All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 1771 - Chapter 1780

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第1771話

エリアスと宗一郎は、礼央が焦って国境を離れることを見越していたからこそ、これほど露骨に材料を狙って行動したのだ。礼央は深く息を吸い、真衣に返信した。「今、一段落したところで、こちらも順調だ。移動中は一人で行動せず、くれぐれも気をつけて。こまめに連絡してくれ」返信した後、礼央は結局我慢できなくなり、真衣に電話をかけた。呼出音が二回鳴った後、真衣は電話に出たが、背後で微かに砲撃音が聞こえた。「礼央?」彼女は声を潜めた。「どうかした?」「あ……」礼央は喉を動かし、口をついて出かかった言葉を呑み込んだ。言えなかった。一度口に出せば、真衣は動揺し、却って危険に陥りやすくなるかもしれない。礼央は押し寄せる焦りを抑えて言った。「特に用はないんだ。ただ少し声が聞きたくなって。移動ルートは安全なのか?警備体制は信頼できるのか?安浩の容体は?」「大丈夫。増援も到着したし、警備も全行程同行してくれているわ」真衣は優しく伝えた。「また夜更かししているの?無理しないで。こっちは心配要らないから。私たちは再婚を控えてる。あなたも無事でいて」「再婚」という言葉を聞いて、礼央の胸が締め付けられるように痛んだ。「そっちに行きたい」彼は率直に言った。「心配なんだ、俺がそっちに行く」真衣はすぐに拒否した。「ダメよ。ここに来てはダメ」「どうしても行きたい」「礼央」真衣は声を潜めて言った。「あなたが来たところでどうなるというの?状況は混乱してるの。あなたが入国した時にマークされたら、却って足手まといになるわ」「エリアスと宗一郎はまだ国境にいる。あなたが離れたら防衛線はどうなるの?千咲はどうするの?」彼らがもう国境にはおらず、彼女の赴任先に向かっていることを、どう伝えればいいだろう。まるで、二人の前に大きな壁があり、互いの恐怖や緊張を極限まで高めているように思えた。危険に気づいているのに、口に出せない。真衣は何も知らず、ただ彼を安心させようとしている。「防衛線なんてどうでもいい」礼央は続けた。「俺が気にかけてるのはお前だけだ」「私は大丈夫よ」真衣は続けた。「毎日、無事を伝えているでしょう。一人で行動したり、危険な場所には近づかない。任務を終えたらすぐに帰るから」「あなたはそこにいて。自分の身を守り、千咲を気
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第1772話

臨時医療拠点兼宿舎の食堂は広くはなかった。長テーブルが室内の大半を占め、壁には任務区域の分布図と注意事項が数枚貼られていた。しかし、増援部隊が到着したことで、作業をするための人手は一気に増えていた。研究連絡担当、警備統括担当、後方支援担当、医療支援担当……旅の疲れはあるものの、皆颯爽とした様子を見せていた。新たに到着した仲間を歓迎し、連日張り詰めた空気を少しでも和らげようと、後方支援班が手早く温かい食事を用意した。豪華とは言えないが、物資の乏しい異国の戦地で、それは束の間の安らぎを与えてくれた。皆で長テーブルに腰かけ、食事をしながら、仕事の引き継ぎをする者、現地の近況を尋ねる者、互いに自己紹介をする者もいた。責任者である真衣も、食事をしながら哲也と今後の作業や手配について、打ち合わせをしていた。データの修復、スパイの調査、隠れ家の警備、避難計画のバックアップ……どれも疎かにできないものばかりだった。沙夜は傍に座り、ようやくベッドから起き上がれるようになった安浩を静かに見守っていた。安浩はまだ完全に回復しておらず、食事のペースも遅かった。そんな彼のために、沙夜は消化のよい料理を取り分けてやった。周囲にいた者たちは、そんな二人の様子を見て、時折からかうように微笑んだ。彼らは、あんな風に世話を焼いてくれる人がいるなんて、班長は幸せ者だと感じていた。安浩はその度に微笑み、すぐに視線を沙夜に戻した。沙夜はそのたびに少しうつむき、顔を赤らめながら、食事に集中しいているふりをした。とは言え、ここが戦地であることに変わりはなく、食事時間は決して長くはなかった。食事が終わると、増援要員はすぐに役割分担に従って動き出した。一部の者は技術班について仮説の実験室に入り、改ざんされたデータの復旧作業のサポートに当たった。事務や後方支援の担当者は、新たに拡張された仮設オフィスの整理と設営を始めた。がらんとしていたオフィス内は、たちまち活気づいた。折り畳みテーブルにパソコンや暗号化端末が並べられ、掲示板には最新の進捗や安全のための注意事項が掲載された。真衣は中央に立ち、手際よく任務を割り振り、質問に答え、プロセスを確認した。その声は冷静で明瞭で、一つ一つの指示は的確だった。当初、増援要員たちは、こちらの状況が
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第1773話

