All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 1031 - Chapter 1040

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第1031話

この日。礼央と留美の婚約パーティーが開催される。礼央と留美の名前は、一週間前から北城の経済面とエンタメ欄のトップを独占していた――一方は高瀬グループの後継者、もう一方は航空宇宙業界の有名人の令嬢。この政略結婚はメディアから「ビジネスと権力の完璧な融合」と称され、パーティーには多くの著名人が参列する。しかしこの時、常陸家の実家内の雰囲気はホテルの賑わいとは対照的だった。クリスタルのシャンデリアが食卓を照らす中、安浩の両親は険しい表情を浮かべていた。しかし安浩は落ち着いた様子で、指先で手にしたペンの軸を軽く撫でていた。「本当に行かないのか?」安浩の父、常陸正弘(ひたち まさひろ)はお箸を置いて言った。「高瀬家の婚約パーティーには、北城の著名人たちが集まる。常陸グループの後継者として、関係を維持せずにどうするつもりだ?」安浩は顔を上げて答えた。「僕の築く関係は、社交辞令で維持するものではない」彼はペンをテーブルに置き、身体を前に傾け、淡々とした口調で続けた。「父さんは、長い人生を歩んで来られたのだから、人間というものが信用できないということを誰よりもよくわかっているはずだ。パーティーでは親友のように親しい関係でも、明日には利益のために敵になることもある」「じゃあ何を頼りにするつもりなの?」安浩の母、常陸郁子(ひたち いくこ)が我慢できずに口を挟み、歯がゆさを滲ませて続けた。「あなたには大した腕もないのに?ビジネスの世界はあなたが思うほど簡単じゃないのよ!」「僕は自分の実力を信じている」安浩の声は静かだが、反論を許さない確信に満ちていた。「九空テクノロジーが北城で地盤を築けたのは、僕が社交場であるパーティーに出席したからではなく、開発した技術や製品のおかげだと思っている。実力を持つ者には、自然と協力者が現れる。逆に、どれだけ人脈があっても、実力が伴わなければ空虚な幻想に過ぎないんだ」正弘は言葉を詰まらせ、鼻を鳴らした。「お前はますます落ち着きを失っている。後で痛い目に遭ったら、今日の決断がどれほど愚かだったか分かるさ!」安浩はそれ以上反論せず、目の前の水を手に取り、そっと一口飲んだ。彼は両親の考えを理解できたが、妥協するつもりはなかった――安浩の人生は、上辺だけの無意味な付き合いで定
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第1032話

「沙夜、久しぶり」背後から懐かしい声がして、沙夜が振り向くと、高史が笑顔でシャンパングラスを手に立っていた。沙夜はシャンパンを受け取り、少しよそしい口調で言った。「高史、お久しぶりね」高史はシャンパンを一口飲み、人混みを見回しながら笑って尋ねた。「真衣は来ていないのか?君と一緒に来るかと思ってたんだけど」沙夜は眉をつり上げた。「どうしたの?真衣に会いたいの?会いたいなら私に聞いてないで、直接電話すればいいじゃない?」高史は沙夜の言葉に一瞬たじろいだが、すぐに笑って言った。「相変わらず厳しいなあ。ただ何となく聞いただけだよ。だって以前真衣と礼……」「もう過去の話よ」沙夜は高史の言葉を遮り、冷ややかに言った。「真衣は今幸せに暮らしているわ。仕事もあるし、可愛い娘もいる。もう過去のことに煩わされたくないの。だから、今後は真衣の前でそんな話をしたり、なぜこういう場に来ないのかとか聞かないで」高史の顔から笑顔が消え、彼は頷いた。「すまなかった、軽率だったよ」-キャピタルリゾートホテルでのパーティーはクライマックスを迎え、ゲストたちの笑い声とグラスの触れ合う音が賑やかなBGMとなっていた。礼央は会場の中央に立ち、ワイングラスを手にしていたが、どこか上の空だった――彼は次々と押し寄せる祝福の言葉に対応し終えたばかりだった。「礼央くん、留美は私の大事な一人娘なんだ。どうかよろしく頼むよ」留美の父、林武彦(はやし たけひこ)は礼央の肩を叩きながら、期待を込めて言った。「留美は小さい頃から甘やかされて育ったから、少しわがままだが、根は優しい子なんだ。仲良く暮らして、早く孫の顔を見せてくれ」礼央は彼を見て言った。「ありがとうございます」礼央の顔には何の感情も浮かんでいなかった。それが武彦に微かな不快感を残した。武彦は言った。「私は君の恩師と親友だった。あの時は……」礼央は言った。「失礼ですが、過去の話に興味はありませんので」彼はそう言い残すと、踵を返して去っていった。武彦はその場に立ち尽くした。礼央はうつむいて婚約パーティーを見つめていた。「礼央、何を考えてるんだ?」高史は手に持ったグラスを礼央に手渡しながら、彼の視線の先にいる留美を見た。「今日の留美さん、綺麗だな。しっかり見張ってい
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第1033話

