All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 1141 - Chapter 1150

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第1141話

真衣は安浩を見て言った。「先輩の直感?」「直感じゃない。不自然なところがいくつもあるんだ」安浩は首を振り、会場で談笑する人々を鋭い視線で見つめた。「バンガードテクノロジーの山口社長を見て。彼の余裕な表情は不自然だよ。まるで入札結果を事前に知っていたみたいだ。林家の親子も、勢いがあるようでいながら、どこか自信のない慌てた表情をしているし、高瀬家の公徳さんまでが突然姿を見せるなんて、どう考えてもおかしい」真衣は黙っていた。安浩が指摘したこれらの点は、彼女も薄々感じ取っていた。ただ07プロジェクトがただの嘘っぱちであり、この入札が蛇を誘い出すための芝居だとわかった今ならば、彼らの不審な行動にも全て納得がいく。真衣は安浩を見つめた。彼はいつも一番大切な時に自分に寄り添ってくれる。「先輩は、いつも聡明で洞察力があるね」安浩は自嘲的に笑った。「たとえそうだとしても、大体の見当しかつかないよ」安浩は少し間を置いて、真衣を見つめて言った。「でも君は違う。君は全てを知ることができる」真衣の心臓が高鳴り、彼の視線と交差した。安浩の目は静かで、探るような気配は微塵もなく、そこには純粋な心遣いだけがあった。安浩はすでに真衣が何かを隠していると気づいていた。だが一切詮索せず、彼女を信じ、支えるという意志を伝えてくれている。胸に温かいものが込み上げ、真衣の目頭が熱くなった。長年、真衣は自分の殻に閉じこもり、何もかも一人で背負う事に慣れていた。でも安浩と出会って、真衣は独りぼっちじゃないと気づいた。「先輩」真衣は深く息を吸い、ためらいがちに言った。「これは少し複雑で、多くの機密に関わることなの……」「分かってる」安浩は優しくも力強く遮った。「僕が詳細を知る必要はないし、君の邪魔をするつもりもないよ。ただ伝えたかったんだ。何があっても僕は君の味方だって。九空テクノロジーが君の後ろ盾になるのなら、僕だって同じだ」安浩の言った言葉は、真衣の張り詰めた気持ちを和らげてくれた。安浩の誠実な瞳を見つめ、真衣の胸は感謝の気持ちでいっぱいになった。計算や思惑の渦巻くこの場所で、彼女を心から思ってくれる友人がいることは、紛れもない幸運だった。「ありがとう、先輩」真衣の声はかすれた声で、心から感謝の気持ちを伝えた。安
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第1142話

救援航空機の縮小模型が最も目立つ場所に展示され、多くの人が足を止め、その背後にある技術についての議論を交わしていた。ほとんど知られていないが、一番重要な技術は外部に公開されておらず、その資料は厳重に保護された会場の裏口の近くにある管制室に保管されており、警備が二十四時間体制で監視している。ここにあるデータと設計図の全てが国家機密に関わるものである。真衣は会場の隅のソファに座り、指先でカップの縁を撫でながら、鋭い視線で会場の隅々を見渡した。休憩時間を知らせる音楽が流れると、人々あちこちに散らばり、会場は瞬く間に賑やかな雰囲気に包まれた。しかし、真衣の目に映る一見華やかな光景の裏には、すでに暗雲が渦巻いていた。安浩は真衣の隣で、くつろいだ姿勢をとりながらも、同様に警戒した眼差しを向けていた。二人とも何も話さず、ただ静かに会場の様子を観察していた。すぐに、真衣の視線は一人の人物に釘付けになった――宗一郎のアシスタントだ。黒いスーツに金縁眼鏡をかけたその男は、一見無造作にバックステージ方向へ歩いていたが、足取りにはかすかな焦りが滲んでいた。彼は誰にも挨拶せず、廊下をまっすぐ通り過ぎ、裏口の入口に消えた。そして、ほぼ同時刻、公徳が礼央のそばに歩み寄り、二人は展示ホールのひっそりとした一角に立ち、何やら話し合っていた。公徳はやや興奮気味で、時折手を振りながら話していたが、礼央は終始冷静で、時折頷くだけだった。真衣は、公徳がわずかに身体を傾け、礼央の進行方向を塞いでいる様子を見た。彼の様子から、意図的に礼央をその場に留めようとしているのがわかった。「山口社長のアシスタントは、救援航空機の技術を狙っている」安浩は周りに聞こえないよう、極めて声を落して続けた。「これは全て国家機密だ。彼のしていることは犯罪同然だよ」真衣は裏口に視線を向けたまま、軽く頷いた。「そうね。彼の率いるバンガードテクノロジーは国内外に拠点を設けていて、特に海外市場の展開が驚くほど順調だわ。彼自身の能力を除けば、これらは恐らく偶然ではないね」真衣は少し間を置いて続けた。「私は、恐らく彼が海外勢力と協力関係にあるのではないかと推測しているわ。ここ数年、彼は今日のような機会を待ち、技術を盗み出して海外勢力に引き渡せるよう、密かに布石を
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第1143話

