All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 111 - Chapter 120

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第111話

真衣は一瞬、立ち止まった。しかし、気がついた後、彼らが同じ部屋に泊まることに特に驚きはしなかった。何しろ萌寧は頻繁に礼央が住んでいる家に出入りし、かつて礼央と真衣が一緒に寝ていた主寝室で寝ているから、ホテルで一緒に泊まるのも当然なことだろう。ただ、真衣は彼らがこれほどまでに堂々と部屋を行き来することは予想していなかった。真衣は視線を逸らし、部屋のドアを閉めると、キャンプ場の方へ向かった。会社の酔っ払った同僚たちをそれぞれの部屋に送り届けた後、真衣はフロントでヨードチンキを受け取り、自分の部屋に戻った。部屋に戻ったのは22時過ぎだった。真衣がシャワーを浴びようとしたその時、部屋のドアベルが鳴った。真衣は眉をひそめ、沙夜か安浩だろうと思い、手にしていた着替えを置いてドアを開けた。ドアを開けると、翔太が着替えを抱え、気取った表情でこう言ってきた。「お風呂に、入れて」このおばさんには長い間、お風呂に入れてもらっていなかった。真衣の目が冷たく冴えた。「私のことなんだと思っているのよ?お風呂に入れてあげる?」真衣の冷たい表情にも動じず、翔太は言った。「パパとママは忙しいから、お風呂に入れてくれるのはおばさんだけなの。それに今夜はおばさんと寝るの」今夜はパパとママの邪魔をしたくなかったのだ。真衣は冷たい表情でドアを閉めようとした。翔太は真衣の腕の下をくぐり抜けて部屋に入った。翔太はベッドに座ると、「早くお風呂に入れて」と繰り返した。「おばさんは長年、僕のママの立場を奪ってきたんだから、僕に尽くして償うのは当然なことだよ。これはおばさんの借りなんだから!」真衣は鉄壁の心を持っているが、この言葉で胸が鋭く刺された。翔太は幼いながら、言葉には驚くほど棘を持っていた。真衣は心の底から翔太のことを愛し、全身全霊で翔太の成長を見守ってきた。しかし、翔太の目には母への愛のかけらもなく、単なる世話係としか映っていなかった。ますます、翔太を手放したのが正解だと真衣は確信した。他人の子は、どうやっても心が通じ合わない。その一方で、礼央は外山さんと夜を共にし、翔太を自分に押しつけて世話をさせる。なんて都合の良い考えだ。こんな露骨な侮辱をしてきて、自分を一体何だと思っているんだ?呼べばすぐに来て、追っ
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第112話

真衣はまるでとんでもない冗談を聞いたかのような表情を浮かべた。礼央はどうしてこのような言葉を口にできるのだろうか?あたかも自分が翔太の面倒を見ることは当然なことで、翔太の面倒を見ることが自分の責任であるかのようだ。つまり、彼らがロマンチックな夜を楽しんでいる間、子供の面倒を見るのは自分の当然の義務だってわけ?自分はそこまで卑しくない。真衣は嘲笑うように言った。「礼央、どうして私が翔太を自分の息子のように扱うべきだと思うの?」「言ったでしょ、私はあの子のことはいらないって!」真衣はそう言い残すと、礼央が返事するかどうかも気にせず、冷たい表情でその場を去った。翔太は鼻をすすりながら、真衣が去る後ろ姿を見つめた。このおばさんはやはり悪女だ。-翌日。真衣はホテルで荷物をまとめていた。今日は千咲を算数教室に連れて行くつもりだった。スーツケースを押しながら部屋から出てくると、ちょうど萌寧が自分の部屋から翔太を連れて出てくるところが見えた。二人は視線が合うと、どちらも一瞬たじろいだ。昨夜は同じ部屋にいたのに?すぐに真衣は状況を理解した。真衣は彼らの秘密の守り方はなかなか上手いと思った。今朝はそれぞれの部屋から何事もなかったように出てきて、相変わらずの幼馴染の絆を見せた。萌寧は真衣に向かって笑いかけた。「おはよう。昨日はあまり話ができなかったわね」「九空テクノロジーでの仕事は順調?」急にこんな質問するのはなんか変だ。真衣は、萌寧に仕事の心配をされるほど二人の仲は親密だとは思っていない。一見親切に見えても、裏では必ず何か悪だくみしてるに違いない。真衣は相手にするつもりはなかった。萌寧はひとりごとのように続けた。「私が礼央と肩を並べるようになったら、礼央はあなたを私のアシスタントにすると言ってたわ」「九空テクノロジーで働くのが嫌になったら、いつでも私のところに来てね。翔太の面倒を見てくれるお礼としてね」萌寧は上から目線で真衣を哀れむような態度をとった。外山さんは常に自分を貶め、侮辱する機会を逃さない。真衣は萌寧を冷ややかに見て嘲笑った。「礼央には私の仕事に首を突っ込む資格はないし、あなたにも私をアシスタントにする資格なんてないわ」萌寧は顔色一つ変えず、淡々と笑った。「なかなか
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第113話

