All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 1601 - Chapter 1610

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第1601話

車は滑り出すように発進し、深夜の静まり返った道路を走った。真衣は千咲をじっと見つめ、拳を固く握りしめた。手のひらに爪を食い込ませ、その痛みで正気を保っていた。千咲の微かな息遣いが、真衣の胸を打ちつけるように響いた。真衣は目を閉じることも、気を緩めることも、ほんの少し油断することもできなかった。前世で、千咲は高熱による肺炎で亡くなった。今世では、たとえ命を懸けても、千咲を守り抜かなければならない。ミラー越しに、不安そうな顔で身体をこわばらせている真衣を見ると、礼央の胸は痛んだ。礼央は冷たくなった真衣の手を握って言った。「大丈夫、すぐ病院に着くから」「うん」真衣は震える声で返事をした。「俺がついてる」礼央は声を和らげた。「何があろうと、俺は傍にいる。千咲に何も起きさせやしないし、お前一人を苦しませたりしない」真衣の目頭が熱くなり、また涙がこぼれた。彼女は礼央に打ち明けたかった。でも――あの記憶はあまりにも重く、不気味で、信じがたいものだった。生まれ変わるなんて話を、誰が信じるだろう?真衣は礼央にまで自分と同じ不安や恐怖を味わわせたくなかった。ましてや、ようやく手に入れた平穏な毎日を壊したくはなかった。彼女は不安や恐怖を、心の中に押し込めるしかなかった。車は病院の入口に静かに停まった。夜空の下、救急室の明かりはひときわ目立って見えた。礼央は千咲を抱きかかえて車から降り、真衣はよろめきながら後を追った。「夜分にすみません!助けて下さい!」礼央の声には切迫感が滲んでいた。「七歳の娘が熱を出して、意識が朦朧としているんです」看護師と医師がすぐに駆け寄り、慣れた様子で体温測定、聴診、喉の診察を行った。真衣は傍に立ち、診察を行う医師をじっと見つめていた。体温計に数値が表示された――38.4。高熱だ。真衣は全身の力が抜け、その場に崩れ落ちそうになった。前世と、同じ体温だった。全く同じ。真衣は目の前が真っ暗になり、無意識に壁に手を伸ばして、ようやく身体を支えた。「肺炎やウイルス感染の可能性を確かめるため、血液検査をし、レントゲンを撮る必要があります」医師は素早く手配した。「とりあえず、解熱剤の注射を打って様子を見ましょう」「わかりました」礼央はすぐに応じた。真衣は
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第1602話

真衣は何も言わず、身体を震わせながら、礼央の胸に顔を埋めた。数十分が、まるで一世紀のようだった。ようやく医師が検査結果を手にやって来て、表情を和らげて言った。「ご安心ください。大きな問題はありません。ウイルス感染によって熱が出ていますが、肺に異常はなく、数値も正常です。熱が下がれば、退院していただいて構いませんよ」「ほ……本当ですか?」真衣は驚いた表情で、猛然と顔を上げて尋ねた。「ええ」医師は笑った。「お子さんは免疫力が弱いので、季節の変わり目にはよくあることです。あまり心配なさらないでください。今夜一晩様子を見ましょう」「先生、ありがとうございます……」真衣は医師に礼を言ったが、まだ身体はこわばったままだった。医師は大したことはないと言った。本当にもう大丈夫なのだ。前世とは違い、肺炎にはならず、悪化もしていない。しかし、身体の本能が、彼女を抑えきれない恐怖に駆り立てていた。心臓が激しく鼓動し、手足は冷え切り、全身が張り詰めた弓のように硬直していた。真衣はその場を離れられず、目を閉じたり、千咲から目を逸らすことができなかった。点滴室で、礼央は真衣を見つめていた。彼女は確かに医師から「心配ない」という言葉を聞いたはずだ。検査の数値も正常で、千咲の呼吸も次第に落ち着いているのに、真衣はまだ緊張している。目には力がなく、顔色は蒼白で、両手は必死に服の裾を握りしめ、じっと千咲を見つめている。明らかに、ただ単に母親が子供を案じている緊張感とは違う。まるで、絶望に近い恐怖が彼女の身体から滲み出ているようだった。それは、極限の喪失感や苦痛を経験した者だけが持つ、ストレス反応だった。礼央の心は次第に沈んでいった。彼は真衣をよく理解している。理性的で落ち着きがあり、たとえ宗一郎の手による危険な状況に直面しても、冷静さを保っていられる真衣が、ただの高熱で、医師がはっきりと心配ないと言っているにも関わらず、これほどまでに動揺している。おかしい。明らかにおかしい。礼央は、真衣はただ最愛の娘を心配しているだけなのだと思っていた。しかし今、彼ははっきりと感じ取った。きっと何か、彼女が動揺する理由があるのだ。真衣がずっと、抱えてきた彼の知らない秘密が。看護師が点滴を交換して病室を去
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第1603話

