All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 1181 - Chapter 1190

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第1181話

礼央は深い眼差しで真衣を見つめた。彼は静かに拳を握りしめた。長く沈黙していた心臓が、激しく鼓動し始めた。礼央の口がゆっくりと動いた。「聞いてくれるなら――」「もちろん聞くわ」礼央はわずかにたじろいだ。礼央は真衣を見つめたが、結局長い間温めてきた本音を飲み込んでしまった。礼央は唇を軽く噛み、目を伏せると、いつもの落ち着いた口調に戻った。「07プロジェクトの後続テストについて、スケジュールを調整する必要がある」真衣は気持ちを整理し、頷いて答えた。「わかった。ちょうど伝えようと思っていたけど、パートナー側から最終データを三日早く受け取りたいとの要望があったわ」二人はすぐに仕事モードに入り、技術パラメータの最適化やテストプロセスの連携について議論した。さきほどまでの微妙な空気は専門的なやり取りに取って代わり、言葉の端々に息の合った連携が滲んでいた。礼央が時折顔を上げると、真衣が真剣にメモを取る横顔が見えた。仕事が終わったのは午後六時だった。真衣は書類をまとめていたが、ふと、今朝千咲が言った言葉を思い出した。真衣は礼央の方へ振り向いて尋ねた。「今朝、千咲が唐揚げを食べたいって言ってたの。あなたも……一緒にどう?」礼央はノートパソコンを閉じようとしていた手を止めた。礼央はこうした家族の団欒にほとんど参加したことがなかった。特に真衣と別れてからは、千咲の成長の瞬間を多く逃していた。一瞬ためらった後、彼は真衣を見上げて言った。「いいよ」たった一言だったが、真衣の胸のつかえが軽くなり、心からの笑顔が浮かんだ。-真衣の住まいへ向かう車中は静かだったが、気まずさはなかった。真衣は時折、最近の千咲の様子を話した。家族の絵を描いて、パパを大きく描いたものの、横顔をぼんやりとしか描かなかったこと。-家に着くと、真衣が先に降りた。礼央が後から続いた。ドアを開けると、ちょうど亮太が千咲の絵本を手に持って、書斎から出てくるのが見えた。礼央を見た亮太は一瞬呆然としたが、すぐに礼儀正しく頷いた。「高瀬社長」「亮太、お疲れ様」礼央の声は穏やかで、いつものよそよそしさはなかった。書斎の入り口でクマのぬいぐるみを抱えていた千咲は、ドア前に立つ礼央を見た瞬間、身体を硬直させ、驚いた目で彼を見つめた。
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第1182話

千咲は無意識に真衣の手を繋ごうとしたが、視線は自然と礼央の方へ向かった。礼央は千咲の視線に気づき、少し躊躇してから自ら手を差し出し、彼女の小さな手を包んだ。千咲の手は小さくて柔らかく、触れた瞬間、子供特有の温もりが礼央の胸を温めていった。今まで感じたことのない優しい感覚が、礼央の張り詰めた神経を次第にほぐしていった。手を握られた千咲は一瞬驚いたが、すぐに笑顔になり、小さな手で彼の手をしっかり握った。道中、千咲は楽しげにたくさんのことを話した。礼央は話に耳を傾け、時折頷いたり、簡単な質問をし、車内には和やかな雰囲気が広がった。お店に着くと、千咲は慣れた様子で注文カウンターに駆け寄り、つま先立ちでメニューを見ながら、真剣に食べたいものを選んだ。「パパ、何が食べたい?」千咲は振り向き、小さな顔を上げて礼央に尋ねねた。「千咲が選んでいいよ、パパは何でもいい」礼央は千咲を見つめ、優しく言った。その様子を傍で見ていた真衣は、心が温かくなるのを感じた。真衣は千咲の好きなフライドポテトとオリジナルチキン、エッグタルトを注文し、礼央にはホットコーヒーとハンバーガーを頼んだ。席に着くと、千咲は待ちきれない様子でフライドポテトを手に取り、ケチャップをつけて礼央に差し出した。「パパ、食べて」礼央は口を開けてポテトを食べると、サクサクとした触感とケチャップの甘酸っぱさが口の中に広がった。千咲の満足そうな小さな表情を見て、礼央の口元に自然と淡い笑みが浮かんだ。「パパ、前は私のこと嫌いだったの?」千咲は突然手を止め、大きな目で礼央をじっと見つめて尋ねた。真衣の心が急に締め付けられ、取り繕おうと口を開いたが、礼央の視線に制止された。礼央は手にしていた飲み物を置き、真剣に千咲を見つめて言った。「パパは仕事を理由に、千咲のことをおろそかにしていた。ごめんね」礼央は優しく千咲の頭を撫でた。「だけど、パパはいつも千咲が大好きだし、愛しているよ」千咲に対して初めて口にした「愛している」という言葉に、礼央は自分の胸が熱くなるのを感じた。千咲は目に涙をためながら、力強く頷いた。「わかったよ、パパ」千咲はエッグタルトを一つ取り、礼央の口元に差し出した。「パパ、たくさん食べてね」礼央は口を開けて食べると、口の中に甘さが広
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第1183話

