All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 1761 - Chapter 1770

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第1761話

「沙夜が付き添っているので、何かあればいつでも呼んで下さい」沙夜も真衣のことばに同調した。「ちゃんと聞こえた?真衣が対応してくれるから、心配しないで。お水を入れるから、飲んだらもう少し眠って。眠ればきっと、身体も楽になるわ」そう言って、沙夜はそっと安浩の口元に湯呑みを運んだ。安浩は二人を見てすっかり安心し、心に残っていた最後の気掛かりもすっかり消え、差し出された水を数口飲んだ。病室は再び静けさを取り戻した。しばらくして、真衣は二人の邪魔にならないように、そっと病室を後にした。ドアの外の廊下は相変わらず静かで、遠くから時折、医療スタッフの足音が聞こえた。室内では、沙夜がベッドの傍で、静かに寄り添っていた。沙夜は、朝から深夜までずっと、ベッドの傍を離れず、安浩を見守り続けた。普段は有能で決断力があり、何事にも冷静な彼女だが、今は必死に安浩の看病に心を傾けていた。病人の世話をするのが初めての沙夜は、不器用ながらも丁寧に一つ一つの動作をこなした。毎朝、スタッフが回診に来る前に、彼女は起床し、温かいタオルを絞って安浩の顔や手の甲を丁寧に拭いた。「これで少しは楽になる?」そのたびに彼女は安浩に尋ねた。水を飲ませる際も、沙夜は細心の注意を払った。水の温度を確かめ、片手でそっと彼の背中を起こし、もう一方の手で湯呑みを持ち、ゆっくりと口元へ運び、彼がむせないように、ゆっくりと少しずつ飲ませてやった。安浩にとって、沙夜との時間は心地よく、次第に胸が温まり、彼は心の中に溜まっていた焦燥感や不快感が消えていくのを感じていた。包帯の交換時間になると、沙夜はスタッフを手伝ってガーゼや軟膏を準備した。治療中、彼女の目は安浩の傷口に釘付けになり、医師に炎症を起こしていないか尋ね、順調に回復していると聞くと、安堵の息をついた。医療スタッフが去った後も、彼女はベッドの傍で、こまめに彼の様子を確認した。全身に複数の打撲傷を負っていた安浩は、長時間同じ姿勢を保つと身体が痛むため、定期的に体位を変える必要があった。身体の小さな沙夜にとって、安浩の体位を変えることは容易なことではなかったが、彼女は弱音を吐かず、彼が快適に過ごせるように、歯を食いしばって懸命に支えた。「痛かったら我慢しないで言ってね」彼女は繰り返し念を押した
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第1762話

「傷が痛むのね?先生を呼んで来ようか?」沙夜の眠りは浅く、薄暗い灯りの下、目の下の隈がことさら目立って見えた。安浩は胸が締め付けられる思いで、そっと彼女の手首を握った。「平気だよ。少し身体がだるいだけ。君は気にせず休んで」「眠くないから大丈夫」沙夜は首を振り、安浩の肩を揉んだ。「痛かったら言ってね。すぐに治まるといいんだけど」その夜、二人は眠らず、小さな灯りのともる病室で、とりとめのない話や、今まで口にしなかった心の内を語り合った。二人は初めて出会った時のことを話した。当時の彼らは、単なる同僚であり、互いに距離感と警戒心を持って接していた。その後、二人は互いの目的のために、偽装結婚することに決め、仲睦まじい夫婦を演じながら、実際には適度な距離を保っていた。さらに二人は、今までの出来事や思い出を語り合い、仲の良い夫婦を演じてはいても、互いの心に高い壁が築かれていると感じていることを素直に打ち明け合った。「今までずっと、私たちの関係は、表向きの演技に過ぎないと思ってた」沙夜は続けた。「だから、こんな日が来るなんて思わなかった。あなたの傍にいて、演技したり嘘ついたりせず、ただ純粋にあなたを心配して、世話することができるなんて」安浩は沙夜の瞳を見つめ、心が温まっていくのを感じ、彼女の手を取って真剣な口調で言った。「実は僕も、いつも演技をしていたわけじゃないんだ」沙夜は、驚いて顔を上げた。「ずいぶん前から、君に対する気持ちは変わっていた」安浩は沙夜の瞳を見つめて続けた。「君は僕が真衣を気にかけていると思っていただろうけど、僕の真衣に対する気持ちは――後になって気づいたんだ。僕は彼女に対して恋愛感情を抱いているわけではないって」彼は続けた。「僕の真衣に対する気持ちは、いつしか変わっていたんだ。というより、今まで彼女に恋愛感情を抱いたこと自体なかった。君と暮らすようになって、僕は君に惹かれていった。でも、偽装結婚や任務が邪魔をして、気持ちを打ち明けられなかった。君を驚かせたり、僕たちの関係が壊れると思うと怖くて」安浩は、生死を彷徨った末、ようやく、ずっと胸に温めてきた言葉を、沙夜に伝えることができた。沙夜は彼の言葉を聞いて、目を赤くしながら、ぼんやりと彼を見つめた。今までずっと、彼女は片思いだと思い、とき
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第1763話

