All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 101 - Chapter 110

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第101話

礼央の言葉が真衣の耳に一語一句入っていき、どの言葉も皮肉に満ちていた。礼央は、外山さんの一つの出席枠のためだけに、なんと10億円も出せるのだ。これまで、真衣は自分の母親の会社を支援するよう礼央に遠回しに頼んできたが、礼央は聞く耳を持たず、決して真衣を助けようとしなかった。萌寧に対しては、本当に惜しみなくお金を使うのだ。しかし、真衣に対しては、プレゼント一つ買ったこともなく、投資なんてなおさら論外だ。礼央は、真衣は必ず頭を縦にふると確信していたので、あくまでも礼央は条件を提示したのであって、真衣に相談しているわけではなかった。一方で、真衣の現在の状況からすると、この投資を喉から手が出るほど必要としており、しかも早ければ早いほど良い。一日でも遅れれば会社にとって不利になるのだ。礼央は真衣が黙っているのを見て、笑いながらさらに投資金額を上乗せした。「12億円でどうだ、明日入金する」真衣の表情は冷たく陰り、顔色は青ざめていた。これは明らかにお金で人を侮辱している行為だ。しかし皮肉なことに、礼央は自分の急所を正確に突いてくる。礼央は自分が今何を必要としているかを知っていて、この投資はまさに自分が今直面している問題を解決できるものだった。礼央は、桃代を助けるために裏から手を回して真衣たちのスポンサーを横取りしておきながら、今度は外山さんのために自分にお金を差し出してきた。真衣は徐々に手を固く握り締めると、深く息を吸い込んで答えた。「わかった——」ただの出席枠一つに過ぎない。業界サミットに参加したとしても、これほどの高額な投資を集められるかどうかもわからない。何せ、お母さんの会社は無名だから。今、こういう形だとしても、目の前に現れたこの機会を断ることはできない。この投資を断れば、会社は回らなくなる。そして、修司おじさんも入院しているから、なおさらお金が必要だ。-翌日。真衣は湊から電話を受けた。「奥様、弊社へご足労いただき、契約書にご署名をお願いします。ご署名後、資金は直接会社の口座に入金されます」真衣はすぐに高瀬グループへ向かった。高瀬グループの自社ビルのロビーにて。真衣は特に事前に予約をしていなかったため、受付で止められた。真衣は礼央に電話をかけたが、礼央は出なかった。真衣は
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第102話

自分には節度というものがあるから。高瀬グループでアシスタントを務めていた頃でさえ、自分は簡単に礼央のオフィスに入ることはできなかった。入るたびに、礼央は嫌な顔をした。今となっては、尚更入るつもりはない。萌寧も真衣を強要することなく、その場を立ち去った。真衣は塗り薬を取出し、手首に塗った。この薬は一日3回塗る必要があるが、今朝塗り忘れていた。薬はよく効き、数回塗っただけで手首の傷が目に見えて良くなっていった。真衣は薬を塗り終え、カバンに薬をしまおうとしたその時。萌寧がコーヒーを一杯持って入ってきた。萌寧は鋭い目つきで真衣の薬を見つめた。「それ、私が海外から持ち帰った薬じゃない?どうりで昨夜見つからなかったわけだ。あなたの所にあったのね」真衣は、ふと動きを止めた。礼央がここまで冷淡だとは思わなかった。自分と外山さんの仲が悪いと知りながら、わざと彼女の薬で嫌がらせをするなんて。真衣は立ち上がり、持っていた薬を全てそばのゴミ箱に投げ捨てた。そして、萌寧を見つめながら言った。「礼央が私にくれたものは私の物になるの。欲しければ勝手に拾いな」真衣はそう言い放った。真衣はきっぱりと背を向け、萌寧の表情など気にも留めずにその場から去って行った。この薬を捨てることは、あの男を捨てることと一緒だ。拾えばいい。ゴミ箱の中に良いものがあるわけないだろう?萌寧はその場で固まった。萌寧はしばらくしてようやく意味を理解し、顔を曇らせた。今のは自分に対する嫌味なの?-礼央は会議を終えると、真衣と契約を交わした。契約が済むと、真衣は何も言わず、契約書を持ってその場を去った。全ては順調に進み、礼央も真衣を引き留めなかった。夫婦とはただの名ばかりで、二人は見知らぬ人同士のような関係だった。正午。お昼時。高史がやって来た。彼は今日、クラウドウェイの今後の事業計画と資金調達の件について話し合うために来たのだ。三人は個室に集まっていた。萌寧が突然口を開いた。「礼央、言い忘れそうだったけど、今朝会社のロビーで真衣さんを見かけたわ。受付に止められていたみたいだから、私について一緒に上がってきたわ」「真衣さんが例の輸入品の薬を使っていたから、それに対して私はちょっと言ってやったの。そしたら、
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第103話