礼央は首を振った。「礼を言う必要なんかないよ」-真衣は、礼央が車を別荘のガレージに滑らかに停めているのを見つめ、無意識に助手席のシートベルトのバックルを指先で撫でていた。後部座席の千咲はもう眠くて目を開けていられず、小さな頭がこっくりと傾いていた。礼央は先に車を降り、後部座席のドアを慎重な手つきで開けた。千咲はぼんやりと目を開け、小さな手でおもちゃのフライドポテトを握り締めながら礼央を見て「パパ」と呟いた。真衣は千咲を抱き上げ、口元についたケチャップを拭いながら言った。「もう眠いでしょう、お風呂に入って寝ましょうね」真衣は礼央を見て尋ねた。「浜北湾に戻るの?」礼央が腕時計を見ると、もう夜の十時になっていた。礼央は手を下ろし、平静な声で言った。「いや、会社に戻って仕事をする」千咲と食事をしていた時は、彼は携帯はマナーモードに設定していたが、画面を見ると仕事関係のメッセージが溜まっていた。真衣は唇を軽く噛んだ。真衣はわかっていた。千咲が頼まなければ、礼央がファストフード店で一緒に食事をしてくれることなど絶対になかったと。一緒に食事をしたせいで、彼の仕事を遅らせてしまった。「ごめん。千咲と食事をしたから、仕事が溜まってしまったよね?」真衣は続けた。「大変そうなら私も手伝うわ。前に似たようなプロジェクトをフォローしたことがあるから」真衣は少し間を置いて言った。「毎日のように夜更かししていたら、身体にも良くないわ」先日も、礼央は一週間会社に泊まり込み、微熱がありながらもプロジェクト会議に出席していた。しかし、礼央は首を振り、真衣の腕から千咲を受け取った。千咲は驚いて、身体を少し硬直させたが、抵抗しなかった。「お前もゆっくり休め。千咲を連れて疲れただろう」礼央は優しい声で続けた。「仕事は一人で処理できる」-真衣が千咲を風呂に入れた後、寝かしつけて出てくると、礼央がリビングのソファに座っていた。フロアスタンドの温かな光が彼を照らし、こわばった肩のラインを浮かび上がらせていた。礼央はタブレットを手に、眉をひそめながら画面をスクロールさせていた。真衣は歩み寄り、礼央の向かいの一人掛けソファに座ると、白湯を注いで彼に差し出した。礼央はタブレットを置き、カップを受け取ったが飲もうとはし
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第1184話