さもなければ、今頃取り返しのつかないことになっていただろう。「彼は本当に巧妙に隠していたんだな」安浩は感慨深げに言った。「ここ数年、彼は穏やかで教養のあるイメージを通してきた。僕は彼の思惑に全く気づけなかったよ。でも、礼央さんはきっととっくに気付いていたんだ」少し離れた場所で公徳と話す礼央を見つめると、真衣の胸に複雑な感情が湧き上がった。そう、礼央はきっとずっと前から宗一郎の本性を見抜いていたに違いない。だからこそ、礼央はこんなに大きな罠を仕掛けたのだ。宗一郎を釣り上げるため、偽の救援航空機の入札会を催した。「ただ、まだ一つだけわからないことがあるの」真衣は間を置いて続けた。「山口社長は結局何がしたいんだろう。機密情報を得る以外に、彼にはまだ別の目的があるように思えるの」真衣は、宗一郎の野望がこれだけではないと直感していた。宗一郎は長年をかけて策を練り、勢力を集め、機密を盗んできた。その背後にはもっと大きな陰謀があるに違いない。利益のためか、それとも何か他に目的が隠されているのかしら?安浩はが言った。「恐らく、彼の目標は救援航空機の技術だけではない。考えてみてくれ。九空テクノロジーは今や航空宇宙分野でますます重要な地位にある。もし君が彼に引き込まれたり、操られたりしたら、彼にとっては間違いなく強力な切り札になる。そうなれば、彼は技術を手に入れるだけでなく、九空テクノロジーを利用してさらに勢力を拡大し、国内の宇宙開発計画にまで影響力を及ぼせる」真衣は表情を曇らせた。安浩の言葉で、真衣は悟った。宗一郎が求めているのは、おそらく航空宇宙分野全体の主導権、業界の方向性を左右できる力なのだ。そして彼にとって真衣は、その目標を達成するための重要な駒なのだ。その時、裏口からかすかな騒ぎ声が聞こえた。騒ぎはすぐに収まったが、真衣と安浩はすぐに異常を察知した。「何かあったんだ」安浩は鋭い目つきをして即座に立ち上がった。真衣も立ち上がり、裏口の入り口をじっと見つめた。真衣は宗一郎のアシスタントが慌ただしく出て来て、宗一郎の元へ急ぎ足で近づき、小声で何かを報告する様子を見た。報告を聞いた宗一郎の表情が一瞬に変化したが、彼はすぐに平静を取り戻した。公徳と話していた礼央も、異常を察知したようで、裏
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第1144話