その日の夜。真衣は母親からの電話を受け、12億円がすでに口座に振り込まれたから、早速プロジェクトに着手することができると知らされた。真衣は軽く唇を噛んだ。礼央がこんなに速く振り込むとは思わなかった。「投資者に高瀬礼央とあるけど、あなたたちは……」慧美は言葉を濁した。真衣は淡々とした口調で答えた。「礼央は外山さんのために大金を注ぎ込んだだけ。明日開催される常陸グループ主催の業界サミットの出席枠を外山さんに得させるためよ」礼央は外山さんに対して、いつも惜しみなく与えるのだ。慧美はすぐに状況を理解し、深く息を吸った。「これはあなたたち夫婦の共同財産でもあるのに、どうしてそんな……」「裁判でまた話そう」真衣はパソコンの画面に映っている計算アプリを見つめながら、ゆっくりと言った。「私は自分が受け取るべき分をしっかりと受け取るだけだわ」自分は財産分割で礼央と延々と裁判をしたくない。千咲の養育費と5年間の自分の努力に見合った金額さえ手に入れば、あとは離婚するだけだ。慧美は結局何も言わなかった。真衣は小さい頃から自分の考えを持っていた。-業界サミット当日、天気は良く、最高気温は37度まで上がり、ついに暑い夏が来た。真衣が一階に降りた時、安浩の車はすでに玄関前に停まっていた。安浩は裏口から入って真衣を直接会場に案内する予定だった。「おはよう」真衣はランチボックスを持ちながら、助手席のドアを開けた。「朝、千咲に朝食を作ったついでに、先輩の分も持ってきた。食べてから行きましょう」「いつからそんなに親切になったの?」安浩は笑いながら受け取った。「今日は朝食抜きかと思ってたよ」安浩は食べ終わると、車を走らせてサミット会場へ向かった。会場にはすでに多くの人が続々と集まっていた。安浩は真衣を連れて入場し、歩きながら話した。「今日は一宮泰人(いちのみや たいじん)先生が政府の代表としてスピーチに来るんだ」真衣は少し驚いた。一宮先生は宇宙航空研究開発機構に所属していて、今日は最新の政策動向について話す予定だった。しかし、そんな大物が業界サミットに来るとは思わなかった。「後で、一宮先生をなんとか取り込もうとする連中で溢れるに違いない。私たちもタイミングを見計らって一宮先生にアプローチする必要がある」「今後の会社
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第104話

