All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 121 - Chapter 130

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第121話

礼央は遅れてやってきた。礼央は全身黒ずくめの落ち着いた装いで来て、腕には白い菊の花束を抱えていた。地位も高く、愛想笑い一つしない礼央は、いるだけで周囲にプレッシャーを与えるような威圧感を放っていた。景司は礼央が来るのを見て、声をひそめた。しかし、表情にはそれほど大きな変化はなかった。礼央が現れても、景司は少しも驚かなかった。景司の目は深く沈み、視線はあるようでないように真衣を見やり、そして鼻で笑った。礼央はゆっくりと真衣を見て、「遅すぎることはないよな?」と聞いた。礼央の声は普段と比べると幾分か柔らかくなり、あたかも仲睦まじい夫婦の会話のように聞こえた。富子おばあちゃんの前でだけ、礼央はこんな芝居をするのだ。真衣はびっくりして礼央を見つめた。礼央が来るとは思っていなかった。さっき電話した時、礼央はまだ萌寧と一緒にいたはずだ。千咲は礼央が来て喜んでいた。千咲は礼央の方へ駆け寄って、「パパ」と呼んだ。「うん、いい子だ」礼央は千咲の頭を撫でた。千咲は心の中でわかっていた。多恵子曽おばあちゃんの家にいる時だけ、パパは自分のパパでいられる。呼べば必ず返事をしてくれた。だが他人の前では、パパはただのおじさんでしかない。真衣は千咲が礼央に懐こうとするのを見ると、真衣は深く息を吐き、胸がざわつくのを感じた。千咲は父親からの愛に飢えていて、礼央に懐くのは当然だが、いつも冷たくされると、胸が詰まる思いがして見ていられなかった。しかし、真衣にはこの問題を解決する術がなかった。富子が前に出てきて、礼央に叱るように言った。「何がそんなに忙しいの?こんなに遅くなってから来て、もう法要が始まろうとしているのよ」富子は礼央を軽く叩くふりをして、「早く修司と慧美に謝りなさい」と言った。礼央は淡々と真衣を一瞥した。礼央は、まず多恵子に線香を上げ、花を供えてから、ゆっくりと修司と慧美に挨拶した。死者を敬うのは何よりも大切だ。こうした礼儀作法を、礼央は抜かりなくこなしていた。「早く出てって」真衣は景司を見つめ、背筋をぴんと伸ばし、冷たい眼差しを向けた。景司は冷たく鼻で笑い、つまらなさを感じた。この場にこれ以上いても、何の意味もないと感じていた。もともと景司も顔だけ出しにきたと言っていた。景司が去った
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第122話

これほど細やかな男性が、自分に対して何も知らないなんて、意図的に無視していなければありえないことだ。ただ自分に気を配る気がないだけなのだ。礼央は実に礼儀正しく、誰も礼央に文句をつけて引き止めることなどできなかった。修司と慧美も何も言えず、礼央が早退すること自体については不愉快だったが、せめてもの法要には出席した。仕方なくそのまま見送るしかなかった。しかし、富子は礼央を一瞥して言った。「何をそんなに急いでいるの?今夜の家族での食事の時には戻ってきなさい」礼央は眉をひそめて時計を見た。「ああ、その時になったらまた決める」礼央が立ち去る時。礼央はわざと真衣の方を見て言った。「自分と千咲のことはちゃんと面倒を見てね。俺はもう行くから」富子おばあさんの前では。礼央は常に完璧な振る舞いを見せていた。真衣は皮肉としか思えなかった。夫の偽りの気遣いでさえ、タイミングを選ばなければ得られない。-今日の天気は雨模様だ。霊園にて。青木家の者たちは墓参りに集まり、多恵子のお墓の前で跪いてお参りした。多恵子の墓石を見つめながら、真衣の目は赤くなった。昔の思い出が昨日のことのように蘇ってくる。墓参りが終わると、修司の体はますます重たくなり、顔色も青白くなった。慧美がかろうじて修司の体を支えた。「病院まで送るわ」「修司おじさん……」真衣は眉をひそめ、心配そうに見つめていた。「心配するな」修司は真衣を見た。「すぐには死なないさ」「車で少し休ませてくれればいい」修司の様子を確認したいと思い、真衣も車まで修司に付き添った。修司は、今日の全ての予定に最後まで参加すると強く望んでいた。「無理しないでとか言わないでおくれ。これからは病院暮らしが続くのだから、今日のように家族が揃うことももうないだろう。私が死ぬ日まで、こんなにみんなが集まることは恐らくないのだ」慧美は目を赤くして言った。「何をバカなことを言ってるの!」真衣は胸が詰まるような感覚に襲われ、心の底が締め付けられるように痛んだ。真衣も目を赤くしながら車から降り、自分の感情を整えようとした。沙夜はそばにしゃがんでいる千咲の面倒を見ながら、SNSのタイムラインをスクロールしていた。1時間前に萌寧が投稿した【家族と共にお墓参りができるの
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第123話