この子は以前はとても活発だったのに、今はこんなに静かになってしまった。公徳はしゃがみ込み、翔太の顔を撫でながら言った。「翔太は背が伸びて、ますますハンサムになったね」友紀も近づいてきて、笑いながら言った。「山口社長に来ていただけて、礼央もきっと喜んでいますよ」宗一郎はそれ以上何も言わず、翔太の手を引いて礼央の方へ歩いていった。礼央は二人を見て一瞬呆然としたが、すぐに出迎えた。「山口社長」「おめでとう」宗一郎は手を差し出して礼央と軽く握手をし、誠意のこもった声で続けた。「末永くお幸せにな」礼央は頷いた。「ありがとう」礼央は翔太を見ると、胸に複雑な感情が渦巻いた――翔太は今や宗一郎の養子になっている。運命とは皮肉なものだ。「高瀬おじさん、こんにちは」翔太は礼央を見つめながら、小さな声で挨拶した。翔太の心は沈んでいた。目が涙で熱くなった。以前は自分を溺愛してくれた父親を、今はおじさんと呼ばなければならない。礼央は淡々と頷いた。宗一郎が言った。「もう、この子に対する感情は冷めてしまったか?」礼央は宗一郎を見て言った。「養子にしたからには、しっかりと面倒を見てやってくれ」宗一郎はニッコリ笑った。「もちろん、そのつもりだ」間もなくして。宗一郎は数人の客に囲まれた。礼央はテーブルの上の赤ワインをまた一杯飲み干し、会場全体を見渡した。公徳と友紀は社交的な笑みを浮かべながら、来賓たちと談笑している。留美も社交界の令嬢たちに囲まれ、楽しそうに笑いながら話していた。皆が自分の居場所で、自分の役割を演じている。「礼央、どうして一人でここにいるの?」留美が近づき、彼の腕を掴んだ。甘えたような口調で続けた。「さっきパパと何話してたの?どうせまた私を幸せにしろって言ってたんでしょう?」礼央は淡々と笑った。「別に。これから仲良く暮らせばいいだけのことさ」「じゃあ、ちゃんと覚えておいてね」留美は笑みを浮かべた。「私に辛い思いをさせたら、パパに言いつけてやるんだから」礼央は笑って言った。「ちょっと挨拶まわりに行ってくる」-その時、武彦が姿を現した。武彦はひっそりと現れたが、会場内の視線は彼に釘付けになった。高官である武彦は普段、国家レベルの研究所に身を潜め、公の場に現れる機会は少なく
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第1034話