幸い、自分は今ここへ戻ってきたし、全てはまだ間に合うはずだ。安浩は携帯をちらりと見て、真衣に言った。「父さんに呼ばれたから、ちょっと行ってくる。先に見てて、後で迎えにいくから」真衣はうなずいた。「わかった。忙しいところありがとうね」安浩が去った後、真衣は展示品を見続けた。会場の外から、突然声が聞こえてきた。「高瀬社長が来たよ。あの横にいるのは高瀬社長の彼女かな?」真衣は反射的にそっちの方向へ振り向いた。礼央は相変わらず上品な黒いスーツを着ており、萌寧は青いドレスを着て礼央の横に立っていた。そのドレスの模様と色合いは、礼央のネクタイとよく合っていた。見るからにお揃いのコーデを意識したものだ。実にお似合いなカップルだ。後ろには高史も一緒についてきていた。クラウドウェイは業界でもトップクラスの技術を持つ企業なので、彼が会場に来ても不思議ではない。その時、人だかりにいた中の一人が答えた。「彼女に決まってるよ。お揃いの服まで着てるんだから。すごく似合ってるわ」真衣は冷笑を浮かべた。以前、自分もよくわざと礼央と同系色の服を合わせようとしたが、礼央に「お前がそうするのは好きじゃない」と言われた。あれ以来、礼央とお揃いの服を着る気は失せた。礼央は他人と似た格好をするのが嫌いなのだと思い込んでいた。蓋を開けてみると、礼央はただ自分のことが嫌いなだけなのだ。真衣は冷たく視線を戻し、もうそちらを見ようとはしなかった。今の礼央は、もう自分とは関係ないのだ。真衣はひとりで展示品を見続けた。ここには業界に関する最新動向に加え、注目の最新機器やシステムなどが展示されていた。真衣がデザインした第一世代のシステムが搭載された小型ドローンを見た時、真衣は足を止めた。真衣はいまだに、これを作った時の興奮を覚えていた。これはドローンの航続距離と持続時間の問題を完璧に解決し、ドローンの戦闘能力を大幅に向上させた。実際に実戦でも採用された。ここでまた出会えるとは思わなかった。真衣は手を伸ばし、触れようとした。次の瞬間、誰かに手を強く引っ張られた。真衣が眉をひそめて見ると、萌寧の笑顔がそこにはあった。「真衣さん、これは触っちゃダメだよ」「あなたはこれらのものの重要さを理解していないようだから、少なくとも研究者
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第105話

真衣の関心は最初から一宮先生には向いていなかった。あのような大物は誰もが取り入ろうとする対象ではあるが、わざわざ押し合いまでする必要はない。真衣はあの二人の秘書に会おうと考えていた。政府高官の秘書は職位がかなり高いため、実質的に実権を持っているのだ。会いたいと思う人も少なくはない。ただ、秘書たちはずっとステージ裏にある控え室にいて、会場には姿を見せていない。姿を見せなければ、誰もわざわざ邪魔しに行かない。秘書たちがどの部屋にいるか分からないからだ。萌寧の目的はかなり明確だった。そう、第五一一研究所の加賀美先生だ。今のところ会社をまだ設立していない萌寧は、加賀美先生に弟子入りさせてもらいたいと考えていた。前回、第五一一研究所のイベントの時に加賀美先生と顔を合わせれたが、萌寧はほとんど話せなかった。それが心残りで、今回はしっかり話をしたくて来たのだ。やっとのことでステージ裏の控え室で加賀美先生を見つけた。加賀美先生はお茶を嗜んでいた。萌寧は笑顔で加賀美先生に近づいた。「加賀美先生、この前お会いした外山萌寧です」加賀美先生は淡々と萌寧を見て、礼儀として軽く応えたが、無愛想だった。加賀美先生は、萌寧はなかなかやる女だと思った。こんな場所まで見つけてくるとは。萌寧はまだ笑っていた。「私は海外で博士号を取り、帰国後もさらに研究を続けたいと思っております」「私はずっと加賀美先生のことを尊敬しており、加賀美先生が我が国の航空宇宙事業を大きく前進させたと感じています」「とんでもない」加賀美先生は手を振った。「最近いくつかの研究プロジェクトを進めたいのですが、ご指導いただける方がいらっしゃらなくて。もしよろしければ、せひ加賀美先生にご指導いただきたく……」萌寧は最後になって、遠回しに本題に切り込んだ。加賀美先生のような大物が弟子に取ってくれれば、この分野での研究も今後はきっと順風満帆に行くだろう。安浩が九空テクノロジーを立ち上げたように、自分も会社を立ち上げ、大きくて強い会社に育て上げるのだ。加賀美先生は笑い、手に持っていた湯呑みを置いた。「残念ながら私に教えられるものはない」これは遠回しに拒否していることになる。「どうしてですか?」萌寧は口を開いた。「加賀美先生は……」加賀美先生は手を
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第106話