真衣は祖母の寺原千寿江(てらはら ちずえ、旧姓:大井川 おおいかわ)からの着信を見て、数秒間黙り込んだ。結局、真衣は電話に出た。「真衣、最近忙しいの?」真衣は答えた。「まあまあだね」「前はよく実家に戻って私に会いにきてたのに、最近は来なくなったね。礼央と喧嘩でもしたの?」真衣はどう返事すればいいのかわからなかった。千寿江はまだ真衣と礼央を仲直りさせようと考えていたが、二人の間にはもう可能性などなかった。真衣は数秒間黙り込んでいた。千寿江は何かに気づいたようで、優しく真衣に言った。「今夜仕事が終わったら、私と一緒にご飯でも食べない?個室のあるレストランを予約しておくから」退勤後。真衣は簡単に身支度を整え、千寿江が予約したレストランへ向かった。千寿江は早くから個室で待っていて、真衣が来ると、「さあさあ、座って」と言った。真衣が座ると、千寿江はメニューを真衣に渡した。「何が食べたいか見てみて」真衣はメニューを受け取り、しばらく見つめていた。真衣は白いシャツを着て、ゆるく袖をまくり上げていた。長い髪は後ろでまとめられ、繊細で小さな顔立ちがあらわになっている。全体の雰囲気は、穏やかでありながらどこか冷ややかな印象を与えていた。ただ、その顔は最近またひと回り小さくなったように見えた。千寿江は真衣じっと見つめ、眉をひそめた。「どうしてまたこんなに痩せたの?」真衣は淡々と言った。「夏になったから、少し痩せるのは仕方ないよ」「今までの夏でこんなに痩せたことはなかったわ」千寿江は真衣のことをとても気にかけていた。真衣の成長を見守ってきたからこそ、毎年の変化を目にし、心に留めていたのだ。最近の真衣の礼央に対する態度の変化に、千寿江はすでに気づいていた。「礼央があなたにひどいことを言って、怒らせたの?」真衣は注文を終え、メニューを置いて首を振った。「いや」良いも悪いもない。礼央の態度は一貫して冷たかった。ただ自分が突然それを悟り、諦めただけだった。前世は目がよく見えず、執着していたから悟れなかっただけ。男に夢中になりすぎると、ろくな結果にならない。「何の話だ?」会話の途中だった。礼央が堂々と個室に入り、さりげなく上着を椅子の背もたれにかけると、自然な流れで真衣の隣に座った。
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第114話

