All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 1161 - Chapter 1170

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第1161話

沙夜が尋ねた。【どう?礼央と話す気になった?彼、ずっと下で立ってるみたいだよ】真衣は深く息を吸い、視線をそらした。【彼に話す気がなくて、ただ立っているだけなら、私は降りないわ】彼には自分のペースがあり、考えがある。後悔なのか、遠慮なのか、わからないけれど、無理強いする気はなかった。結局、自分で気づくしかないこともある。沙夜は真衣の言葉を見て苦笑いした。【あんたたちって本当に不思議ね。互いに想い合っているのに、わざわざ遠くから見つめ合って、傷つけ合って何が楽しいの?】【私は別に遠くから見つめたいわけじゃない】真衣は眉をひそめて、俯いた。【礼央自身が心の壁を越えられないのよ。彼は私に申し訳ないと思っているみたいだけど、実際その通りだから。話し合った時から、彼は自分の過ちに気づいていた。償えない過ちだと知り、私の許しを得る資格もないと。だから、私がどれだけ近づいても、彼がダメだと思えばそれまでなのよ。一歩を踏み出すには、彼自身が納得するしかない。他人が手を伸ばしても無駄なの】沙夜は送信し終えると、続きは直接話した方が早いと思い、直接真衣の家のドアを開けながら口を尖らせた。「そこまでわかってるなら、何で背中を押してあげないの?あなたの一言で、礼央は全ての迷いを捨てられるかもしれないのに」真衣は深く息を吸った。「沙夜、人生は恋愛だけじゃないわ。私たちの結婚は、最初から間違いだったのかも。タイミングが悪すぎたのよ。神様は私たちをからかうのが好きみたい。こんな状態になるまですれ違ってしまった。感情がすり減って、ただの仕事上の関係だけが残ることもあるわ」沙夜は彼女の意見に同意しなかった。「感情がすり減ったなんて嘘でしょう。正直に言って。あなたはまだ礼央を想ってるの?これからの人生を一緒に歩みたいと思う?」二人を傍で見ていると、沙夜はもどかしく感じることがあった。ちゃんと話せば、感情のもつれは解消できるはずなのに。傍観者にはわかるのに、当事者は見失ってしまう。恐らく礼央も、二人の間にまだ感情があることに気付いているだろう。だけど、彼はどうしても心の壁を越えられずにいる。沙夜は言った。「人生は限られているのよ。あなたたちはもう何年もの時間を無駄にしてきた。これ以上無駄にしちゃダメよ。互い愛し合ってい
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第1162話

「私にはわかるの、礼央はきっと苦しんでいるって」沙夜が沈黙を破った。「彼は今日、焼き鳥屋の近くで長い間待っていたわ。きっと私と安浩さんが一緒にいるのを見たのよ。その後、車であなたの家の下まで私について来て、ずっとそこに立っていたの。重いうつ病の彼が、何を考えていたと思う?」真衣の胸は締め付けられるように痛んだ。確かにそうだ。哀れむべき人には必ず憎むべきところがある。憎むべき人にも哀れむべきところがある。世の中の因果は往々にして、互いに作用するものだ。そうね、礼央は何を考えていたのだろう?うつ病の彼は、物事をうまく考えられるかしら?「わかってる」真衣は言った。「でも本当にどうすればいいかわからないの」沙夜はしばらく黙っていた。彼女は真衣がこんな風に苦しみ葛藤する姿を見たくなかった。以前はもう忘れたと言っていたが、他人の目にははっきり見えている。重い感情はそう簡単に忘れられるものではない。ましてやそこには誤解が複雑に絡んでいるのだから。沙夜は言った。「あなたの辛さや心配はよくわかる。でも覚えておいて、愛は一人のものじゃない。二人で一緒に努力する必要があるの。もう少し礼央に時間をあげてみたら?あなた自身にもね。簡単に諦めないで。二人の感情を簡単に否定しちゃダメよ」真衣は唇を噛んだ。「沙夜、人間は感情の生き物よ。思うようにはいかないの」人の感情はいつも複雑だ。沙夜は言った。「年を取るほど、人の目的は純粋でなくなる。若い時ならためらうことなく行動できるし、感情にも素直になれる。あなたがためらわず自分のキャリアも学業も捨てて礼央と結婚したようにね。年を取ると、若い頃にはあった勇気が足りなくなるのよね。あなたは礼央を愛してないと言い、愛だけが人生じゃないって言うけど、愛と他のことを両立したっていいじゃない?あなたたちはきっとうまくやっていけるわよ。あなたたちを見ていると辛いの」沙夜は言った。「正直、見ているだけで疲れる。あなたたちのどちらかが気づく必要がある。でも礼央は無理よ。彼は、あなたと安浩さんの幸せを願っている。だってあなたたちは恋人同士で、あなたは先輩の子供を妊娠したんだから」真衣は目を伏せ、携帯を握る手に力を込めたが、何と言えばいいのかわからなかった。真衣は沙夜が自分たちのためを思っ
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第1163話