「疲れたでしょう?少し休んで」「一緒に休もうよ」二人はオフィスエリアの一角にある、比較的静かな休憩室で腰を下ろした。周りの者たちは、各々の仕事に従事していた。ようやく、二人はほっと息をついた。しばらく沈黙した後、沙夜が口を開いた。「真衣……あなたに話したいことがあるの」真衣は彼女を見つめて言った。「なあに?」沙夜は、指先に力を入れた。彼女は思わず、少し離れた休憩室にいる安浩に視線を向けた――安浩は椅子にもたれ、穏やかな表情で目を閉じて休んでいた。沙夜は小さな声で打ち明けた。「私ね……安浩さんのことが好きなの」その言葉を口にした途端、彼女は顔を赤らめた。「最初は、互いの目的のための偽装結婚だったから。ずっと自分に言い聞かせてたの。本気になっちゃいけないって」沙夜は真剣な表情で続けた。「でも、彼が事故に遭って、私は傷だらけになった彼を見て、頭が真っ白になった。彼の傍にいる内に、やっと分かったの。私はとっくに演技なんかしていなかったって。ただ彼のことが心配で。だから彼が目を覚ました時は、本当に心から嬉しかった。こんな戦場でも、彼の傍にいられるだけで、私の心は満たされる」沙夜は少し間を置いて続けた。「でも、本当は不安なの。彼の心にはまだ……私以外の誰かがいるんじゃないかって。断言はできないし、どうすればいいのかもわからないけど」沙夜は名前を伏せたが、真衣はすぐに気づいた――周囲では以前から、安浩が真衣に想いを寄せていたという噂があった。ただの噂であっても、どうしても胸に引っかかってしまうこともある。真衣は沙夜の目を見て優しく微笑んだ。「余計な心配なんかしないで。怖がることなんてないのよ。先輩は、あなたを想ってる」沙夜は驚いて顔を上げた。「彼は私のことを同僚としてしか見ていない。最初から恋愛感情なんてないのよ。噂は、周りの人たちの憶測に過ぎない。彼自身も分かっているし、私も分かってる」真衣は穏やかな口調で続けた。「あなたたちが一緒に暮らすようになってから、先輩のあなたを見る目は変わったわ。彼の目を見れば、すぐに分かる」真衣は少し間を置いて続けた。「今回の任務でも、先輩は常にあなたのことを第一に気にかけていたでしょう。目を覚ました時も、何より先にあなたを慰めて
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第1774話