礼央は声を震わせ、途中で言葉を詰まらせた。真衣の心は急に高鳴った。彼女は、「どうしたの?どんな夢を見たの?」をすぐに尋ねた。礼央は真衣を見つめ、不安げに話した。「お前たちがいなくなる夢を見たんだ」礼央はかすれた声で続けた。「そのたびに、怖くなって目が醒めて、目が醒めると掌が汗でびっしょり濡れてるんだ」真衣が交通事故に遭う夢を見たこともある。夢の中で狂ったように病院へ駆けつけたが、どうしても病室が見つからなかった。目を覚ますと、まだ夜明け前で、礼央はほとんど反射的に真衣に電話をかけ、声を聞くと、張り詰めた神経がようやく緩んだ。礼央の言葉を聞いて、真衣は全身を硬直させた。真衣は転生者だ。真衣と千咲は、前世で確かに不運な死を遂げた。あの苦痛に満ちた記憶を、真衣は心の奥深くに封印し、決して触れようとしなかった。自分だけが知っていることだと思っていたが、礼央の夢は自分の恐怖心を正確に突いていた。礼央も何かを覚えているのか、それともただの偶然なのか?真衣は深呼吸し、冷静になるよう自分に言い聞かせ、テーブルの上のカップを取って一口飲むと、ようやく声が出せるようになった。「ただの夢よ」しかし、礼央は真衣をじっと見つめて尋ねた。「本当にただの夢なのか?」礼央も違和感に気付いているのかもしれない。真衣は言った。「現に私も千咲もこうして生きているでしょう?」真衣はそっと礼央の腕を叩いた。「考えすぎちゃダメ。きっと疲れているのよ」礼央は冷たい真衣の手の甲をじっと見つめた。礼央は静かに拳を握りしめた。突然、心臓が激しく鼓動し始めるのを感じた。疲れている自覚はある。だが、あの夢は現実味がありすぎて、目覚めるたびに、大切な人を失う恐怖がなかなか消えなかった。「怖いんだよ」礼央は呟くように言った。「俺はすでに千咲との時間をたくさん逃してしまった。もしまた何かあったら、俺は……」礼央は続きの言葉を口に出せなかったが、真衣には理解できた。真衣はふと、昼間二人で翔太の話をした光景を思い出した。真衣は今の翔太の環境を思って心を痛めていたが、礼央は過度な甘やかしは彼を傷つけると冷静に理解していた。あの時は礼央を冷酷だと思ったが、今になって彼の頑丈な鎧の下に、どれほどの恐怖が潜んでいたかわかった気がした。礼央は
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第1185話

真衣は礼央が立ち上がって書類を整理する後ろ姿を見つめていた。真衣は静かに口を開いた。「もう遅いから、あなたも早く寝てね」礼央は動きを止め、振り返って真衣を見た。礼央の瞳は深く沈んでいた。彼は唇を噛み、喉を軽く動かしたが、すぐには返事をしなかった。仕事など簡単に放っておけるものではない。07プロジェクトは最終段階に入り、宗一郎と留美が暗に圧力をかけ、取引先からは支払い催促メールが次々と届いていた。エンジニアチームも難しいパラメーターの最適化の問題に直面しており、彼の決断を待っている。しかしなぜか、真衣の心からの心配そうな眼差しを見ると、会社に急いで戻らなければという焦りが、薄らいでしまう。礼央はふと、ここを離れたくないと思った。この家には千咲の穏やかな寝息、真衣の淡い香り、そして久しぶりに感じる心安らぐ生活の匂いがあった。誰もいないオフィスに比べ、ここは温もりに満ちていて、安心できる場所であると感じられた。真衣は礼央の気持ちを察した。真衣は礼央を見つめて言った。「私があなたの仕事を手伝うわ。07プロジェクトのことなら、流れは把握しているわ」真衣は礼央の懸念や、このプロジェクトが彼とエバーテクノロジーにとってどれほど重要かを理解していた。真衣の真剣な眼差しを見て、礼央の胸は熱くなった。真衣はもはや、以前のように自分の後ろについて回る少女ではなかった。今の真衣はしっかりと自立し、強く、自分の最も信頼できる戦友になり得る存在だった。「眠くないのか?」礼央は優しい声で尋ねた。千咲を寝かしつけていた時、礼央は真衣の目に浮かぶ疲れに気付いていた。真衣は苦笑いして言った。「私たちの業界じゃあ、忙しいのは当たり前でしょう」真衣は礼央の傍に歩み寄り、書類に目を落としながら続けた。「それに、社長が残業しているのに、私がぐっすり寝ているなんておかしいじゃない」真衣は少し冗談めかして言った。礼央はずっと、たった一人でプレッシャーを背負って来た。誰も彼に「手伝うよ」と言ってくれなかった。「少し休んで」と言ってくれる人もいなかった。皆、礼央の力を畏れ、彼の決断に依存していたが、彼の身体を気遣う者はいなかった。礼央は真衣をじっと見つめ、ゆっくりと口を開いた。「書斎に行こう」短い言葉だった
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第1186話