礼央は一体どうやって自分がエビの旨辛炒めが好きだという結論に至ったのだろう?おそらく好きなのは、別の人だろう。千寿江は礼央を叱りつけた。仕事ばかりに没頭せずに、もっと自分の妻を気にかけるようにと。礼央は辛抱強く一つ一つの言葉を受け止めた。食事の途中。千寿江は真衣を見て言った。「多惠子が亡くなってからもう2年が経つわ。三周忌がすぐそこまで来ているけど、準備は進んでいるの?」真衣はお箸を握る手に少し力を込めた。真衣の母方の祖母の名前は青木多恵子(あおき たえこ、旧姓:米原 よねはら)と言い、千寿江とは幼なじみの親友で、とても仲が良かった。親友の三周忌を、千寿江はなおさら重視していた。一生の親友が先に旅立っても、やはり心の奥底でずっと想い続けるものだ。伝統的な習わしでは、故人の三周忌は盛大に執り行われる必要がある。これは故人の魂が完全にこの世を離れ、正式に先祖となる時を意味している。だから、三周忌の儀式はこれまでよりもさらに盛大に行われる。「うん、すでに準備は進んでいるよ」千寿江が今日彼らを食事に誘ったのも、主にこの話をするためだった。「一人でやらずに、礼央にも一緒に準備させなさい。あなたは子供の面倒も見ているんだから、手が回らないでしょ?」真衣は前世のことを思い出した。多恵子が三年前に亡くなった時のこと。礼央は翔太を連れて海外に行き、出張で忙しいから帰れないと言っていた。今思えば、礼央は真衣ではなく萌寧に会いに行っていたのだ。だから帰ってこなかったのだ。真衣は多恵子に対して深い思いを抱いており、真衣にとって特に大切な存在だった。今世では、萌寧は予定より早くに帰国した。しかし、恐らく礼央は多恵子の三周忌に参加したくないだろう。真衣も礼央とは極力関わりたくなかったため、「私一人で大丈夫」と淡々と答えた。食事後。真衣は千寿江の前で芝居をしていた礼央と一緒に帰る気はなく、残業をすると言って会社に行くことにした。「何の残業なの?」千寿江は礼央をチラッと見た。「真衣のことをいじめてるの?」千寿江は真衣がとっくに高瀬グループを退職したことを知らなかった。礼央は淡々と笑った。「俺にそんな勇気があると思うか?」結局、真衣は千寿江に逆らえず、礼央の車に乗り込んだ。真衣は助手席
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第115話

礼央は淡々と真衣を一瞥し、萌寧との会話を続けた。「わかった、すぐ行く」電話が終わった後。真衣が何か言おうとする前に、礼央は車を発進させた。真衣は言った。「停めて」礼央は片手でハンドルを握り、もう片方の手を窓枠にだらりと乗せ、前方を見ながら気怠げに目的地を聞いた。「どこに行くんだ?アパート?」真衣は目的地について話す気もなかった。「早く降ろして」礼央は淡々とした態度で言った。「千寿江おばあちゃんが送れと言ってただろ」つまり、千寿江おばあちゃんのためでなければ、礼央は送るつもりなどなかったのか。礼央はただ、千寿江おばあちゃんの指示に対して実行しているだけで、別に自分を送りたいわけではなかった。後で千寿江おばあちゃんにうるさく言われるのが面倒だからだ。車はアパートに着いた。真衣はためらうことなくドアを開けると、降りてアパートへ去って行った。礼央は真衣の態度の変化など気にも留めなかった。真衣が車から降りると、ほぼ同時に礼央は車を発進させて去った。真衣は慌てて去る車の音を聞き、ただ冷笑した。礼央は外山さんを迎えに行くのに急いでいるのか。それなら最初から自分を送る必要などなかったじゃないか。何しろ、これまで表向きは従って裏では逆らうようなことも少なくなかったから。-翌日、九空テクノロジーに真衣が出社したばかりの時。安浩が険しい表情で真衣に近づいてきた。「昨夜、礼央さんが外山さんを連れて私と加賀美先生に会いに来たんだ」「前回のサミットで、外山さんは加賀美先生とうまく話をまとめられなかったが、今回は礼央さんが自ら外山さんを連れて加賀美先生を訪問し、条件交渉に臨んだ。もう外山さんを正式に弟子として受け入れる必要はない、ただ技術指導をしてくれさえすればいい――それに加賀美先生が同意してくれるなら、第五一一研究所や九空テクノロジーに対して、数十億円規模の投資をしてもいいと礼央さんは言ったのだ」安浩は明らかに腹を立てていた。安浩は冷笑した。「所詮は汚い奴だ。いつもコネや不正な手段で目的を達成しようとして、外山さんには加賀美先生の目に留まるだけの実力なんてないのだ」「外山さんはまだ九空テクノロジーに入りたいと思っている。つまり、条件を私が提示し、外山さんが入社さえすれば、礼央さんは投資してくれるという
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第116話

