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月落ち星沈み、人は去りぬ

月落ち星沈み、人は去りぬ

By:  飛魚(とびうお)Kumpleto
Language: Japanese
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素直な佐藤結衣(さとうゆい)は、加藤翔太(かとうしょうた)の甘い言葉に誘われ、人目のない雑木林で関係を持ってしまった。 その後、二人は欲望に堕ち、頻繁に肉体関係を持つようになる。 ある日、翔太はますます常軌を逸し、結衣を彼女の父親のオフィスに連れ込み、そこで関係を持った。 その瞬間、結衣は彼の優しそうな瞳の奥には、実は陰の企みが隠されていたことに気づいた。 「誇りにしている娘が俺の恋人になったと知ったら、佐藤涼介(さとうりょうすけ)はどんな顔するんだろうな?彼が高橋美咲(たかはしみさき)をうつ病寸前まで追い込んだ報いとして、今度は自分の娘が売女呼ばわりされる気分を味わわせてやる!」 結衣の、一目惚れだと思っていたものは、翔太が初恋の恨みを晴らすために、わざと仕掛けた罠でしかなかったことを理解した。 この時、結衣はすっかり心を痛め、父に申し出て、ドイツへの留学を願い出た。

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Kabanata 1

第1話

夜も更け、二人は佐藤涼介(さとうりょうすけ)のオフィスにいた。

「翔太、別の場所にしない?」

周囲を見渡すと、見慣れた調度品があり、佐藤結衣(さとうゆい)はすぐに、ここが父のオフィスだと気づいた。

付き合って二年、二人は様々な場所で関係を持ってきた。

しかし、父のオフィスでこんなことをするのは、結衣には少し気が引けた。

「どうした?恥ずかしいの?」

加藤翔太(かとうしょうた)は結衣を抱き寄せながら、低い声で言った。

「慣れれば大丈夫だよ。もういろんな場所でやってきただろ?

それに卒業したら結婚するって、約束したじゃないか。その前に、もっとスリルのある場所で楽しもうよ」

大学四年間、結衣はいつも恥ずかしがり屋で内気だった。

一方翔太は違う。彼はイケメンで、女の子の扱いも上手かった。

結衣が自己嫌悪に陥るたび、翔太はいつも優しく慰めてくれた。

「好みは人それぞれだよ。俺は結衣が可愛いと思う」

結衣は勉強はできたが、それ以外は何もわからなかった。

だが、翔太は結衣をこっそりバーやカラオケに連れて行き、きらびやかな照明の下で、みんなの前で結衣のことが好きだと叫んでいた。

わずか半年で、結衣は情熱的な翔太にすっかり心を奪われていた。

「俺の家に代々伝わる勾玉までお前に渡したんだ。もう何も心配いらないだろ?」

結衣の手のひらに、玉の冷たい感触が伝わった。

結衣は小さく頷いて、翔太の提案に同意した。

ふわりと浮かび上がるような感覚とともに、翔太は結衣を抱き上げ、机の上に押し倒した。結衣は思わず体の力を抜き、そのまま身を委ねた。

しばらくして、オフィスは静けさを取り戻した。

結衣は肌にまだ愛撫の痕が残る体で、散らかった書類を整え始めた。

父は机の上が乱れるのが一番嫌いだったから、物も少なかった。片付けるのにそれほどの時間は掛からなかった。

結衣はそう思いながら、ほっと息をついた。

机を整理し終わったところで、結衣は翔太に後ろから抱きしめられた。

翔太の熱い唇が結衣の首元に落ち、またしても彼女の口から甘い吐息が漏れた。

「結衣、来週、お父さんの還暦祝いのパーティーだろ?