礼央が眉をひそめて言った。「恐らく留美の仕業だろう」礼央は少し間を置いて続けた。「留美は昨日、協力会社の名目で技術者を現場に派遣し、テストプロセスを視察させていた。ただの視察だと思って深く考えていなかったが」「私の不注意だったね」真衣は声に自責の念を滲ませた。留美が大人しくしていないだろうとは思っていたが、まさかこんなに早くデータに手を加えていたなんて。「お前のせいじゃない」礼央は真衣を見つめて言った。「手段を選ばないのは、彼女が焦っている証拠だ。今気付けてよかった、まだ取り返しがつく」礼央はバックアップデータを呼び出し、分析を始めた。「幸い事前にバックアップを取っていた。改ざんされた箇所を特定し、パラメータを再度調整すれば問題ない」真衣は頷き、作業に没頭した。真衣は慣れた手つきでソフトを操作し、テストログを呼び出して不審なデータを一つ一つチェックしていった。二人は時折意見を交わしたが、思考は驚くほど一致しており、一方が考えを述べると、もう一方がすでに次の解決策を思い描いていた。気づけば時間が過ぎ、更けていく夜の闇に、書斎の明かりだけがひっそりと灯っていた。真衣は少し疲れて目をこすり、礼央を見上げた。彼はまだ集中して画面を見つめており、眉をひそめながら真剣な表情を浮かべている。真衣は立って白湯を注ぎ、礼央の手元に差し出した。「少し休んで。無理しちゃダメよ」礼央がカップを受け取る時、二人の指が触れ合い、真衣の指の冷たさを感じて胸が震えた。礼央は白湯を一口飲むと、喉の渇きが和らいだ。「もうすぐ終わる」カップを置きながら、礼央は幾分軽い口調で言った。「改ざんされた箇所を特定できた。再調整すれば、明日には提携会社に回答できる」真衣は画面に映る修正されたデータ曲線を見ながら言った。「これで山口社長と留美さんがデータの問題を利用して私達を脅そうとした計画が失敗に終わったわね」礼央は真衣の笑顔を見ると、疲れを忘れ、心が温まっていくのを感じた。礼央はふと、こうして二人で一緒に作業をする夜も悪くないと思った。駆け引きも因縁もなく、互いの傍にいて、ただ純粋に専門的な知識について交流を行う。「ありがとう」礼央は小さな声で言った。真衣が手伝ってくれなかったら、徹夜をして身体が悲鳴を上げていただろ
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第1187話

礼央は数秒間沈黙した後、ゆっくりと頷いた。「ああ、わかった」今回は、素直に頷いた。礼央の姿がドアの外に消えていくのを見届けながら、真衣はそっとドアを閉めた。真衣は窓まで歩いていき、礼央の車が住宅街からゆっくりと走り去っていくのを見守った。前世の後悔が少しずつ埋められていく。かつて失われたものが徐々に戻ってきている。-翌朝。礼央の車はちょうど真衣側の別荘地に入っていったところだった。礼央は階下に見慣れた白いセダンが停まっていることに気付き、見ると安浩がトランクの中からバッグをいくつか取り出していた。礼央はドキッとした。ここで安浩に遭遇するとは思っていなかったからだ。礼央は車から降りた。朝の日差しが彼の顔に降り注ぎ、普段の冷たい表情を和らげていた。安浩は物音を聞いて振り返り、礼央を見ると少し驚いて微かに微笑んだ。「高瀬社長、こんなところで会うなんて奇遇ですね」安浩の言葉に含まれた皮肉めいたニュアンスを、礼央は感じ取った。礼央は安浩の真衣への気持ちを知っていた。長年、彼が彼女の傍にいない間も、安浩はずっと真衣と千咲の傍にいてくれた。礼央は安浩の言葉には反応せず、落ち着いた口調で言った。「長年、真衣と千咲の傍にいてくれてありがとう」その言葉は、二人の間の微妙な空気を打ち破った。安浩はバッグを持つ手に力を込めた。安浩にはその言葉の重みが十分に理解できた――それは感謝であるだけでなく、ある種の宣言でもあった。真衣はすでに礼央を受け入れていた。安浩は深呼吸し、胸にこみ上げる感情を抑え、穏やかな笑みを浮かべた。「当然のことをしたまでです。真衣は友人ですし、千咲ちゃんも可愛いので」そう言ったものの、胸に溜まった苦い痛みは拭い切れなかった。安浩は以前から、自分と真衣の間には多くの隔たりがあることに気付いていた。真衣の心にはいつも礼央がいて、たとえすれ違っていても、二人の絆は骨の髄まで刻まれていて、決して消えることはない。だから安浩は最初から多くを望んでおらず、ただ真衣が必要とする時に傍にいてやりたいと思っていた。しかし、この「望みのない」恋愛感情を目の前にすると、失望や諦めきれない気持ちが、まるで潮のように彼を飲み込んだ。「今日は千咲ちゃんのおもちゃや、真衣の好きなスイーツを
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第1188話