「あなたが私を守ってくれるたび、優しく接してくれるたび、私のあなたに対する気持ちは、どんどん大きくなっていった。でも、あなたの心の中には真衣がいて、私たちは仮面夫婦に過ぎないと思っていたから、ずっと本当の気持ちを言えずにいたの。本気になって、傷つくのが怖くて。気持ちを打ち明けることで、パートナーですらいられなくなると思うと、すごく怖かった」沙夜もまた、今までずっと胸に秘めていた思いを、ようやく正直に話すことができた。安浩は胸が痛み、彼女をそっと腕の中に抱き寄せた。「ごめん。こんなに長い間、君を待たせて、不安にさせてしまって。最初からずっと、偽装結婚なんかじゃなかったのに。沙夜、君を愛してる。演技じゃない。心から、君と一緒にいたいと思うよ。これからは、本物の夫婦になろう」-数日後、医療スタッフの手厚い看護のおかげで、安浩は徐々に回復し、当初のような衰弱した様子も見られなくなった。身体が回復した彼は、仕事のことが気になって仕方なかった。真衣が業務を引き次いでくれているとはいえ、ずっとここで寝ているわけにはいかない。ある日の午後、安浩は病室で書類の整理をしている沙夜に言った。「その書類を僕にも見せて。データの照合ぐらいなら、ベッドの上でもできるし、仕事をした方がリハビリにもなる」沙夜はベッドの傍に歩み寄り、眉をひそめて言った。「せっかく良くなってきたのに、もう仕事のことを考えてるの?先生が、しばらく安静にしているようにって仰っていたでしょう?」沙夜は心配そうに言った。彼女は、仕事によるストレスで傷が悪化しないか、書類を見てめまいを起こさないか、何か問題が起きないか、心配でたまらなかった。「ただ書類に目を通すだけだよ」安浩は沙夜の手を取って、甘えるように言った。「お願いだよ。ずっと横になっていると、退屈で仕方ないんだ。ほんの少しだけ。気分が悪くなったらすぐにやめるから、ね?」安浩にせがまれ、沙夜は結局折れてしまった。彼女は仕方なく、ベッドの角度を調整し、書類を手に取ると、オーバーテーブルの上にそっと置いた。「じゃあ少しだけね。具合が悪くなったらすぐに言って。無理しちゃダメよ」「うん、わかった」安浩は笑って承諾し、視線を書類に落として、データを照合し始めた。しかし、しばらくすると、安浩
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第1764話