安浩は真衣の穏やかな顔を見て、もしかするともう怒りで頭がおかしくなっているのではないかと思った。「本当に怒っていないの?」安浩は真衣を見つめた。他の人ならとっくに発狂しているところだが、真衣はなんでこんなにも冷静なのか。真衣は首を振った。「怒る必要なんてないわ。贔屓される者は、常に図々しく大胆でいられるからね」争う必要などもはやない。前世では礼央に愛されるために血みどろになったが、今はもう礼央に執着せず、自分自身に集中したいだけだ。萌寧の学歴は確かに優秀で、実力もある。しかし、この国の人口は非常に多く、たとえ一万分の一の天才であっても、国は14万人も選び出せる。萌寧が加賀美先生の前に姿を現し、全国民が注目するような舞台で輝こうと思うなら、礼央が萌寧のために道を切り開き、手助けすることが欠かせない。こんなことで腹を立てていたら、きりがない。-九空テクノロジーの新しいシステムがリリースされてからはしばらく忙しかったが、同時に新しいプロジェクトにも着手しなければならない。最近、政府は起業を強力に支援しており、国家に新たなエネルギーをもたらしたいと思っている。九空テクノロジーもさらに政府と連携を深め、国家のために貢献したいと考えている。ここ数日、真衣は文献を読み漁りながら研究に没頭し、いくつかの技術的な難題を解決しようとしていた。安浩は、技術部のメンバーと真衣を集めて、新しいアイデアを多く出し合った。安浩は真衣の安定感がありつつも柔軟な思考に感嘆し、「第五一一研究所のプロジェクト技術チーフをやってみる気はないか?前から言っていたように、ポジションが空いているんだ」と声をかけた。「加賀美先生には僕から話しておくから」真衣の実力は、とっくに博士号や修士号をもつ人を凌駕している。真衣は眉をひそめてしばらく黙っていた。「もう少し成長してからにしたいと思います」少なくとも、まずは学歴でもう一つ上のレベルに行きたい。それに、千咲の将来も考えなければならない。もし第五一一研究所に入ったら、きっと研究所に缶詰めになって千咲の面倒を見る時間がなくなる。人生をやり直せている今、仕事と千咲のどちらかを選ばなければならない。「美味しい料理は冷めてもうまいからな」安浩は笑った。「無理だけはするなよ」真衣のような人
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第117話

真衣は静かに息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。これはもはや人を絶望の淵に追いやるようなことだ。真衣は唇を軽く噛み、「それなら海外の製造メーカーに連絡してみよう。作れさえすれば、後の道は自然と開けるはず」慧美も同意した。海外の製造メーカーだとなおさらコストがかかる。しかし今となっては、この方法しか残されていない。彼女たちには、礼央が桃代の会社であるスマートクリエイションに多額の投資をするのを止める手段はもうなく、こうした状況下だと、地に足をつけて目の前のことを一つ一つきちんとやるしかなかった。-多恵子の三周忌が近づき、真衣はその準備に追われていた。それと同時に、真衣は多くの海外製造メーカーに連絡を取り、幸い引き受けてくれるところを見つけた。プロジェクトが自分たちの手によって台無しになることは少なくとも免れた。千寿江が電話で三周忌の準備状況を真衣に尋ね、多くのことについて念押しをした。亡き親友の三周忌に何か抜け漏れがないかと心配していた。真衣は準備は順調に進んでいると答えた。千寿江もようやく安心して電話を切った。電話を切った後、千寿江はリクライニングチェアに座り、横のテーブルに置かれた写真に目をやった。写真に写っている老人は白髪を生やして優しげな面差しをしていた。千寿江は手を伸ばして写真をそっと撫でた。千寿江の声はややかすれていて、目も少し潤んでいた。「あっという間に、あなたが逝ってから三年になるわ」脳裏には、二人の過ごした歳月が自然とよみがえった。千寿江はまた軽くため息をついた。「礼央と真衣の仲がうまくいくよう見守ってね。最近二人は喧嘩しているようで」真衣は仕事で忙しくててんてこ舞いだった。慧美は礼央と会う約束が取れず、電話に出るのはいつも湊だった。まるでわざとプロジェクトの進捗を妨げようとしているかのようだ。いくつかのことが心に引っかかって、真衣は一晩中よく眠れなかった。翌日起きてすぐ、真衣は礼央に電話をかけた。電話は長く鳴り続けたが、結局誰も出なかった。真衣は驚かなかった。昔から礼央が真衣の電話に出ないことの方が多かったからだ。プロジェクトを進めるには、正式な手続きは踏まなければならない。慧美は、その間も製造メーカーとの交渉で忙しかった。フライングテクノロ
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第118話