「高瀬社長は優秀な人間です。お嬢さんが彼と結婚できるなんて、さぞお喜びでしょう。ただ、彼に他の目的がないとは言い切れませんよね?」武彦はグラスを持つ手を一瞬止め、無表情で尋ねた。「山口社長、それはどういう意味ですか?私には意味がよくわかりませんが」「特に意味はありません。ただの戯言ですよ」宗一郎は微笑み、少し離れた場所でゲストと談笑する礼央を見た。「ご覧ください。彼は自分の息子さえ捨てられる人間です。あなたのお嬢さんに真心を持って接すると思いますか?」武彦は表情が微かに変わり、警戒した口調で言った。「山口社長、結局何がおっしゃりたいのです?」「特に深い意味はありません。ただ一言忠告させていただいたまでですよ」宗一郎はさらに声を潜めて言った。「あなたが以前研究所でなさっていたことは承知しています。高瀬社長の手口については、すでにご存じでしょう?彼がそれを調べられないと思いますか?今あなたは平然と義父の立場でいられるが、いつかそのツケがお嬢さん回ってくるかもしれないと思ったことはありませんか?」武彦の身体が硬直し、グラスを持つ指先が白くなった。武彦は宗一郎の表情から何かを読み取ろうと見つめたが、結局何もわからなかった。礼央は少し離れた場所から二人のやり取りを見ていたが、近づこうとはしなかった。礼央は宗一郎の性格を熟知している。穏やかに見えて鋭く、一度狙った物は決して逃さない。礼央は興味深く思った。宗一郎は武彦から何を得ようとしているのだろう。「宗一郎を見習うことだ」公徳が傍に現れ、歯がゆそうに言った。「お前に彼の半分でも落ち着きがあり、心遣いができれば、俺も安心できるのだが」礼央はゆっくりと酒を一口飲んだ。舌先に酒の辛さを感じたが、何の味もしなかった。「彼は完璧な人間だ」礼央は離れた場所で武彦と堂々と話す宗一郎を見て、意味深に笑い、公徳に言った。「そこまで彼を評価するなら、養子にでもすればいいだろう?」公徳の表情が一瞬で険しくなり、眉をひそめて言った。「馬鹿言うな!くだらん!彼は山口家の人間だ。どうしてお前と比べられる?」「ただ言ってみただけだ」礼央は微かに笑い、幾分か気のない口調で言った。「そう怒らないで。そう言えば、今日の婚約パーティーで、彼の命を狙う者がいると聞いた」
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第1035話

この婚約パーティーは、最初から暗黙の了解のような不気味な雰囲気に包まれていた――ゲストたちはグラスを上げて談笑していたが、視線はいつも武彦と公徳の間をさまよっていた。留美のドレスを褒める社交界の令嬢たちも、内心は政略結婚への好奇心でいっぱいだった。スタッフたちの行き交う足取りさえ、通常のパーティーより幾分か慎重だった。武彦は水の入ったグラスを手に、会場の隅に立ち、眉をひそめていた。さきほど宗一郎が言い放った言葉は毒針のように、武彦の胸に突き刺さっていた――「あなたが以前研究所でなさったことを、高瀬社長が調べられないと思いますか?」「彼は自分の息子さえ捨てられる人間です。あなたのお嬢さんに真心を持って接すると思いますか?」一つ一つの言葉が、的確に武彦の急所を突いていた。武彦は生涯を研究所に捧げ、数え切れないほどのプロジェクトを手がけた。その中で出世と財産を得るために、何度か後ろめたいことも行ったのも事実だが、それらはもう過去に葬られたと思っていたのに、まさか宗一郎からその話を持ち出されるとは。さらに武彦を不安にさせたのは、落ち着いた礼央の態度だった――婚約パーティーが始まってから今まで、礼央はは終始礼儀正しい笑みを崩さず、余裕をもってゲストをもてなしていた。礼央は裏側の思惑や駆け引きに無関心な様子で、彼の平静さは却って武彦の心を不安にさせた。武彦が周囲を見渡すと、何か奇妙な感覚に襲われた。スタッフの持つトレイに乗ったシャンパングラスが揺れ、遠くで黒いスーツを着た二人の男の硬直した姿が見える。時折、会場中央のシャンデリアに視線を走らせると……武彦の心拍は理由もなく速まり、無意識に手に持ったグラスを握りしめた。「何を見ているのですか?」背後から突然、礼央の声がした。武彦が振り向くと、礼央がワイングラスを手に、平然とした目で自分を見つめていた。その瞳には何にも動じない静けさがあった。しかし、まさにこの平静な眼差しが、武彦を不安に掻き立てるのだ――武彦は宗一郎の言葉を思い出し、自分自身の暗い過去を顧みた。そして目の前にいる礼央を見て、この政略結婚が最初から罠であったことを突然悟った。「何でもないよ」武彦は無理に笑みを作って言った。「ただ、人の多い場所には慣れていなくてね」礼央は軽く笑い、武
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第1036話