彼は俺の担任教師でもあったんだ。その席で、俺たちの恋愛関係をみんなに知らせたい。その時のために、仲間と一緒に素敵なプレゼントを用意したいんだ」

結衣は胸が熱くなるのを感じ、名残惜しそうに翔太と別れのキスを交わした。

今は夜の十時半だった。彼女は父が規則に厳しいことを知っていた。だから十一時までには帰らなければならなかった。

そのため、結衣は大通りを避け、近道の庭園の築山を通って帰ることにした。

そして、そこで見覚えのある人影を目にした。

「翔太、すげーな!結衣と付き合うだけじゃなく、結衣の親父のオフィスでヤっちまうなんて!」

数人が下品に笑っていた。結衣は唇を強く噛み、顔が真っ青になった。

「結衣のあの清純な顔に騙されるなよ。彼女とはオフィスだけじゃなく、屋上や林でもヤッたんだぜ。

実際、彼女は案外ドスケベなんだからな」

翔太は煙を吐きながら、メモリーカードを指で弄んでいた。

「あの礼儀正しさを重んじる佐藤教授が、誕生日パーティーで娘の淫らな姿を見たら、どんな顔すんだろうなぁ?」

一人は相槌を打った。

「あの老いぼれ、きっと怒り狂うだろうな!」

「あなたと美咲が雑木林でキスしただけで、あいつは学校中の生徒の前で美咲を『恥知らず』って罵って、そのせいで美咲は自殺しかけるほど追い詰められ、結局二人の仲を引き裂いたんだよな」

