兄は信じられないという様子で言った。「婚約を破棄するってことか?」「違うよ。彼が他の女と結婚するの」私は苦笑した。立花晶也(たちばなあきや)と一緒になるため、家族の猛反対を押し切ってようやく両親の許しを得た。そして真愛シリーズのジュエリー発売日も、結婚式当日に設定したのだ。 なのに、すべて水の泡だ。 兄はしばらく呆然としていたが、やがて口を開いた。「じゃあ、深水涼馬(ふかみりょうま)しかいないな。彼も最近、家族に結婚を急かされていて、相手を探しているところらしい」 私は眉をひそめた。涼馬とは犬猿の仲だ。婚約が決まった日、「結婚なんてすぐに破綻する」と呪いのような言葉を吐いた。その呪いが現実になるなんて。 時間がなかった。私はためらわずに言った。「彼でいい。意思を聞いてみて。ダメならまた考える」 兄はすぐに言った。「聞くまでもないよ。彼なら絶対承諾するよ」 「えっ?」 さらに聞こうとした時、周りに人が集まってきた。「あなたが晶也さんの婚約者ですね! すっごく綺麗」 「お迎えですか?もうすぐ出てきますよ~。お似合いカップルですね」 私はハンドルを握り、視線を落して自嘲の色を隠した。 晶也は早くから私を同僚や友人に紹介していた。周囲の目には、私たちは誰もが羨むお似合いのカップルに映っていたのだろう。 でも誰も知らない。彼がもうすぐ別の女性と結婚しようとしていることを。みんなと別れた後、晶也は車に乗り込み、私にネックレスを渡した。 「夢乃(ゆめの)からだ。昨日の葬儀であなたが彼女を辱めたから、後でちゃんと謝っておけ」 そのネックレスは明らかに製品のおまけだ。数日前、晶也のネットの買い物カートで見かけたものだった。私は淡々と言った。「いらない」 晶也は眉をひそめた。「またわがままを? 葬儀で『彼は彼女の婚約者じゃない』なんて言いふらして、彼女を恥かかせたのはあなただろ。それでも夢乃は気にせず、あなたにプレゼントまで用意したんだぞ? それでも感謝しないのか?」 かつて私を守ってくれた彼はもういない。今、彼が大切にするのは、私じゃない。晶也はイライラと窓を開け、風に当たっていた。しばらくして、私が機嫌を取る気配もないのを見て、ようやく口を開いた。「まあいい。今日はウ
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