沙夜は人混みの中に立ち、目の前の光景を見て、心の中でしみじみとした感慨を覚えた。数ヶ月前まで真衣と礼央は夫婦だったのに、今彼は別の人と婚約しようとしている。本当に、人生には何が起きるかわからない。留美がステージの階段に足を踏み入れようとした瞬間、突然耳をつんざくような金属の摩擦音が響いた。誰もが無意識に上を見上げた――会場の中央にあった巨大なシャンデリアが、ゆっくりと落下し始めていた!「シャンデリアが!落ちてくる!」誰かの叫び声とともに、場内は瞬く間に騒然となった。ゲストたちはパニックになり四方八方へ逃げた。会場には悲鳴や泣き叫ぶ声、倒れるテーブルや椅子の音が入り混じった。ついさきほどまで華やかだった会場は、一瞬にしてまるで混乱とした戦場のように化した。沙夜はステージのすぐ傍に呆然と立ち尽くした。シャンデリアはまさに沙夜の頭上にあった。巨大な影が覆いかぶさり、彼女は恐怖で身動きが取れなくなった。今にも崩れ落ちそうなシャンデリアを見て、頭が真っ白になり、逃げることもできなかった。その時、突然沙夜は力強い腕に引っ張られた。沙夜はよろめいて地面に倒れ込んだ。その直後、「ドーン」という轟音と共に、巨大なシャンデリアが彼女がさきほどいた場所に落下し、クリスタルの破片が飛び散り、地面が揺れた。沙夜は震えながら地面に這いつくばり、隣にいる人物を見上げた。礼央が沙夜の傍に立っていた。彼は青白い顔で額に冷や汗を浮かべ、彼女を引っ張った手は今も微かに震えていた。明らかに、かなりの体力を消耗しているようだった。「大丈夫か?」礼央はしゃがみ込み、落ち着いた眼差しで沙夜を見た。沙夜は震える声で首を振った。「ええ……大丈夫、ありがとう」礼央は何も言わず、ただ手を差し伸べて沙夜を立ち上がらせた。二人はその場に立ち、目の前の無残な光景を見つめた。シャンデリアは無数の破片となり、周囲のテーブルや椅子はめちゃくちゃに倒れ、ゲストたちは逃げ惑い、中には破片で腕を切って血を流している者もいた。留美の顔は恐怖で青ざめ、武彦の胸に飛び込んで泣きじゃくっていた。公徳がステージの上から、青ざめた顔でボディーガードに向かって叫んだ。「急げ。ゲストの安全を確保し、証明が落ちた原因を調べろ!」宗一郎は翔太を連れて隅から現れた
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第1037話

礼央は暗い瞳のまま、微動だにしなかった。宗一郎は何かを悟ったような表情を浮かべながら、その様子を傍で黙って見つめていた。宗一郎は以前から武彦が清廉潔白ではなく、彼を恨んでいる人間がいるであろうことに気付いていたが、まさか相手が娘の婚約パーティーでこれほどの騒ぎを起こすとは思っていなかった。どうやら、武彦の背後にいる人物は、彼の想像以上に焦っていたようだ。あるいはもしかすると……宗一郎はさらに深い眼差しで礼央を見つめた。これは最初から仕組まれた婚約だった。傍にいた沙夜は目の前の光景を見て、恐ろしくなり、冷や汗をかいた。もし礼央が助けてくれなかったら、今頃自分はシャンデリアの下敷きになっていただろう。礼央の後ろ姿を見つめると、沙夜の胸に複雑な感情が渦巻いた――かつて真衣を傷つけたこの男は、ためらいもなく自分を救ってくれた。会場の混乱は続き、警察がすぐに現場に到着し、現場の封鎖や目撃者への聞き込み、監視カメラの確認を始めた。礼央は警察の取り調べに応じ、武彦は留美を休憩室に連れて行き、公徳は電話をかけ続け、事態の収拾を図った。宗一郎は翔太を連れて隅に立ち、混乱した会場の様子をじっと見つめていた。礼央はこのような事態にも動じず、整然と対応し、皆に謝罪をした後、一人ずつ見送った。公徳は顔に険しい表情を浮かべていた。友紀はずっと礼央を見つめていた。彼女は息子を気の毒に思った。高瀬家のために粉骨砕身し、政略結婚も高瀬家のために決めたものだった。周りにいるのは、誰もかれも手強い相手ばかりなのに。こんな事件が起きて、疲労は重なる一方だ。真衣と一緒にいた頃の方がまだましだった……あの時、彼女がもう少し冷静さを保っていられたら、どれほどよかっただろう。しかしこの世には、後悔につける薬はない。友紀は歩み寄り、礼央の手を握りしめた。彼女は深い眼差しで彼を見つめた。礼央は母親を一瞥し、彼女の手を軽く叩いた。「湊に送らせるよ」友紀は目頭を熱くして礼央を見た。「礼央、ごめんね……」「母さん」礼央は彼女を見て言った。「疲れただろ、帰ってゆっくり休んで」彼は湊に友紀を送らせた。友紀は以前、とても苦しい生活を送っていた。そのため権力を得た後はそれに固執し、全てに厳しい要求を課して、い
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第1038話