「今回は翔太が体を張って結衣を誘惑したんだ。あの誕生日パーティーで、美咲の恨みを晴らさなければならない!」

彼らの会話は、結衣に大きな衝撃を与えた。

結衣はようやく理解した。彼女が本当の愛だと思っていたものは、別の女性の恨みを晴らすために、綿密に計画した罠に過ぎなかった。

結衣は泣くのを我慢しながら、その場から慌てふためいて逃げ出した。

結衣が帰宅したのは、ちょうど夜の十一時だった。

涼介は娘の腫れた目を見て、叱りつけようとした言葉を喉に詰まらせた。

「父さん、私はドイツに留学したいです」

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25 Kabanata
第1話
夜も更け、二人は佐藤涼介(さとうりょうすけ)のオフィスにいた。「翔太、別の場所にしない?」周囲を見渡すと、見慣れた調度品があり、佐藤結衣(さとうゆい)はすぐに、ここが父のオフィスだと気づいた。付き合って二年、二人は様々な場所で関係を持ってきた。しかし、父のオフィスでこんなことをするのは、結衣には少し気が引けた。「どうした?恥ずかしいの?」加藤翔太(かとうしょうた)は結衣を抱き寄せながら、低い声で言った。「慣れれば大丈夫だよ。もういろんな場所でやってきただろ?それに卒業したら結婚するって、約束したじゃないか。その前に、もっとスリルのある場所で楽しもうよ」大学四年間、結衣はいつも恥ずかしがり屋で内気だった。一方翔太は違う。彼はイケメンで、女の子の扱いも上手かった。結衣が自己嫌悪に陥るたび、翔太はいつも優しく慰めてくれた。「好みは人それぞれだよ。俺は結衣が可愛いと思う」結衣は勉強はできたが、それ以外は何もわからなかった。だが、翔太は結衣をこっそりバーやカラオケに連れて行き、きらびやかな照明の下で、みんなの前で結衣のことが好きだと叫んでいた。わずか半年で、結衣は情熱的な翔太にすっかり心を奪われていた。「俺の家に代々伝わる勾玉までお前に渡したんだ。もう何も心配いらないだろ?」結衣の手のひらに、玉の冷たい感触が伝わった。結衣は小さく頷いて、翔太の提案に同意した。ふわりと浮かび上がるような感覚とともに、翔太は結衣を抱き上げ、机の上に押し倒した。結衣は思わず体の力を抜き、そのまま身を委ねた。しばらくして、オフィスは静けさを取り戻した。結衣は肌にまだ愛撫の痕が残る体で、散らかった書類を整え始めた。父は机の上が乱れるのが一番嫌いだったから、物も少なかった。片付けるのにそれほどの時間は掛からなかった。結衣はそう思いながら、ほっと息をついた。机を整理し終わったところで、結衣は翔太に後ろから抱きしめられた。翔太の熱い唇が結衣の首元に落ち、またしても彼女の口から甘い吐息が漏れた。「結衣、来週、お父さんの還暦祝いのパーティーだろ?彼は俺の担任教師でもあったんだ。その席で、俺たちの恋愛関係をみんなに知らせたい。その時のために、仲間と一緒に素敵なプレゼントを用意したいんだ」結衣は胸が熱くな
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第2話
涼介は驚いて尋ねた。「以前はドイツの学校の規則が厳しすぎるって嫌がってたのに、どうして急に考えが変わったんだ?」結衣は生まれてこのかた、ずっと「規則」という言葉を聞かされ続けてきた。自由を渇望するがゆえに、彼女は規則を破り、自分らしさを追い求めてきた。しかし、皮肉なことに、かつて最も嫌っていた規則を、今では望むようになっていた。結衣は苦笑いを浮かべ、言い訳を口にした。「だって......ルールがあるからこそ、物事はスムーズに進むでしょ?それに、父さんだって、私の語学力が上がるのを望んでるんでしょう?」娘の成長を感じた涼介は、嬉しそうに頷いた。「結衣も、やっと大人になってきたな」父の褒め言葉に、結衣は罪悪感を感じながら、部屋のドアを閉めた。ベッドに横たわると、すぐに翔太からメッセージが届いた。ラインを開くと、バニーガールの制服を着て、机に半分寄りかかる自分の横顔写真が表示されていた。これまで二人が愛し合うたびに、翔太は結衣の最も艶めかしい瞬間を撮影し、それを専用のスタンプに加工していた。最初は結衣も恥ずかしがっていた。だが、翔太は「これは二人だけの秘密だ。絶対に他人には見せないから」と言い、結衣を納得させていたのだ。【結衣、今日は可愛い子ウサギみたいだよ。食べちゃいたいくらいだ】翔太はさらにからかうようなボイスメッセージを送ってきた。今回、結衣はかつてのように、翔太の言葉にときめくこともなかった。むしろ、初めて嫌悪感に似た感情が胸からわき上がった。結衣は【別れよう】と打ち込んだが、すぐに消した。代わりに【うん】とだけ返信し、それ以上は返信しないことにした。翔太が自分と付き合ったのが復讐のためだと気づいた時、結衣は彼の元へ駆けつけ、「どうしてそんなひどいことができるの?」と問い詰めたかった。しかし、彼女はそれをこらえた。父の教育は厳しかった。だが、父があの女の子を自殺寸前まで追い詰めたなんて、結衣にはどうしても信じられなかったのだ。だから、彼女はすぐに翔太と別れることはせず、密かに七日間の別れのカウントダウンを始めることにした。七日以内に、翔太と美咲に関する真相を明らかにし、翔太の携帯に保存された二人の写真を消去する。そうして、きっぱりと別れる決意を固めた。気持ちが乱れ、結衣