礼央が電話を切ったのを見て、真衣は歩き出そうとした。その時。萌寧は熱いお茶を手に、さっと数歩で真衣に追いつき、行く手をふさいだ。「さっきからここでずっと立っていたけど、礼央に用事でもあるの?」「さあさあ、お茶でも飲んで、熱中症にならないようにね」真衣は、萌寧が手に持っていた、どれほど熱いのか想像もつかないぐらい熱そうなお茶を見下ろした。これは自分にお茶を薦めているのか、それとも自分を焼き殺そうとしているのか?真衣は冷ややかに萌寧を見やった。「私たちは別にそんなに親しくないから、会うたんびに私に挨拶する必要はないよ」気持ち悪いなあ。真衣はそう言うと、背を向けてその場から去ろうとした。萌寧は言った。「あなたが家に帰らないから、最近は私が翔太の面倒を見ているの。翔太はあなたに会いたがっているわ。彼が食べたがっている海老料理の作り方を教えてくれない?」真衣は、ふと動きを止めた。真衣は萌寧が言わんとすることを理解した。要するに、「これからは頻繁に礼央の家に出入りするつもりよ」とまた言いに来たのだ。真衣はもちろん知っていた。家のパスワードは変えられ、主寝室の結婚写真も外され、ベッドも萌寧に違うものに交換されていた。あらゆる場所から真衣の痕跡が消されていた。「ねえ、教えてくれない?」萌寧は真衣が黙っているのを見て、また話し始めた。「この前、翔太がアレルギー反応を起こしてから、今でも怖くてたまらないの」「私はまだ翔太のことをよく理解できていないところが多いから、あなたに教えてもらいたいの。お家に来てくれてもいいわ、いつでも歓迎するよ」いつでも歓迎?真衣は皮肉な笑みを浮かべ、口角をわずかに歪めた。まるで礼央の家が彼女自身と礼央のためにあるかのように言っているし。「あなたは翔太の面倒を長く見てきたから、きっと彼のことが好きで、情もあるはずよ。このまま翔太を放っておくわけにもいかないでしょ?」真衣は笑ってしまった。まさか、外山さんは自分に道徳を振りかざしてプレッシャーをかけに来たってわけ?残念ながら、自分はもうそんな手口には乗せられないわ。真衣は淡々と話し出した。「もしあなたが本当に翔太を自分の息子だと思っているなら、あの時産んですぐに置き去りにして、名声を追いかけたりしなかったはずよ。今にな
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第107話

真衣は目を伏せ、お手洗いの方向へ歩き、胸元の火傷を処置しに行った。鏡に映る鎖骨あたりの赤い痕を見つめながら、服が少し擦れるだけでも刺すような痛みに真衣は顔をしかめた。今はどうにも処置できそうになかった。サミットが終わってから火傷に効く塗り薬を買いに行くしかない。安浩は駐車場で二人の秘書と会い、連絡先を交換した。真衣は、人脈を築くという点において、安浩は本当に優秀だと感じた。サミット終了後、安浩は真衣を家まで送った。安浩は細いことにすぐ気がつくタイプの人で、すぐに真衣の鎖骨のあたりが赤くなっているのに気づいた。「怪我をしたのか?」真衣はシートベルトを握る手を一瞬止め、淡く笑った。「大丈夫、ただちょっと火傷しただけ」「家に帰って火傷の薬を塗れば治る」こういう火傷は実に目立つもので、特に気にしなくても見える。安浩でさえも気づくほどだ。真衣はかすかに笑った。どこか自嘲するような、乾いた笑みだった。礼央はもしかしたらその時、自分が自業自得だと思って、見て見ぬふりをしただけで、決して気づいていなかったわけではなかっただろう。「病院で診てもらわないか?明日システムを正式に稼働させるテストが始まってとても忙しくなるから」安浩は真衣の体力を心配していた。真衣は九空テクノロジーに入社してからほぼ一ヶ月が経ち、チームの主任設計者として新しいシステムを研究、開発した。そのシステムは、宇宙用ロボットアームの精度不足により複雑な故障に対応できなかった問題を補い、さらに衛星の軌道上でのデータ探査時間を延長することに成功した。明日から稼働テストが始まる。「あるいはテストを1日延期して、君が休めるようにしよう」真衣は首を振った。「私は大丈夫です」真衣も早く稼働テストの成果を見たいと思っていた。ここ数日寝る間も惜しんで頑張ったことが無駄にならないようにしたかった。-翌日。真衣は千咲を幼稚園に送った。幼稚園の正門で、大橋が翔太を送っていくところに出くわした。翔太は真衣を見ると、真衣を鼻で笑い、自分の小さなリュックを背負って幼稚園の門をくぐった。翔太の関心は今、再会した実の母親に向いていた。かつての継母である真衣に対しては、当然冷たいのだ。必要な時にだけ真衣を思い出し、メイドのようにこき使うだけだ。
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第108話