萌寧は真衣が黙っている様子を見ていた。萌寧は続けて言った。「B区にお墓の場所を買おうと思っているの」真衣の顔色がはひどく悪かった。B区とは、多恵子おばあちゃんと同じ区画のことだ。桃代は慧美の結婚生活に割り込んだ部外者で、桃代と多恵子を同じ霊園、同じ区画に葬るとは、まさに侮辱以外の何物でもない。修司や慧美が知ったら怒るのはもちろん、今の真衣ですら我慢できない。礼央はますます萌寧がつけ上がるのを許している。真衣は思わず手に持ったペットボトルの水を握りしめ、指先を震わせていた。真衣は深く息を吸い、冷たい目で礼央を見た。「もしあなたが外山さんの母方の祖母の墓を移すことを許すなら、私は皆に見せてやるわ。あの華やかな見た目の裏で、実の息子を捨ててまで利益を追い求めた外山さんの本性を」「その時、翔太は私生児になるけど、それでも高瀬家は翔太のことを受け入れるだろうか?」萌寧は表情を変え、眉をひそめた。「真衣さん、翔太もあなたの息子でしょ?どうしてそんなことが言えるの?」「何年もの間育てておきながら、まさか台無しにしようとするの?」自分の息子?真衣には、これらの言葉は全てあからさまな皮肉にしか聞こえなかった。「真衣さんって呼ばないで」真衣は冷たい目で萌寧を見た。「私が犯した最大の過ちは翔太を養子にしたことわよ!」自分はただ人生をもう一度やり直し、航空宇宙業界で再び頂点を目指し、千咲に十分な自信を与えたい。礼央ときっぱり離婚し、この腐った人間関係や面倒事とはもう関わりたくないのに、彼らはしつこく自分に絡んでくる。礼央は冷静な目で真衣を見ていた。しばらくして、礼央は視線を戻し、萌寧に向かって淡々と言った。「君の母方の祖母の墓地は、別のもっと良い場所に手配する」礼央は一歩引いて妥協した。結局は、外山親子をかばって、彼女らの名誉を守りたいだけなんだ。真衣の唇は青ざめ、これまで自分自身が歩んだ過去が本当に滑稽だったとますます感じた。「それでもいいわ」萌寧は唇を軽く噛んだ。「ちょうどあの辺りの風水もあまり良くないと思っていたところだし」萌寧は突然何かに気づき、慌てて言い直した。「真衣さん、怒らないでね。真衣さんの母方の祖母のお墓が良くないって意味じゃなくて……」真衣は萌寧を無視し、冷たい目で礼央を
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第124話