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第3話
真実を知った結衣は、翔太の偽りでしかない愛情を直視できず、一言も発せずに教室に入っていった。放課後、いつものように翔太は結衣を呼び止めた。翔太がキスをしようと近づいた瞬間、結衣は彼をぐいと押しのけた。「今日は調子が悪いから、変なことをしたくない」結衣の言葉が終わるか終わらないかのうちに、翔太は笑いながら言った。「お前、毎日いったい何を考えてるんだよ?付き合って二年になるんだから、そろそろ俺の友達にも会わせたいんだ」翔太は優しく微笑みながらそう言った。昨夜、彼らの会話を聞いていなければ、結衣はきっとその優しさに騙されていただろう。だが、真実を確かめるために、彼女は断りの言葉を飲み込み、うつむいてそっと頷いた。夜八時、翔太は結衣をカラオケの予約個室に連れて行った。入る前、結衣が無言なのを見て、翔太は彼女が緊張しているのだと思い、優しく声をかけた。「緊張しなくていいよ。俺、前もってお前のことを彼らに紹介しておいたから」結衣は軽く「うん」と返事をし、翔太のそばに立って個室のドアを押して開けた。予想していた歓迎の声は聞こえず、代わりに一人の美しい女性が皆に囲まれていた。純白のワンピースを着た高橋美咲(たかはしみさき)が、結衣の隣に立つ翔太を見つめた。「翔太、久しぶり」一瞬にして、場の空気が張りつめた。翔太の友人は前に出て、説明した。「飲み会に向かう途中で、たまたま美咲に会ったんだ。ついでに誘っちゃったよ。結衣ちゃん、俺たちの勝手さに怒らないよな?」その馴れ馴れしい態度で、結衣の立場をますます気まずいものにした。結衣がまだ口を開かないうちに、美咲は歩み寄って彼女の手を握り、笑顔で言った。「あなたが結衣ちゃんなのね?佐藤教授の娘だって聞いてたわ、すごくおとなしそうでかわいいんだね」美咲の言葉は褒めているように聞こえたが、結衣を見つめるその視線には、得意げな嘲りが隠し切れなかった。明らかに、彼女も翔太が佐藤教授への復讐を企んでいることを知っていたのだ。結衣は表情を変えずに、そっと手を美咲の手から引き抜き、穏やかな口調で言った。「確かに私は佐藤教授の娘だよ。でも、翔太とはまだ正式に付き合っているわけじゃないから、その親切な呼び方は、ちょっと早すぎるんじゃないかしら?」それを聞いて、
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第4話
美咲の声は大きくはなかったが、その場にいた全員が、彼女と翔太の間に漂う張り詰めた空気を感じ取った。「美咲って、翔太の元カノの中でも一番お似合いだったよな」数人が笑い声を上げた。まるで、隅に座っている結衣の存在を、気にも留めていないようだった。結衣は怒る様子もなく、ただグラスに残ったお酒を少しずつ飲んでいた。二年間の交際で、翔太は結衣にアルコールを一切触れさせなかった。しかし今夜、結衣がお酒を飲もうとする時、翔太は気にかける素振りも見せなかった。それなのに、美咲が罰を受けそうになった時には、進んで代わりに飲んでいた。結衣は胸が締め付けられるような痛みを感じたが、必死に表情を平静に保とうと努めていた。最後のゲームで翔太が負けた。皆は声を出す勇気もなかったが、結衣は立ち上がった。全員が息を殺して、結衣が翔太に何を問うのか見守っていた。誰かがこっそり嘲笑うように呟いた。「結衣が必死に質問権を取ろうとするのは、翔太に誰が好きなのか聞きたいんだろうね」もう一人が同調した。「ああ、翔太が好きなのは美咲だってことは、周知の事実だもんな。翔太は最初から結衣なんか好きじゃなかったし、佐藤教授とも揉め事があったのに......」そう言いかけたところで、その人は翔太からの鋭い一瞥を受け、慌てて口を噤んだ。翔太は空になった酒瓶を置き、結衣の前に歩み寄った。少し諦めたような口調で言った。「過去のことは置いといて、今好きなのはお前だけだ。このゲームもうやめようか......」そう言いながら、彼は結衣の手から酒瓶を取ろうとした。しかし、結衣は低く沈んだ声で、誰も予想していなかった質問を投げかけた。「翔太、あなたの人生で一番後悔していることは何?」結衣は一瞬も目をそらさず彼を見据え、答えを待ち続けた。次の瞬間、翔太は酒瓶を受け取り、自嘲気味に笑った。「後悔したこと?たぶん若かった頃、大切な人を守れなかったことだな。あの無力感は今でもはっきり覚えてる」そう言うと、まるで結衣の怒りをなだめるかのように、彼女を抱き寄せて付け加えた。「もちろん、これからはお前をちゃんと守る。二度とあんな後悔はしたくないからな」翔太の目には深い優しさで溢れていたが、結衣は今、彼に完全に失望してしまった。やはり翔太は、涼介が美咲