安浩は携帯を取り出し、真衣に送ろうと用意していたLINEを削除した。きっと、諦めることが最善の選択なのだろう。真衣が幸せで、千咲が温かい家庭を持てるのなら、それは自分にとっても幸せなことだ。礼央は紙袋を手に、階段を上っていた。袋からはおもちゃの微かな音と、スイーツの甘い香りが漂ってきた。これらは全て、安浩が真衣と千咲に向けた純粋で誠実な気持ちだった。鍵を出してドアを開け、リビングに入ると、千咲の澄んだ笑い声が聞こえてきた。真衣はエプロンをしてキッチンで忙しくしており、千咲はピンクのワンピースを着て、リビングを走り回っていた。「パパ!」礼央を見ると、千咲は目をぱっと輝かせ、嬉しそうに駆け寄ってきた。礼央は袋を下ろし、腰をかがめて千咲を受け止め、抱きしめた。小さな身体から優しく漂う、ほのかなミルクの香りが、彼の緊張した神経を解いていった。「気を付けて。転ぶといけないから」礼央の声は優しさで溢れていた。キッチンから出てきた真衣は、礼央の手にある紙袋を見て驚いて尋ねた。「それは?」「安浩が届けてくれたんだ。千咲のおもちゃと、お前の好きなスイーツだって」礼央は紙袋を渡しながら、階下で安浩に会ったことを話した。真衣が袋の中を覗くと、確かに彼女の好きなスイーツや、千咲が以前デパートで欲しがっていたレゴブロックが入っていた。真衣の心に、感謝と後悔が入り混じった複雑な感情が湧き上がった。「お礼の電話をしよう」真衣は携帯を取り出したが、手を止め、携帯をしまった。安浩の気持ちはきっと沈んでいる。電話をすれば、彼を苦しめるだけかもしれない。「必要ない」礼央は真衣を見つめ、目に理解の色を浮かべながら言った。「彼は仕事があると言っていた。お礼を言わなくても、安浩はきっとわかっているよ」真衣は頷き、それ以上は何も言わなかった。真衣はスイーツをテーブルに置き、レゴブロックを取り出して千咲に手渡した。「千咲、常陸おじさんがレゴブロックを買ってくれたよ」千咲は嬉しそうに受け取り、カーペットに寝転がって遊び始め、小さな声で呟いた。「常陸おじさん、ありがとう」千咲の嬉しそうな様子を見て、真衣の心は少し楽になった。真衣は振り返ってキッチンに入り、朝食の準備を続けた。礼央も後について入り、ドア際に立
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第1189話