真衣は心の中で悟った――武彦の身分は特殊で、宗一郎が以前に言及した研究所の過去にも関わっている。この事件は、簡単には終結しないだろう。「とにかく考えすぎないで、早く家に帰って休んで。何かあれば明日また話そう」電話を切った。真衣は動揺がなかなか収まらず、ソファに寄りかかった。婚約パーティーでの事件、重要参考人として監視された武彦、そして礼央からの電話。それら全てが繋がり、まるで背後に見えない網が張り巡らされているような気がした。一方、病院では青白い顔をした留美がベッドに横たわっていた。婚約パーティーで受けたショックが胎児に影響し、緊急搬送されたのだ。看護師が点滴を終えると、留美はすぐに礼央に電話をかけ、来てくれるように頼んだ。「礼央、私、病院にいるの。来てくれない?少し怖くて」留美の声は弱々しく、涙交じりだった。礼央はパソコンを見つめたまま、淡々と言った。「今は手が離せない。婚約パーティーの対応や警察の調査にも協力しなければならないんだ。湊を行かせるから、何かあれば彼に言ってくれ」留美は胸に不安と寂しさを感じ、携帯を握る手に力を込めた。「こんな時間まで、まだ忙しいって言うの?私とお腹の子に会いに来る時間もないの?」「今は非常事態なんだ。ここを離れるわけにはいかない」礼央の声は冷めていた。「医者から静養が必要だと言われたんだろう?余計なことは考えずに休んでいればいい」そう言うと、留美の返答を待たずに電話を切った。留美は暗くなった携帯の画面を見つめると、目に涙が浮かんだ。ベッドに横たわると、不安がますます募っていく。婚約パーティーが始まってから、礼央の態度は冷たいままだった。そして、シャンデリアが落ちた時。礼央が真っ先に助けたのは沙夜で、妊娠中の婚約者である自分ではなかった。入院している今も、礼央は自分に会いに来る気もなく、代わりに秘書をよこすと言う。まさか、宗一郎が言ったように、礼央は自分を愛していないのかしら?この結婚は、本当にただの利益交換に過ぎないのかしら?留美は考えれば考えるほど恐ろしくなり、心の疑念はツタのように広がって行った。武彦からの忠告、宗一郎が武彦に語った言葉、そして礼央のここ数日の不審な行動が頭をよぎった。突然、この華やかに見える政略結婚が、最初から罠
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第1039話