安浩は微笑んだ。「書類より、君を見ている方がいい」-真衣の現在の日々は、まるで見えない手によって、二つに隔たれているようだった。一方は医療拠点と実験室の往復、支援要員との調整、航空材料データの審査、安浩から引き継いだ業務をこなす毎日。もう一方は、国境にいる礼央に結び付いていた。真衣は、彼との約束を守っていた。礼央を心配させないよう、毎日決まった時間に無事を伝える。どれだけ忙しくても、どれだけ困難な事態に遭遇しても。データに異常が見つかり、徹夜をすることになっても、真衣は決まった時間に携帯から、礼央にメッセージを送った。メッセージは決して長くはないが、礼央はきっとそれを見て安心できるだろう。【今日はすべて順調よ。支援チームは到着済みで、業務もうまく引き継げたわ】【先輩の具合も落ち着いてる。少し食事が取れるようになって、元気が出てきたみたい】【この辺りの警備が強化されて、危険な場所へは近づいていないから、安心してね】【今、仕事が終わって、寝る支度をしているところ。あなたも早く休んで】メッセージを送るたび、彼女は彼に、安全に気をつけ、無理をしないよう伝えた。真衣のメッセージははるか遠くにいる礼央の携帯に届いていた。彼にとって、彼女から送られてくるメッセージは何よりの精神安定剤になっていた。彼は変わらず、最前線に留まっており、キャンプ周辺は過酷な状況が続いていた。真衣が去ってからというもの、礼央はほとんどまともに眠れず、夜は一人で見張り台に立ち、彼女が去った方角をじっと見つめていた。礼央は、真衣からの連絡を逃すまいと、携帯は常に最大音量に設定していた。通知音が鳴ると、彼はすぐに携帯を取り出し、彼女の「無事」を確認すると、ほっと胸を撫で下ろした。彼も時間通りに返信し、こちらの深刻な状況を悟られないよう、気軽な文面を心がけた。【知らせてくれてありがとう】【千咲は元気だ。さっきビデオチャットで話したけど、いい子にしていたよ】【こちらも順調だ。心配ない】【身体に気をつけて、ゆっくり休んで】真衣は礼央からのメッセージを見て安心したが、漠然と胸に引っかかるものがあった。前線にいるのに、あまりにも平静すぎる。まるで、何かを隠しているようだ。しかし、彼女が「何かあったの?」と尋ね
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第1765話

調査をすると、海外で使われる特殊な燃料の空容器が見つかり、それはエリアスが以前から常用していたのと同じ物だった。また、長年廃墟となっていた古い家屋で、人の出入りが発覚した。家屋の中から指紋は検出されなかったが、比較的新しいタバコの吸い殻が見つかった。それ以外の痕跡は全く残されておらず、熟練者の手によるものであることが伺えた。その後、山林で夜間に移動する人影を発見したという情報が入ったが、その人物は身軽で、専門的な装備を身に付けており、こちらに気付くとすぐに迂回して撤退したという。一つ、二つ、三つ……気を抜けば見落としてしまうような、わずかな痕跡が、少しずつ水面に浮かび上がってきた。痕跡は、単独で見る限り、何かを断定するには不十分なものばかりだ。だが、ひとたび礼央の手元に集められれば、それらの手がかりは同じ結論を指し示している。エリアスと宗一郎は、出国していない。彼らは、より大きな網を仕掛けるため、国内に潜伏している。さらに礼央が懸念したのは。二人に動きがみられないのは、彼らがこちらを恐れているからではなく、ただ、機会を狙っているためであることだ。二人は、礼央が油断し、注意が逸れるのを待っているのだ。そして、彼の弱点は真衣しかいない。礼央は即座に想いを巡らせた。二人は真衣が国外の情勢の不安定な場所に派遣されたことに気付いているかもしれない。真衣に何かあれば、彼は一切を顧みず駆けつける。そうなれば、国境の防衛線に穴が開く。そう考えると、背筋が凍り付いた。その夜、キャンプの明かりは、夜通し消えることがなかった。礼央は徹夜をして、すべての通信回線を暗号化し、千咲のいる隠れ家の警護レベルを引き上げ、出国経路を監視する人員を増員した。エリアスと宗一郎に関する情報や手がかりは、厳重に保管しなければならない。特に、これらのことを真衣に知られてはならない。彼女に心配をかけるわけにはいかない。真衣は今、情勢の不安定な異国で任務に当たっており、傍には負傷した安浩もいる。もし、エリアスと宗一郎に狙われていることを知れば、彼女はきっと任務に集中できなくなってしまうだろう。そして、彼女が不安でいると思うと、彼の集中力もまた散漫してしまう。だからこそ、礼央は一人ですべてを背負うことを選んだ。毎
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第1766話