礼央にそっくりなその瞳は、いつも明るく無邪気な笑いに満ちていた。長年冷たい目つきをしている礼央とは、対照的だった。真衣は千咲をギュッと抱きしめた。これからは、千咲のどんな些細な変化も見逃さない。お墓参りから帰った後、家族は集まって食事をした。礼央は来なかった。時間がないからと言っていた。富子の顔色はひどく険しかった。家に帰ったらしっかり叱ってやると心に誓った。ますます無礼者になって、どんな場でも顔を出さないなんて。真衣はそれに対し、少しも驚かなかった。礼央が今日うちの法事に来たのも、外山さんに付き添ってついでに来ただけなんじゃないか。そんなうわべだけの嫌がらせなら、来ない方がましだ。食事も終わり、富子が車に乗り込む時。「千咲のあげるフィギュアが家に届いたらちゃんとチェックするのよ」富子は真衣の手を握り、優しく撫でながら言った。「家族は翔太を特別に可愛がっているけれど、あなたはもっと千咲の気持ちにも気を配ってあげて。いつも翔太ばかり甘やかさないで。翔太は男の子なんだから、体が弱いとはいえ、そんなに過保護にする必要はないわ。それに、礼央や友紀も翔太のことを大事にしてるんだし」富子おばあさんはすべてわかっていた。自分が翔太に心から尽くしたことを、富子おばあさんはわかっていた。前世、自分は翔太に母親も父親もいないのが可哀想だと思い、真心を込めて翔太の世話をした。だが笑えることに、翔太は萌寧の息子だった。自分は恩知らずな子を育ててしまった。真衣は深く息を吐き、頷いた。「わかりました、富子おばあさん」自分が翔太へ与えた愛情は、富子おばあさんにはよく見えていた。しかし、ある人からはまるで見えていないようだった。そして自分自身、前世では見えていなかった。真衣は慧美に同行し、修司を病院に送った。医師は修司の体の状態は比較的安定していると言っていた。修司の診察が終わった後。真衣は帰宅途中、外の景色を見つめながら思索にふけった。真衣は家に着くまでずっと静かに黙っていた。真衣はついに携帯を取り出し、聖也にLINEを送った。【酒井弁護士、離婚手続きを進めるペースを早めてもらえますか?】離婚の控訴の後、召喚状が礼央の会社に届いた。礼央は15営業日以内に受領確認を提出する必要がある。
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第125話

礼央は外山一家を厚遇し、自分にはそれを止めることができなかった。自分に今できるのは、ただひたすら自分のすべきことに集中することだけだ。このニュースは、沙夜も安浩も目にしていた。沙夜は真衣の表情をしばらく観察していた。真衣が慧美との電話を切った後、「こんなニュースを見て、なんでそんなに冷静でいられるの?」と真衣に尋ねた。沙夜は歯ぎしりしそうになりながら言った。「今すぐあの不貞夫婦をぶった切りたいわ。あの男は結婚生活で得た財産で愛人を養い、萌寧は高瀬夫人の肩書きを掲げて外で威張り散らしているなんて、本当に吐き気がするわ!」真衣は礼央と萌寧の間のことなど、とっくに諦めていた。いつまでも執着していれば、前世のような苦い結末を迎えるだけだ。「貴重な時間を意味のないことにかける必要はないでしょ?」沙夜は真衣が怒りのあまり正気を失ったのではないかと疑った。自分の夫が愛人と一緒にいるのを見て、怒らない人なんているのか?沙夜は返事した。「もしいつか我慢できなくなって殴り合いになりそうになったら、私も呼んでね」真衣は淡く笑って、子供っぽいねと沙夜に言った。真衣が退勤する頃、空は真っ暗に曇り、今にも雨が降りそうだった。今日は千咲のフィギュアが家に届く日で、真衣は礼央との家に行く準備をしていた。千咲を幼稚園に送る時はいつも通勤ラッシュと被るので、真衣はいつもタクシーを選んでいた。会社を出た後、真衣はタクシーで礼央との家に向かった。礼央との家に着いたのは、19時頃だった。真衣がタクシーから降りようとした瞬間、土砂降りの雨が降り出した。真衣は料金を支払い、頭を手で覆いながら礼央との家の軒下まで走ったが、突然の大雨なので、どんなに速く走っても服の大部分がびしょ濡れになってしまった。真衣は服についた水滴を払い、玄関に立ってインターホンを押した。しかし、しばらく経っても誰も応答しなかった。夜の冷たい風がビュービューと吹き、濡れた服が肌に張り付き、寒さが真衣の全身を襲った。真衣は寒さで少し震えていた。普通なら、この時間帯に家に誰もいないはずがない。結局真衣は勝手口に回り、鍵を開けようとしたが、勝手口の鍵も交換されていることに気づいた。真衣は一瞬、呆然とした。真衣はすぐに鼻で笑い、この事実を受け入れた
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第126話

