All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 1601 - Chapter 1605

1605 Chapters

第1601話

車は滑り出すように発進し、深夜の静まり返った道路を走った。真衣は千咲をじっと見つめ、拳を固く握りしめた。手のひらに爪を食い込ませ、その痛みで正気を保っていた。千咲の微かな息遣いが、真衣の胸を打ちつけるように響いた。真衣は目を閉じることも、気を緩めることも、ほんの少し油断することもできなかった。前世で、千咲は高熱による肺炎で亡くなった。今世では、たとえ命を懸けても、千咲を守り抜かなければならない。ミラー越しに、不安そうな顔で身体をこわばらせている真衣を見ると、礼央の胸は痛んだ。礼央は冷たくなった真衣の手を握って言った。「大丈夫、すぐ病院に着くから」「うん」真衣は震える声で返事をした。「俺がついてる」礼央は声を和らげた。「何があろうと、俺は傍にいる。千咲に何も起きさせやしないし、お前一人を苦しませたりしない」真衣の目頭が熱くなり、また涙がこぼれた。彼女は礼央に打ち明けたかった。でも――あの記憶はあまりにも重く、不気味で、信じがたいものだった。生まれ変わるなんて話を、誰が信じるだろう?真衣は礼央にまで自分と同じ不安や恐怖を味わわせたくなかった。ましてや、ようやく手に入れた平穏な毎日を壊したくはなかった。彼女は不安や恐怖を、心の中に押し込めるしかなかった。車は病院の入口に静かに停まった。夜空の下、救急室の明かりはひときわ目立って見えた。礼央は千咲を抱きかかえて車から降り、真衣はよろめきながら後を追った。「夜分にすみません!助けて下さい!」礼央の声には切迫感が滲んでいた。「七歳の娘が熱を出して、意識が朦朧としているんです」看護師と医師がすぐに駆け寄り、慣れた様子で体温測定、聴診、喉の診察を行った。真衣は傍に立ち、診察を行う医師をじっと見つめていた。体温計に数値が表示された――38.4。高熱だ。真衣は全身の力が抜け、その場に崩れ落ちそうになった。前世と、同じ体温だった。全く同じ。真衣は目の前が真っ暗になり、無意識に壁に手を伸ばして、ようやく身体を支えた。「肺炎やウイルス感染の可能性を確かめるため、血液検査をし、レントゲンを撮る必要があります」医師は素早く手配した。「とりあえず、解熱剤の注射を打って様子を見ましょう」「わかりました」礼央はすぐに応じた。真衣は
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第1602話

真衣は何も言わず、身体を震わせながら、礼央の胸に顔を埋めた。数十分が、まるで一世紀のようだった。ようやく医師が検査結果を手にやって来て、表情を和らげて言った。「ご安心ください。大きな問題はありません。ウイルス感染によって熱が出ていますが、肺に異常はなく、数値も正常です。熱が下がれば、退院していただいて構いませんよ」「ほ……本当ですか?」真衣は驚いた表情で、猛然と顔を上げて尋ねた。「ええ」医師は笑った。「お子さんは免疫力が弱いので、季節の変わり目にはよくあることです。あまり心配なさらないでください。今夜一晩様子を見ましょう」「先生、ありがとうございます……」真衣は医師に礼を言ったが、まだ身体はこわばったままだった。医師は大したことはないと言った。本当にもう大丈夫なのだ。前世とは違い、肺炎にはならず、悪化もしていない。しかし、身体の本能が、彼女を抑えきれない恐怖に駆り立てていた。心臓が激しく鼓動し、手足は冷え切り、全身が張り詰めた弓のように硬直していた。真衣はその場を離れられず、目を閉じたり、千咲から目を逸らすことができなかった。点滴室で、礼央は真衣を見つめていた。彼女は確かに医師から「心配ない」という言葉を聞いたはずだ。検査の数値も正常で、千咲の呼吸も次第に落ち着いているのに、真衣はまだ緊張している。目には力がなく、顔色は蒼白で、両手は必死に服の裾を握りしめ、じっと千咲を見つめている。明らかに、ただ単に母親が子供を案じている緊張感とは違う。まるで、絶望に近い恐怖が彼女の身体から滲み出ているようだった。それは、極限の喪失感や苦痛を経験した者だけが持つ、ストレス反応だった。礼央の心は次第に沈んでいった。彼は真衣をよく理解している。理性的で落ち着きがあり、たとえ宗一郎の手による危険な状況に直面しても、冷静さを保っていられる真衣が、ただの高熱で、医師がはっきりと心配ないと言っているにも関わらず、これほどまでに動揺している。おかしい。明らかにおかしい。礼央は、真衣はただ最愛の娘を心配しているだけなのだと思っていた。しかし今、彼ははっきりと感じ取った。きっと何か、彼女が動揺する理由があるのだ。真衣がずっと、抱えてきた彼の知らない秘密が。看護師が点滴を交換して病室を去
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第1603話