このところみんなプロジェクトに追われていたため、ほとんど休む暇もなく、昼夜問わず働き詰めだった。社員旅行はちょっとした気分転換だと思ってくれればいい。会議が終わると、真衣は慧美からの電話を受けた。礼央と投資プロジェクトの具体案について話し合えるよう手配してほしいという依頼だった。投資家がプロジェクトに出資した後は、今後の具体的な事業プランを提出して、投資家とやり取りを行う。真衣は静かに電話を切った。真衣は礼央をブロックリストから解除し、電話をかけた。しばらく鳴り続けて、ようやく電話がつながった。「何の用だ?」男の声は相変わらず冷たく淡々としていた。真衣はもう慣れっこで、早速用件を切り出した。「明日空いてる?私の母親が投資の話で会いたがってるんだけど」礼央は返事した。「明日は無理だ。また違う日にしよう」真衣は眉をひそめ、いつなら都合がいいか具体的な日時を聞こうとした。その時、電話の向こうから萌寧の声が聞こえてきた。「礼央、お湯がもう入ったよ。まだ入らないの?」礼央は「ああ」とだけ応えた。すると、プツンという音と共に、礼央は真衣の電話を切った。真衣は一瞬驚き、思わずスマートフォンを握る手に力がこもった。もしかして、二人でお風呂に入るつもりなのか?真衣は鼻で笑った。道理で冷たく適当な対応だったわけだ。邪魔をしたのは自分だった。まあ、この時間帯なら、カップルがお風呂でイチャイチャしていてもおかしくないよね。真衣は礼央の電話番号を慧美に教え、明日直接慧美に電話してもらって時間を調整させることにした。翌日。真衣は千咲を連れて会社の社員旅行に参加した。最近はずっと仕事に追われていたため、千咲を構ってやれず、彼女のために十分な時間を割けることができなかった。週末にさえ出勤することもあった。いつも千咲を連れて外に遊びに行く時間がなかったから、この機会にしっかり遊ばせてあげよう。真衣はだんだんと気づいてきた。もし娘の成長にしっかりと立ち会いたいなら、この仕事の最前線に立ち続けることはできない。まずは娘の生活をしっかり安定させてから、仕事にさらい精力的に取り組むべきだ。社員旅行先はリゾート山荘で行われ、施設もとても充実しており、乗馬やロッククライミング、温泉などが楽
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第109話