この一言で。真衣の表情は瞬時に変わり、胸が締め付けられたように痛んだ。携帯を握る手に、さらに力が入った。そう。沙夜は洞察力が鋭く、彼女の言うことには確かに一理あった。礼央は確かに自分の前では終始淡々としており、感情も安定していた。礼央は自分の前では、まるで感情を内に秘めた怪物のようだった。そのため、自分は礼央が重度のうつ病を患っていることをつい忘れてしまう。麗蘭の言う言葉も、いつも流してしまう。「真衣、こんな話をするのは、あなたにプレッシャーをかけたいからじゃないの。ただ現実と向き合ってほしいだけ。だって二人の関係は、どちらか一方の意思で決まるものじゃない。それは二人で決めることだと思うの。あなたたちは互いのためにと言っているけど、実際は互いを苦しめ合っている。そうでしょう?二人には一緒に幸せな未来を築ける可能性があるのに、なぜそうしないの?互いを想っているのに、どうして苦しめ合わなきゃならないの?」沙夜は続けた。「礼央はあなたが安浩さんと幸せに暮らしてほしいと思っていて、あなたは彼の考えに従えばいいと思っている。彼には彼のペースがあって、あなたは彼を追い詰めたくないと思っているから。でも、このままじゃ、二人はすれ違ったままでしょう?」真衣は下唇を噛み、黙り込んだ。彼女は階下を見下ろした。礼央は背筋を伸ばし、まだそこに立っている。凛とした姿は、誰が見ても、尊いオーラを纏った礼央だった。沙夜は続けた。「礼央は確かに以前、あなたにひどいことをしていたわ。礼央は確かに間違いを犯してしまったし、それによってあなたは彼を誤解した。その事実を取り消すことはできない。だから、あなたはそれらのことにこだわる必要はない。人は前を向くものだから。過去にしがみついていても、幸せにはなれない。過ちを知り改めるなら、それ以上の善行はない。礼央はずっとあなたを愛している。昔も今も、ずっと変わらずに。そうでしょう?友人として言ってるのよ。礼央を庇うつもりはないし。ただ、私はあなたに幸せになってほしいのよ」沙夜は続けた。「これ以上、あなたたちが傷つけ合う姿を見るのはもう嫌なの。私は礼央を説得できない。彼の心には分厚い壁があるし、うつ病じゃなくても、彼は私のような他人の言葉を簡単には聞き入れない」沙夜は続けた。「
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第1164話