おそらく萌寧のだろう。真衣はパスワードを入力し、鍵を開けた。家の中は明るく、翔太はリビングでおもちゃの車で遊んでいた。翔太は真衣がインターホンを押したことを明らかに知っていたが、ただドアを開けたくなかっただけだ。大橋は二階で部屋の片付けをしていて、インターホンの音に気づかなかった。真衣がびしょ濡れでドアから入ってくるのを見て、翔太は嫌な顔をした。「また床が汚れるじゃないか」真衣は翔太をチラッと見ただけで、特に何も言わなかった。この時、真衣は頭がくらくらして体がだるいことに気づき、これは風邪を引いて熱が出始めたのだと悟った。ちょうど大橋が一階に降りてくると、真衣が戻ってきたのを見て驚いた。「奥様、お帰りなさいましたか。どうして全身びしょ濡れなんですか?早くお風呂にお入りになさってください」「結構です」真衣は大橋を見て言った。「今日、海外から送られてきた小包って届きましたか?」大橋は思い返すように言った。「確か一つあったと思います。探してみます」真衣はうなずいた。真衣はリビングに立って待っていた。体温が奪われていく感覚が、ますます真衣を苦しめた。翔太はソファから立ち上がり、真衣を見た。「もし僕に償うつもりがあるなら、今日お風呂に入れてくれて、明日は朝食を作って幼稚園まで送ってくれたら許してあげる。この家に帰ってくることを許す」「どうせ大橋さんの仕事ぷっりは雑だし、ちょうどおばさんも手伝えるじゃない」「ママが言ってたよ。おばさん、外で誰かのアシスタントやってるんでしょ?だったら、この家に戻ってきて僕のアシスタントになってよ。パパにお給料出してもらうから」真衣は耳障りな言葉を聞き続けた。これが本当に4、5歳の子供が言う言葉なのかと疑わしく思った。以前の翔太は、いくつか悪い癖はあったものの、少なくとも今のような態度はとらなかった。真衣は意識を必死に保ちながら、冷たい目で翔太を見た。「もうあんたとは何の関わりも持ちたくない」翔太は鼻で笑った。明らかに真衣の言葉を信じていなかった。毎回自分を見捨てるって言ってるくせに、結局タイミングを見つけてはこっそり会いに来てるじゃないか?このおばさんは結局、贅沢な暮らしも自分のことも手放せないんだ。遅かれ早かれ、きっと自分から戻ってくるね。
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第127話

翔太は心の中で思っていた。おばさんはパパの元を離れたら、きっとお金がなくなるに違いない。何しろおばさんは仕事もしていないのだから、どうやってお金を稼げるというんだ?でも、自分の実のママとパパはお金持ちで、お金さえあれば、何だって手に入る。真衣は俯いて床に散らばったフィギュアの破片を見つめ、瞳には冷たさが滲んでいた。耳元では、翔太の幼くも耳障りな言葉が絶え間なく響いてくる。そばにいた大橋はすぐに翔太のために弁解した。「奥様、坊ちゃんは口が悪いだけなので、どうか気になさらないでください」「坊ちゃん、早くお母さんに謝りなさい」翔太は冷たく鼻を鳴らした。「なぜ僕が謝らなきゃいけないんだ?おばさんが僕に頭を下げるべきじゃないか」いずれおばさんは自分のために料理を作り、洗濯をしてくれるようになる。そもそもおばさんは、かつてママの座を奪うために、家の雑用は全部引き受けていたのだ。家事をすれば、パパがお金をくれたから。これからお金がなくなれば、きっとまたやりに戻ってくるさ。真衣は目を上げ、目の前にいる翔太がまるで見知らぬ人のような表情で見つめていた。「翔太、あんたにもいつかわかるわ。お金では何も解決ができないということを」翔太は鼻で笑った。「お金で何でも解決できるよ。知ってる?曾おばあちゃんの三周忌になぜ僕が行かなかったか。だって縁起が悪いって思ったから。僕は行きたくなければ行かないのさ。それだけのことだ。おばさんなんて、僕にとっては何の価値もない人間なのに、そんなおばさんに何で僕が説教されなきゃいけないんだよ!!」真衣は背を向けようとしたが、動きが急に止まり、背筋が一瞬で硬直した。「誰がそんなことを教えたの?」真衣は振り返って翔太を見つめ、その眼差しは鋭かった。翔太は胸がざわめき、その視線に少し怯えた。翔太は小声で言った。「別に嘘なんか言ってないし、だって死んだ人って縁起悪いじゃん……」真衣は深く息を吸い、震える体を必死に抑え込んだ。自分がこの家を離れてからまだそんなに経っていないのに、翔太がこんな姿に変わってしまっただなんて、いったいどんな影響を受けたのだろう?礼央と萌寧は子供の前でいったい何を教えていたのか?真衣は皮肉っぽく笑った。ますます自分が離れたことが正しい選択だと確信した。
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第128話

