町田は首を捻った。「裏通りに古い家が何軒かありますけどねえ。もう何年も空き家になってて、壁も剥がれ落ちてるようなあばら家ですよ。とても住めるような状態じゃ……」「そこへ案内してくれ」翌朝、景凪は午前中に国語の授業を控えていた。ふと窓の外へと視線を向ける。日の光が白く眩しく、ぽかぽかと暖かそうだ。教科書をぱたんと閉じ、二年生の子供たちに語りかけた。「今日は、校庭で詩の朗読をしない?」二十人ほどの生徒たちは一瞬きょとんとした後、わあっと歓声を上げて一斉に立ち上がり、我先にと教室を飛び出していった。二つ結びの女の子が、焦るあまり靴箱で外履きをちゃんと履かないまま、ぴょんぴょんと飛び跳ねて行こうとする。隣の席の子に「靴!靴!」と袖を引っ張られ、慌てて戻ってかかとを潰したまま突っかけていた。その後ろ姿に小さく吹き出し、景凪はふと、辰希と清音のことを思い出した。手元の教科書を持ち、自分も教室を後にする。砂埃を被った古いトラックの真ん中には、野草の生い茂る原っぱがある。午前中の太陽をたっぷり浴びて、ほかほかと暖まっていた。子供たちを席順に草の上に座らせると、景凪自身もあぐらをかいて腰を下ろし、今日学ぶ詩のページを開く。「『春の野原』」風に煽られた前髪をそっと耳にかけ、景凪はゆっくりと声を張った。「草はのび、鳥はなく、うららかな春の日。川べりの柳も、風にゆらゆら。学校がえりの子どもたち、春の風によばれて、たこをあげる」子供たちはその後に続いて元気よく復唱した。言葉を長く延ばしながら、頭をゆらゆらと左右に揺らして読む姿がたまらなく愛らしい。三回目を読み終える頃には、全員がどうにか暗唱できるようになっていた。まだ発音がたどたどしいところもあるけれど、そのあどけなく柔らかい声は、心地よく春の風に溶けていった。景凪は草の上に座り、膝に教科書を広げていた。子供たちの一生懸命でたどたどしい朗読の声を聞いていると、これまでにない穏やかな静けさが心に広がっていく。思わずスマホを取り出し、その様子を何枚か写真に収めた。遠くの空も綺麗だったので、そちらへカメラを向けた瞬間――ふと、ブロック塀の陰に黒い人影が立っているのが見えた。はっとしてスマホを下ろし、直接目を凝らす。だが、そこには何もない。それでも見間違いではないという確信があった。塀沿い
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