礼央は手を伸ばし、冷たくなって震える真衣の手を優しく握りしめた。彼は問い詰めたりはせず、ただ穏やかな口調で真衣が固く閉ざした心の扉を開こうとした。「真衣、何か悩みがあるなら、話してほしい」「どんなことでも、どんなに難しく、辛いことでも、信じがたいことでも構わないから」「ずっと……俺に言えなかったことがあるんじゃないか?」真衣はようやく顔を上げ、礼央を見た。灯りに照らされた礼央の眼差しは優しく、その目は心配や気遣いに満ちていた。礼央は愛おし気に真衣を見つめた。彼は彼女が傷つき、苦しむことを恐れているようだった。真衣は首を振った。「大丈夫。ただ昔、嫌な夢をみただけなの」礼央は真衣を見た。「夢?」真衣は頷いた。「そう、ただの夢」-千咲が退院した翌日の夜明け前、真衣は目を覚ました。千咲はぐっすりと眠り、気持ちよさそうに規則正しい寝息を立てていた。真衣は傍でしばらく千咲の寝顔を眺め、指先でそっと額に触れ、平熱に下がっていることを確認すると、ようやく安堵の息をついた。しかし、今もまだ、昨夜の病院での恐怖が神経に刻み込まれていた。ただの高熱だったが、真衣は暗い過去の記憶へと引きずり戻されるところだった。もし礼央が傍で支えてくれていなかったら、どれほど取り乱していたことだろう。「心配ない。妹尾(せのお)さんがいる。何も起こりやしないよ」礼央は後ろからそっと彼女を抱きしめた。彼はすでにスーツを着て、身支度を済ませていた。ただ、目の下の隈が、彼も昨夜眠れなかったことを物語っていた。「妹尾さんに、一時間ごとに体温を測り、医師に言われた通りの食事を用意し、部屋の換気をするように伝えておいた」礼央は一つ一つ丁寧に説明した。「何かあればすぐに電話をくれる。こちらからも随時、人を遣って様子を確認させるから」真衣は軽く頷き、彼の胸に顔を埋めて言った。「わかってる。ただ……どうしても気になっちゃって」「わかるよ」礼央は言った。「でも、今日の国際会議は重要だ。九空テクノロジーがここまで準備をしてきたんだ、欠席はできない」真衣は深く息を吸った。そのことを、彼女は誰よりもわかっている。今回の国際航空宇宙技術サミットは、国内外のトップクラスの機関、国立科学研究所、ハイテク企業などが集結し、九空テク
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第1604話

