景凪は甲板で、味気ない魚をつつきながら遠くを見つめた。やがて視界の端に虎風島の無骨なシルエットが浮かび上がってきた。絶海に浮かぶ孤島。あそこから脱出するには、船か飛行機を使うしかない。景凪には痛いほど分かっていた。一度あの島に足を踏み入れれば、逃げ出すのはさらに絶望的になるということを。地形が入り組んでいるだけでなく、複数の危険な勢力が入り乱れる無法地帯だ。見慣れない女が一人で紛れ込めば、仮にトムの手から逃れられたとしても、生きて救助を待てる保証はどこにもない。だからこそ、最大のチャンスは船を下りるその瞬間だ。この規模の船なら、必ず救命用のモーターボートがあるはず——そうアタリをつけた景凪は、食後の運動を装って船内を歩き回り、甲板の端で狙い通りのボートを発見した。ロープを解いて下ろせば、すぐにでも海へ逃げ出せる。もちろん、監視をくぐり抜けるのは容易ではない。だが、島へ近づくにつれて不幸中の幸いとも言える変化があった。途絶えていたスマートフォンの電波が、徐々に回復し始めたのだ。洗面所に身を潜め、景凪はようやく対策本部と連絡を取ることに成功した。須藤がすぐにこちらの位置情報を特定し、救助チームもすでにこちらへ向かっているという。「穂坂さん、我々の潜入要員がすでに虎風島に潜伏しています。上陸時、彼があなたの逃走をサポートする手はずです」電話越しに、須藤の冷静な声が響いた。「あなたはボートに乗り、来た水路を引き返してください。絶対に無理はせず、ご自身の安全確保を最優先に。あとは我々に任せてください」「分かりました」潜入要員の素性は分からない。それでも「自分は孤立無援ではない」という事実が、張り詰めていた景凪の心に確かな勇気を灯していた。「穂坂さん、お腹でも痛いんですか?」ドアの向こうからハナが急かすように言った。「もうすぐ着岸しますよ」「今、出るわ」短く応じ、景凪は洗面所から歩み出た。すぐ目の前には虎風島の威圧的な絶壁が迫っていた。桟橋にはトムを出迎える手下たちが群がり、顔に迷彩ペイントを施した浅黒い顔がずらりと並んでいる。この見知らぬ男たちの中に、自分を助けてくれる潜入要員が紛れ込んでいるはずだ。トムは上機嫌で顔をほころばせ、景凪を振り返った。「穂坂サン、ここが虎風島デス。大人しくおれに従っていれば、悪い
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