「緊迫した状況が続いてる。最近、検問所で身元不明の人物が国境を越えた形跡が見つかったんだ。それで、普段以上に監視や警戒が強化されてる」真衣の心が重く沈んだ。「……身元不明の人物は二人いたりする?」彼女は尋ねた。「例えば、エリアスと、宗一郎」真衣は、彼らの名を口にした途端、背筋が寒くなった。旧友は驚いたように沈黙し、声を潜めた。「二人を知ってるのか?実は、彼らはしばらく前まで国内にいて、俺たちは警戒を続けていたんだ。でも、先週から彼らの痕跡が全く掴めないんだ。まるで、国内から蒸発したようにさ」それを聞いて、真衣は驚愕した。「いなくなったの?」「ああ。その後の調査で分かったんだが、彼らは……出国した可能性が極めて高い」出国。あまりの衝撃に、真衣の全身から血の気が引いていった。二人の出国が何を意味するのか、だいたいの見当はつく。冷酷非情なエリアスは襲撃に長けている。陰険で狡猾な宗一郎は、裏で策略を巡らせることを得意としている。宗一郎は礼央との間に深い確執があり、真衣が現在取り扱う航空材料を狙っている。その彼らが、礼央に執着せず、同じタイミングで突然出国した。彼女がいる地域の不安定な情勢、改ざんされた実験データ、スパイ、迫り来る砲撃……散らばっていたすべての手がかりが、この瞬間、鮮明な一本の軌跡へと繋がっていった。恐らく、彼らの目的地は、彼女が今いるこの国だ。彼らの目的は、礼央への復讐ではなく、この桁外れに価値ある航空材料を奪うことなのだ。そしてこのことについて、礼央は彼女に一言も話さなかった。彼は危険が彼女に迫っていることを知り、エリアスと宗一郎が出国したことも知っていた。彼女が危険な状況にあることを知りながら、毎日彼女に「すべて順調だ」と言い続けていた。礼央は真衣に嘘をついていた。ずっと、彼女を騙していた。言いようのない感情が瞬時に胸に押し寄せた。驚き、悔しさ。そして最も信頼していた人に隠し事をされたという切なさ。真衣は、礼央が彼女に心配をかけないために、すべてを一人で背負っていたことを、分からないわけではなかった。しかし、生死に関わる危険な状況で、「お前のため」だといって隠し事をすることは、決して得策とは言えない。彼女は砲火も恐れないし、スパイも恐れない
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