礼央は手を伸ばし、冷たくなって震える真衣の手を優しく握りしめた。彼は問い詰めたりはせず、ただ穏やかな口調で真衣が固く閉ざした心の扉を開こうとした。「真衣、何か悩みがあるなら、話してほしい」「どんなことでも、どんなに難しく、辛いことでも、信じがたいことでも構わないから」「ずっと……俺に言えなかったことがあるんじゃないか?」真衣はようやく顔を上げ、礼央を見た。灯りに照らされた礼央の眼差しは優しく、その目は心配や気遣いに満ちていた。礼央は愛おし気に真衣を見つめた。彼は彼女が傷つき、苦しむことを恐れているようだった。真衣は首を振った。「大丈夫。ただ昔、嫌な夢をみただけなの」礼央は真衣を見た。「夢?」真衣は頷いた。「そう、ただの夢」-千咲が退院した翌日の夜明け前、真衣は目を覚ました。千咲はぐっすりと眠り、気持ちよさそうに規則正しい寝息を立てていた。真衣は傍でしばらく千咲の寝顔を眺め、指先でそっと額に触れ、平熱に下がっていることを確認すると、ようやく安堵の息をついた。しかし、今もまだ、昨夜の病院での恐怖が神経に刻み込まれていた。ただの高熱だったが、真衣は暗い過去の記憶へと引きずり戻されるところだった。もし礼央が傍で支えてくれていなかったら、どれほど取り乱していたことだろう。「心配ない。妹尾(せのお)さんがいる。何も起こりやしないよ」礼央は後ろからそっと彼女を抱きしめた。彼はすでにスーツを着て、身支度を済ませていた。ただ、目の下の隈が、彼も昨夜眠れなかったことを物語っていた。「妹尾さんに、一時間ごとに体温を測り、医師に言われた通りの食事を用意し、部屋の換気をするように伝えておいた」礼央は一つ一つ丁寧に説明した。「何かあればすぐに電話をくれる。こちらからも随時、人を遣って様子を確認させるから」真衣は軽く頷き、彼の胸に顔を埋めて言った。「わかってる。ただ……どうしても気になっちゃって」「わかるよ」礼央は言った。「でも、今日の国際会議は重要だ。九空テクノロジーがここまで準備をしてきたんだ、欠席はできない」真衣は深く息を吸った。そのことを、彼女は誰よりもわかっている。今回の国際航空宇宙技術サミットは、国内外のトップクラスの機関、国立科学研究所、ハイテク企業などが集結し、九空テク
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第1604話

