竜志は、かつて詩央と一緒に寝たベッドに横たわり、彼女の香りを必死に探し求めていた。だが、ここで共に過ごした時間はあまりにも短く、彼女の匂いはほとんど残っていなかった。これは天の罰なのかもしれない。かつて詩央を裏切った自分への罰と、そう思った。だが構わない。詩央は誰よりも彼を愛してくれていた。ただ怒っているだけ、時間が経てばきっと戻ってくる。謝ればいい。許してもらえばいい。もう一度、ちゃんと結婚式を挙げよう。今度こそ、子供も……竜志は布団をぎゅっと引き寄せた。夢の中、彼と詩央はアジサイの花畑で式を挙げていた。司会者の声が響く――「新郎さんは新婦さんにキスを」。彼はゆっくりとベールをめくった。だが――そこにあったのは、妙実の顔だった。竜志は弾かれたように目を覚ました。全身汗まみれで、荒く呼吸を繰り返す。違う、あれは嘘だ、偽物だ。詩央は何も知らない。彼女は妙実のことも、あの日のことも知らない……手が何かに触れた。枕の下から、彼は詩央の携帯を取り出した。結婚式の日、彼女が置き忘れていった携帯だ。竜志の表情に、驚きと喜びが浮かぶ。きっと、詩央が自分に残した手がかりだ。彼女は彼を待っている、そう信じて疑わなかった。二人が初めて出会った日の数字を入力すると、ロックが解除される。竜志の目に涙が滲んだ。涙を拭い、震える手でアプリを開く。ログアウトされていないトーク画面が、そこに残っていた。最新のメッセージは、彼と妙実の結婚式当日のものだった。【竜志が今日何をするか知りたい?彼の車を追ってみなさい。自分がどれだけ滑稽か、よく分かるわ】……【見たでしょう?どれだけ昔の感情にしがみついて竜志を無理やり結婚に引きずり込んでも、彼の心の中にいるのは私なの】【結婚式の会場まで、私が捨てた場所を使ってるなんて……詩央、あなたって本当に惨めじゃない?】結婚式の日、詩央がなぜあれほどタイムカプセルにこだわったのか――分かった。二十五歳の竜志が、約束を裏切っていたことを、彼女は知っていた。十七歳の自分も、裏切られていたことを。彼は震える指で、トーク画面をスクロールする。【私、妊娠したの。女の子よ。竜志が満って名前を付けてくれたの】【あんたのあの胎児が堕ろされた時は、ちょうど三ヶ月だったわね。まだ肉の塊だっ
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