安浩は、沙夜の献身的な看病のおかげで著しく回復し、こめかみの傷も瘡蓋ができていた。打撲による痛みもずいぶん和らぎ、病室内をゆっくり歩き回れるようになった。それでも、沙夜は変わらず安浩の傍を離れようとはせず、彼の傷口が痛まないかと、付き添いながら気を揉んでいた。真衣は隣の仮設オフィスで、本社と現地の協力機関との連携業務を引き続き行っていた。彼女は、安浩が持ち帰ったデータを整理し、航空材料や研究開発に関するその後の課題を着実に進めていた。真衣は、毎日礼央にメッセージを送り、無事を伝えていた。礼央もまた返信し、国境での異変には触れず、ただ彼女に安心して仕事に専念し、帰りを待っていることを伝えた。そんな中、慌ただしい足音が、オフィス内の静寂を破った。警備員が足早に近づき、真衣に伝えた。「寺原さん、国内からの増援部隊が空港に到着し、こちらに向かっています。同行者が本部からの最新の指令を持参しているので、至急ご対応下さい」その言葉を聞いて、真衣は安堵し、すぐに立ち上がって机の上の書類を整理した。増援要員が到着したことで、今後の業務にさらなる人手が確保されることになる。安浩が療養中の任務の負担も大幅に軽減されるだろう。さらに、増援部隊がもたらす警備や医療のリソースによって、この不安定な地域における彼らの安全性が大幅に向上する。一時間も経たない内に、三台の車が医療拠点の前に停車した。私服姿で精悍な面持ちの同行者が次々と車から降りてきた。先頭には、本部で長年海外研究の調整を担当している古くからの同僚、兵頭哲也(ひょうどう てつや)が厳しい表情を浮かべて立っていた。「真衣、久しぶりだな」哲也はすぐに本題に入った。「道中の情勢が複雑で、急いで駆けつけたんだ。本部から最新の指令が下りたが、状況は想像以上に深刻だ」一行は迅速にオフィスに入り、ドアと窓を施錠し、セキュリティシステムを作動させた後、哲也がようやく端末と指令文書を取り出した。彼はそれらを真衣の前に差し出した。「本部が複数の情報源から確認したところ、我々が今回調査している新型航空材料は、現地武装勢力だけでなく、海外の複数の勢力からも狙われているらしく、奴らは主要データやサンプル技術を窃取しようとしているようだ。安浩さんが前線で採集したデータは、プロジェクトの核心
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第1767話

彼は慌てて言った。「寺原さん、兵頭さん、大変です。実験データに問題が発生しました!」一同は、すぐに画面の前に集まった。本来なら整然としていたパラメータ曲線が、乱雑になっており、曲線上には複数の不自然な途切れや改ざんの痕跡が見られた。中核となる、極限環境における圧力耐性や、高温干渉耐性といったパラメータが改ざんされている。安浩が前線から持ち帰った元のデータと完全に一致せず、実験モデル全体が完全に崩壊し、検証作業を続行することができなくなった。「なぜこんなことに?」真衣は眉をひそめ、操作ログを呼び出した。「バックエンドに不審なログインの痕跡がある。時刻は午前三時頃、IPアドレスは内部のLANだわ。痕跡は意図的に消去されているけれど、断片的な情報は残っている」哲也は眉をひそめた。「誰かが改ざんしたんだ!犯人は、実験端末にアクセスでき、我々の内部システムに精通している者だ。外部のハッカーが我々の暗号化されたLANを簡単に突破できるはずがない。つまり、内部にスパイがいる」全員が、その場に凍り付いた。内部にスパイが潜んでいたなんて。スパイはデータを密かに改ざんし、任務全体を妨害しようと企て、さらにはその成果を狙う勢力に漏洩させる可能性すらあったのだ。「今すぐ実験エリアを封鎖して。協力機関の関係者を含め、主要データに接触した全員を調査対象とします。また、さらなる被害を防ぐため、すべての作業を停止し、残存データのバックアップを行いましょう」真衣は、淡々とした口調で、迅速に指示を出した。緊迫した雰囲気の中、内部調査が進められていたまさにその時、医療拠点の外から、突然「ドン」という轟音が響いた。激しい衝撃波で建物が微かに揺れ、窓の外に大量の土埃と煙が舞い上がった。「砲撃だ!」警備員の顔色が一変した。「着弾地点は医療拠点から一キロも離れていない!」一同は窓辺に駆け寄り、窓の外を覗いた。遠くの市街地の上空には黒煙が立ち込め、数発の砲弾が近くの通りに着弾し、通りは一瞬にして荒れ果てた光景と化した。現地の武力衝突は、戦火が彼らがいる区域の境界線にまで及ぶほどに激化していた。「大変です!医療拠点の警備が破られました!」協力機関の責任者が慌てて駆け寄った。「交戦範囲が広がり、砲撃が周辺三キロまで及んでいます。手遅れになる前
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第1768話