沙夜はそう言い終えると、自分の家に帰っていった。真衣は目を伏せた。手が少し震えていた。沙夜は一言で真衣の心を射貫いた。真衣は心から礼央の命を案じた。今までなら、礼央が生きているのなら、どんなに時間をかけても構わないと思っていた。しかし沙夜の言葉が、真衣にはっきりと気づかせた。そう、礼央は簡単にこの世からいなくなってしまう可能性があることを。では今、礼央を生かし続けている理由は?真衣の心にはすでに答えがあった。それは、自分と千咲の安全だ。礼央は自分と千咲のことが気がかりで、苦しみに耐えながら命を留めている。真衣はふと、礼央がかつて自分にかけた言葉を思い出した――怒りに任せて、自分は礼央に「死んでほしい」と言ったことがあった。その時、礼央の表情がわずかに変わったのをおぼえている。その時、礼央は言った。「今はまだその時ではない」当時、自分はこの返事を不可解に思ったが、深く追及はしなかった。真衣は深く息を吸い込んだ。突然胸が締め付けられるように痛んだ。真衣はまだ階下に立っている礼央を見た。唇を噛み、リビングでゴミ箱を片付け、部屋着姿でゴミ袋を持って階下へ降りた。降りる時、わざと礼央の視線を避けた。彼の斜め後ろから、そっと傍に近づいた。「こんな時間に、私に何か用?」礼央は真衣の声に、はっとして振り向いた。「通りかかっただけだ」真衣は礼央を見て、頷いた。礼央は真衣を見て言った。「こんな遅くにここで何をしている?」礼央は真衣が薄着なのを見て言った。「寒くないか?」真衣は首を振って言った。「あなただってここに立っているじゃない。寒くないの?」礼央は眉をひそめた。彼は腕時計を見て言った。「俺はもう行くよ」真衣は礼央を見つめて言った。「明日の朝、一緒に朝食を食べない?」礼央は動きを止めた。礼央は複雑な表情で振り返り、真衣を見つめた。しかし礼央は冷ややかな声で言った。「やめておく。俺は朝食を食べないから」真衣は頷き、それ以上誘わなかった。彼女はくるりと背を向けて階段を上がった。礼央は真衣の後ろ姿を、じっと見つめていた。その後、彼は背を向けて、車のドアを開けた。-翌朝。真衣は九空テクノロジーの代表としてエバーテクノロジーに赴き、救援
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第1165話

礼央は眉尻をかすかに動かし、感情のこもらない声で言った。「朝食を食べていないのか?」真衣は口元に笑みを浮かべ、礼央を見た。「あまり食欲がなくて」真衣はわざとそう言った。昨日、朝食を一緒に食べないかと尋ねたが、礼央は要らないと言った。だから今日はあえて自分も食べず、礼央が気にするかを試してみようと思ったのだ。礼央は一瞬言葉を詰まらせた。やがて彼は口を開いた。「少し座って待ってくれ。湊に朝食を持って来させる」真衣は眉をつり上げ、言われた通りに座った。真衣は賭けに出たのだ。感情を隠し続ける礼央が、まだ自分を気にかけているかどうかを。しばらくして。オフィスのドアがノックされ、湊が袋を提げて入ってきた。湊はテーブルに食事を並べると、気を利かせてすぐに退出した。朝食は全て真衣の好みの味付けで、明らかに礼央が特別に指示したものだった。真衣はわざとスプーンでコーンスープをかき混ぜ、フォークには手を付けなかった。礼央は真衣の向かいに座って尋ねた。「どうして食べない?」「別に大した理由はないけど」真衣は礼央を見上げて笑った。「ただふと思ったの、一人で食べてもつまらないなって」そう言いながら、真衣はわざとらしく礼央を見上げた。「一緒に食べない?」礼央は静かな眼差しで、じっと真衣を見つめた。彼は何も言わず、静かに真衣を見つめていた。そしてやがて、ゆっくりと口を開いた。「わかった」礼央の言葉を聞いて、真衣は満足げに微笑んだ。二人は向かい合って座り、オフィスには食器が触れ合うかすかな音だけが響いた。二人の結婚生活は長かったが、こんな風に一緒に食事をすることはめったになかった。二人にとって貴重で、少し滑稽な時間だった。記憶の中では、彼らは主に高瀬家の実家で食事をしていたが、そこで交わされる会話は表面的な上辺だけのものだった。また、真衣は食事の席で年長者から子供を早く産むように言われ、しばしば気まずい空気が流れ、こんな風に気楽に食事できなかった。真衣がサラダを食べようとしていると、礼央が全く手をつけず、ただ静かにこちらを見ていることに気付いた。礼央は複雑な表情を浮かべながら、静かに真衣を見つめていた。真衣は言った。「どうして食べないの?」「食欲がないんだ」礼央
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第1166話