オフィスに入ると、アシスタントがタブレットや書類を手渡しながら言った。「寺原さん、常陸社長が会議室でお待ちです。サミット会場側との調整も済んでおり、車両やスタッフ、資料、通訳もすべて手配済みです。また、海外の主要なパートナー数名は、すでにホテルに到着されています」「ありがとう」真衣は書類を受け取り、素早く目を通した。「航空宇宙向けの新素材、宇宙実験プラットフォーム、国際共同研究所に関する計画案をいくつか抜き出しておいて。後で常陸社長と確認するから」「承知しました」真衣は鞄を置くと、まっすぐ大会議室へ向かった。部屋に入ると、安浩は巨大なスクリーンの前に立ち、そこに表示された飛行パラメータや軌道モデル、材料データを見つめていた。静まり返った会議室の中、黒いシャツに身を包んだ彼の目は鋭く、研究者特有の厳密さと距離感を漂わせていた。物音を聞きつけ、安浩が振り返った。「待ってたよ」「ええ」真衣は安浩の傍に歩み寄り、一緒にスクリーンを眺めた。「状況は?昨夜、私が不在の間に、何か問題はありませんでしたか?」「すべて順調だよ」安浩は続けた。「地上シミュレーション試験は正常、データ同期も問題ない。提携先からの初期提案は僕の方で選別しておいた。真にコア技術を持ち、誠意があり、長期的に事業を展開できる相手はそう多くない」真衣は頷いた。彼女と安浩は息がぴったりと合っている。一方が戦略、リソース、対外提携、事業展開を担当する。そしてもう一方が技術や研究開発、コア技術の課題解決、セキュリティや安定性を担当する。二人は、外部への注力と内部での専門知識、ビジネスセンスと技術力という強みを活かし、九空テクノロジーを創業期から少しずつ、国内の商業宇宙開発業界のトップクラスへと導いた。「今回のサミットの焦点が何であるかは、君も僕もよくわかっている」真衣はスクリーン上の「国際共同研究室」という文字を指差した。「国内の宇宙技術は決して弱くはないけれど、一部の基礎材料、長期軌道上の信頼性、分野横断的な汎用実験プラットフォームにおいては、補完できる余地がある」「私が求めているのは単なる提携ではなく、長期的に継続できる技術的な連携です」安浩の表情がわずかに曇った。「わかってる。ただし注意が必要だ。中には、情報を探り、ロードマップを引き出す
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第1605話

午前九時、国際会議センター。真衣が到着すると、会場はすでに人でごった返していた。メイン会場は明るく照らされ、巨大なLEDスクリーンにテーマが映し出されていた――グローバル航空宇宙技術イノベーション・未来協力サミット。欧米、アジア、中東などから集まった研究機関や企業の代表者、専門家、学者、外交官らが広大な会場内を行き交っていた。まさに、世界の舞台を中心に展開される対話の場だった。真衣が会場に入ると、たちまち多くの視線を集めた。若く、女性でありながら、商業宇宙分野を牽引するトップリーダーの一人。彼女は容姿と気品を兼ね備え、冷静で鋭い目を持っている。多くの者が九空テクノロジーや彼女の立場を理解しており、来場者たちは次々と自ら近づき、真衣と挨拶を交わした。真衣は落ち着いて応対し、礼儀正しく、絶妙な距離感を保った。耳を傾けるべき時には耳を傾け、意見を述べるべき時には述べる。後に問題となるような発言は避け、安易な約束をすることもなかった。「寺原さん、こちらへどうぞ。メインフォーラムのゲスト席をご用意しております」主催者が自ら出迎え、丁寧に言った。「次は対話セッションで、テーマは『宇宙技術の商業化と国際化』です。ご準備いただき、ありがとうございます」真衣は係員について最前列へと歩きながら、視線をそっと会場全体に巡らせた。彼女は、確かな実力とコア技術をもつパートナーを探していた。単なる宣伝や表舞台に立つためではなく、確かな技術と資金を持ち、長期的に共に事業を展開できるパートナーを。メインフォーラムが始まると、会場に厳粛な空気が流れた。各国の代表が順に発言し、マクロ戦略や、政策環境、今後十年の宇宙経済の青写真について語る者もいた。真衣は静かに席に座り、真剣に耳を傾け、時折ノートに素早くメモを取った。ある外国人が発言した時、彼女の目が微かに動いた。彼の名はエリアス・フォス。海外の航空宇宙向け新素材と小型宇宙実験プラットフォームの研究に注力する機関に所属しており、若くして研究所の中核を担う責任者を任されている。彼は概念ではなく、幾つかの重要な技術を即座に提示した。彼は、軌道上で長期間使用できる耐熱・耐放射線軽量材料、再利用が可能な宇宙機構造疲労監視システムや小型・低コストで展開可能な宇宙実験プラッ
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第1606話