萌寧は、礼央の会社をいつでも自由に出入りすることができる。前回真衣が来た時にはっきりとわかったことだ。アシスタントは真衣が何も反応しないのを見て、つまらないと思い、冷ややかに「何下手な芝居してんだよ?」と言った。そう言い残すと、アシスタントは背を向けて立ち去った。真衣は応接室で3時間も待った。全身が痺れるほど待っても、湊が迎えに来る気配はなかった。ちょうど湊が出てくるのを見かけ、真衣は立ち上がって尋ねた。湊は一瞬戸惑い、「高瀬社長は外山さんとスマートクリエイションのプロジェクトの件について打ち合わせをしております。アシスタントから奥様にお伝えするようにしましたが、ご存じなかったですか?」真衣はかすかに眉をひそめ、ふとまた皮肉っぽく笑みを浮かべた。さっきのアシスタントは自分に嫌味を言っておきながら、礼央がもういないことを教えてくれなかったのか。湊は真衣のことを知っているため、心のどこかで同情していた。妻でありながら、いつも夫に無視される。しかし、湊の心の奥底では、真衣を見下している気持ちの方が強く、表面上は礼儀正しくしても、目元には軽蔑の色に溢れていた。聞くところによると、奥様は高瀬社長にしつこく迫って、何らかの手段を使って萌寧の立場を奪ったらしい。今こんな扱いを受けているのは、かわいそうに見えても、どこか憎まれる理由があるってことだ。真衣はワールドフラックスから出てきた後、もう一度礼央に電話をかけた。だが、礼央は相変わらず出ない。真衣は眉をひそめた。どうやっても礼央に会えず、まるでわざと放っておかれているかのようだった。しかし、今はひたすら礼央がプロジェクトの詳細を決めるのを待つしかない。真衣はあれこれ考えた末、結局会社を早退して、幼稚園に行って降園を待つことにした。礼央が翔太を迎えに来る可能性があるからだ。真衣は携帯でニュースを見ていた。【ワールドフラックスCEOの高瀬社長、恋人の実家企業が進める新プロジェクトのテープカットに参加】あるニュースの見出しが真衣の注意を引いた。ニュースをタップすると、礼央と萌寧が並んでスマートクリエイションが進めるプロジェクトでテープカットしている写真が見えた。真衣が会社で午前中待っていた間、礼央はわざと真衣を避けてスマートクリエイションの
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第119話