電話を切ると、湊はすぐに礼央のもとへ向かった。礼央の書斎は空気が淀み、重苦しい雰囲気が漂っていた。湊はデスクの前に立ち、整理したばかりの書類を礼央に手渡しながら、声を潜めて言った。「高瀬社長、武彦さんはすでに警察の監視下に置かれています。現在は北城を離れることが制限され、調査に協力するよう求められています」礼央は広々とした椅子に腰かけ、まだ火のついていないタバコを挟みながら、視線を書類に落としていた。目には何にも動じない冷静さがあった。礼央はゆっくりと頷き、「わかった」と言った。「警察側からシャンデリアの落下に関する新しい手がかりはあったのか?」「すぐに確認します。おそらくあれはただの事故でしょう」礼央は顎を上げた。彼はタバコを灰皿に押し当てると、立ち上がって窓際へ歩いた。「引き続き監視しろ。何かあればすぐに報告してくれ」礼央は威厳のある声で言った。湊が退出すると、書斎には礼央一人だけが残った。-一方、その頃林家では。武彦は監視下に置かれ、家の周辺には厳重な警備が敷かれていた。公徳は落ち着かない様子で、そわそわと歩き回っていた。彼は病院から戻ると、武彦が事件の重要参考人として監視下に置かれたとの連絡を受け、すぐに駆けつけ面会を求めていた。公徳は、もし武彦の握る多くの情報が公になれば、林家だけでなく高瀬家も巻き込まれることを理解していた。「高瀬さん、申し訳ありませんが、林さんは現在警察の監視下にあるため、面会できません」警官の声は、交渉の余地がないほど冷ややかだった。公徳は表情を曇らせたが、どうすることもできなかった。公徳はガラス越しに、遠く離れた場所にいる武彦をただ見つめるしかなかった――暫くすると、武彦は公徳の視線に気づき、顔を上げて窓の外を見た。二人は何かを伝え合うように、視線を交わした。翌朝早く、公徳はコネを通じ、ついに武彦と二人きりで会う機会を得た。冷めきった水の入ったグラスの置かれた面会室で、二人は向かい合って座った。「あの品はどこに隠してある?」公徳は焦燥感に満ちた声で続けた。「警察が今必死に探している。見つかったら、我々両家はどちらも終わりだ」武彦は公徳を見て、自嘲的な笑みを浮かべて言った。「今さら慌てて何になる?」武彦は少し間を
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第1040話

さらに武彦を取り込むために、礼央の気持ちを考慮せず、礼央と留美を無理やり婚約させたことを公徳は思い出した。公徳が全て完璧だと思っていたことは、全て礼央に見透かされていた。「どうあれ、礼央は私の息子だ。血の繋がりには逆らえない」頑固な公徳の言葉は、むしろ自らを欺いているようさえ響いた。「礼央は長年、高瀬家のために働いてきた。今まで一度だって不満を口にしたことはない。いつも従順な息子が俺に反抗するなんてあり得ないことだ」武彦は失望した目で公徳を見つめ、深く首を振りながら言った。「公徳、お前は彼を過小評価しすぎている……本当に礼央くんがお前に従順だと思うか?彼は従順を装っているだけだ。そして、そのために耐えてきた。まるで調教された狼のようにな。表向きは従順でも、裏では力を蓄え、反撃の時を待っている」武彦は一呼吸置き、さらに重々しい口調で続けた。「婚約パーティーの一件が、本当に私を狙ったものだと思うか?おそらく、これは彼の計画の始まりに過ぎない。彼はとっくにお前と私の取引や、私たちの闇の部分を全て知っている。今はただ、お前から完全に離れる機会を待っているだけだ」公徳の顔は一瞬で蒼白になり、身体が微かに震えていた。最近の礼央の不審な行動が、公徳の頭をよぎった――「そんなはずは……」公徳は呟いた。「信じるか信じないかはお前次第だが」武彦は立ち上がり、囚人服の皺を伸ばした。「私に言えるのはここまでだ。せいぜい気をつけることだ、公徳。私たちはすでにこのゲームに負けている。礼央くんこそが最後の勝者だ」そう言い残すと、武彦は面会室を後にした。公徳は青ざめた顔で、虚ろな目をしたままその場に座り込んでいた。公徳は窓の外の陽光を見つめながら愕然とした――自分が育てた息子が、こんなにも恐ろしい存在になっていたなんて。礼央が次に何をするのか、高瀬家の未来がどうなるのか、公徳には見当もつかなかった。-その時、高瀬グループの社長オフィスでは、礼央がモニターに映し出された監視カメラの映像を見ていた――それは婚約パーティーの日、公徳と武彦が隅で密談している場面だった。礼央の口元に冷笑を浮かべ、目は嘲笑に満ちていた。礼央はとっくに父と武彦の関係に気付いており、彼らの闇の部分を全て知っていた。そして翌日。礼央は広々と
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