険しい表情で病室に入って来る真衣を見て、二人の胸が騒めいた。「何かあったの?」安浩が真っ先に口を開いて尋ねた。「増援が到着して、本部から最新の指令を持ってきたの」真衣は早口で説明した。「さっき、実験データが改ざんされ、内部にスパイがいることが分かった。さらに、この辺りの情勢が悪化し、この医療拠点も、もはや安全ではない。すぐに避難しなきゃいけないの」沙夜の顔色が一瞬で青ざめ、無意識に安浩の腕を支えながら、極限の拒絶と心配を込めた口調で言った。「避難?」「無理よ。彼はやっと良くなったばかりで、先生はあと一週間は静養が必要で、揺れやストレスは避けた方がいいと言ってた。ここを移動するなんて危険すぎる。万が一、傷口が開いたり、感染したら大変なことになるわ!」沙夜は連日、安浩が安心して養生できるよう、心を込めて世話をしてきた。やっと回復してきたのに、彼を再び危険に晒すなんて、どうしても受け入れられなかった。「リスクが大きいのは分かってる。でも今は、他に選択肢がないの」真衣は苦渋の表情を浮かべた。「砲撃がどんどん近づいてるの。スパイもまだ見つかっていない。ここに留まっても、危険が増すだけよ。もし戦火に包囲されれば、先輩だけでなく、私たち全員が絶体絶命の窮地に陥ってしまう」安浩は沙夜の手を軽く叩き、真衣を見つめて言った。「新しい拠点はどこにあるんだ?移動ルートは安全なの?コアサンプルとデータのセキュリティ対策は整ってる?」安浩は、自身の身体のことよりも、任務の成果や仲間の安全を真っ先に気にかけていた。「移動ルートはもう決まっていて、警備員が全行程を護衛します。新しい拠点は人目のつかない隠れ家で、交戦地域からも離れています」真衣は続けた。「コアサンプルとデータは私が持参します。スパイに関しては哲也が人員を手配して現場を封鎖し、捜索を続けています」「僕も行くよ」安浩はためらうことなく言い、起き上がろうと身体を起こした。沙夜はすぐに彼を押さえつけ、目を真っ赤にして言った。「ダメよ!あなたは病人なの。移動中、どこから砲弾や銃弾が飛んで来るか分からない。それに、スパイだって、どこに潜んでいるかわからないのよ。あなたの身体には到底耐えられないわ!あなたに何かあったら、私はどうすればいいの?」沙夜は誰より、安浩の回復を願
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第1769話

