車はすぐにふたりを瀬川家の別荘へと送り届けた。実は今日、奏真の両親が紗良を夕食に招いたのは、あの99本の動画を見たからだった。彼らは紗良がネットの話題に影響されて、過去の恋愛での悲しみに沈んでしまうのではないかと心配していたのだ。しかし紗良は終始笑顔で、息子とのやりとりも楽しそうにしていたためふたりの心配もようやく落ち着いた。食事のあと、奏真は紗良を自分の部屋へと案内した。彼が成人して家を出てからはこの部屋を使っておらず、室内の様子も18歳当時のままだった。紗良は興味津々にあちこちを見て回り、ふと一枚の写真に目を留めた。写真の中の奏真は、真っ赤なレーシングスーツに身を包み、赤いレーシングカーの前に斜めに寄りかかってポーズを決めていた。その姿は生き生きとしていて、まさに青春の輝きに満ちていた。紗良は驚きの声を上げた。「レーサーだったの?かっこいい!見に行ってみたいな~」奏真は後ろから紗良を抱きしめると眉を少し上げて答えた。「そんなの簡単さ。僕、小さなサーキットに出資してるんだ。明日、案内するよ。」「やった、楽しみ!」こうして、ふたりは翌日サーキットに行ってリフレッシュする約束を交わした。翌朝、奏真は朝早くから紗良を迎えに行った。しかし予想外のことに蓮司が車で密かにふたりを尾行し、そのままサーキットまでついてきていた。車を停めた蓮司は自ら前方の奏真と紗良に追いつき、息を切らしながら奏真に言い放った。「瀬川奏真。お前が元プロレーサーで、全盛期には南原で敵なしだったのは知ってる。だから……俺と勝負しろ。」「もし俺が勝ったら、紗良を俺に返してもらう。」奏真は表情を変えずそっと身を乗り出して紗良の前に立ちはだかり、淡々と返した。「ほう、面白いな。でも先に言っておく。勝負するのは構わない。だが、紗良を賭けるなんてことは絶対にありえない。」「それに、もしお前が負けたら、紗良の前からきっぱり消えてもらう。二度と彼女に近づくな。」「逆に、もし勝てたら……瀬川グループの案件のひとつを譲ってやってもいい。ただし、紗良に関することは、一切譲らない。」この奏真のすべてを見下すような傲然たる態度に、いつも周囲から持ち上げられてばかりの蓮司は無意識に拳を握りしめた。――何なんだ、こいつのこの余裕は。
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