病院。集中治療室へと続く廊下は、長く薄暗い。完璧に仕立てられたスーツ姿の景舟が、長い足を運んでいた。わずかに開いた窓から身を切るような寒風が吹き込み、カーテンを大きく煽っている。今日は珍しく日差しが温かいはずなのに、景舟を照らす光はどこまでも冷たかった。冬の太陽は、温度すら奪い去っていくようだ。景舟が細いフレームの眼鏡を押し上げ、集中治療室の扉へ手を伸ばそうとしたその瞬間――扉が勢いよく内側から開け放たれた。「急いで!蘇生処置の準備!」ウィル医師をはじめとする医療スタッフたちが、血相を変えて渡のストレッチャーを押し出してくる。その後ろを、血の気を失った悠斗がふらふらと追いかけていた。景舟の存在にすら気づかず、足をもつれさせて床に崩れ落ちそうになる。景舟が咄嗟にその腕を掴むと、悠斗は真っ白な顔で振り返り、消え入るような声で震えた。「景舟様……渡様が……」言葉を詰まらせた悠斗の肩を、景舟は力強く握りしめた。二人は手術室の前で待機した。ほどなくして、病院のスタッフがバインダーを抱えて景舟の前にやってきた。「墨田様。黒瀬様は事前にご家族の代理として、お二方の名前を残されておりました。穂坂景凪様と、墨田景舟様です。恐縮ですが、こちらの手術同意書にサインをお願いできますでしょうか」景舟は少しの沈黙の後、内ポケットから万年筆を取り出し、流れるような筆致で自身の名を記した。刻一刻と時間が過ぎていく。景舟はふと腕時計を見下ろした。徹底した合理主義である彼の頭の片隅では、無意識に今日のスケジュールを弾き出している。あと二時間後には、政府の要人とのゴルフが控えていた。手術室のドアの上で点灯し続ける赤いランプを見上げても、どうにも現実感が湧かない。渡との付き合いは長い。彼の過去も内情も、ほぼ全てを知っているつもりだ。常人には想像もつかない地獄のような苦痛を何度も乗り越えてきた男が、今回ばかりはあっけなくくたばるなど、とうてい信じられなかった。景舟が立ち上がり、一旦この場を離れようとしたその瞬間――ランプがふっと消えた。景舟の長身が、ピタリと動きを止める。次の瞬間、扉が開き、ウィル医師が出てきた。マスクを外した面持ちには、隠しきれない疲労と深い敗北感が滲んでいる。悠斗が弾かれたように飛び出した。全身が小刻みに
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