礼央は電話を取った。相手が何かを話すと、礼央は真衣の痩せた背中を見つめながら、静かに言った。「ああ、わかった」電話が切れた後。礼央は二、三歩歩き、外で待っていた運転手に手を振って合図した。そして真衣の方に向き直り、表情を変えずに言った。「悪いが、用事ができたから、お前のことは運転手に送らせる」真衣は嘲るように唇を引きつらせた。自分はとっくに知っていた。萌寧が必要とすれば、礼央はすぐに彼女のもとへ駆けつけ、自分に約束したことなど気にも留めないのだと。ただ、自分も元から礼央に送ってほしいとは思っていなかった。-真衣が立ち去った後、礼央は視線をリビングに戻した。礼央は床に散らばった破片をじっと見つめ、無口で真剣なまま、全身から重苦しい雰囲気を漂わせていた。翔太はそばに立ち、恐る恐る父親を見つめていて、声も出せなかった。「お前が割ったのか?」翔太は両手を後ろに組み、目を伏せた。「違うの……おばさんに渡そうとしたら、うっかり落としてしまっただけだ」「おばさんがこのフィギュアを受け取れずに落として割れたのに、どうして僕が悪いんだ?」礼央は淡々と目を上げて大橋の方を見た。「翔太を書斎に連れて行って反省させろ。登校以外は外出禁止、お菓子もおもちゃも全部禁止だ」「自分の過ちをしっかりと反省するまではな」翔太は口を開け、わっと泣き出した。涙は止まらず、溢れ出していた。「ママがいい!萌寧ママがいい!みんな僕をいじめる!」礼央は翔太の泣き声に構わず、書斎へと歩いていった。大橋は礼央の指示に従い、翔太を書斎に連れ込んだ。大橋は心の中でわかっていた。旦那様は息子を教育しているのだ。息子は旦那様の後継者になるから、気性が不安定で物を壊し、嘘をつくのは決して良い習慣ではなく、是正されなければならない。ただ奥様については……大橋は礼央が真衣を気にかけるのを見たことがなかった。今夜、奥様は明らかに風邪を引いて熱があったのに、奥様が立ち去ろうとしても旦那様は止めようとしなかった。大橋はかすかにため息をついた。奥様が去ってからは。坊ちゃんはますます手に負えなくなり、あらゆる悪い癖がすっかり露わになっていた。-翔太は部屋にたった一日閉じ込められただけで、我慢できなくなり、ついに強がるための言い訳を
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第129話