沙夜の想いは決して一方的なものではなく、相手に伝わっていたようだ。「本当に?」彼女は、微かに震える声で尋ねた。真衣は頷いた。「先輩とは長い付き合いだもの。彼の性格はよく知ってるわ。彼は甘い言葉が得意じゃないけれど、態度を見ればすぐに分かる。体調がよくなるまでもう少し待ってあげて。彼はきっと、きちんと話してくれるわよ。あなたたちの関係は、偽物なんかじゃない。ちゃんと心が通い合っているわ」沙夜はうつむいて、照れくさそうに口元を緩ませた。ここ数日、ずっと張り詰めていた気持ちが、たちまち和らいでいった。沙夜はずっと、自分が片思いをしているだけだと思い込んでいた。真衣は、うつむいて微笑む沙夜を見て、心から嬉しく思った。情勢が不安定な異国の地で、常に危険と隣り合わせである状況の中、純粋に誰かを想う気持ちは、ことさら尊く、温かく感じられた。「ありがとう、真衣」沙夜は顔を上げた。「ううん」真衣は笑った。「二人がうまくいっていることが、何よりも嬉しいわ。これから何があっても、二人で力を合わせればきっと乗り越えられるわ」二人は顔を見合わせ、力強く頷いた。安浩はいつの間にか目を覚まし、優しい目で沙夜を見つめていた。-その後、安浩は五日間ベッドで養生していた。傷はだいぶん癒えていたが、普段から忙しく動き回っていた彼は、ずっとベッドで過ごすことで、すっかり身体が鈍ってしまっていた。朝の回診で、ゆっくりと動作を行うことを条件に、ベッドから降りて歩行する許可が下りた。医師は歩くことで、血液循環を促進し、筋肉のこわばりを和らげることができると話した。その言葉を聞いて、安浩は喜んだ。沙夜はベッド脇の小さな椅子に座って、実験のバックアップ資料を整理をしており、時折顔を上げて安浩の様子を確認した。先日、休憩室で真衣と話し、安浩が自分に無関心ではないと確信してから、彼女は自信を持てるようになり、臆さず、素直に彼の目を見られるようになっていた。「少しベッドから降りて歩いてみたい」安浩の声はまだ弱々しかったが、強い意志が滲んでいた。沙夜は手を止め、眉をひそめた。「先生は適度な運動なら構わないと言っていたけど、無理しない方がいいんじゃない?」「ずっと横になって、身体が鈍ってるんだよ」安浩は続けた。「少し歩くだけだ
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第1775話

「大丈夫」安浩はそっと沙夜の手を軽く叩いた。「心配ないよ、無理はしないから」彼は壁に手をつき、一歩一歩ゆっくりと歩いた。沙夜は緊張して彼の傍を離れず、片手で彼の腰を支え、もう片方の手でしっかりと彼の肘を支えた。一歩、二歩、三歩……ベッドから窓辺まで、ほんの数メートルの距離を歩くのに、まだかなりの体力を要した。ちょうど振り返って戻ろうとした時、安浩は激しいめまいに襲われ、足元がふらつき、思わずよろめいてしまった。「危ない!」沙夜は胸が締め付けられる思いで、反射的に手を伸ばして安浩を抱き寄せた。安浩は、引き締まった胸板を沙夜の肩に寄せ、無意識の内に腕を彼女の腰に回して、優しく抱き寄せた。二人の距離が近くなった。互いの息遣いを感じるほど近く――安浩からは消毒液の香りがほのかに漂い、沙夜からは爽やかな石鹸の香りがした。互いの鼓動が聞こえる。「トクン、トクン、トクン――」静まり返った病室に、二人の鼓動がひときわ鮮明に響き、鼓動は次第に速く、激しくなっていった。沙夜は、耳の付け根から首筋まで真っ赤になり、その場に立ち尽くすと、無意識の内に息を潜めた。彼女は安浩の胸に抱かれながら、彼の視線を感じた。安浩も呆気に取られていたが、しばらくするとめまいが収まった。彼は、沙夜の赤くなった頬と、微かに震えるまつ毛を見つめた。沙夜の身体は温かくて柔らかく、安浩は思わず手を離すのを忘れてしまった。「安浩さん……」沙夜は震える声で言った。「大丈夫?」安浩は、ようやくゆっくりと手を離して言った。「すまない、さっき少しめまいがしたんだ。ありがとう、助かったよ」「私に気を遣ったりしないで」沙夜は慌てて少し距離を置いた。「だから言ったのよ。無理しちゃダメだって」咎めるように言ったが、彼女は優しく安浩の腕を支えた。さきほどの、ほんの一瞬の出来事が頭から離れず、胸の高鳴りがずっと収まらなかった。突然の抱擁によって、互いに秘めてきた想いが、溢れ出しそうだった。同刻、仮設オフィスには、全く異なる緊張感が漂っていた。増援部隊が全員到着し、設備の設置も完了していた。スパイの調査班は、主要データに接触した可能性のあるスタッフの経歴の再確認や、操作ログの追跡を行っていた。技術チームは、改ざんされた航空材料
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第1776話