真衣は声を聞いて、振り返った。目の前に先ほど演説していたエリアス・フォスが立っていた。彼は金色の髪に、美しい青い瞳で、背筋をぴんと伸ばし、学者らしい穏やかさと厳格な雰囲気を漂わせていた。彼はブラックコーヒーを手に、顔には品のよい笑みを浮かべていた。「エリアス・フォスと申します」「先ほど、商業宇宙開発のコンプライアンスと安全性に関する演説を拝聴いたしましたが、実に素晴らしい内容でした」彼は手を差し伸べて続けた。「宇宙実験プラットフォームの商業化について、多くの業界関係者よりもはるかに深いご理解をお持ちですね」真衣は手を伸ばして握手を交わした。「ありがとうございます。フォスさんのご意見も非常に実直で、空論や誇張がなく、さらに対等な協力関係についても語っておられ、とても貴重だと感じました」真衣の言った「実直」という言葉を聞いて、エリアスの目に共感の色が浮かんだ。「最高のお言葉をありがとうございます」彼は笑って続けた。「実は、私は今回、長期的に根を下ろす準備のためにここを訪れたのです。現在、我々は宇宙材料と軌道上モニタリングを研究対象とした共同研究所の建設を進めているのですが、今我々に不足しているのは、資金や施設ではなく、技術やビジネスに精通し、長期的な視野を持つパートナーなのです」真衣は目を輝かせて言った。「フォスさんが望む提携モデルはどのようなものですか?」「簡潔に言って」エリアスは言った。「あなた方は、導入環境、リソース、市場の需要、エンジニアリング能力をお持ちです。一方当社には、基盤となる材料技術、長年蓄積した試験データ、海外での販路があります。我々は共同で研究所を設立し、プロジェクトを申請して知的財産権を保有し、世界市場へ展開できます」彼は少し間を置いて続けた。「我々は、コア技術を隠したりしません」その一言が、真衣の警戒心を完全に解いた。彼女は「提携」という言葉を名目に、提案書やロードマップを搾取しようとする海外の企業を何度も見てきた。エリアスのように率直で、コア技術を公開し、協力しようとする企業や人物は極めて稀だ。「フォスさん」真衣は真剣な口調で言った。「九空テクノロジーは今、次世代の宇宙試験プラットフォームを推進しています。私たちの目標は、軽量化、長寿命と高い信頼性です。御社の研究所が
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第1607話

また、海外の基盤技術の詳細を十分に理解できていない真衣に、エリアスはわかりやすく説明した。気が付くと、中休みの時間がまもなく終わろうとしていた。「寺原さん、お願いがあるのですが」エリアスは時計を見ながら言った。「国内にある私の共同研究所が、明日の午前中に一般公開されるんです」「もしよければ、私が直接ご案内し、設備や試験ライン、技術チームをご覧いただき、詳細な提携案についてもご説明させていただきます」彼は真剣な眼差しで言った。「我々が協力し合えることを願っていますよ」真衣はすぐには承諾も拒否もせず、二つ質問をした。「現在、研究室の認可はすべて整っていますか?中核技術の知的財産権の帰属は明確ですか?」「すべて整い、明確です」エリアスは即座に答えた。「明日書類をお渡しします。法的な問題や所有権、安全上の問題は一切ありません。そちらが、これらの点を重視されていることは承知しています。曖昧な話であなたの時間を無駄にするつもりはありません」真衣は軽く頷いた。彼は慎重且つ専門知識があり、誠実で万全の準備を整えている。接するほどに、真衣は彼が深く付き合う価値のあるパートナーだと確信した。「わかりました」真衣は顔を上げて言った。「明日の午前十時に伺います。技術責任者も同行させます。現場を見て、話し合い、要件の確認を行いましょう」エリアスは微笑んで言った。「では、明日を楽しみにしています」「私たちで、業界に真の変化をもたらす何かを生み出せると信じています」「私も楽しみにしています」真衣は彼ともう一度握手を交わした。どちらも、礼儀正しく毅然としていた。サミットの後半、真衣は国内の代表者として壇上に立った。カメラが彼女に向けられると、会場の視線が彼女に集中した。真衣は落ち着き、穏やかな口調で論理的に話した。彼女は技術に関して、根本的な仕組みを理解し、ビジネスについては、実践的なノウハウを心得ている。国際協力については、彼女は守るべき一線と越えてはならない一線を理解し、未来については、彼女には広い視野と忍耐強さがあった。会場では、多くの外国人がしきりに頷き、皆が賛同と敬意を込めた目で真衣を見つめていた。もはや、若さや、女性だからという理由で、真衣を軽視する者はいなかった。これは実力であり、
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第1608話