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第5話
話し終わるか終わらないかのうちに、美咲は結衣の頭を洗面台に押し付けようとした。しかし結衣は素早く反応し、逆に美咲の髪を掴んだ。次の瞬間、美咲は結衣に冷ややかな笑みを浮かべ、自ら洗面台に頭を近づけていった。流れ出ていたのは、まだ冷たさの残る水道水だった。「あっ!」冷水が頭にかかった瞬間、美咲は全身を震わせ、悲鳴を上げた。駆けつけた彼らが見たのは、全身びしょ濡れで地面にうずくまり、頭を抱えて泣きながら、結衣に許しを乞う美咲の姿だった。「違う......私は破廉恥な女じゃない......男を誘惑なんてしてない。許して......」そう叫ぶと、美咲はわざとらしく後ろに倒れこもうとした。「美咲!」翔太は激しい怒りを露わにし、震える手で半狂乱の美咲を胸に抱きしめた。「美咲、大丈夫だ。俺がいるから、もう誰にもお前を傷つけさせない!」この様子を見た周囲の者は、結衣に向け、嫌悪の眼差しを向けた。「結衣、どういうつもりだ?美咲は翔太の友人なのに、俺らの目の届かないところで、よくもそんな酷いことができたな!」振り返った翔太は、怒った目で結衣を睨みつけた。「結衣、知ってんのか?美咲は三年間もいじめられて、鬱病になって自殺しかけたんだぞ。俺が彼女の代わりに酒を飲んだだけで、そんなにやきもちを焼いて、美咲を殺そうとするなんて、お前のやることは、お前の父親と何が違うんだ!」翔太はそう叫ぶと、拳を結衣の方向へ高く振りかぶった。しかし、その拳は結衣を避け、彼女の背後の鏡に直撃した。鏡は粉々に砕け散った。割れたガラスの破片が翔太の手の甲に深く食い込み、流れ出る血が洗面台を赤黒く染めていた。その光景に、結衣はかろうじて倒れずにいられた。翔太の冷たい目を見つめ、結衣の表情も次第に氷のように冷めていった。「翔太、あなたが昔守れなかった人は美咲なんでしょう。そんなに彼女のことが大切なら、なぜ私と付き合ったの?」結衣は声を絞り出すように叫び、翔太からの説明を待った。たとえ翔太が一言でも謝ってくれれば、結衣は彼の過去の傷を癒そうと決めていた。しかし翔太は何も説明せず、代わりに美咲を抱きかかえて病院へ向かった。去り際、翔太は冷たくこう言い放った。「結衣、今回は本当に失望した。俺たちしばらく距離を置こう」翔太の
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第6話
「結衣、ドイツの大学から連絡があってね。今の成績なら、化学科のトップコースに十分合格できるそうだよ」涼介の言葉に、結衣は首を振った。そして、学校に化学コースから物理コースへの変更が可能かどうか、問い合わせてほしいと頼んだ。かつて翔太に惹かれた時、彼女は大好きだった物理を諦め、化学に鞍替えた。今は翔太との別れを決意したから、彼に関係するものには一切触れたくなかったのだ。娘の揺るぎない決意を感じ取った涼介は頷き、すぐにメールで学校に結衣の希望を伝えた。結衣がベッドに横たわろうとした時、スマホに翔太からのビデオ通話がかかってきた。結衣はイヤホンを付けて、通話を受けた。「結衣、まだ怒ってる?美咲がいじめられたのは俺のせいなんだ。なのにあの日お前に怒鳴ってしまって、本当にごめん。お前の大好きな花を買ってきたんだ。許してくれないか?」画面に映るのは、深緑のバラの花束だった。その花言葉は「許し」だった。結衣が返事をする間もなく、突然画面に美咲の顔が割り込んできた。美咲は泣き声で言った。「結衣、これは全部私のせいだ。昔、三年間もいじめられていたから、気持ちが一時的に押さえられなくなったの。私の顔を立てて、もう翔太のこと怒らないでいてくれる?」美咲の言葉は謝っているようでいて、実は結衣への挑発と自慢がにじみ出ていた。美咲にこうまで追い詰められては、結衣はとりあえず約束を受け入れるしかなかった。結衣が出かけようとするのを見て、涼介は眉をひそめた。「こんな遅くに、どこへ行くんだ?」結衣は平然を装い、嘘をついた。「友人の誕生日パーティーだよ。食事に呼ばれたの」時刻は夜の十時半になった。この理由なら、父が特別に許してくれることを願うしかなかった。案の定、「友人の誕生日パーティー」と聞いて、涼介の表情は和らいだ。「その友人って、翔太のことか?あの子はいい子そうだな。今度うちに連れてきなさい。お母さんにも会わせたい」母もすぐに同調した。「そうね。あなたは私達の大切な娘なんだから、しっかり見極めないといけないわね」両親の心配そうな顔を見て、結衣はすごく感動した。悪夢の中で、最愛の両親は翔太の復讐によって、一人は命を落とし、もう一人は正気を失ってしまった。翔太の本性を知った今、彼女は両親を絶対に危