オフィスに入ると、アシスタントがタブレットや書類を手渡しながら言った。「寺原さん、常陸社長が会議室でお待ちです。サミット会場側との調整も済んでおり、車両やスタッフ、資料、通訳もすべて手配済みです。また、海外の主要なパートナー数名は、すでにホテルに到着されています」「ありがとう」真衣は書類を受け取り、素早く目を通した。「航空宇宙向けの新素材、宇宙実験プラットフォーム、国際共同研究所に関する計画案をいくつか抜き出しておいて。後で常陸社長と確認するから」「承知しました」真衣は鞄を置くと、まっすぐ大会議室へ向かった。部屋に入ると、安浩は巨大なスクリーンの前に立ち、そこに表示された飛行パラメータや軌道モデル、材料データを見つめていた。静まり返った会議室の中、黒いシャツに身を包んだ彼の目は鋭く、研究者特有の厳密さと距離感を漂わせていた。物音を聞きつけ、安浩が振り返った。「待ってたよ」「ええ」真衣は安浩の傍に歩み寄り、一緒にスクリーンを眺めた。「状況は?昨夜、私が不在の間に、何か問題はありませんでしたか?」「すべて順調だよ」安浩は続けた。「地上シミュレーション試験は正常、データ同期も問題ない。提携先からの初期提案は僕の方で選別しておいた。真にコア技術を持ち、誠意があり、長期的に事業を展開できる相手はそう多くない」真衣は頷いた。彼女と安浩は息がぴったりと合っている。一方が戦略、リソース、対外提携、事業展開を担当する。そしてもう一方が技術や研究開発、コア技術の課題解決、セキュリティや安定性を担当する。二人は、外部への注力と内部での専門知識、ビジネスセンスと技術力という強みを活かし、九空テクノロジーを創業期から少しずつ、国内の商業宇宙開発業界のトップクラスへと導いた。「今回のサミットの焦点が何であるかは、君も僕もよくわかっている」真衣はスクリーン上の「国際共同研究室」という文字を指差した。「国内の宇宙技術は決して弱くはないけれど、一部の基礎材料、長期軌道上の信頼性、分野横断的な汎用実験プラットフォームにおいては、補完できる余地がある」「私が求めているのは単なる提携ではなく、長期的に継続できる技術的な連携です」安浩の表情がわずかに曇った。「わかってる。ただし注意が必要だ。中には、情報を探り、ロードマップを引き出す
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第1605話

午前九時、国際会議センター。真衣が到着すると、会場はすでに人でごった返していた。メイン会場は明るく照らされ、巨大なLEDスクリーンにテーマが映し出されていた――グローバル航空宇宙技術イノベーション・未来協力サミット。欧米、アジア、中東などから集まった研究機関や企業の代表者、専門家、学者、外交官らが広大な会場内を行き交っていた。まさに、世界の舞台を中心に展開される対話の場だった。真衣が会場に入ると、たちまち多くの視線を集めた。若く、女性でありながら、商業宇宙分野を牽引するトップリーダーの一人。彼女は容姿と気品を兼ね備え、冷静で鋭い目を持っている。多くの者が九空テクノロジーや彼女の立場を理解しており、来場者たちは次々と自ら近づき、真衣と挨拶を交わした。真衣は落ち着いて応対し、礼儀正しく、絶妙な距離感を保った。耳を傾けるべき時には耳を傾け、意見を述べるべき時には述べる。後に問題となるような発言は避け、安易な約束をすることもなかった。「寺原さん、こちらへどうぞ。メインフォーラムのゲスト席をご用意しております」主催者が自ら出迎え、丁寧に言った。「次は対話セッションで、テーマは『宇宙技術の商業化と国際化』です。ご準備いただき、ありがとうございます」真衣は係員について最前列へと歩きながら、視線をそっと会場全体に巡らせた。彼女は、確かな実力とコア技術をもつパートナーを探していた。単なる宣伝や表舞台に立つためではなく、確かな技術と資金を持ち、長期的に共に事業を展開できるパートナーを。メインフォーラムが始まると、会場に厳粛な空気が流れた。各国の代表が順に発言し、マクロ戦略や、政策環境、今後十年の宇宙経済の青写真について語る者もいた。真衣は静かに席に座り、真剣に耳を傾け、時折ノートに素早くメモを取った。ある外国人が発言した時、彼女の目が微かに動いた。彼の名はエリアス・フォス。海外の航空宇宙向け新素材と小型宇宙実験プラットフォームの研究に注力する機関に所属しており、若くして研究所の中核を担う責任者を任されている。彼は概念ではなく、幾つかの重要な技術を即座に提示した。彼は、軌道上で長期間使用できる耐熱・耐放射線軽量材料、再利用が可能な宇宙機構造疲労監視システムや小型・低コストで展開可能な宇宙実験プラッ
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