裏口の騒動は収まったものの、会場の空気は張り詰めたままだった。公徳は焦ったように、何度も裏口へ視線を向けた。明らかに先ほどの出来事に不安を感じている様子だったが、直接聞きに行くわけにもいかず、終始落ち着かない表情をしていた。やがて公徳は会場の隅にいる真衣に視線を止めると、突破口を見つけたかのように彼女の方へ歩み寄った。安浩は公徳の意図を察し、眉をひそめたが上げたが、平静を保ったその場の様子を見守った。近づいてくる公徳を見て、真衣は心の中で悟った。このタイミングで近づいて来るなんて、ろくなことでないに決まっている。「真衣」公徳は努めて平静を装ったが、彼の声はかすれており、明らかに焦っている様子だった。「最近、礼央とうまくやっているか?二人で……ちゃんと話し合ったことはあるか?」真衣はテーブルの上のグラスを手に取り、よそよそしく答えた。「私と高瀬社長とのことは、あなたには関係ありません」真衣はわざと「高瀬社長」という言葉を強調し、彼との間に明確な線を引いた。真衣にとって、高瀬家での生活はもはや過ぎ去った過去であり、彼女と高瀬家には、もう何の繋がりもなかった。公徳は真衣の言葉にたじろぎ、表情をこわばらせた。公徳は少し間を置き、重々しい口調で言った。「そんな言い方はないだろう。我々は元々家族だったんだ。そこまでよそよそしくする必要はない」公徳は距離を縮めようと、懐かしむような口調で続けた。「高瀬家で一緒に暮らしていた頃、俺は君に親切に接していただろう?君や千咲を虐げたことなど一度もなく、いつも二人のことを考えていた」公徳の偽善に溢れた言葉に、真衣は内心で失笑した。高瀬家での暮らしは、一見華やかに見えたが、実際真衣は至る所で制約を受けていた。公徳の言う「親切」とは礼央を支え、高瀬家の顔を立てられるかどうかに基づいたものに過ぎなかった。一度でも真衣がこれらの価値を失えば、いわゆる「親切」は跡形もなく消え去る。安浩は内心嘲笑しながら、真衣の傍でただ静かに二人を見守った。安浩は公徳のような偽善者を嫌悪していた。本性を隠し、善人の仮面を被っている。真衣はグラスを置き、冷たい笑みを浮かべて言った。「公徳さん、何か仰りたいことがあるなら、遠慮なく仰って下さい。回りくどい言い方をする必要はありま
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第1145話

真衣は心の中で冷笑した。公徳は本当に真衣と礼央との復縁を望んでいるわけではない。彼は単に彼女を説得するふりをして、礼央に当時の真相を追及することや、宗一郎との対立を断念させようとしており、それは彼女には容易に想像できた。公徳は礼央の行動が高瀬家に影響を及ぼし、長年築き上げた家業が崩れることを恐れていた。だからこそ、この方法を思いつき、感情で礼央を縛って妥協させようとしたのだ。「口では何とでも言えますよね」真衣は鋭い目で公徳を見て言った。「『過去のことを水に流す』と仰るのなら、なぜご自分は安らかに隠居生活を送らないのですか?それどころか、まだ高瀬家の権勢のために奔走されているように見えますが?」公徳は真衣に反論されるとは思わず、血相を変えた。公徳は反射的に言い返した。「俺が引退などしたら、高瀬家はどうなる?これほど大きな家族を支えるには、頼れる人間が必要なんだ」「そうですか?」真衣は鼻で笑いながら続けた。「でもここ数年、あなたは高瀬家のためにご自身のコネを使っていませんよね。それでも高瀬家は立派に存続していますよ。あなた一人の肩書きだけで、高瀬家を安泰に導けるとでも思っているんですか?それとも、礼央が『北城のドン』という肩書きに頼ってビジネス界や航空宇宙分野で確固たる地位を築いたとお考えですか?」真衣の言葉は公徳の急所を突いた。ここ数年、公徳は名目上高瀬家の当主だが、実際に高瀬家の家業が今日の規模に達したのは、ほとんど礼央の努力によるものだった。礼央は自らの能力でビジネス界で着実に地歩を固め、エバーテクノロジーを創設し、航空宇宙分野で画期的な進展を遂げ、高瀬家に数々の栄誉と利益をもたらしていた。一方の公徳は、ただその成果に便乗し、過去の人脈と地位を頼りに、表面的な栄華を保っていただけだった。公徳は真衣の言葉を聞いて血相を変えた。公徳は口を開き、反論しようとしたが、結局言葉を詰まらせてしまった。「公徳さん」真衣のは冷たい声で続けた。「私と礼央の復縁を考えるより、今の高瀬家をどう守るかを考えた方がいいと思いますよ」真衣は一呼吸置き、鋭い目で公徳を見て言った。「ご存じでしょうけど、山口社長は善人ではありません。彼の狙いは救援航空機の技術だけではありませんよ。礼央が今していることは、単に真相を究明
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第1146話