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第7話
結衣の言葉が途切れると、辺りは重い沈黙に包まれた。翔太ですら、彼女がプロポーズを断るとは全く予想していない様子だった。 翔太の合図で、広い個室には二人だけが残された。翔太は目を赤くして、結衣をソファーに押し倒した。「結衣、もう俺のことが好きじゃなくなったのか?」その哀れを誘う姿は、まるで従順な子犬のようだった。だが、結衣は、目の前の男と、悪夢の中で彼女の家族を滅ぼしたあの男を重ねることはできなかった。「違うの、翔太は気にしすぎよ......」言葉が終わらぬうちに、翔太は強引に彼女の唇を奪った。「違うなら、行動で愛していることを証明しろよ。結衣、俺を見捨てるな」翔太の哀れな姿に一瞬心が揺らぎ、結衣は唇を返そうとした。 しかし、翔太と唇を重ねた瞬間、ソファーの脇にあるビデオカメラが目に入った。付き合って二年、翔太はこのカメラで二人の親密な瞬間を数え切れないほど撮影してきた。それを見た途端、結衣は我に返った。彼を突き放し、はだけた服のボタンを留め直した。「翔太、ここはレストランよ。それに他の人も外で待ってるでしょ。こんな場所で、こんなことするのはおかしいわ」「おかしい」という言葉に、翔太は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔を取り戻して頷いた。 「結衣の言う通りだ。プロポーズみたいな大切なことは、ふさわしい場所でやるべきだよな。お前の父の誕生日パーティーで、学校の連中に婚約を祝ってもらおう」翔太は笑っていたが、結衣の心は底なしの闇に沈んでいった。今度、結衣は嫌悪感を押し殺して、甘えるように彼の首に腕を回した。「うん、そうしようね」結衣の突然の積極的な態度に、翔太は嬉しそうに彼女の細い腰に手を回した。「でも翔太、私と結婚するのに、スマホのパスワードさえ教えてくれないの?もしかして、私のことを信じてないの?」結衣は柔らかく、甘えた口調で尋ねた。これまで結衣に何度も断られて傷ついていた翔太は、今の結衣の甘えた態度に、ためらいもなく承諾した。すぐにラインでスマホのパスワードを結衣に送った。翔太のあっさりした態度に、結衣は「0325」という数字を見て眉をひそめた。もしかして、翔太のスマホのパスワードと、あの写真を隠しているフォルダのパスワードは違うのかもしれない。考
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第8話
結衣の言葉が社交辞令に過ぎないと見抜いた美咲は、軽く笑って言った。「大丈夫だよ。翔太が結衣の分のプレゼントまで用意してくれてたの」そう言うと、彼女は二つのきれいな箱を取り出し、結衣の前で開けた。一つ目の箱には、グラデーションのマーメイドドレスが収まっていた。結衣には心当たりがあった。翔太が婚約式に着せると約束してくれたあのドレスだ。二つ目の箱には、ライトブルーのダイヤモンドネックレスが光っていた。よく見ると、翔太が結衣にプロポーズした時の指輪と、まさに同じシリーズのものだった。美咲の挑発的な視線を浴びて、結衣は怒って拳をギュッと握りしめた。周りが彼女の失態を待ち構える中、結衣は一瞬で平静を取り戻した。「このドレスもネックレスも、美咲にぴったりね。でも翔太ったら、私がまだプレゼントを用意してないからって、わざわざ代わりに選ばなくてもよかったのに。美咲と会うのはまだ二回目だ。翔太の彼女として、自分でプレゼントを渡さないわけにはいかないよ」彼女は明るい声で、その場の気まずさを和らげた。翔太が結衣に何を贈るつもりだったのか聞こうとしたその時、結衣が取り出したのは、数日前に翔太から受け取った家伝の勾玉だった。周囲の驚きの視線を背に、彼女はそっと美咲の手のひらに置いた。「この勾玉、見た目は普通かもしれないけど、翔太にとってはすごく大事なものなの。昔から翔太が一番大切にしてきたのは美咲だから、私よりもあなたの方がふさわしいと思うわ」結衣の言葉が終わるか否や、翔太は彼女の手をぎゅっと掴み、不安げに言った。「結衣、まだ俺のことを怒ってるのか?」結衣は静かに手を引き、笑顔で説明した。「翔太、どうしてそう思うの?私たちは卒業したら結婚するって決めていたじゃない。だから、物で恋愛関係を証明する必要なんてないわ」美咲も笑みを浮かべた。「そうよ翔太、結衣には佐藤教授っていう有名な父がいるんだから、どんな高級ジュエリーだって見慣れてるはずよ。この勾玉は、彼女にとって大した意味はないかもしれないけど、三年前の私が一番欲しかったものなの」そう言いながら、彼女の目から涙がこぼれ落ちた。すると、翔太の態度が急に優しくなった。「結衣、やっぱりお前は思いやりがあるな。安心しろ。結婚する約束は変わらないから」翔太がそん