朝食ができあがり、食卓に運ばれた。千咲は食べながら、ふと礼央を見上げた。全てが、夢のように思えた。本当にパパが傍にいる。ずっと願っていたことが、今この瞬間に叶ったかのように思えた。これからはもう、辛い気持ちでパパを待つ必要がなくなるのかな?今度こそ、パパは自分のことを好きになってくれるのかな?千咲は心の中でそう思ったが、声には出さなかった。千咲はただ大人しく朝食を食べた。ちょうどその時だった。礼央の携帯が鳴り、メールが届いた。メールの送り主は留美だった。【この証拠があれば、寺原さんをこの業界から追い出せるわ】礼央は険しい表情で、添付ファイルを開いた。添付されていた「証拠」は――偽造された銀行振込記録に、当時真衣がコンテストで審査員に賄賂を渡したとされる取引明細が記されていた。また、真衣が審査員を買収し、萌寧に罪を着せる方法を相談しているように見えるよう、会話の前後を切り取ったLINEのトーク履歴も記されていた。さらには証人による証言なるものまであった。署名欄には当時の関係者の名が記され、真衣の受賞に不正があったことを指摘していた。礼央は失笑した。礼央は留美の手口を熟知していた。留美は、長年権力の座に居座り、事実を歪めて他人を陥れる武彦の手口を習得していた。お金で人を買収して偽証させれば、白を黒にすることなどは朝飯だ。完璧な偽の証拠を用意すれば、永遠に拭うことのできない汚名を着せられる。留美はこれらの証拠を持ち出し、過去のことを蒸し返して、真衣の評判を潰そうとしているのだ――宇宙航空分野で学術的な不正は致命的な汚点であり、一度立証されれば、真衣は完全に立場を失うだろう。礼央は素早くメールを削除し、何事もなかったかのように振る舞った。「どうしたの?」真衣の声を聞いて顔を上げると、彼女が心配そうにこちらを見ていた。明らかに、何かを察知しているようだった。「何でもない」礼央は目を上げ、お箸を取って平静を装った。しかし真衣は礼央から目を離さなかった。真衣は礼央をよく知っている。彼は何があっても、常に落ち着いている。彼はめったに感情を表に出さない。真衣は手に持っていたスプーンを置き、まっすぐに礼央を見つめた。「前に私たち、何て約束した?
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第1190話

真衣はお箸を置いて言った。「留美さんは、軟禁状態の父親のために自滅行為をするつもりなのかしら?」留美はこれで自分を打ち倒せるとでも思っているのかしら?あまりに甘い考えだわ。大会で、真衣は何もやましいことなどしなかった。技術パラメータ、コード、全てが彼女の努力の結晶だった。萌寧が落選したのは、純粋に提出物自体に修復不能な欠陥があったからで、真衣とは関係ない。留美は真衣を失墜させることで宗一郎のために道を開き、林家の計画を台無しにした復讐をしようとしているのだろう。真衣の冷静な横顔を見て、礼央の胸が微かに疼いた。礼央は尋ねた。「怖くないのか?」これらの証拠が公になれば、たとえ最後に冤罪が晴れたとしても、真衣の名声に多少の影響を及ぼすだろう。宇宙航空分野はもともと個人の品行に対する要求が極めて高く、噂話の破壊力は往々にして実際の被害よりも恐ろしい。真衣は振り向いて礼央を見た。「見くびらないで。私はそんなに弱くはないわ」礼央はぽかんとして、真衣を見つめた。そうだ、なぜ忘れてしまっていたのだろう。真衣を高みに押し上げ、業界で輝かせたのは礼央自身だった。真衣は男だらけの宇宙航空業界で地位を固め、自身の実力で様々なコンテストで金賞を勝ち取ってきた。真衣は芯が強く聡明で、常人をはるかに超える冷静さと決断力を持っている。しかし礼央は今まで、潜在意識の中で、いつも彼女を厄介事から隔離しようと考えていた。礼央はあまりにも多くの闇や策略を経験し、人心の険しさを知っている。だからこそ、真衣に安心感を与え、汚らわしい駆け引きに関わらせたくないと思っていた。しかし、真衣は決して温室の中に咲いている可憐な花ではない。礼央はそのことを忘れていた。真衣には風雨に耐える力があり、困難に立ち向かう勇気がある。礼央は言った。「俺が浅はかだった」彼は自分で真衣を過小評価していたことを認めた。罪悪感、あるいは保護欲からなのか。礼央は無意識に真衣のプレッシャーを代わりに背負おうとしていたのだ。礼央は真衣の成長や強さを忘れて、彼女の気持ちを無視していたのだ。真衣は後悔に満ちた礼央の目を見て、心の中のわだかまりが次第に消えていくのを感じた。真衣は、礼央が自分を気にかけてくれていることを十分理解していた。彼女は優しく言っ
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