もしかしたら、礼央を変えることは、そんなに難しいことではないのかもしれない。礼央もフォークを置き、ティッシュを手渡した。「口を拭いて」真衣はティッシュを受け取り、俯いて口を拭いた。「書類はここに置いておくね。サインをお願いね」真衣は立ち上がった。「ああ」礼央は頷き、視線を真衣から離さずに続けた。「湊に送らせる」「結構よ。一人で大丈夫」真衣は手を振り、踵を返して去っていった。真衣が去ると、礼央はゆっくりと息を吐き、ソファに座って眉間を揉んだ。ちょうどその時、湊がドアを開けて入ってきて、礼央の様子を見て微かに眉をひそめた。「どうしたんですか?気分が優れないようですが」礼央は黙っていた。湊が続けた。「寺原さんのことで何か……」礼央は首を横に振った。「どうやら彼女は多くのことを知っているようだ」礼央の気持ちは揺れていた。真衣が望めば、自分は拒めない。真衣が自分を傷つけてでも自分に何かを求めるなら、礼央は彼女に従うしかない。湊は言った。「これは決して悪いことではないのかもしれません」湊はずっと傍で二人を見守ってきた。二人は愛し合っているのに、なぜこんなにも回り道をするのだろう?二人なら、きっとうまくやっていけるはずなのに。そして今、この一歩を真衣が踏み出した。「寺原さんが過去を気にしていないのであれば、高瀬社長も気にする必要はありません。本人が気にしていないのに執着することは、彼女を別の形で傷つけることになると思います」礼央は軽く手を振り、退出するよう合図した。湊は唇を軽く動かしたが、何も言わずに振り向いて部屋を出た。-午後。エバーテクノロジーでのプロジェクト会議が半分ほど進んだ頃。突然、礼央の額に冷や汗が浮かび、ペンを握る指の関節が白くなった。礼央の顔は透き通るように青白く、目はかすみ、周囲の声がぼやけて聞こえた。「会議を一時中断する」礼央は立ち上がり、震える声でそう言うと、周りの反応を待たずに会議室から駆け出した。湊は胸が締め付けられる思いで、すぐに立ち上がって礼央の後を追った。オフィスのドアを閉めると、礼央はよろめきながらデスクに座り、引き出しから薬の瓶を取り出し、白い錠剤を飲み込んだ。湊が急いで傍に駆け寄って尋ねた。「高瀬社長、どこか
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第1167話

礼央の車が麗蘭のクリニックの前に停まった。礼央はふらつく身体を引きずり、こめかみを押さえながらドアを開けた。診察室に入ると、麗蘭はすでに机の上に分厚いカルテを広げ、彼の到着を待っていた。「いつかこうなると思ってたわ。私を訪ねてくる日が来るって」麗蘭はため息をついて立ち上がり、新しい治療計画書を礼央に差し出した。「私の指示に従わないなら、これ以上使える薬はないわよ。薬の量が増え続けている。このままでは脳の神経を傷つけてしまうわ。あなたは確か、脳がいちばん重要だって言ってたわよね?」礼央は俯いたまま沈黙していた。「以前のあなたは、薬で脳を傷つけないために、薬に頼らなかった。どんなに辛くても薬を飲まず、無理矢理感情を抑え込んでいた」麗蘭は声に怒りを滲ませて続けた。「だけど、今は薬のルールも治療のプロセスも無視して頻繁に薬を飲むから、身体がついていけてないの」麗蘭は声を強めて言った。「このまま私の指示を無視すれば、神様でもあなたを救えないわ」礼央がようやく顔を上げると、その目には拭いきれない疲労がたまっていた。「今年だけでも乗り切りたいんだ」麗蘭は深く息を吸い込んだ。麗蘭は礼央を知り尽くしていた。最初から、彼は生に対する執着がない。彼を支えているのは、生きることへの執着ではなく、責任や未練だった。「明日ですら危険な状態で、よくも今年なんて言えたわね?」礼央のまつげが微かに震えた。長い沈黙の後、礼央は口を開いた。「お前の指示に従う」麗蘭はカルテを取り上げて治療計画を立て直すと、礼央を治療室へ連れていった。機器の作動音が響く静かな室内で、礼央は診察台に横たわり目を閉じると、投薬と電流治療によって神経が次第に鎮まるのを感じた。「今後は週に一度の通院が必要よ。自己判断で薬を止めたり増やしたりするのは絶対にダメ」治療が終わると、麗蘭は念を押した。礼央は頷いた。治療室を出ると携帯が鳴った。真衣からのLINEで、救援航空機のテストデータの図面が添付されていた。【提携先が明日このデータを必要としていて、いくつか質問があるから打ち合わせをしたいんだけど、今どこ?時間ある?】礼央は画面に表示された名前を見つめながら、返信メッセージを打った。【浜北湾(はまきたわん)に向かってる】意外にも、
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第1168話