礼央の目は冷たく、千咲の声には反応しなかった。その視線はまるで他人を見ているかのようで、自分の娘を見るような目ではなかった。千咲はまた間違えて呼んでしまったことに気づき、きまり悪そうにうつむいた。「誰がお前のパパだ?勝手にそう呼ぶな!」翔太は礼央と萌寧の後ろから飛び出し、千咲を睨みつけた。「パパは僕だけのパパだ!僕のパパに近寄らないで!」真衣は急いで駆け寄り、千咲を支え起こした。千咲の肘と膝からは血が滲み出てきて、泥もついていた。千咲は痛みで涙が溢れていた。「痛い?」真衣は胸が痛む思いで千咲を抱き上げた。千咲は首を横に振った。萌寧は俯きながら翔太を見て、「余計なことを言わないの」と注意した。翔太は口を尖らせ、それ以上何も言わなかった。とにかく、おばさんのことが大嫌いだ。前はいつも家で自分のことを虐待してたんだから。何も食べさせてくれない、何もさせてくれない、遊ばせてもくれない。ただ勉強ばかりさせて自分を苦しめたのだ。「真衣さん、千咲を連れて遊びに来たの?」萌寧は翔太の手を握りながら、真衣に笑いかけた。「ちょうど兄妹で遊べるわね」「確かにね」高史は笑いながら言った。「子供と一緒に遊ぶことは、真衣のような専業主婦に任せるべきだ」「何せ真衣はそういうのが得意だもんね」真衣は冷笑した。この連中は幽霊のようにどこにでも現れる。真衣がまだ何も言わないうちに、礼央は淡々と真衣を見つめた。「次からは気をつけろよ」その言葉は警告のように聞こえた。今回は見逃してやるが、次はもうないぞ、と言わんばかりに。真衣が口を開く前に、千咲が先に謝った。「ごめんなさいおじさん、見えていませんでした」自分が人にぶつかったのだから、まず謝るのが自然だろう。翔太が礼央に向かって手を広げた。「パパ、歩くの疲れた、抱っこして」礼央は目を細め、優しく笑って翔太を抱き上げた。千咲はパパに抱かれる翔太を見て、少し目を赤くした。萌寧は言った。「礼央、甘やかさないでよ。翔太は男の子のくせに弱々しいことを言うから」彼らはまるで仲睦まじい温かい家族のように見えた。一方、礼央は最初から最後まで真衣と千咲に対して他人に接するような態度をとっていた。皮肉なことに、礼央は昨日「今日は投資プロジェクトの件について話す時間がない」と
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第110話

千咲は汗だくで走り回り、真衣はタオルで汗を拭いてあげた。千咲はタブレットでゲームを遊び、真衣も一緒に遊んであげていた。夕食の時間。安浩は真衣に電話をかけ、彼女たちがどこにいるか尋ね、もうすぐキャンプ場でバーベキューを始めることを伝えた。真衣は千咲を連れてキャンプ場に向かった。週末はやはり人が多い。キャンプ場のバーベキューエリアは人でいっぱいだった。真衣はしばらく探した後、ようやく安浩を見つけた。しかし、千咲の手を引いて安浩に近づくと、すぐ横に礼央と萌寧たちがいることに気づいた。真衣は礼央と萌寧たちバーベキュー台の前を通り過ぎなければならなかった。萌寧は礼央の隣に座っていた。「礼央、私の手はサミットで火傷して、まだ痛いの~」真衣は萌寧の手に包帯が巻かれているのに気づいた。そして、礼央はとても辛抱強く萌寧の面倒を見て、焼き肉を焼いてあげていた。礼央が萌寧を見る視線には、真衣が今まで見たことのない優しさがあった。真衣は嘲笑するように視線をそらした。礼央は実に外山さんに親切だ。前世では、自分が二人の子供を連れて高熱を出し、気を失って入院した時、礼央は一目会いに来るどころか、「大丈夫?」の一言さえなかった。真衣は千咲を連れて安浩のところへ来た。「どこに行っても真衣っているよな」高史は真衣の後ろ姿を見て、「わざと後をつけ回すような真似をしていて、まじうけるわ」萌寧は真衣が向かった先を見て、「常陸社長の会社の人たちが全員いるみたいよ」と言った。「昨日彼らの会社は新しいシステムをリリースしたばかりで、みんなこぞって彼らとの協業を求めているよね」高史も同意した。「安浩は確かに才能がある」何せ、業界の中でもトップクラスの人材だからな。「常陸社長」萌寧は立ち上がって安浩に声をかけた。「ここでお会いできるなんて本当に偶然ですね。よろしければご一緒にバーベキューでもいかがですか?」安浩は真衣の方を見た。真衣は肩をすくめた。沙夜は萌寧を見て言った。「一緒にだなんて冗談じゃないわ!あんたを見るだけで食欲が一気になくなるわ!」萌寧の動きが、ぴたりと止まった。「どうして僕のママにそんな失礼な態度をとるの?!」翔太は立ち上がり、萌寧の前に立ちはだかり、明らかに萌寧を庇う態度を見せた。真衣
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