しかし、真衣は忙しい毎日の中、いつも心のどこかで、遠く離れた場所にいる千咲や礼央のことを想っていた。彼女は毎日、決まった時間に礼央にメッセージを送り、無事を告げていた。そして彼からは、いつも簡潔で落ち着いた返信が送られてくる。だが、真衣は漠然と違和感を感じていた。彼の文面はあまりにも落ち着いていて、わざと平静を装っているかのように思えた。しかし真衣は、深く詮索しなかった。尋ねれば、彼が保ってきた平穏を壊してしまうかもしれない。そして何より、自分の知らないところで何かが起きているのではないかと思うと怖かった。真衣は携帯に彼から届いた【すべて順調】【千咲はいい子にしている】【心配しないで】というメッセージを見つめ、胸が苦しくなった。彼女は、千咲が恋しくてたまらなかった。自分に抱きついてくる手の感触や、「ママ」と甘えたように呼ぶ声が懐かしかった。そして礼央が、彼が言うように、本当に無事でいるかどうかも気がかりだった。しかし、オフィスで気を抜くことはできない。オフィスには仲間がいて、重要な研究の成果がある。そして、いつ迫って来るか分からない危険もある。心配事、悩み、想いは心の奥に押し込め、冷静な仮面の下に隠しておくしかなかった。-一方、その頃。ある夜。司令部の明かりは一晩中灯り続けていた。礼央は窓辺に立ち、まだ火をつけていないタバコを指に挟んでいた。机の上に山積みになった資料が、息の詰まるような結論を指し示していた。エリアスと宗一郎はすでに出国して真衣がいる国へ向かい、航空材料を狙っている。危険が迫っていると知りながら、何もできずにいる無力感に、礼央は正気を失いかけていた。周囲のスタッフは何度も交代し、入れ替わっていたが、彼だけは変わらずそこに立ち続けていた。その日は静かな夜で、風の音さえも鮮明に聞こえた。礼央はゆっくりと携帯を取り出し、親指で画面をスワイプしてロックを解除した。彼は、こっそり撮った真衣の写真を壁紙に設定していた。その写真は絵画のようで、真衣は優しい笑みを浮かべながら胸に千咲を抱き、庭の籐椅子に腰かけていた。何気なく撮ったものだが、壁紙はずっと、その写真だった。礼央は指先で、画面の中で笑う彼女の顔をそっとなぞった。ここ数日、彼はほとんど眠れていなか
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第1777話

簡潔な文面を心がけ、こちらの危険について多くを語らず、彼の実情についても詮索しない。二人は、「あなたが無事で、私は安心」という言葉で互いの平穏を保っていた。礼央は、司令部をほとんど離れず、任務に没頭していた。エリアスと宗一郎が出国し、真衣のいる国へ向かったことは、ほぼ確実だった。礼央は平静を装い、人員の配置や監視など、すべてにおいて冷静に振る舞ったが、副官は彼が精神的に崩壊寸前であることに気付いていた。タバコの量は明らかに増え、彼は画面に映る衛星画像を、目が痛くなるまでじっと見つめた。携帯は手放さず、音量を最大に設定し、手の届くところに置いた。それは、真衣からの連絡を逃さないためだ。しばしば、副官が休息を勧めたが、彼はそのたびに、「必要ない」と言うだけだった。何事も恐れず、銃弾の飛び交う中を進み、幾度も生死を分かつ局面を乗り越えてきた礼央は今、戦場にいる一人の女性に心奪われている。この日の午後、拠点周辺の空気は、普段より重く沈んでいた。武装勢力間の衝突が突然激化し、砲弾が市街地の中心部にも着弾するようになった。警備班長が何度も入ってきて、全員に即時移動の準備をするよう促した。真衣は画面に映る操作ログを前に、哲也とスパイに関する最新の情報を確認していた。傍では、沙夜が安浩を休ませていた。傷口はまだ鈍く痛んだが、彼は部屋に戻ることを頑なに拒み、現場に残ると言った。「データ復旧は七割程度まで進んでいます。あと二時間ほどで――」技術班の担当者の言葉が終わらないうちに、建物全体が突然激しく揺れた。「ドォーン――」轟音がすぐ近くで響き、衝撃波で壁や窓が激しく震え、埃がサラサラと落ちた。デスクの上の水筒が倒れ、書類が床一面に散乱し、皆身をかがめて頭を覆った。「砲撃だ!近いぞ!急いで隠れるんだ!」当初、現場は混乱したが、全員が訓練を受けていたため、皆落ち着いて素早く対応した。警備隊員が状況確認に向かい、技術班は慌てて機器を保護し、沙夜は真っ先に安浩を庇いながら部屋の隅へ連れて行った。真衣は机の下にしゃがみ、揺れが収まるのを待ちながら、携帯を取り出した。電波は途絶えていた。「通信が妨害されている!」誰かが叫んだ。「短波も途絶えた!」砲撃は物理的な衝撃をもたらしただけでなく、辺り
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第1778話