礼央はすでに裏口のことの処理を終えたようで、真衣の方向へ視線を向けた。視線が交差した瞬間、言葉はなかったが、互いに理解し合う暗黙の了解があった。真衣は礼央の眼差しに決意を見出し、礼央もまた彼女の瞳から信頼を感じ取った。宗一郎は二人の様子に気付き、グラスを手にゆっくりと近づいて尋ねた。「さきほど公徳さんと話していたのを見かけたけど、何の話をしていた?」真衣は宗一郎の方を振り向き、微笑んで答えた。「大したことではありません。ただ、昔のことを少し話していただけです」宗一郎の視線は探るように真衣と礼央の間を行き来した。だが宗一郎は深く追求せず、ただ笑って言った。「そうか。じきに入札が再開するから、寺原さんは席に戻った方がいいよ」「山口社長、ありがとうございます」そう言って、真衣は軽く会釈をした。宗一郎も立ち止まることなく、会場の中央へと歩いて行った。安浩は宗一郎の後ろ姿を見ながら、真衣に言った。「彼はきっと何かを察知したはずだ」「うん」真衣は軽く頷いた。「でも今は証拠もないし、簡単には動けないでしょう」礼央が二人の傍に来て、冷静な口調で言った。「裏口の処理は終わった。すでにいくつかの手がかりを掴んでいる。じっくり待てば、餌にかかって網を引き上げられそうだ」礼央は心配そうに真衣を見て言った。「さっき父さんに何か言われたのか?」「大したことじゃないわ。あなたに断念するよう説得してほしいって言われただけ」礼央は眉をひそめ、無意識に掌を握った。「父さんの目的は俺を断念させることじゃない。彼にはもっと深い思惑がある。今後は父さんから距離を置いた方がいい。決して隙を与えないように」真衣は礼央を見てため息混じりに言った。「あなたの目には、誰もが私にとって危険な存在に見えるの?」真衣の言葉を聞いて礼央は呆然とした。彼女の言葉は重く彼の心を強く打った。礼央は反射的に反論しようとしたが、真衣の澄んだ目を見た瞬間、言葉を詰まらせた。ここ数年、重度のうつ病に苦しみ、神経を張り詰めていた。深夜、数えきれない危険と対峙したこともあり、礼央は警戒心が強くなっていた。礼央は真衣と千咲が傷つくことを過度に恐れ、そのために彼女の気持ちを何度も見過ごし、いつしか自分の不安や警戒心が目に見えない束縛へと変わってしまっていたのだ
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第1147話

「ダミーの資料?」真衣は眉をひそめたが、すぐに状況を理解した。「ああ」礼央は頷いて続けた。「本物そっくりに作られている。一見重要なデータが記載されているように見えるが、致命的な欠陥データを織り交ぜておいた。奴らは今急いで技術を手に入れようとしている。恐らく詳細部分には目を通さず、上層部への報告として提出するだろう」真衣は少し間を置き、思考を巡らせた。「ダミーの資料が出回れば、間違いなく内輪もめが起きるわね」真衣は礼央を見つめて続けた。「山口社長の背後には海外組織から国内の投資家まで複雑な勢力が絡んでいる。彼らが一時的に手を組んでいるのは、単に共通の利益を――彼らの目的は救援航空機の技術を手に入れることだけなのよ。でもダミーの資料が使用されれば、開発過程で生じた誤差であれ、その後発生するであろう深刻な問題であれ、彼らの間に疑念を生じさせることになるはず」真衣の論理は明晰だった。「そうなれば、山口社長が利益を独占しようと偽情報を流したと考える者もいれば、内部に間違った情報を漏らした裏切り者がいると疑う者も出てくる」礼央は静かに真衣の話を聞いていた。真衣の洞察力は鋭い。そして、二人がこうして話す機会は滅多になかった。真衣ほど自分の考えに合致する人間はいない。「この問題を解決する最も効果的な方法は、内部から崩壊させること」真衣は続けた。「そしてそのカギは、彼ら同士の信頼関係にある」少し間を置いて、真衣は続けた。「山口社長は一見全体を掌握しているように見えるけれど、彼らは互いに利用し合っているだけで、実際に信頼関係はない。ひとたび亀裂が入れば、この脆い協力関係はあっという間に崩れ去るはず」礼央は頷きながら、付け加えた。「ダミーの資料には彼らの猜疑心を煽るために、各勢力を暗示する微妙な手がかりも仕込んでおいた。予想通りなら、間もなく彼らはダミーの資料を巡って大混乱に陥るだろう。その時には、我々は漁夫の利を得るだけでなく、彼らが結託している証拠を収集し、一気に全員を警察に通報できる」その一方。安浩は少し離れた柱の傍に立ち、真衣と礼央のやり取りをじっと見つめていた。二人が並んで穏やかな口調で話す様子には、いつものような対立は感じられなかった。安浩は携帯を取り出して、こっそりその様子を撮影し、先に帰っ
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第1148話