「身体のことは自分が一番よく分かってる。無理はしない。隊列に従って移動するだけだ。真衣や皆を守るために、僕は行かなきゃ」安浩の目は、優しくも確固たる意志に満ちていた。沙夜の気持ちは痛いほど分かっていたが、彼は責任者として、このような危機的状況で身を引くことはできなかった。たとえ傷が癒えておらず、危険が満ちていようとも、彼は皆を守らなければならない。沙夜は彼の断固とした眼差しを見て、もはや説得できないと悟った。彼は、たとえ自分の身が危険に晒されても、責任や他人の無事を優先する。沙夜は唇を噛んで、安浩を抱きしめた。「じゃあ約束して。私の傍を離れないって。勝手な行動はダメ。無理するのもダメ。何があっても、私の視界から離れちゃダメよ」「約束する」安浩は優しい声でそう言い、そっと彼女を抱いた。真衣は二人の様子を見て胸が熱くなり、背を向けて移動の手配を続けた。病室の外では、警備員たちがすでに出発準備を整え、移動車両が階下に待機していた。スパイの調査も同時進行で進められていた。砲撃音は激しさを増し、皆の心を曇らせた。沙夜は、安浩に上着を着せ、救急薬品と包帯を持たせ、移動中に剥がれ落ちないよう、何度も彼の包帯を確認した。彼女は心に誓っていた。どんな危険が迫ろうと、二度と彼を一人にしたりしない。安浩は、そっと沙夜の手を握った。彼は感じていた。この突然の危機は、恐らく始まりに過ぎない。スパイの正体はまだ暴かれておらず、戦火は迫り、航空機材料の成果は危機に瀕している。真衣はもう一度部屋の中を確認し、二人に向かって頷いた。「時間がない。出発しよう」三人は肩を並べて病室を出た。-一方、その頃。国境地帯の夜は、静寂に包まれていた。礼央は丸三日間、司令部に張り付いていた。目の前の机には、地図や監視記録、報告書が山のように積み上げられている。ここ数日、彼は真衣に無事を伝える一方で、エリアスと宗一郎が潜んでいる可能性のある場所を隅々まで探っていた。海上の補給拠点、廃屋、山林、地下の密輸通路……ある未明、小さな手がかりが突然、慄然とさせる鮮明な一本の線として繋がった。最初に突破口を開いたのは、国境検問所の暗号化された通行記録だった。技術班が午前四時、震える手で、司令部のドアをノックした。「見つかりました
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第1770話

その瞬間、礼央の心が重く沈んだ。その直後、彼の元に二つ目の知らせが届いた。それは、宗一郎の個人口座に、ごく少額の不審な国際送金があったというもので、受取口座の銀行は、真衣がいる都市の郊外にあった。さらに同時刻、以前から行方不明だった武装勢力の数名が、国境の南側で一斉に姿を消していることも分かった。すべての手がかりが、一本の線になっていく。エリアスは生きており、宗一郎は潜伏していなかった。彼らは国外へ出国していた。そして、彼らの目的地は――真衣のいる、異国の戦場だ。礼央は力を込めてペンを握り、指の関節が白くなった。彼は今までずっと、「相手が国内で報復するため、千咲に手を出し、自分を狙ってくる」という判断に基づき、すべての対策を講じてきた。しかし実際は、彼らの目的が復讐ではなく、地域の勢力を揺るがすほどの新型航空材料であることに、礼央は気付いていなかった。そうなると、真衣たちが進めている科学調査は、一般的には共同研究だが、権力者にとっては、格好の獲物になる。主要データ、材料サンプル、極限環境での実測パラメータ……いずれか一つでも流出すれば、莫大の利益をもたらすことになる。そして、エリアスは武装襲撃や強奪に長けている。また、宗一郎は、計画的な浸透工作や、内通者との連携に長けている。彼らは手を組んで戦場に向かい、真衣のいる部隊を目指して真っ直ぐに突き進んでいる。彼らは、礼央を狙っていない。航空材料を狙っているのだ。一方、真衣たちは、スパイの問題や迫りくる砲撃に頭を抱える中、医療拠点の移転を控え、エリアスや宗一郎の脅威に気付いていなかった。しかし、危険は静かに彼女に迫っている。礼央は、恐怖と不安で、背筋の凍り付くような感覚に襲われていた。もし、エリアスと宗一郎が、真衣の拠点や実験室、移動ルートに現れたら……真衣は元々危険な状況にあり、安浩は負傷し、沙夜は彼の看病に手を取られている。部隊に、武装集団による襲撃に対処する余力があるとは到底思えない。「準備してくれ」礼央は冷ややかに言った。「南へ向かう。最速の出国便を手配しろ」傍にいた副官が慌てて言った。「礼央さん、それはできません!今、国境全域が厳戒態勢にあり、状況は混乱を極めています。一人で南に向かうのは危険すぎますし、国境の警備も手
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