礼央は、もう一度かけた。しかし、結果は同じだった。専用回線、予備の番号、衛星回線……彼女に連絡を取る手段を、彼はすべて試した。だが、すべて繋がらなかった。「技術班!」礼央は猛然と顔を上げて叫んだ。「真衣の拠点の通信状況を調べろ!今すぐだ!」技術者たちは慌てて、画面上のデータをスクロールした。「現地で強力な電磁妨害が発生したようです。砲撃による連鎖的な妨害の可能性もありますが、人為的な妨害である可能性も――」「位置はどこだ!」彼は言葉を遮って尋ねた。「彼女のいる位置が知りたい!」「位置情報を受信できません。最後に更新された情報しか……」礼央は猛然と机を殴りつけ、その衝撃でデスクの上のグラスが倒れ、水がこぼれた。司令部は、水を打ったように静まり返った。皆が呆然と立ち尽くしていた。彼らは、長年礼央に仕える中で、彼が襲撃され、包囲され、全面的な敗北を喫するのを見てきたが、彼は常に動じず、いつも冷静だった。誰も、このように焦燥する彼の姿を目にしたことがなかった。礼央は目を真っ赤にし、呼吸は荒く、周囲には異様な雰囲気が漂っていた。制御不能。彼は完全に自制心を失った。「車を出せ」彼はかすれた声で言った。「最寄りの出国ゲートに連絡しろ。今すぐ向かう」副官が青ざめた顔で言った。「いけません!これは罠です。エリアスはあなたを国境から遠ざけようと――」「いいんだ」礼央は鋭い目で言った。「真衣を置いて、じっとしているわけにはいかない。彼女は怪我をしているかもしれないし、監禁されているかもしれない、或いは――」その先の言葉を、彼は口にできなかった。最悪の結末が頭の中をよぎり、彼は完全に混乱していた。礼央は今までずっと、自制心を持って、真衣の帰りを待とうと心に決めていた。しかし突如、「彼女が事故に遭ったかもしれない」という状況に陥り、彼の心はたちまち不安で満たされた。一分一秒が、とてつもなく長く感じられた。時間が経つたびに、心がえぐられるような感覚に襲われた。彼は生まれて初めて、どうしようもない焦燥感や無力感を、身をもって知った。彼女が傷つき、怯え、一人きりで砲火に晒されることを、礼央は心から恐れた。彼が外に出ようとしたその時、携帯が振動した。見ると、テキストメッセージが
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第1779話

