の思考は突飛すぎて、僕にはどちらとも判断できなかった。 けれど考えてみれば、女を抱く“性奴隷”の身から組長の信頼厚い護衛に抜擢されたのに、その護衛相手が組長の“愛人”とは名ばかりの性玩具……つまり同じ“性奴隷”では、不満も溜まるはずだ。しかも護衛だけでなく、今では僕の世話係まで務めているのだから。そう思うと、伍代の気持ちを推し量って気の毒にさえ感じる。
last updateLast Updated : 2025-09-17
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第40話 清二さんがきた

 (速水 視点) 清二が僕の元を訪れなくなり、一カ月が経っていた。その不安を抱えながらも、“かさぶらんか”のオーナーとして、開店準備に追われる日々を過ごしていた。 そんなある日、花屋“かさぶらんか”の真新しい看板が清二から送られてきた。特にメッセージは添えられていなかったが、それでも――清二が僕を忘れていない。その事実に、胸の奥で安堵を覚えた。 看板は素晴らしい出来栄えだった。僕が最も力を込めて描いた向日葵のイラストは「アナルを連想させる」との理由で却下されてしまったが、それ以外はほぼ希望通りだった。地下風俗店の店長兼従業員の三原も秋山も、その仕上がりを口々に褒めてくれた。 既に看板は店舗に設置され、店内は花でいっぱいだ。花を発注したのは三原で、配置したのも三原と秋山だった。僕も少しは手伝ったが、「邪魔になる」と言われてモニタールームに追いやられてしまった。三原に呼び出されたときには、もう店内は僕の理想通りのお洒落な花屋へと変貌していた。……最高だ! 何もしてないけどね! とにかく、花屋“かさぶらんか”の店長兼オーナーとして、ここからが本番だ。気合を入れ直す。 「なあ速水。こんな早朝から店を開けても、客は来ないんじゃないか?」 「ご苦労さま、三原。この時間に開けろって、清二さんの指示だから。従うしかないだろ?」 「マジか。青山組の組長の指示じゃ、一秒たりとも遅れるわけにはいかないな」 「そう気負うこともないよ。それより、地下の風俗店の方は大丈夫?」 「速水希望の“身元のきれいな性奴隷”ってのは、なかなか集まらねぇな。人間なんて誰しも何かしら問題は抱えてるもんだろ? ただし借金ナシは全員
last updateLast Updated : 2025-09-18
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