今日は重苦しい印象を与えるスーツではなく、真衣はベージュのトレンチコートにシンプルな白いブラウスを合わせ、前日よりも落ち着いた優しい雰囲気を漂わせていた。技術ディレクターと二人のアシスタントが提案書を手に同行していた。エリアスはすでに入り口に立って彼女を待っていた。彼も今日はカジュアルなスーツを着ており、会場での堅苦い雰囲気は感じられなかった。真衣を見ると彼は笑顔で駆け寄って言った。「寺原さん、時間通りですね」「約束の時間に、遅れてはいけませんから」真衣は彼と軽く握手を交わした。「先に研究所全体をご案内します」エリアスは歩きながら説明を始めた。「こちらが材料調製エリアで、あちらは力学特性試験室と環境シミュレーションルーム。そして先日搬入した軌道上モニタリング用監視プロトタイプです。多くの設備が国内で初公開となります」辺りは静かで、通路は清潔だった。行き交う人々は皆同じ作業服を着て、真剣な表情で足早に歩き、一目見て長年研究に没頭してきたチームだとわかった。道中、真衣は細部までしっかりと観察した。一瞥するだけではなく、じっくりと観察した。真衣は材料サンプルの前で立ち止まり、成分や耐熱温度の範囲、疲労寿命について尋ねた。環境シミュレーションルームの前で足を止めると、過酷な環境下でのデータの安定性についても尋ねた。監視システムのスクリーン前では、リアルタイムで送られてくるグラフを真剣に見つめ、細部について一つ二つ質問を投げかけた。真衣と話すたび、エリアスは驚いた。彼は当初、真衣が戦略レベルの意思決定者に過ぎないと思っていたが、技術的な細部について、これほど深い知識を持っているとは思っていなかった。「寺原さんは、工学を専攻されていたんですか?」彼は思わず尋ねた。「正統派の宇宙工学とは言えませんが、ずっとこの分野に身を置いてきました」真衣は微笑んだ。「知識のない人間が提携の交渉をしても、すぐに蚊帳の外に置かれてしまいますから。私たちが何について協力するのかを、私は理解しておかなければなりません」エリアスは深く頷いた。「あなたのような意思決定者はめったにいません。多くの人は決算書や評価額しか見ませんが、あなたは原理や信頼性を重視し、長期的な視野を持っておられる」一連の過程を観察した後、真衣は決意を固め
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第1609話