修司は真衣に尋ねた。真衣は、わずかに眉をひそめた。修司は真衣が礼央と離婚しようとしていることを知らない。真衣が高瀬家に嫁いだ当初、多恵子はまだ存命で、多恵子はいつも良いことばかりを伝え、悪いことは言わなかったため、みんなは真衣が高瀬家でうまくやっていると思っていた。ましてや高瀬家には真衣を支えてくれる千寿江もいた。今となっては修司が病弱になると、真衣はこのタイミングでどう話せばいいかわからなかった。修司がショックを受けるのを恐れていた。真衣はどう答えればいいかわからなかった。礼央は元から真衣の家族のことには一切関わってこなかった。以前、千寿江がレストランの個室を予約し、多恵子の命日について言及した時、礼央もしっかり理解していた。礼央はただ三周忌に来たくなかっただけだ。以前多恵子がまだ生きていた時、礼央は真衣と一緒に帰省にしぶしぶ付き合っていたが、多恵子が亡くなってからは、青木家に足を運ぶことはなくなった。真衣はさりげなく話題を変え。「まずは供物を並べましょう」その時だった。「高瀬家の富子さんがいらっしゃいました」と青木家の者が知らせた。富子は今年で90歳になる。足が不自由で杖をついていた。富子は、多恵子が生前最も好んだお菓子とローストターキーを持っていた。真衣は富子を迎えに出た。「おばあさん」富子は微笑みながら、手に持っていたものを真衣に渡した。「ここに並べておきなさい。このローストターキーは、多恵子が生前の時の大好物だったのよ。わざわざ急いで作ってきたけど、間に合ってよかったわ」「富子おばあさんの心遣いに、多恵子おばあちゃんもきっと喜ぶと思います」慧美と青木成也(あおき なるや)も富子に挨拶し、久しぶりの再会ということもあり、三人で少し世間話をした。しかし、成也は何度も入り口の方をチラチラと見ていた。今日高瀬家から来たのは、富子一人だけだ。富子は成也を見て言った。「チラチラ見なくても、礼央はすぐに来るわ」成也は「フン」という声だけを出し、何も言わなかった。礼央は一体どういうつもりだ、三周忌の日すら忘れてしまうとは。慧美は、真衣と礼央の間にある事情を知っているため、その場をうまく取りなした。「まず祭壇を整えましょう」千咲は袖をまくり、甘えた声で言った。「私もママを手伝
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第120話

自分のどんなことも、萌寧に比べたら重要じゃないのだ。富子は真衣のことを見て、「さっき礼央に電話したと思うけど、礼央はなんて言ってた?」真衣は軽く唇を噛んだ。「今は忙しいと言っていました」成也は冷ややかに笑った。「いくらでもお金を稼げるのに、こんな大事な日なのに忙しいだと?」真衣は何も言わなかった。礼央は忙しいわけじゃない。ただ、自分は礼央の心の中で取るに足らない存在なだけだ。正確に言えば、自分は一度も礼央の眼中にいなかったのだ。富子は顔色を悪くし、修司からの厳しい叱責に対して、真衣はかばうような言葉を口にした。真衣はまた礼央に電話をかけた。しかし今度は電話すら繋がらなかった。富子の顔色はさらに悪くなった。法要が間も無く始まろうとする時。景司が来たのだ。「こんな大事な日なのに、なんで誰も私に知らせないんだ?」慧美の表情は一瞬で崩れた。真衣は景司を見て、冷たく眉をひそめ、慧美の前に立ちはだかった。「誰もあなたを歓迎していないわ」景司が招かれざる客として来たのは、もちろん慧美の会社であるフライングテクノロジーのことが気がかりだからだ。景司は桃代と浮気をしながら、慧美との離婚を渋っていた。そして桃代の娘・萌寧は、真衣の結婚生活に割り込んできた。彼女たちは本当に親子だ。浮気癖があり、いつも私たち一家を狙っている。景司は眉をひそめ、冷たい顔で慧美を見た。「目上の人に対する礼儀もないのか?俺はお前の父親だ、お前の祖母の命日なのに、来ちゃいけないのか?」経営者は、会社の規模の大小に関わらず、妻と離婚していない限り――自分の体裁を気にしてこういうことに参加するものだ。景司はタイミングをうまく見計らって来た。しかし、礼央はとうとう姿を見せなかった。礼央には最初からこの結婚を尊重するつもりなんてなかったのだ。真衣は今になって初めて気づいた。この世で最も汚らしいものは、自尊心に他ならない。慧美は眉をひそめて前に出ようとしたが、修司に引き止められた。景司は冷たい表情で真衣の方へ歩み寄り、真衣の前に立ちはだかった。「わざと騒ぎを起こしたいのか?」真衣は、自分をかばう修司の背中が以前よりずっと痩せ細ったことに気づいた。真衣は急に鼻の奥がつんとし、顔を背けて目頭を赤らめた。小
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