入札会が終了した。大企業の代表者が次々と退場し、会場ではスタッフだけが残り、後片付けをしていた。真衣が鞄を整理していると、安浩のためらいがちな声が傍から聞こえた。「真衣、話があるんだ」真衣は顔を上げて安浩を見た。「先輩、どうかした?」安浩は複雑な表情で真衣を見て言った。「家族が僕たちが『付き合っている』ことを知ってしまって、彼らは本気にしているんだ」真衣の表情が曇り、動作がぴたりと止まった。事態を収拾するためについた嘘が、安浩の家族の耳に入るとは思ってもいなかった。申し訳ない気持ちが込み上げ、真衣は慌てて言った。「ごめんなさい、先輩。迷惑をかけてしまって」「君のせいじゃない」安浩は優しい声で続けた。「家族が結婚をしきりに勧めてくるんだ。年も年だしね、結婚を迫られるか、見合いをさせられるかのどちらかだ。彼らは僕にまともな恋人ができてほしいと願っているんだよ」少し間を置いて、安浩は続けた。「『恋人ができた』と知って、家族の年長者たちはとても喜んで、君に会いたがっている」真衣は黙り込んだ。真衣は安浩の立場も、年長者たちの気持ちも理解できた。だが、嘘をついたまま彼らに面会することに、どうしても違和感を覚えた。安浩は真衣の困った表情を見て、事情を察して言った。「無理は承知なんだけど……付き合ってもらえないかな?一度だけでいいから、家族と話をして誤魔化してほしいんだ。人助けだと思って」「もちろんよ」真衣はすぐに答えた。ここ数年、安浩にはさんざん世話になっていた。九空テクノロジーが今の規模になれたのも、彼の投資と支援あってこそだ。真衣と千咲が平穏に暮らせているのも、彼の陰ながらの配慮があったからにほかならない。特に今回は、安浩は自分の評判まで犠牲にして真衣を庇ってくれた。しかし、真衣はためらいがちに言った。「でも、こういうことって、適当に誤魔化せるものじゃない気がする。ご家族の方が本気になったら、その後もっと面倒なことになると思うの」真衣は安浩を見つめて言った。「先輩は今まで何度も私を助けてくれた。そんな優しい先輩が、家族を騙すなんてできるはずがないわ」恋人のふりをしようとした当初、双方の家族まで巻き込むことになるとは考えていなかった。今や事態はここまで発展し、すでに真衣の予想を超えて
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第1149話