「是非食事をしながら、今後について話しましょう」彼の言葉は適切で、節度をわきまえており、ごく普通の謝辞のように聞こえた。傍にいたアシスタントがそっと目を上げた。通常、こうした場面で、相手からの誘いを断るのは得策ではない。しかし真衣はためらわず、穏やかな声で礼儀正しく言った。「お誘いいただき、ありがとうございます。ですが、今夜は時間がないので、遠慮させていただきます」エリアスは、まさか断られるとは思っていなかったようで、驚いた表情を見せた。真衣は正直に事情を話した。「実は娘が熱を出して入院して、昨日退院したばかりなんです。だから今夜は早く帰って、傍にいてあげたくて」真衣は自然な口調で続けた。「もちろん仕事も、今回の提携のお話も大切なのですが、娘はきっと私に傍にいてほしいと思うんです」エリアスは、にっこりと笑って頷いた。「なるほど、そうだったんですか。もちろん、子どもよりも大切なものなどありません」彼は感心したように言った。「寺原さん、私は本当に感服しました。多くの人は仕事や接待のために、大切なことを後回しにするが、あなたは優先順位をきちんと見極め、ノーと言える勇気もある。食事は別の日にお願いします。その時に、今後についてゆっくりお話ししましょう」真衣は微笑んだ。「すみません、子どものことは先延ばしにはできないんです」「もちろんです」エリアスは心から賛同した。「では、食事は明日の昼に延期にしましょう。それなら、あなたのプライベートな時間を奪わず、帰宅時間にも影響しないでしょうから」「ありがとうございます」真衣は頷いて承諾した。「明日の昼食は私に手配させて下さい」話がまとまり、双方とも安堵の息をついた。さらに十分ほど今後の連携フローについて話し、真衣は席を立ち、帰路についた。エリアスは彼女が車に乗るまで見送ると言った。「寺原さん、正式に契約を結べる日を楽しみにしていますよ」「ええ、私もです」車が発進すると、窓から日差しが差し込んだ。アシスタントが言った。「寺原さん、先ほど食事のお誘いを断った時は少し心配していましたが、先方が不快な思いをされていなかったようでよかったです」真衣は窓の外を見つめ、微笑んだ。「長続きする関係は、たった一度の食事やお酒の席で維持されるものではないわ。
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第1610話

真衣は帰宅するとすぐに安浩に連絡を取り、提携について話し合った。安浩は調査した上で問題ないと判断した。双方は、契約を結ぶ日時を決めた。九空テクノロジー。契約書はすでに準備が整い、各条項も確認済みで、あとは双方が署名するだけだった。これは国際間での、宇宙航空技術における深い協力関係だった。真衣は指先で紙面をなぞり、落ち着いた表情で向かい側に座るエリアスを見つめた。彼はカジュアルなスーツを着て、リラックスした様子で、期待に満ちた表情をしていた。安浩の前の巨大なスクリーンには九空テクノロジーとエリアスの研究所が共同開発した軽量宇宙航空材料のシミュレーションデータの曲線が表示され、データは安定しており、正確で、期待通りのものだった。安浩は元々口数が少なく、重要なポイントについてのみ発言したが、彼の言葉はどれも核心をつくものだった。「契約条項については、法務、技術、コンプライアンスの三部門による審査がすべて完了しています」真衣が言った。「知的財産の共有、研究開発投資比率、成果転化の分配、リスク負担について、すべて異議はありません」エリアスは軽く頷いた。「私の方でも確認しました」「寺原さん、常陸社長。九空テクノロジーとの打ち合わせは、私がこの国で経験した中で最もスムーズで、最も安心できる内容でした」彼は間を置いて続けた。「今まで私は、表向きの体裁ばかりを重視し、契約後に仕事や提携関係をおざなりにする企業を多く見て来ました。しかし、あなた方は違う。技術や実践を重視し、長期的な視野を持っておられる」安浩は淡々と言った。「宇宙開発において、虚飾は許されません。データも試験も嘘をつきません。一度宇宙に出れば、誤りを隠す余地はありませんから」エリアスは深く同意した。「仰る通りです。だからこそ、私はあなた方と協力しなければならないと、強く思うようになったのです」予定通り、双方が契約内容に合意した後、正式な調印式の準備が進められることになった。九空テクノロジーは業界メディア、関連機関、パートナー企業を招待し、宇宙航空材料分野における国際間での提携関係を正式に発表した。アシスタントはすでに計画案や、会場、備品、メディアリストを準備しており、あとは真衣が最終決定を下すのを待つだけの状態だった。真衣が調印式
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