真衣は手を持ち上げてこめかみを揉んだ。真衣は目を伏せて言った。「もう過ぎ去ったことにこだわる必要はないわ、体調もほぼ回復しているから」今自分がすべき最も重要なことは、プロジェクトを推進することだ。自分は一刻も早く軌道に戻る必要がある。もし過去のことにいつまでもこだわっていたら、ずっと悲しみに浸ってしまうだろう。過去はもう自分にとって重要ではなく、重要なのは今と未来だ。沙夜は真衣を見つめ、再び手を伸ばして真衣の額に触れた。「まだ熱が下がっていないんじゃない?普通の人ならこういう時はしっかり休むことを考えるべきで、回復したらすぐに仕事のこと考えることなんてしないわ」真衣は沙夜を見て言った。「昨日オンラインで話した件、今日は進んだ?」「安心して。技術部にはあなたみたいな大御所がいてくれるから心強いよ。あなたの出した技術提案が実施されたら、品質面で大きく前進したの。長い間九空テクノロジーで解決できなかった問題が一気に片付いたのよ」それを聞いて、真衣は安心した。沙夜は続けた。「安浩が言ってたわ、この数日はしっかり休むようにって」「子育てしながら仕事もして、全部抱えきれるわけないでしょ。それにあの二人のクソは、毎日あなたの前に現れては傷つけてくるんだから」「あの人たちは――」真衣は淡々と言った。「もう私にとって重要じゃないの」沙夜は真衣を見つめ、わずかに眉をひそめた。冷静すぎるのがかえって不気味だった。真衣は自分のキャリアをしっかりと描いていきたいと思った。今後第一線で活躍するには、毎日研究室にこもり、夜も家に帰らない覚悟が必要だ。時に、一つの研究成果が、科学者たちの昼夜を問わぬ努力と膨大な計算の積み重ねによって生み出されることもあるだ。真衣が九空テクノロジーに入社して以来、彼女は常に鬼のように働いていた。真衣が提案するプロジェクトや技術提案は、社内の多くの修士号や博士号をもつ人々のものを大きく凌駕していた。沙夜は真衣を見つめ、この業界への真衣の熱意と誠意を感じた。「もしあなたが結婚を選んでいなかったら、今頃はすでに国立科学研究所にいたはずよ」真衣は軽く唇を噛み、やがて悟ったように微笑んだ。「まだ何も遅くはないわ」真衣があまりにも冷静なので、沙夜は真衣の精神状態に問題がないかと心配になった。
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第130話

千咲はガラスケース越しに陶芸作品をじっと見つめていた。「ママ、曽おばあちゃんは昔こういうのを作ってたの?」「そうよ」真衣は千咲に陶芸作品の技法や由来、歴史について説明した。千咲はそばで興味深そうに真衣の説明を聞き入っていた。「主婦のくせに何かぶれてるんだ?」突然のことだった。高史の声が後ろからゆっくりと響き、底知れぬ嘲笑と皮肉が込められていた。真衣は顔を上げた。そこには、礼央と萌寧が翔太を連れて、家族三人で芸術展に来ている姿があった。礼央は淡々とした表情で真衣を見た。翔太は千咲を見て言った。「あの人のデタラメを聞いてると、学校で恥かくよ」真衣は高史に向かって言った。「展示ホールはこんなにも広いのに、どうしていつも私の近くに寄ってくるの?」萌寧が口を開いた。「ただの偶然じゃないですか?息子に芸術の素養を身につけさせようと思って連れてきたんです」「真衣さんが千咲を連れて来られるなら、翔太だって当然来られるはずよ」高史は腕組みして薄笑いし、眼中に軽蔑の色を浮かべた。「まあ、ここにあるのは見るに堪えない作品ばかりだ。この女に何が語れるっていうんだ?語れたとしても、きっと誰でも知ってるような浅はかなことばかりさ」高史は真衣を見た。「お前が得意げに話せるのは、3、4歳の子供相手だけだ」一方、礼央は最初から最後まで傍観者のようにそこに立っていた。あたかも他人の滑稽さをそばで静かに眺めているかのようだった。真衣は冷笑した。「盛岡社長があの一家三人の飼い犬になりたがるのは勝手だけど、だからって他人にまで吠え散らすのはやめてくれる?勝手にやってな」真衣が毒づくと、千咲の手を引いてその場を去った。真衣は高史に反論の隙さえ与えなかったため、高史の表情は一瞬で険しくなった。「あの女、今俺を犬呼ばわりしたよな?!」萌寧は高史を見て微笑みながら言った。「真衣さんの口の悪さは知ってるでしょ?どうしてわざわざ刺激するの」「俺が間違ってるとでも言うのか?」高史はそう言うと、そばにいる礼央の方を見て、少し慰めを求めようとした。礼央は淡々と視線を外し、特に何も言わなかった。そして、礼央は展示館内へと歩み入った。-真衣は千咲を連れて展示館の中へと向かった。中にある作品の作りはどれもさらに精巧で
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