All Chapters of 月落ち星沈み、人は去りぬ: Chapter 21 - Chapter 25

それを聞くと、翔太はうなずいた。「はい。俺は結衣の彼氏です。最近、彼女を傷つけてしまい、それで彼女は黙って留学したんです。結衣がどこのクラスで、どこの寮にいるか教えてくれませんか？直接会って謝りたいです」翔太は懐から札束を取り出し、差し出した。ドイツ人の女子学生は一瞬躊躇したが、受け取ると、結衣の行方を詳しく教えた。彼女は、翔太に結衣に今恋人がいることを何度も伝えようとしたが、できなかった。彼らは結衣の居場所を聞くと、すぐに車でキャンパスを後にし、ドイツ行きの航空券を購入した。女子学生は、彼らに複雑な表情を向けただけで、その場を去った。飛行機がミュンヘンに着陸すると、一行は留学生寮へ向かう道中、大慌てで準備を整えた。翔太は丹精込めて用意したダイヤモンドの婚約指輪と、999本の最高級の白いバラを手に、心からの謝罪とプロポーズを誓っていた。他の連中も、結衣の大好きなお菓子やクッキーを何箱も買い込んだ。さらに、涼介のために「佐藤先生への心からの謝罪」と書かれた手紙と高価な贈り物も用意していた。全てを整え、一同は結衣の寮の前に到着した。あの女子学生から、結衣は研究熱心で毎晩11時まで研究室にいると聞いていた。そこで、10時半には寮前で待機を開始した。一人を寮から教室棟への道に見張りとして立たせ、残りの者たちは翔太と結衣の名前を書いたロウソクで、巨大なハートを作り始めた。「翔太、やっぱり俺たちの中で一番、女の子の気持ちが分かるのはお前だな！」地面に広がるロマンチックな準備を見て、竜介は感心したように親指を立てた。翔太は少し得意げに眉を上げた。結衣と三年付き合った経験から、彼女のような純真な女性が心の奥底で憧れる愛情表現を知っていた。それは、公の場での告白――世界に向かって気持ちを叫ぶことだった。ちょうど翔太が最後のロウソクに火を灯そうとした時、見張りの仲間から電話がかかってきた。「翔太！結衣が見えたぞ！こっちに向かって歩いてきてる！」確実な情報を得て、皆は遠くからゆっくり近づいてくる人に向かって一斉に跪き、叫んだ。「結衣さん、やっと見つけた！もう一度チャンスをくれ！」翔太は花束と指輪をしっかりと握りしめ、その人に片膝をつき、プロポーズの姿勢をとった。「結衣、あの時は本当に俺がバカだった。今は自

「めんどくさいな、あいつ、鏡で自分の顔を見たことあるのか？ぼんやりしていて、しつこくあなたに近づいてきて、マジで気持ち悪いんだよ」あれから八年経った今でも、結衣は拓真が放ったその冷たい言葉を鮮明に覚えていた。「智也、今後は気をつけてくれ。こんなゴミクズみたいなもの、俺の机に置くなよ」拓真の言葉は容赦なく、クラスの女子たちは泣き出してしまった。結衣の芽生えかけた想いも、その瞬間に消え去った。ちょうどその頃、涼介が名誉教授としてA市に招かれることになった。結衣は気持ちを胸に秘め、拓真との連絡を完全に断ち切った。連絡先さえもすべて消してしまった。こうして二人は八年もの歳月を過ごすことになった。告白を笑われた経験は結衣の自信を深く傷つけた。彼女はひたすら勉強に没頭し、高校三年間を恋愛とは無縁に過ごした。内向的だった彼女が大学で初めて心を開いた相手、それが翔太だった。「お前、可愛いね」翔太の声は山の清流のように澄んで、少しずつ結衣の心を溶かしていった。彼の熱心なアプローチに、結衣はゆっくりと自信を取り戻し、彼が織りなす愛の世界に夢中になった。しかし皮肉なことに二年後、彼女が本物の愛だと信じていたものが、実は虚構に過ぎなかったことを知る羽目になった。翔太と別れた後、結衣は両親と共にドイツで研究に没頭するつもりだった。なのにそこで拓真と再会するとは思ってもみなかった。拓真を見た瞬間、結衣は反射的に俯いて逃げ出そうとしたが、彼に腕を掴まれてしまった。いつもはクールで冷めた印象の拓真が、まるで取り乱した子供のように、彼女の前で声を詰まらせた。「結衣、そんなに俺のことが嫌いなのか？この八年間、ずっとお前のことを想い続けていたんだ」あの時、彼女を拒絶したのは拓真の方だったはずなのに、今では自分以上に苦しそうな表情を浮かべていた。結衣にはそのことが矛盾していて、理解できなかった。深く恋に傷ついた結衣は、たとえ拓真の瞳に映る深い想いを前にしても、冷静さを保っていた。「拓真、私の記憶が間違っていなければ、私の告白の手紙を捨てて、釣り合わないって言ったのはあなたよね？辛い思いをしたのは私なのに、どうしてあなたがそんなに苦しそうなの？」結衣の問いに、拓真は言葉を失った。しばらく沈黙が続き、ようやく彼は説明を始め

「復縁することはもう不可能だ」この言葉を聞くと、翔太は急いで携帯を開いた。案の定、SNSでミュンヘン物理学科の二人――拓真と結衣の結婚式の動画を目にした。動画の中で、結衣はつま先立ちになって、そっと拓真の唇にキスをした。【拓真、あなたと家庭を築けて、本当に幸せよ！】映像はそこで突然止まった。過去の記憶が一気に翔太の心に押し寄せた。結衣が同じように優しくキスをして、一生自分の妻になると言ってくれたことを思い出した。結衣の目に浮かぶ心からの幸せな笑顔を見て、翔太はようやく悟った。彼はすでに結衣が最も望んでいた幸せを壊してしまった。二度と彼女を傷つけてはいけないと。「俺も本物の愛を持っていたのに、大切にしなかったんだ。全て、自業自得だよな」翔太は声を詰まらせ、まともな言葉も出ず、ただ必死に自分の頭を叩いた。急ブレーキの際、シートベルトをしていなかったため、翔太は頭を強く打っていた。竜介たちはそれを見て、翔太の頭が再度ダメージを受けないよう、急いで彼を止めた。「竜介、起こしてくれ」翔太の声は年老いた老人のように掠れていた。他人は顔を見合わせ、躊躇いながら言った。「翔太、もう行っても無駄だ。何も取り戻せないよ」しかし翔太は首を振り、苦笑いしながら言った。「俺が行きたいのは、彼女の家庭を壊すためじゃない。心から結衣に謝りたいんだ」それを聞き、一同はこれ以上止めようとはしなかった。その時、村上家の別荘で、メイドが控えめに告げた。「結衣様、どうしてもお会いしたいという方々がいらっしゃいます」誰なのかは明らかだ、彼女に会いたいのは翔太だ。結衣は眉をひそめ、拓真も不機嫌に言った。「追い返そうか？」結衣は首を振った。「いいえ。翔太とはっきり話しておいた方がいいから」間もなく、結衣と拓真は一緒に玄関まで歩いていった。案の定、翔太が入り口で待ち望んでいるのが見えた。その時、翔太は手に精巧な贈り物の箱を持っていた。中には、この三年間彼が結衣のために用意していた宝飾品が入っていた。「結衣、初めて会った時から、俺は本当にお前のことが好きだった。この世で夫婦になる縁がないなら、これを祝い金として贈るよ。これからの人生、幸せであってほしい」結衣が断る間もなく、翔太は箱を彼女の手に