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第9話
美咲はテーブルの上のボトルを手に取り、出席者一人ひとりにお酒を注いで回った。結衣の番になると、美咲は微笑んだ。「結衣、これはフルーツワインよ。まさか、果物もダメなんてことはないわよね?」結衣が答える間もなく、翔太が結衣の空のグラスを取り、自らお酒を注いだ。「結衣、前に美咲に失礼しただろ?今回は直接注いであげるって。俺の顔を立てて、飲んでくれよ」結衣は翔太の目を見つめ、無理やり笑みを浮かべた。「わかった、飲むわ」どうせ今夜が終われば、すべて終わる。翔太が美咲に未練があろうと、もう結衣には関係ない。そう思いながら、結衣はグラスの中身を一気に飲み干した周囲の雰囲気は盛り上がり、周りの者たちは次々に美咲と結衣にお酒を勧めてきた。十分も経たないうちに、結衣はめまいを感じ始めた。何か言おうとする前に、美咲は結衣の手首をがっしりと掴んだ。「結衣、ちょっと頭がクラクラするの。隣の個室に連れて行って休ませてくれる?」酔いが回って言葉も出ない結衣を、美咲は引っ張るように連れ出した。ガチャン!個室のドアが閉まる音と同時に、美咲の「酔った様子」は嘘のように消えていた。「結衣、今夜はゆっくり楽しませてあげるわよ!」美咲が手を叩くと、六十代後半くらいのみすぼらしい身なりの男が現れ、結衣を下卑た目つきで見た。「同じ女なのに、どうしてこんなことをするの」結衣は憎しみを込めた声で呟いた。「どうして?翔太は私の復讐のためにお前に近づいたって話、聞いてないの?あの時、あなたの父親が邪魔さえしなければ、私はとっくに良家の奥様になれたのよ。今、翔太が私の代わりにお前を懲らしめてくれるなんて......あいつ、なかなかやるじゃない?」美咲の言葉を聞いて、結衣は怒りが入り混じった笑みがこみ上げてきた周りが理想のカップルと羨む二人の関係が、なんて醜いものだったのか。翔太は愛した相手が、自分を単なる駒としか見ていなかったことも、知らないんだろうな。美咲はその笑みに苛立ちを露わにした「どうかしら、あなたのお父様が、こんな乞食に弄ばれている娘の姿を見たら、なんて言うのかしら!売女?淫売?ふふ、私を罵った時よりは、もっとひどい言葉を浴びせるんでしょうね」そう言い放つと、美咲は嘲笑を浮かべながら個室を出て行っ
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第10話
翔太が酔いから目覚めた時、もう午後3時を過ぎていた。彼は空のベッドを見て眉をひそめ、通りかかった医師を呼び止めた。「先生、結衣はどこですか?」突然呼び止められた医者は少し困惑しながら答えた。「結衣さんなら、5時間前に退院手続きを済ませました。翔太さんを休ませてあげてほしいと言われましたよ。その後の行き先については分かりませんね」結衣がそんなに早く、黙って出て行ったと知り、翔太は目に不快な色を浮かべた。確かに結衣があの男に襲われかけたのは彼自身のせいだった。だが、彼はすぐに助けに行って病院に連れて行き、一晩中付き添った。これだけ誠意を示しているのに、まだ怒っているのは納得がいかなかった。しかし、気を失う直前の結衣の、涙で潤んだはかなげな表情を思い出すと、胸が締め付けられる思いだった。「まあいい、今回も花束を買って、機嫌を直してもらおう」そう決めると、翔太は車を走らせ、中央区の花屋に向かった。店に入ると、顔見知りの店主が声をかけてきた。「翔太さん、またホワイトローズですか?ちょうど新入りで、色も品質も最高のものがありますよ。いつもの99本でいいですか?おまけにグリーンローズも付けましょうか」店主は返事も待たずに、慣れた手つきでバラを包み始めた。「結構だ」翔太は俯いたまま、感情を込めない声で言った。その言葉を聞いて、店主は手を止め、笑顔で言った。「まあまあ、お得意様なんですし、毎日のように花を買いに来てくださるんでから、サービスくらいさせてくださいよ。それにグリーンローズなんて、染めただけの安物ですから、高価なものってわけでもないんですよ」美咲が名誉を傷つけられて退学して以来、翔太は毎日99本の白いローズを注文し、彼女の家へ届け続けていた。この花は彼女の純粋さと優しさの象徴だった。誰が何と言おうと、彼にとって美咲は永遠に清らかな人だった。その行動はもう三年も続いていた。店主が花束を丁寧に包む一方で、価値のない花を床に放り投げるのを見て、翔太は複雑な気持ちになった。彼は唇を噛みしめ、覚悟を決めたように冷たい声で言った。「今回は、彼女の機嫌を直すために買うんだ。あの緑のバラに価値がないなら要らない。そんなものは侮辱していると思われて、余計に怒らせるかもしれないからな」
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