「ご家族は心から先輩の幸せを願っているわ。もし全部嘘だとわかったら、きっととても悲しみ、がっかりするでしょう」真衣は少し間を置いて続けた。「それに、嘘はいつか必ずバレるわ。嘘がバレてしまったら、その時は先輩だけでなく、私の立場も非常に厄介になる。今私たちは友人であり、パートナーでもある。この件で私たちの関係に影響が出たり、九空テクノロジーまで巻き込みたくないの」安浩は黙って真衣の話を聞いていた。安浩は真衣の言う通りであることが理解できた。「わかった」しばらくして、安浩は落ち着いた口調で言った。「僕の考えが足りなかった、そこまで考えていなかったよ。気にしないで。この件は僕が自分で何とかするから」真衣は安浩の表情を見て申し訳なく感じ、言った。「先輩、本当にごめんなさい。他に私にできることがあれば、遠慮なく言って」「僕に気を遣わなくていいんだよ」安浩は慰めるように、笑いながら真衣の髪を撫でて言った。「僕たちは友達だろ?友達同士、理解し合うのは当然のことだよ」安浩は穏やかに微笑んでいたが、真衣は彼の目に微かに見える浮かぶ疲れを読み取った。安浩がこのことで悩んでいることを、真衣は十分に理解していた。ちょうどその時、礼央の声が横から聞こえた。「まだ帰らないのか?」二人は同時に振り向き、少し離れたところに立っている礼央を見た。彼は上着を持ち、静かな目で二人を見つめていた。安浩が言った。「ちょうど今話が終わったので、帰るところですよ」礼央の視線は二人の間を行き来したが、詳しくは聞かず、真衣に向かって言った。「送るよ」「大丈夫よ」真衣は慌てて断った。「自分で車で来たので、一人で帰れるわ」「しかしもう遅い。一人で運転するのは危険だ」礼央は言った。「それに、千咲が家で待っているだろう」千咲のことを思い出すと、真衣の心はふんわりと温かくなった。真衣が窓の外を見ると、空はすっかり暗くなっており、夜の道路は車の往来が激しく、確かに少し危険だった。安浩も口を開いた。「真衣、礼央さんに送ってもらいなよ。僕はまだ用事があるから」真衣は少し躊躇した。「じゃあ……お願い」真衣は頷くと、振り返って安浩に言った。「先輩、またね。さっきの話だけど、何か手伝えることがあったら、必ず言ってね」「ああ」安
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第1150話

答えははっきりしていた。真衣が実家へ行く芝居を拒んだことからもわかるように、たとえ芝居でも、彼女は自分と一緒にいることに抵抗を感じている。安浩と真衣は、最初からただの友人であり、ビジネスパートナーに過ぎなかった。恐らく、このままの関係でいることがお互いにとって最もよい関係なのだろう。一方、真衣と礼央の間には、心の奥底に秘められた想いや、すれ違いや誤解があっても、安浩が以前言ったように、それらが消え去ることはなかったのかもしれない。ただ、彼らが自分の心と向き合い、障害を乗り越えて再び結ばれるまで、どれくらいの時間がかかるのかはわからない。安浩はエンジンをかけ、会場からゆっくりと車を走らせた。安浩は思った。そろそろ本気で家族の気持ちと向き合うべきでなのかもしれない。ずるずると引き延ばすより、ふさわしい人を見つけて結婚し、平穏に暮らした方がいい。-一方、真衣と礼央の乗る車内は静まり返っていた。真衣は窓の外を流れ去る景色を見つめていたが、心は乱れていた。さきほど安浩が言ったこと、突然現れた礼央。そして過去に関する記憶が、波のように押し寄せた。礼央は真衣の心の動揺を察し、静かに尋ねた。「どうかしたのか?」真衣は我に返り、首を振った。「何でもないわ」真衣は少し間を置いて尋ねた。「さっきの話……聞いてた?」礼央は否定せず、軽く頷いた。「少しだけ」真衣は言葉を詰まらせた。礼央が尋ねた。「別れたのか?」真衣は一瞬ためらい、指先でぎゅっと服の裾を握りしめた。礼央からそんな質問をされるとは思っていなかった。「うん、そういうこと」真衣は微かに震える声で答えた。この「別れ」は元々芝居ではあったが、礼央に尋ねられると、まるで本当に別れを経験したかのように、真衣の胸に鈍い痛みが広がった。「お前たちの間にできた子は、なぜ助からなかったんだ?」礼央は前方に視線を向けたまま、いつものように無関心な口調で尋ねた。彼の言った言葉は、針のように、平静を装う真衣の心を貫いた。子供の話になると、真衣は心が沈み、顔が青ざめた。ぎゅっと握った手に爪が食い込み、その痛みで真衣は何とか平静を保っていられた。礼央は横目で青ざめた真衣の横顔を見ながら、彼女の心の内を察した。子供を失ったことは、真衣にとって、まだ癒えな
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