「スタッフも、データも無事よ」真衣は、まるで何事もなかったように、淡々とした口調で話した。彼女は礼央に心配をかけたくなかった。衝動的なって、彼に国境を離れてほしくなかった。礼央は携帯を握りしめて言った。「これからは……何かあったら、必ずすぐ俺に連絡してほしい」「わかった」真衣は小さな声で応じた。「無理するな」礼央は、懇願するように言った。「自分の身を守るんだ」「うん」二人はまた数秒間沈黙した。真衣は自分の身に迫る危険を話さず、礼央もまた、エリアスや宗一郎の策略を語らない。彼女は詮索せず、彼は危険が迫っていることを彼女に告げなかった。電話を切り、礼央は呆然とした。副官は息を潜めて、傍に立っていた。しばらく沈黙した後、礼央はゆっくりと口を開いた。「亮太を呼んでくれ」亮太は有能で洞察力があり、潜伏を得意としている。「部下を連れて、真衣のいる国に潜入してくれ。決して表には姿を現すな」礼央は地図を見つめて言った。「彼女の拠点、移動ルート、実験室、すべての場所を二十四時間体制で監視しろ。彼女に近づく人間がいたら、身元を調べろ。怪しい動きがあったら、直接処理して構わん」副官はたじろいだ。「亮太さんが出国したことが知られれば、却って相手側にマークされやすくなるのでは――」「構わん」礼央は彼の言葉を遮った。「彼女に何かあってはならない。全ての痕跡を消せ。俺が手配したことを彼女に気づかせるな」彼は、自分が自制心を失っていることを、真衣に気付かれたくなかった。宗一郎とエリアスが迫っていることを、彼女に知らせたくなかった。彼女を動揺させたり、不安にさせたくない。そのために、彼にできることは、彼女に気付かれず、防御網を張ることだけだった。まさに、影の護衛。音もなく、影も形も残さない。亮太は命令を受けると、その日のうちに出発し、戦地に潜り込んだ。現地では、騒動はひとまず収まっていた。砲撃は止み、妨害による通信は復旧しており、人員点呼も完了し、死傷者は一人も出ていなかった。沙夜は努めて平静を装い、安浩を支えて座らせ、傷口の状態を確認した。真衣は張り詰めた神経を隠しながら、落ち着いた表情で書類を整え直していた。砲撃が怖くないと言えば嘘になる。しかし今、彼女は恐れてはい
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第1780話

スパイの正体がまだ特定できていない中、さらに正体不明の気配を感じる。真衣は直感的に、それがスパイの仲間だと感じていた。そのため彼女は、今まで以上に警戒心を高め、慎重な行動を心がけた。真衣は、まさか礼央が少しの間自分と連絡が取れなくなったことで不安になり、亮太や部下たちに、陰ながら彼女の護衛をさせているとは、思ってもいなかった。彼が密かに、安全な環境を守ってくれていることに、彼女は気付かなかった。増援部隊の到着後、業務は順調に進んでいた。改ざんされたデータの大半が復旧し、スパイに関しては数名の容疑者の名が挙がった。警備が強化され、避難計画は繰り返しシミュレーションされていた。しかし、真衣の心の中にある緊張感は、日増しに強くなっていった。彼女は以前と変わらず、礼央との約束を守り、毎日同じ時間に彼にメッセージを送って安否を知らせた。そして、礼央からもまた、普段通りの返信が届いた――こちらは無事だ、千咲もいい子にしている、と。普段通り、簡潔で無駄のないメッセージだった。真衣は、礼央を疑ったことはなかった。なぜなら、彼女は細かいことを考える余裕がないほど多忙であり、また、彼の言うように、無事でいてほしいと心から願っていたからだ。真衣は礼央をよく理解していた。礼央は自制心が強く、感情を表に出さない。ビジネスの場でも、生死を分けるような局面でも、決して動揺せず冷静な判断を下す。その彼が、声を震わせ、あれほど感情を露にしたのは、単なる「心配」という言葉だけでは説明できない。あの日以来、彼女は注意深くなっていた。日中は業務の統括やデータの照合、警備の手配に追われ、夜は暗号化された回線を使い、国内の信頼できる数人の旧友に連絡を取っていた。旧友の中には、情報機関に所属する者もいれば、関連する協力機関に所属する者もおり、彼女よりもはるかに広い情報網を持っていた。真衣は露骨に探りを入れることはせず、遠回しに、国境の状況や国内の異変について彼らに尋ねた。当初、旧友たちは曖昧な返事をし、安心して任務に当たるように言うだけだった。しかし、そうであるほど、真衣の心の中の疑念は深まっていった。静かすぎる、不自然なほどに。ある日の深夜、真衣は再び国境の協力部門に勤める旧友に電話をかけた。旧友はついに根
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