再び、禁欲的で孤高と噂される京市の御曹司との情熱の一夜が終わり、全身に無数のキスマークを帯びた四季木実(しき このみ)は、男の腕をそっと腰からほどき、足早に部屋を出た。通話を始めた。彼女の声はかすかだった。「今から国境なき医師団に応募したら、まだ間に合うか?」「私たち、出国したら最低でも三年は戻れないよ。あなたの彼氏はあなたなしで平気なのか?」窓の外の冴えた月を見上げながら、彼女は後段の疑問を黙殺した。「ビザもパスポートももう手配済み。いつ出発する?」「一ヶ月後だ」木実はベッドで眉をひそめながら眠る男を振り返り、深くため息をついた。あと一ヶ月。それだけで、亮とのこの馬鹿げた関係に終止符を打てる。京市では誰もが知っていた。彼女と古賀亮(こが りょう)の結婚は、最初から笑い話に過ぎなかった。二人は幼馴染として育ち、本来ならそのまま結ばれるはずだった。だが、木実が十八歳の年、四季家と古賀家で二つの重大な出来事が起こった。亮が突然の交通事故で植物人間となり、彼女が病院に駆けつけた際、助手席には見知らぬ少女の姿があった。その少女は木実の母親と似ていた。後で分かった。彼女こそが、四季家の本物の令嬢だったと。その時からが、木実が世間の笑い者となった。亮が植物状態でも、古賀家の権勢は揺るがず、両家の婚約はそのまま継続された。彼女は自ら名乗り出て、婚約を全うすることを望んだ。三年間、献身的に尽くし、彼が目覚めた暁には童話のような結末が待つと信じていた。だが、彼が目を覚ましたとき、亮は「お前のせいで、俺は最愛の人とすれ違った」と彼女を責めた。憎しみをぶつけるように、彼は一晩で十度も彼女を犯し、背中に何度も「アマ」と書きつけた。それに公の場では常にあの初恋を同伴し、彼女だけを晒し者にした。そんな折、同門の先輩が声をかけてくれた。国境なき医師団が新たな人材を募っていると。彼女は一切の迷いなく応じた。かつて毎年の誕生日に願ったのは、亮と共に生きることだった。今年の願いはただ一つ……亮から、永遠に離れること!その思いが胸をよぎる中、突如背後からひんやりとした気配が忍び寄った。男の腕が彼女の腰を抱き、吐息が首筋をくすぐった。「誰と電話してた?」身体が強張った。「……
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