部屋の中は全て真衣が去った時と同じままで、まるで時間が止まっているかのようだった。真衣はドアの開く音に振り向き、複雑な眼差しで礼央に尋ねた。「ずっとここに住んでいるの?」礼央はドアを閉め、上着をハンガーにかけながら淡々と答えた。「ああ」実際のところ、礼央は多忙で会社で過ごすことも多かった。だが、感情が極度に混乱すると、必ずこの場所に帰ってきていた。真衣の気配が残るこの空間に身を置くだけで、張り詰めた神経が少しだけ緩むような気がした。真衣はウェディングフォトを見つめた。写真に映る二人は並んで立ち、優しく微笑んでいる。しかし現実では、二人は回り道をし、今の状況に至っている。真衣は視線をそらし、携帯を差し出した。「データはここに入っている。いくつか気になるパラメータがあるから確認してほしいの」礼央は携帯を受け取り、ソファの傍に座って真剣に目を通し始めた。リビングは静まり返り、二人の顔を携帯の画面の光だけが照らしていた。真衣は礼央の向かいに座ると、思わず彼に視線を向けた。礼央は顔色が悪く、目の下のクマは濃くなっていて、疲れているように見えた。沙夜や麗蘭から聞いた礼央の病状を思い出し、真衣の胸は締め付けられるように痛んだ。先ほどのLINEでのやり取りから、すでに礼央の様子が普段と違うことに気付いていたが、彼の姿を見て尚更心配になった。礼央はすぐにデータを確認し、いくつかの問題点を指摘した。「ここの誤差が大きすぎる。あと、このパラメータは以前の設定と合致していないから、再計算が必要だ」礼央の口調は、疲れ切った様子とは裏腹に、専門的で冷静だった。真衣はノートを取り出し真剣にメモを取った。二人は再び仕事仲間のような状態に戻り、わざとらしい距離感が漂っていた。しかし、二人は互いに気付いていた。この距離感の裏には、激しく渦巻く思いや気遣いが隠されていると。部屋の中にある全てが、二人に静かに過去を語りかけていた。礼央は真衣が真剣に記録する横顔を見つめた。礼央はふと、麗蘭の言っていたことは間違いで、真衣に近づくことは、必ずしも悪いことばかりではないのかもしれないと思った。少なくともこの瞬間、礼央の心は穏やかで、久しぶりに訪れた温もりすら感じていた。礼央はただ、この温もりがもう少し続いてほしいと願った
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第1169話

