遥香は蓮司が他の誰かを好きになるなんて信じてなかったが、それでも少し不安そうに眉を寄せた。「蓮司、もしかしてちょっと疲れてるの?安心して、さっきちゃんと打ち合わせしてきたし、今回は一発で済むって」目の前にいる遥香は、ずっと思い続けてきた相手のはずなのに――蓮司はようやく我に返った。さっきは何をしていたんだ?どうして遥香のことを紗良だなんて、錯覚してしまったんだ?しかも、この映像を撮り終えたら全て終わるのに。やっと親に紹介できるのに。なのに、なぜ今になって気持ちが揺らぐ?そう考えれば考えるほど、胸の奥のモヤモヤが膨らんでいく。紗良を騙すためだけに作られたこの一連のセットすら、もう見ているだけで気持ち悪かった。結局、蓮司は自分の気持ちに抗えず、短く言い残した。「今日は調子が悪い。二日後にしよう」そう言い捨てて車に乗り込み港を後にした。どこへ向かうかもわからず、ただ無心でハンドルを握っていた蓮司の車は、気づけば紗良の家の前に止まっていた。気持ちを整えた彼は、直接話し合う決心を固めた。彼女がどんな補償を求めても構わない。何でも与えるつもりだった。しかしエレベーターを降りて彼が目にしたのは、開きっぱなしのドアと、荷物を運び出す中年の男の姿だった。蓮司は驚き男の手首を掴んで怒鳴った。「お前誰だ?真っ昼間から盗みか?今すぐ警察呼ぶぞ!」その男は最初こそ驚いたが、すぐに状況を理解し声を荒げて言い返した。「なんだお前、頭おかしいのか?この部屋は最初から俺の持ち物だぞ?元の住人が置いていったガラクタ片付けてるだけだ!」「警察呼びたいなら勝手にしろ。どっちが犯罪者かすぐわかるからな」蓮司の意識は、男の言葉のある一点に釘付けになった。「……お前、今なんて言った?紗良が……引っ越したってことか?」「それ以外に何に見える?あんた目ぇ悪いの?」大家の男は呆れたように白目を剥くと、そのまま部屋に戻って片付けを続けた。紗良が本当に出て行った――その事実に気づいた瞬間、蓮司はその場に立ち尽くし、手がわずかに震え始めた。彼は急に、以前のあれこれを思い出した。会社の前で荷物を抱えて出てきた紗良の姿。仕事を辞めたと言ったあの日。さらにその前、家の中の「ふたりの思い出の品」を片付けていたこと、頻繁に
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