礼央は沈黙したまま真衣を見つめた。彼は何も言わなかった。部屋の空気が凍りついたように静まり返っていた。亮太は確かに一般人ではない。彼のあの常軌を逸した行動の裏には、明らかにもっと深い企みが隠されている。二人とも口を開かなかった。部屋全体が不気味な沈黙に包まれた。真衣は深く息を吸い、その沈黙を破った。「ねえ、ちょっと話でもしない?」真衣は思った。二人の間でそろそろきちんと話し合う時が来たのだと。礼央は目を上げ、真衣の顔を見つめ、淡々と言った。「ああ、座って話そう」「うん」真衣は彼の向かいのソファに腰を下ろした。「あなたの宿敵は山口社長なの?」真衣は核心をつく質問をした。彼女は事の真相を明らかにしたかった。礼央は尋ねた。「なぜそう思う?」「誰もがそう思っているわ」真衣は率直に言った。「ビジネス界で二人は真っ向から対立し、07プロジェクトでは最大のライバル。誰もがあなたたちのことを宿敵同士だと思っているわ」礼央はテーブルの上のグラスを取り、軽く一口水を飲んだ。「違う。俺と彼は宿敵ではないし、ライバルですらない」真衣は眉をひそめた。「じゃあなぜあなたは命がけで争っているの?高瀬グループのため?それとも07プロジェクトのため?」礼央はグラスを置き、真衣を見つめて言った。「本当に、その理由がわからないのか?」「分からないから、聞いているの」礼央は目を伏せ、薄く嘲るような笑みを浮かべた。今となっては、隠し通す必要はないと思った。そろそろ腹を割って話す時が来た。何と言っても、真衣はもう幸せを見つけ、安浩のような信頼できる人に守られている。過去の因縁を話したところで、問題はないだろう。「彼は俺の父さんの隠し子で、俺よりも年上なんだ」礼央はその驚くべき事実を、あたかも以前から受け入れていたかのように冷静に語った。真衣はその場に凍りついたように、表情がこわばった。真衣は今まで色々な推測をしていた。ビジネス上のライバルか、家族の利益を争う者同士か。だがまさか、宗一郎が公徳の隠し子だったとは!「道理で……」真衣の脳裏に過去の記憶が次々と浮かんだ。「道理で公徳さんは彼に資産を与えたわけね。それによって彼が短期間で急成長し、高瀬グループの業務に熱心に取り組ん
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第1170話

「だが父さんは同意せず、密かに高瀬グループ全体を山口社長の手に渡そうとし、俺をそのために布石にしようとした」真衣の胸に複雑な感情が渦巻き、深く息を吸った。なるほど、礼央が戦ってきた相手は、宗一郎の露骨な敵意や陰の攻撃だけではない。家族という名の内側からの思惑と締め付けも、常に彼に重くのしかかっていた。礼央は表向きは権力を握っているように見えたが、実際には前後から敵に囲まれていた。「では、なぜ山口社長は救援航空機の技術を狙っているの?なぜ彼は国外の勢力と結託するの?」真衣は眉をひそめて続けた。「高瀬グループの支配権とは、あまり関係ないように思えるんだけど」礼央は鼻で笑った。「彼の野心は、高瀬グループだけにとどまらない」礼央は少し間を置いて続けた。「彼の背後には国外の勢力の支持がある、お前の推測は正しい。俺たちが結婚する前から、彼の目はすでにお前に向けられていた。お前だけではない、すべての優れた若手人材、特に航空宇宙や関連産業などの重要分野で能力のある者を彼は狙い、あの手この手で自分の陣営に引き入れようとしていた」真衣は尋ねた。「彼はなぜそんなことを?一体何のために?ただ自分の勢力を拡大するため?」「勢力の拡大は最初の一歩に過ぎない」礼央は続けた。「彼が求めるのは、状況を左右できるほどの、より大きな力だ。お前は彼がただ単にビジネス界の大物になりたいだけだと思うか?」礼央は真衣を見つめ、はっきりと言った。「おそらく彼は『首相』になりたいのだろう」「首相?」真衣は一瞬あっけにとられ、礼央が冗談を言っているのかとさえ思った。山口社長が、一国の権力を掌握しようとしている?「彼は国外勢力の支持を得て、人材を集め、技術を盗み、地盤を拡大し、少しずつ富と権力を蓄積している」礼央は重々しい口調で言った。「高瀬グループは彼にとって、単なる踏み台に過ぎない。援航空機の技術こそが、彼の野望を実現するカギになる。技術があれば、彼はさらに国外勢力の信頼と支持を得られ、ひいてはこれらの力を借りて国内の情勢に干渉することさえ可能になる」科学技術立国は単なるスローガンではない。この新しい時代において、最も優れた人材と設備を有する者が真の力を持つ。真衣の背中に冷や汗が走った。彼女はついに悟った。宗一郎の企みは
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